表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おやじ妄想ファンタジー   作者: もふもふクッキー
103/114

○ 大地の章 帝の賭け事

 ○ ダウトコール


 (ベルガリス)

 「姉ちゃん達には異論が無いようだな。」

 「少しは楽しませてくれそうだな。」

 「じゃあ、どうすっかな…。」

 「あまり大掛かりにするのも面倒だしな…。」

 「どうだい?この際、トランプを用いた簡単な勝負でいくって言うのは?」 

 「手間も掛からず、分かりやすいだろ?」


 ベルガリスに促されるが、悠は回答を渋った。

 相手の提案では、何か得意分野に持ち込まれる可能性もあるからだ。

 

 (マリエ)

 「いいんじゃない?」

 「分かりやすいならそれが一番。」

 「具体的にはどんなゲームにするの?」


 ノーリスクと判断したためか、マリエは強気にどんどん話を進めていく。

 悠は自分の貞操は、完全にハイリスクに晒されている事を感じとり、思わず尻に力を入れた。


 (ベルガリス)

 「なんだ、ゲーム内容も決めていいのかい?」

 「そりゃあ、話が早くて助かるね。」

 「こちら側からは…。そうだな。」

 「じゃあ、一般的にも知られているし、トランプの《ダウト》ゲームでもと提案するよ…。」

 「どうだい?異論があればどうぞ。」

 「なければ、ちゃっちゃっと始めてしまいたいんだが?」

  

 ベルガリスはポケットからトランプを取りだし、馴れた手つきでカードを切っている。

 ダウトであれば、実質3対1。 

 上手く互いの手札を把握できれば、人数の多いディープインパクトが有利に動けそうだ。


 (悠)

 「どうします?トランプのダウトなら、人数が多い俺達が有利な気もするけど…。」

 「お互いの所有しているカードを、何とか知らせ会う必要が出てくるよな…。」

 「それができれば、奴の持っているカードも把握できる。」

 「実質圧勝も可能だ。」

 「ただ、短時間でそんなサインを覚え切る自信はねぇんだよな…。」

 (レイナ)

 「私も記憶力にはあまり自信が…。」

 「出来れば運だけで勝負できるシンプルなものがいいのですが…。」

 「ダウトなら私、顔に出そうですし…。」

 「あまり得意なゲームではありません…。」


 悠とレイナの二人は、ギャンブル慣れしていない事に加えて、記憶力や勝負度胸に自信があるタイプではない。

 せっかく人数による利点があっても、恐らくはマリエの足を引っ張る事になる。

 二人はそれに気付いており、このゲームの提案は受けかねていた。

 ここは一つ、他のゲームを考え直したいところだが…。


 (ベルガリス)

 「なんだ?おっさんと嬢ちゃんは自信なしか?」

 「まあ、得て不得手は人それぞれだ。」

 「なら、もっとシンプルにしよう。」

 「このダウト勝負。俺とそこの姉ちゃんの1対1でやる。それならどうだ?至ってシンプルだろ?」


 ベルガリスはカードを切りながら、ディープインパクトへニヤリと笑みを浮かべた。

 

 (悠)

 「は?ダウトを1対1で!?」

 「ダウトはトランプを使うゲームだぞ!?」

 「そんなの相手が持ってるカードが全部筒抜けじゃねーか!」

 「そんなんじゃ何時まで経っても、決着がつかない!ゲームとして成立しないだろ!」


 悠はベルガリスが本当にルールを把握しているのか疑問すら感じていた。

 ダウトはカードを数字順に出すゲームだ。

 相手のカードが把握できる状態で行っては、いくら時間を費やしても終わるはずがない。


 (ベルガリス)

 「ああ、兄ちゃん。その通りだな。」

 「だからこの勝負。もっとシンプルにする。」

 「ゲーム中にダウトをコールできるのは、お互いに一度切りだ。」

 「ダウトをコールした時に、実際に違う数字を出していれば、コールした側の勝ち。」

 「正しい数字を出していれば、コールした側が負ける。」

 「これならたった一度のコールで決着がつく。」

 「時間は大してかからねえ。」

 「スムーズでシンプルだ。」

 「お互いにとって悪くないだろ?」


 ベルガリスは手慣れた手つきでカードを切り、全てを表面にして並べた。

 カードを指差し、確認するようアピールする。

 不正がないことを証明するための様だ。

   

 (ベルガリス)

 「カードは一般的な枚数。13×4種類。」

 「つまりは全部で52枚だ。」

 「これにジョーカーを2枚加えよう。」

 「平等を保つ為に、ジョーカーは始めから二人に1枚ずつ渡しておく。」

 「ジョーカーの役割は、全てのカードの代用として使えること。」

 「1~13で欠けた部分を補うもよし。」

 「相手を撹乱するため、違う手段で使うも良しだ。」

 「後は全てシャッフル。全てが運任せだ。」

 「当然カードに不正はしてないが、気になるだろう?納得するまで調べていい。」

 「終わったら呼んでくれ。」

 「それまで俺はソファーで一杯やってるよ。」

 

 そう言い残すと、ベルガリスはソファーに座り、本当に酒を飲み始めた。


 (悠)

 「マジかよアイツ…。逆にこちら側が不正を働くことは考えていないのか…。」

 (レイナ)

 「凄い余裕ですね。どうします?」

 「何か仕掛けられないでしょうか?」

 (マリエ)

 「付け焼き刃の不正なんて邪魔になるだけ。」

 「カードに問題がないかが分かれば充分よ。」


 対決する本人がそう言うのだ。

 悠とレイナは、取り合えずはカードに目印などが無いかを確認していく。

 

 (レイナ)

 「どうしましょう?確かにシンプルにはなりましたが、相手は大地の帝…。」

 「本当にこのまま受けていいのでしょうか?」

 (悠)

 「間違いなく相手の土俵だ。」

 「カードに細工が無いとしても、何かしらの方法でこちらのカードを知る術があるかもしれない。」

 「できればやりたくはない…。」

 「やりたくはないが…。」


 二人は淡々とカードを調べるマリエを見つめる。

 彼女は特にゲームに抵抗感を示していないようだ。彼女の不動の自信は何処から来るのか。

 二人は不思議でならなかった。

 

 (マリエ)

 「うん。まあ、カードは大丈夫そうね。」

 「あまり疑っても仕方ないんじゃない?」

 「相手の土俵でも条件は同じ。」

 「こちらのリスクは小さいんだし。」

 「それに帝を名乗る程の人間が、そんな小狡い手を使うとは思えないしね…。」

 「さ、確認は終わりにしましょう?」

 「ねえ、帝さん?確認は終わったわ。」

 「そろそろゲームを始めましょうか?」


 マリエに呼び出され、ベルガリスはゆっくりとテーブルに戻ってくる。


 (ベルガリス)

 「随分早いんだな。本当に大丈夫か?」

 「ここはギャンブルの街。」

 「俺はその長だぞ?」

 「お前らが気づけないイカサマなんて、何10通りも仕掛けてるかもしれねぇんだぜ?」

 「あまり俺を舐めない方がいいんじゃねぇか?」


 ベルガリスは威嚇をするかのように、飲んでいる酒の瓶をテーブルに叩きつけた。

 その大きな音を聞き、レイナは怖がり、悠の後ろに隠れてしまった。

 

 (マリエ)

 「そんなに沢山イカサマを仕掛ける小物は、人前でペラペラと喋らないと思っただけよ。」 

 「貴方は大物なんでしょう?」

 「期待を裏切らない様、それらしい振る舞いを所望するわ。」

 「さ、それで?ダウトってどんなゲーム?」

 「私トランプって、あまりやったことないのよ。」

 「取りあえずルールから説明して貰っていいかしら?」

 (ベルガリス)

 「は?ちょっと待て。姉ちゃん…。」

 「今、何て言ったんだ?」

 (マリエ)

 「いや、だからルールを教えて欲しいのよ。」

 「私トランプもダウトもやったことないもの。」

 「ルール位は知っておきたいじゃない?」

 「ゲームが成立しないとお互い困るでしょ?」

 (ベルガリス)

 「おいおい…。あんたマジで言ってんのか?」

 (マリエ)

 「嘘つくなら、もっとマトモな嘘をつくわよ。」

 「それで?教えてくれるの?くれないの?」

 「まあ、最悪やりながら覚えるからいいけど。」

 (ベルガリス)

 「マジかよ…。」

 (アナベー)  

 「オー…。クレイジーガール…。」


 ベルガリスとアナベーが、悠に対して視線を向けた。こいつで良いのかと言っているのが分かる。

 悠は視線を感じとり、マリエの腕を掴むと、再度緊急会議を開催した。


 (悠)

 「いやいやいやいや!あかん!あかんて!」

 「知らないなら言って下さいよ!!」

 「いくらマリエさんでも、始めてやるルールも知らないゲームで、帝相手に勝てるはずないでしょうが!」

 「あんた人の貞操なんだと思ってんだよ!」

 「俺、この後親に言えない秘密が増えるかもしれないんだぞ!!」

 「産んでくれた相手に、負い目を感じて生きる苦しみがあんたに分かるのか!?」

 (マリエ)

 「何よ失礼ね。それに煩いわよ。」

 「だからルールはこれから覚えるじゃない。」

 「覚えてやるなら何の問題もないでしょ?」

 (悠)

 「問題あるよ!あるに決まってるよ!」

 「始めてやるゲームなんですよ!?」

 「最初は勝手が分からないに決まってるじゃないですか!」

 「あ、慣れてきたかも~。とか言ってる間に!」

 「俺のケツには穴が空いてるかもしれないんだぞ!」

 「それなら俺が出る!」

 「自分の体は自分で守る!」

 (マリエ)

 「いやいや、大丈夫だって。」

 「そんなに慌てないでよ。」

 「ルールが分かればきちんとできるから。」

 「それに貴方、心理戦とかは無理って言ったじゃない。」

 「だから私が出るって決めたのよ?」

 「実際、貴方何でも顔に出るから無理でしょ?」

 「貞操が掛かるなら余計に無理よ。」

 「いいから早くルールを教えなさい。」

 「覚えたら、ちゃっちゃっと終わらせるから。」

 

 会話を聞いていたレイナも、恐る恐る手をあげ、質問に参加する。


 (レイナ)

 「あの…。マリエお姉さん…。」

 「本当にやったことないんですか?」

 「トランプやダウト…。」

 「トランプのダウトと言えば、学校や…。」

 「それこそ修学旅行とかで定番の遊びなんですが…。」

 「やった事はあるけど、何かと勘違いしているとか…。」

 「そういう可能性はないんですか?」

 (マリエ)

 「あ~、なるほど。そういうものなんだ。」

 「だから皆不思議そうなのね。」

 「分かった分かった。それは驚くわね。」

 「私はてっきり、トランプやダウトは、ギャンブルの基本か何かと思ってたわ。」

 「一般的なゲームなんだ。なるほどね。」

 「それに、それなら私。余計に分からないわ。」

 「だって私、学校なんて行ったことないもの。」

 (悠・レイナ)

 「…。え?」

 (マリエ)

 「いや、だから学校なんて行ってないもの。」

 「だからトランプ遊びとかは知らないのよ。」

 「遊びなんて、家でやる機会も無かったしね。」

 「何か驚かせてごめんなさいね?」

 「私、その辺の常識には疎いのよ。」

 「まあ、これで本当に知らないのは分かったでしょ?」

 「分かったらさっさとルールを教えなさいよ。」

 (悠)

 「ちょっと待って下さい!」

 「学校に行ってない!?いつから?小学校は?」

 (マリエ)

 「行ってないわよ?」

 (レイナ)

 「中学校は?」

 (マリエ)

 「当然行ってないわね。」

 (悠)

 「なら、高校なんて~…。」

 (マリエ)

 「だから行ってないってば!」 

 「何でそんなにしつこいのよ!」

 「そもそも10歳くらいには家出してフラフラしてたのよ!」

 「前にも言ったけど、家庭的に色々あったの!」

 「どうせ私は無学歴、無国籍よ!」

 「それに何が問題が!?」

 「今はダウトのルールのお話でしょ!?」

 「はい終わり!この話はこれでお仕舞い!」

 「さっさとゲームのルールを教えてちょうだい!」


 悠とレイナは一度その場を離れ、 

 二人で耳打ちをしながら会話を続けた。


 (悠)

 「おいおいマジかよ…。」  

 「現代法治国家の日本で、そんな事有り得るのか?」

 「最後無国籍って言ってたけど、つまりは戸籍もないって事だろ?」

 「つまりあの人…。法律上は存在してない?」

 (レイナ)

 「所謂ロストチルドレンと言うやつでしょうか…。だから悪い人に狙われたのかも…。」

 「マリエお姉さん、そんなに苦労なさっていたんですね。」

 「私、聞いてて胸が張り裂けそうでした。」

 (悠)

 「けれど驚いたのはそれだけじゃない。」

 「つまり、マリエさんが普段から発揮している、人間離れした洞察力や分析力は…。」 

 「彼女が生まれた時に最初から持ち合わせていた物なのか。それとも後天的に。生き残る為に身に付けた物ってことだろう?」

 「そして恐らく正解は後者だ。」

 「彼女は生き残る為に、あれだけハイレベルな思考回路を作り上げたんだ。」

 「そりゃあ、俺たちじゃあ敵わないよ。」 

 「勝てるはずがない。俺達みたいに、普通にぬくぬくと暖かく育った奴が、彼女の思考に追い付けるはずがないんだ。」

 「俺、なんか今、凄い納得したよ。」

 (レイナ)

 「た、確かにそうですよね。」

 「マリエお姉さんは、いつも堂々としていて、相手の些細な動きや心境の変化を絶対に見逃さない。」

 「だからいつも、相手を窮地に追い込んで、自分のペースに引きずり込む事ができる。」

 「それは10歳の頃から、裏社会で生きるために身に付けた力なんですよね。」

 (悠)

 「俺達にはとても無理な芸当だ。」

 「彼女の思考能力に追い付ける訳がない。」

 「レイナ、この勝負。」

 「やっぱりマリエさんに預けよう。」

 「あの人ならきっと、何とかこの場を切り抜けてくれる。」

 「少なくとも、ルールを知ってる俺たちよりも、ルールを知らない彼女の方が、勝算が高い気がしてきたよ。」

 (レイナ)

 「はい。私も異存ありません。」

 「ここはマリエお姉さんに、全てを託しましょう。」

 「少なくとも温室育ちの私たちよりも、思考も嗅覚もずっと鋭いはずでしょうし。」


 二人は決意を新たにし、ベルガリスとアナベーの方に向き直った。


 (ベルガリス)

 「話はまとまったかい?」

 「さあ、そっちの男とお嬢さん。」

 「どっちが相手をしてくれるんだ?」


 ベルガリスの中で、ルールを知らないマリエの存在は既に頭数にさえ入っていない。

 しかし、二人が出した結論は違う。


 (悠)

 「いや、ゲームの参加者はこのままでいく。」

 (ベルガリス)

 「は?何だって?」

 「これからルールを覚えようとする人間が、生粋のギャンブラーの俺に勝てると思うのか?」

 (悠)

 「勝てる!少なくとも俺たちの中では、彼女が一番勝算を持っている!」

 「それが俺たちの結論だ!」

 (マリエ)

 「悠さん…。貴方…。」

 「レイナちゃんも…。」

 「ありがとう。私、必ず勝って見せるわ!」

 (ベルガリス)

 「ほう…。そうかい。」

 「まあ、好きにやればいいさ。」

 「ならさっさとルールを教えてやれ。」

 「勝ちが決まったゲームだ。」

 「もう少し時間をくれてやってもいい。」

 

 悠はマリエを手招きし、彼女にダウトのルールを説明した。


 (マリエ)

 「なるほどね。互いに数字を1から順番に13までカードを出しあう。カードの色は関係ない。」

 「カードを出すときには、数字をコールする。」

 「そして、自分がコールして、本来出さなければならない数字と、違う数字のカードを出した時。」 「そこで相手にダウトと指摘されたら負け…。」

 「逆に指摘された時に、正しい数字を出していれば、指摘した方が負けになるのね。」


 「数字は順番に出すことが原則だけど、相手を騙して全然違うカードを出すのも問題はない。」

 「1とコールしながら、3のカードを出しても良い。」

 「その場合は、相手がダウトと指摘しなければ、ゲームは継続する。」

 「一度スルーしたカードを、後から指摘することはできない。」


 「なるほど。今回は二人でやる訳だから、相手が持っていない数字をお互いが把握できる訳ね。」

 「それなら確かに、相手がコールした数字を持っていない場合、直ぐにダウトと指摘できる。」

 (悠)

 「そうです。けれど代わりに。今回は、お互いに1枚ずつジョーカーが配られている。」

 「相手が4枚全てを持っている数字。つまりは自分が1枚も持っていない数字の場面でも、ジョーカーを使えばそこを穴埋めすることが可能なんです。」 

 「ジョーカーは好きなときに好きな数字として使うことができる。言わば切り札のカードです。」

 「逆に穴埋めするフリをして、ジョーカーとは違うカードを出すこともできます。」

 「切り札として、ジョーカーは終盤まで持っておく。という考えもできます。」

 「今回の場合は、相手がいつジョーカーを使い、いつ違う数字のカードを出してくるか。」

 「相手が持っていない数字の時に、直ぐにダウトをコールするか、ジョーカーと判断して一度スルーするのか。」

 「そう言った腹の探りあいと、場面場面での決断力が必要になるでしょう。」


 (マリエ)

 「うん。そうね。大体分かったわ。」

 「説明いただきありがとう。」

 「なんだ、やっぱり私の得意分野じゃない。」

 「これは思ったよりも楽しめそうね。」


 マリエはパチンと扇を閉じると、自信満々の顔で、テーブルの前に立った。


 (マリエ)

 「帝さんごめんなさいね?」

 「何度もお待たせしちゃって。」

 「待たせてしまった分、ゲームはさくさく終わらせる事を約束するわ。」

 

 ベルガリスはその言葉を聞き、ニヤリと笑いながらテーブルについた。


 (ベルガリス)

 「それは別に構わねぇよ。それよりさ。」

 「お姉さん。あんた本当に大丈夫かい?」

 「これは遊びのようで遊びじゃない。」

 「俺はいつだって、勝負には真剣だ。死にものぐるいで勝ちにいく。」

 「初心者だからって、手心が入るなんて期待するなよ?」

  

 ベルガリスは、既に勝ちを確信したかの様な表情だ。口許が完全に緩んでいる。

 完全にマリエを見下してる様だ。


 (アナベー)

 「ジャア、ゲームヲ始メルネ。」

 「カードハオ嬢チャン。ユーガ配ルトイイネ。」

 「ソノ方ガ安心デキルデショ?」

 (レイナ)

 「わ、私ですか?分かりました。」

 「自信はないですが、頑張ってやってみます。」


 レイナは辿々しい手つきでカードを切り、1枚ずつ二人に配っていく。

 そして配り終えると、そそくさと悠の後ろに隠れてしまった。


 ズラッ。とカードがマリエの手に握られる。

 悠達からは、マリエに配られたカードだけが見える。悠とレイナは、必死にマリエのカードを確認した。


 (悠)

 「数字的には、結構バラけたみたいだな。」

 「1が1枚。2が3枚。3は2枚。4が4枚。」

 「5が2枚。6が2枚。7はなし。8は2枚。」

 「9が1枚。10が4枚。11が3枚。12が2枚」

 「13がなし。そしてジョーカー1枚。」

 「合計27枚だ。」

 (レイナ)

 「つまり、ベルガリスさんは…。」

 「1が3枚。2が1枚。3が2枚。4がなし。」

 「5が2枚。6も2枚。7が4枚。8は2枚。」

 「9が3枚。10がなし。11が1枚。12が2枚」

 「13が4枚。そしてジョーカー1枚。」

 「同じく27枚ですね。」


 (悠)

 「配られた段階で、相手が何を保有し、何がないかは筒抜けだ。」

 「こっからは本当に駆け引きの勝負。」

 「ジョーカーを一周目に素直に使うのか。」

 「それとも他のカードで欺き、ギリギリまで切り札として取っておくのか。」

 (レイナ)

 「正しいカードを出していようと、違うカードを出していようと、決して相手に悟られてはいけない。」

 「些細な動揺で、相手に手札を一発で見抜かれる可能性もある。」

 「やはりこの勝負、マリエさんに任せて正解でしたね。」

 「私はこのプレッシャーには、どうあっても耐えられる気がしませんので。」

 (悠)

 「残念だが俺もだ。やっぱりここは、マリエさんに頼るしかない。」

 「頼むぜマリエさん。あのいけ好かない野郎に、一発吠え面かかせてやってくれ!」


 二人の期待を背に、マリエはベルガリスと真正面から向き合った。


 (ベルガリス)

 「へえ…。さっきまでは俺の気配に怯えていた癖に、いざ勝負となるといい顔をするな。」

 「やっぱりあんた、肝が座ってるよ。」

 「負けてもここに残るといい。」

 「それなりの待遇は保証するぜ。」

 (マリエ)

 「おあいにくさま。」

 「安い保証で勝てる勝負を捨てるほど、私に負け犬根性は染み付いてないの。」

 「待たせてばかりで悪かったから、貴方からでいいわよ。」

 「1から順番に、交互にカードを出せばいいのよね?」

 (ベルガリス)

 「ああ。その通りだ。」

 「ちゃんとルールも覚えたみたいだな。」

 「じゃあ、せっかくの申し出だ。」

 「俺から行かせて貰うぜ。」


 (悠)

 「マリエさん。流石に上手いな。」

 「マリエさんの手元は、どちらかと言えば奇数のカードが少ない。始めが奇数の場合、1対1の勝負では、常に奇数の数を出し続ける事になる。」

 「ベルガリスに1を譲ることで、マリエさんは一周目は有利な偶数を出し続ける事ができる。」

 「偶数カードなら、マリエさんの一周目に数字の穴はできない。」

 (レイナ)

 「けど、ベルガリスさんは、その逆で奇数のカードが多く、同じく一周目には穴がありません。」

 「つまり一周目は、お互いに様子を見る事になりそうですね。」

 (悠)

 「そうだな。でも、あのマリエさんだ。」

 「一周様子を見れば、相手の癖や手札の配置を読んで、直ぐ様ダウトコールできるのかもしれない。」

 「あの人はそれができちまう人だ。」

 「マリエさんの観察眼を甘く見ると、本当に痛い目見るぜ、大地の帝さんよ!」


 悠とレイナは、最大限の期待を込めて、マリエの背中を見守っていた。

 そしていよいよ、ハイレベルな心理戦の幕が上がる。


 (ベルガリス)

 「よし、じゃあ俺からだな。」

 「1!」

 (マリエ)

 「はい、ダウト。」


 ………………。


 部屋の空気が一瞬にして凍り付いた。


 (悠・レイナ・アナベー)

 「は?・え?・ホワット?」

 (ベルガリス)

 「ちょっと待て!本当にルール覚えたか!?」

 「ダウトコールは一度きり!」

 「失敗したら、その段階でアンタの負けなんだぞ!?」

 (マリエ)

 「知ってるわよ。さっき何回も聞いたもの。」

 「知った上で言ってるの。」

 「ダウトよ。このカードは数字の1じゃない。」

 (アナベー)

 「オー…。アノオ姉サン…。」

 「本当ニクレイジーガールダッタネー…。」

 (マリエ)

 「ねえ?悠さん?」

 (悠)

 「は、はい!?」


 マリエは悠を睨み付け質問する。


 (マリエ)

 「この場合、このカードが1かどうか。」

 「私が捲って確かめていいのよね?」

 (悠)

 「はい、大丈夫かと…。」

 「けど…。」

 (マリエ)

 「けど?何よ?」

 (悠)

 「本当に捲っちゃいます?」

 「もう取り返しがつかなくなりますよ…。」

 「私の貞操…。本当にマリエ様の手腕に掛かっているのですが…。」

  

 悠は思わず、再び尻をきゅっと引き締めた。

 悠のお尻の未来は、今まさにマリエの手に握りしめられている。


 (マリエ)

 「くどい!何度も言わせないで!」

 「これは1のカードじゃない。」

 「私の予想では…。」

 「ハートの7辺りかしら。」


 マリエはそう告げると、カードをひらりと捲って見せた。


 (悠)

 「いや~!捲られちゃう~!」

 

 悠の目からはキラリと涙がこぼれ。


 アナベーの目からはギラリと光が漏れた。


 運命のカードは果たして…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ