表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おやじ妄想ファンタジー   作者: もふもふクッキー
106/114

○ 大地の章 帝の賭け事Ⅳ

 ○ クランの崩壊


 (マリエ)

 「おかしい…。」

 「私はダウト勝負で大地の帝に勝った。」

 「そこまでは覚えている…。」

 「けど、その後の記憶がない…。」

 「帝には既に願いは述べているし…。」

 「一体何が起きたっていうの…?」


 「それと何故か、後頭部とお腹が痛いわ…。」

 「何かしらこれ…?」

 「まるで何かで殴られたり…。」

 「踏みつけられたりしたかの様な…。」

 「そんな鈍い痛みがあるわ…。」


 「それに願い自体もつまらない…。」

 「私何か凄い事を要求するはずだった様な…。」

 「う~ん何故かしら…。全然思い出せない…。」

 「もしかして、これが白昼夢?」

 「私は夢を見ていたってこと?」


 マリエは頭とお腹を擦りながら、

 不思議そうな表情で頭を傾けている。


 一方、現場を見ていた男3人は、

 彼女にどんな言葉をかけていいのか悩んでいた。


 余計な事を話してしまうと、

 今度はレイナに何をされるか分からない。


 申し訳ない気持ちは溢れてくるが、

 安易にマリエに真実を告げる事もできない。


 何よりも、困惑しているマリエに対し、

 記憶喪失を引き起こした張本人であるはずのレイナが…。


 まるで何事もなかったかの様に、

 普段通り、楽しそうに接しているのだ。


 (レイナ)

 「マリエお姉さん!」

 「ゲームもその後の帝さんへの要求も!」

 「堂々としていて本当にカッコ良かったです!」

 「流石は私が憧れるマリエお姉さん!」

 「本当に何から何まで完璧ですね!」

 「私、絶対一生ついていきますからね!」


 レイナはマリエの腕に掴まり、

 嬉しそうにピョンピョン周りを跳ね回っている。


 (マリエ) 

 「そ、そうかしら?」

 「ごめんなさい…。レイナちゃん。」

 「私なんだかその辺のこと、あまり覚えていなくて…。」

 「私ったら柄にもなく、変に緊張していたのかしらね…。」

 「でも、レイナちゃんがそう言うなら間違いないわよね…。」

 「私にしては、協力の依頼が普通すぎる気もしてくるんだけど…。」

 「まあ、貴女が言うなら私が言ったのよね。」

 「うん、そうよね。やっぱり私の勘違いか…。」


 マリエは若干腑に落ちない表情だが、普段のレイナを信じているため、その言葉を鵜呑みにしてしまった様だ。


 (マリエ)

 「レイナちゃん。ありがとう。」

 「私も貴女の目標にして貰える様に、これからも頑張るわね。」


 マリエはそう話しながら、

 レイナの頭を優しく撫で始めた。


 (レイナ)

 「えへへ~。頭撫でられちゃいました~。」

 「やっぱり、マリエお姉さんは今のままで充分ですよ~。」

 「じゃないと私。何時まで経っても追い付けないです~。」

 「私には今のままで充分ですよ。」

 「マリエお姉~さん♪」

 (マリエ)

 「あら嬉しい。」

 「レイナちゃんは本当にいい娘ね~。」

 「もっと撫でてあげる。ヨシヨシ~。」

 「いい娘いい娘~。」

 

 そう言い合いながら、

 二人は楽しそうにじゃれあっている。

 目の前の二人の間には、

 揺るぎない信頼関係と愛情が溢れている様だ。


 しかし、その輝かしい光景を見つめる3人の恐怖心たるや…。

 今までに経験した恐怖など、児戯に思えてしまう程だ。

 深く恐ろしい寒気が、全身に広がっていた。


 (ベルガリス)

 『おいおいマジかよ…。』

 『あの嬢ちゃんの扱い…。』

 『本当に気を付けねぇと…。』 

 『ありゃ、本格的にヤバイタイプの人間だ…。』

 『俺達に介入の余地を与えねぇつもりだぜ…。』

 (悠)

 『マリエさん…。すいません…。』

 『俺には何も言えないみたいです…。』

 『貴女が信じているその娘は、もしかしたら悪魔の子かもしれません…。』

 『でも知らない方が良いことも…。』

 『世の中にはきっとありますよね…。』

 (アナベー)

 『オーアノ娘ハ、違ウ意味ノクレイジーネ…。』

 『笑イナガラ、人ヲ刺スタイプヨ…。』

 『関ワラナイノガ一番デスネ~でな。』

 『フゥ~…。クワバラクワバラ…。』

 『世ノ中ノ怖サヲ知リマシタ~。』


 3人の顔色は総じて青白かった。

 恐怖が心を蝕み、汗が止まらない。

 緊張で息が詰まるとはこういう事か。

 3人は今日だけで、女性社会の黒い部分を、

 改めて思い知らされた様な気がしていた。


 (ベルガリス)

 「さ、さて…。そろそろ話を進めよう。」

 「時間も勿体ないしな…。」


 「それで、俺がお前らに協力する方法なんだが…。」

 「親書を読ませてもらって気がついたんだが、お前らのクランは元々で4人。」

 「今は一人が堕天者に拐われて3人。」

 「つまりは常に人材が不足している。」

 「違うかい?」


 ベルガリスは再びソファーに腰を下ろし、

 悠達を見つめながらニヤリと笑うのだ。


 (悠)

 「それは…。まあ…。そうだけど…。」

 「足りないのは人も…。実力もだ…。」

 「今のままじゃ、仲間を。」

 「リナを取り戻すなんて不可能だろう。」

 (ベルガリス)

 「まあ、そうだろうね。謙虚なのは良い事だ。」

 「なんせ相手が相手だ。」

 「人も実力も足りねぇだろうよ。」

 「だから水の姉ちゃんは、あんたらを俺の所に寄越したみたいだしな。」


 (マリエ)

 「親書に何が書かれていたかは知らないけど。」

 「今貴方が話した通り。」

 「私達はこれから堕天者と戦うことになる。」

 「私達はその為の力を求めているの。」

 (ベルガリス)

 「ああ、それは知っているが?」

 (マリエ) 

 「つまり、中途半端な人材は必要ないのよ。」

 「貴方が言う相手が相手だけに、私達は強い仲間を欲している。」

 「弱い人材は足手まといにも成り得る。」

 「それを理解した上で、その人材は適切だと言えるのかしら?」  

 「そんな優秀な人材を、おいそれと貸していただけるの?」       


 マリエはいつも以上に、

 真剣な表情でベルガリスを見つめる。 

 中途半端な戦力は必要ない。


 正にその通りである。

 リナを奪還するため、彼らは仲間であれば即戦力になり得る人物を探している。

 ベルガリスはマリエの視線に合わせるかの様に、真剣な表情で返答した。


 (ベルガリス)

 「当然イエスだ。戦力としては申し分ない。」

 「なんせアイツの資質を示すランクはGⅡ。」

 「確かお前らの中じゃ、誰よりも上じゃなかったか?」

 「お前らは皆、GⅢだったろ?」

 (悠)

 「ラ、ランクGⅡ!?」

 (レイナ)

 「そんな高ランクの方を、無償で紹介して下さるのですか!?」


 悠とレイナは思わず声をあげた。

 ランクGⅡ。

 それは、ディープインパクトのメンバーの誰よりも、高ランクの資質を有している証である。

 しかし、マリエだけは、その言葉を聞いて不思議そうな表情を浮かべていた。


 (ベルガリス)

 「お二人は嬉しそうだな。素直もいいな。」

 「しかし、お姉ちゃん。」

 「あんただけは腑に落ちない様子だな。」

 「急に自分よりも高ランクの人間が入ってきたら、デカイ顔されて気に入らないかい?」 

 

 ベルガリスの指摘を受け、

 悠とレイナもマリエに視線を向けた。


 (悠)

 「マリエさん!GⅡですよ!?GⅡ!?」

 「滅茶苦茶ラッキーじゃないですか!」

 「俺らより高ランクなんて滅多にいない!」

 「前にマザーもそう言っていたでしょ!?」

 「これはチャンス!千載一遇のチャンスですよ!」

 「絶対その人を紹介してもらいましょうよ!」

 (レイナ)

 「そ、そうですよマリエお姉さん!」

 「私も怖い人なら嫌ですが…。」

 「それでも会ってみるだけ!」

 「そうだ!先ずは会ってみましょうよ!」

 「それでいい人なら入ってもらいましょう!」

 「会うだけならタダなんだし!」

 「ね!?そうしましょう!?」


 二人は願ってもいないこの申し出を、無下にしたくない一心でマリエを必死に説得していた。

 それに気付いたマリエは、慌てて二人に返答するのだ。

 

 (マリエ)

 「あ、いえ。私も願ってもない申し出だと思ってるわよ。当然会ってみてからだけどね。」

 「ただちょっと疑問があって…。」

 「本当にその人大丈夫かなって…。」


 (ベルガリス)

 「ん?疑問?何か説明が必要か?」

 「戦力としては保証するが、今のアイツは確かに少し問題がある…。」

 「気になることがあったら先に聞くといい。」

 「協力する。俺は確かにそう約束したからな。」


 その話を受け、マリエは口元に置いていた手でゆっくりと挙手をした。


 (マリエ)

 「じゃあ、質問を…。」

 「帝さん、どうしてその人はランクGⅡと分かるのかしら?」

 「確か資質のランクは、クランを結成した時に左手に刻まれる。」


 「そして、一度結成したクランは原則抜けられないし、抜けて他のクランには入れないはず…。」


 「つまり、その人は今、何処かよそのクランに在籍しているのでは?」

 「それだと私達のクランには入れないから、仲間とは呼べないはずよね?」

 「一時的な加入。つまり協力関係と言う認識でいいのかしら?」


 マリエの質問を聞き、ベルガリスは成程ね。 

 と納得した様子であった。

 そして、悠達はまだ知らされていなかった、クランに関する詳しい規定について説明を始めたのだ。


 (ベルガリス)

 「成程な。親書にも記載されていたが、ステラやクランに関する知識には疎いみたいだな。」

 「クランの結成やランクの認定については、今あんたが言った通りだ。」

 「クランは原則抜けられないし、抜けても他のクランには入れない。」

 「ランクはクラン結成時に認定され、左手に刻まれる。」

 「全てその通りだな。」


 (レイナ)

 「え…。じ、じゃあ。」

 「やっぱりその人はウチには…。」

 「入っては…。くれないんですか?」

 「あくまでも協力者として?」


 (ベルガリス)

 「いや、そう急くな。」  

 「今のはあくまで原則の話なんだ。」

 「言ってしまえば、あまり自由奔放にクランの加入、脱退をさせないための規定と言える。」


 「クラン結成の際の基本部分。」

 「まあ、言ってしまえば基礎の基礎だな。」

 「つまり、基礎以外の事態が発生した場合。」

 「例外に関する規定も、ちゃんと存在しているんだよ。」


 (悠)

 「ん?つまりはどういう事なんだ?」

 「基礎がダメならダメな気もするんだが。」

 「結局その人はウチに入れるのか?」

 「それとも入れないのか?」


 (ベルガリス)

 「まあ、結論から言えば入れる。」

 「アイツは確かにクランを結成していた。」

 「その時なら入れなかったが、今は大丈夫だ。」

 「アイツが他のクランに在籍していたのは、今から3年前までの話だからな。」


 (マリエ)

 「成程。3年前まではクランを結成していた。」

 「つまり、今は結成していない。」

 「だから他のクランにも加入できる。」

 「意味は理解できたわ。」


 「けれど、過去に加入していたが、今は加入していない。」

 「そんな事があり得るの?」

 「自由に加入、脱退はできないでしょう?」


 (ベルガリス)

 「ああ、そうだ。」

 「《自由に》加入、脱退はできない。」

 「この《自由に》というのが肝になっている。」


 (レイナ)

 「ええと…。つまりは自由ではない…。」

 「不自由な状態なら加入や脱退も可能だと…?」

 「クランが不自由な状態?」

 「それは一体…。」

 「すいません…。私には何がなんだか…。」

 「全然話に着いていけていません…。」


 (悠)

 「レイナ、安心しろ。俺もさっぱりだ。」

 「帝さん、俺にもよく分からないな…。」

 「すまないが、つまりどういう事なんだ?」

 「クランの状態次第では抜けられるのか?」


 (ベルガリス)

 「ああ、そのお嬢ちゃんの言う通りだよ。」

 「クランに不自由が発生してしまえば、そこを脱退して、他に加入できるって事だ。」

 「つまりクランがクランじゃなくなればいい。」

 (マリエ)

 「クランに不自由…。」

 「クランじゃなくなる…?」

 「まさかそれって!?」

 (ベルガリス)

 「ああ、恐らくそのまさかだよ。」

 「クランに発する不自由。」

 「それはクランが、最初の結成条件を満たさなくなる事を現している。」


 ここでベルガリスは一度大きな溜め息をついた。

 これから説明する内容は、彼にとっても若干気が引けるものであるらしい。

 ベルガリスは一口何かを飲み、

 再び説明を始めた。


 (ベルガリス)

 「つまり、様々な出来事により、クランの人数が結成条件である3人を割ってしまうこと。」

 「それがクランに発生する不自由さ。」

 「これを冒険者の間で《クランの崩壊》と呼ぶ」


 「まあ、崩壊の原因で一番多いのは、仲間の死亡。その次に行方不明。あとは堕天だな。」


 「そういった人物がクランから発生し、クラン活動を続けることができなくなる。」

 「つまり、クランと規定される為の最低人数である、在籍者3人を割る。」

 「するとクランは自動的に解散となり、そのクランに在籍していた人物は、新しいクランに参加できるようになる。」

 「崩壊したクランの在籍者には、そういう救済措置が設けられているのさ。」


 「これから紹介する人物は、3年前にクランが崩壊し、今はフリーになっている人間だ。」

 「だから、以前のクラン結成時に、資質のランクも判明している。」


 「そして…。そいつはまだ11歳の女児だ。」

 「年齢的にもかなり若い。」

 「実力自体は保証するが、あんたらの言う様に、一度会ってみてから決めた方が良いかもな。」

 「さっきも言ったが、現状若干問題もあるしな。」


 (悠)

 「まだ11歳の女の子が、ランクGⅡの高ランクだって!?」

 (レイナ)

 「スゴい才能ですね!」

 「けれど、そんなに幼いのに…。」

 「もう過去に…。8才の時にクランを結成して、そのクランが崩壊してしまっている…。」

 「何だか訳がありそうですね…。」

 「一体その娘の過去に何が…。」

 

 (ベルガリス)

 「まあ、あんたらが驚くのも分かる。」

 「アイツがクランに加入したのは、嬢ちゃんの言う通り、まだ幼い8歳の時だったからな。」

 「アイツは、先祖代々長きに渡り、我がベルガリス家に仕え、隠密や暗殺。」

 「更には諜報活動等に従事してくれている、ワカツキ家の人間だ。」


 「名を、ワカツキ ユズキと言う。」


 「ワカツキ家は元々、霧の大陸の出。」

 「過去の大戦の最中。あいつの先祖が大地の精霊を信仰する様になった。」

 「そして大地の大陸に移り住み、改宗した異教徒だったみたいだな。」


 「その時に手助けをし、大地の大陸に引き入れたのが、我がベルガリス家。」

 「ワカツキ家はそれを恩に感じ、それ以降は代々我が家に仕えてくれていた。」

 「義理に厚い、本当に素晴らしい一族だったよ。」

 「俺も何度も世話になった。」

 「今の俺があるのは、彼等のお陰と言ってもいい位さ。」


 「ユズキはその中でも天才的な才を有し、幼い頃から一族の期待を背負って生きてきた。」

 「そして、僅か8歳の時に、クランへの加入が認められ、加入時既にGⅡの資質を示していた。」


 「ワカツキの一族は皆喜び、ユズキはその期待に応える様に、メキメキと力を発揮していった。」

 「普段のアイツは愛想のいい普通の子供だったよ。ただ、何をやらせても抜群に強かったがね。」

 「ベルガリス家にとっても、ワカツキ家にとっても、アイツの成長により、全てが順調に進んでいる様に思えていた。」


 「3年前のあの時まではな…。」


 (悠)

 「3年前のあの時?」

 「話の流れ的にも、3年前、その娘のクランに何かあったって事だよな。」


 (ベルガリス)

 「ああ、その通りだ。」

 「3年前…。俺が依頼した調査の途中に。」

 「アイツのクランは崩壊したんだ。」 

 「アイツ以外の一族全員が、死亡するという形でな。」

 「アイツはそれ以来、口が聞けなくなった。」

 「さっきからちょくちょく話していた、アイツの問題ってのはそれだ。」

 「家族が目の前で死んだショックで、アイツは言葉を失ったんだ。」

 「全ては俺が、見誤ったから…。」

 「だから俺は、アイツに立ち直って、自由になってもらいたいと思っている。」

 「アイツを一緒に、何処か外の世界に連れ出してやって欲しい。」


 「これはあんたらへの戦力の提供であると同時に、俺からの要望でもあるんだ。」


 「どうだい?ウチのユズキ。」

 「一つ預かってはくれねぇだろうか。」

 

 (悠)

 「家族の死を目の当たりにして、口が聞けなくなった子供…。」

 「資質は高ランクで申し分はない…。」

 「けど…。今の俺達の手に負えるだろう…。」

 

 悠達の決断は一体…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ