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おやじ妄想ファンタジー   作者: もふもふクッキー
102/114

○ 大地の章 大地の帝

 ○ 大地の帝という男


 その建物は街の中心部に、要塞の如く立ちはだかっていた。

 巨大な石造り。派手な電飾。優雅な装飾品。

 屈強な男達が札束を握りしめ、どんどん中に吸い込まれていく。


 (悠)

 「スゲエ…。これはまさしく…。」

 「想像通りの…。」

 (レイナ)

 「カジノですね…。」

 (マリエ)

 「カジノね。」

 (アナベー)

 「イエース!カジノデース!」


 アナベー圧倒されている3人を尻目に、どんどん中に進んでいく。

 彼が通る度に、すれ違う男達が一様に道を開け、頭を下げている。

 彼がこの街でどれ程の地位を持っているのか、その様子を見れば理解できる。

 そして彼は、建物の中で一番広いであろう大広間に、3人を案内した。


 (アナベー)

 「ハーイ!コチラデース!」

 「3名様ゴ案内ネー!!」

 「イラッシャイマセ~!」

 (ディーラー達)

 「いらっしゃいませ~!」

 「お客様どうぞ楽しんで~!」


 大きく開かれた室内に、

 轟音と歓声が飛び交っている。


 (悠)

 「うおっ!?広っ!なんて大きさだ!」

 「それに眩しい!部屋中きらきらだ!」

 「あと、うるせえ!パチンコ屋みたいなスゲエ音だ!流石は大地の帝のカジノ!」

 「スゴいスケールだ!!」


 (客1)

 「うおっしゃ~!来た~!大金持ちだ~!」

 「今日から俺も大富豪だ~!!」

 (客2)

 「嘘だろ~!俺の有り金が~!」

 「明日からの生活どうすんだよ~!」

 (客3)

 「テメエ!さてはイカサマしやがったな!」

 「俺の目は誤魔化されねぇぞ!」

 「何でテメエがそのカード持ってんだよ!」

 (客4)

 「何だテメエ!いちゃもん付けやがって!」

 「文句あるなら表出ろ!ブッ飛ばしてやる!」


 ゲームの結果に一喜一憂。

 狂喜乱舞する男達。

 そう、やはりここはまさしく…。


 (悠)

 「うん。やっぱりカジノなんだ…。」

 (レイナ)

 「やっぱりカジノなんですね…。」

 (マリエ)

 「やっぱりカジノなのね…。」

 (アナベー)

 「イエ~ス、デスカラカジノデ~ス!」

 「弾ケルパッション!溢レデルデザイア!」

 「ココハ勝ツカ負ケルカ!生キルカ死ヌカ!」

 「ソンナギャンブラー達ノ楽園!」

 「ソシテ、ベルチャンガ経営スル、大地ノ大陸ゴ自慢ノ高級カジノ!」

 「ステラ1ノギャンブルハウス!」

 「名付ケテ、ベルガリスノ園デース!」


 アナベーが手を広げる空間には、何十台ものスロット台。何十卓ものポーカーテーブル。

 回るルーレット。飛び交うコイン。

 そして山積みにされた金の束。

 和風な賭場や格闘場。はたまた競馬場やスポーツ場等、賭け事に使用される様々な舞台が設けられていた。

 その場は正に酒池肉林。

 勝者には金と人が群がり。

 敗者には絶望と共に、黒服のお兄さんによるご案内が用意されている。

 正に人生の縮図。

 天国と地獄が数秒単位で繰り広げられていた。


 (悠)

 「何処もかしこもスゲエ歓声だ!」

 「大声出さなきゃ会話にもならねぇ!」

 (レイナ)

 「私こういう所苦手です~!」

 「皆さん殺気だってて怖いです~!」

 「あと、音と匂いも嫌いです~!」

 (マリエ)

 「そう!?私は嫌いじゃないわ!こういうの!」

 「後で何か賭けてみようかしら!」

 (アナベー)

 「オー!ビューティフルノ、オ姉サンハイケル口ネー!」

 「後デ私案内スルヨー!」

 「ガンガン賭ケテドンドン回ス!」

 「明日ノ事ナンテ忘レテ今ヲ生キルネ!」

 「ザッツエンターテイメント!」

 「人生楽シンダ者勝チネー!」


 「ケド、残念ダケドソノ前ニー…。」

 「ウチノボスヘノ挨拶ガ先ネー。」

 「ボスハ初対面ノ人ニハチョット怖イヨー。」

 「機嫌損ネル、危ナイ危ナイ。」


 そうしてカジノの一番奥。

 その更に奥にある大きな扉。

 関係者以外立ち入り禁止の看板と共に。

 黒服を着た大男が二人、

 その前に立ちはだかっている。


 男達はどう見ても普通の人間とは思えない。

 とてつもない程に、とにかく大きい。

 二人とも身長が2メートルを遥かに越えている。

 どういう人種の人?

 3人はその二人の男を不思議そうに見上げた。

 そしてその二人もまた、アナベーを見て直ぐ様頭を下げるのだ。


 (黒服)

 「これはアナベー様。お疲れさまです。」

 「ベルガリス様が既に中でお待ちです。」

 「手荷物検査などは不要と聞いております。」

 「そのままお通ししてよろしいですか?」


 深々と頭を下げる大男達。

 それを前にしても、アナベーは普段と変わらず、陽気に振る舞っていた。


 (アナベー)

 「イエース、大丈夫!OKネー!」 

 「彼ラノ行動ハ僕ガ保証シマース!」

 「ユー達ハ下ガッテ待ッテイテ下サーイ!」

 「ソレニ、モシ何カ不信ナ事ガアッタラ~…。」

 「僕ガ自ラ捻リ潰スダケネー。」

 「何ノ問題モナイヨー。」


 ゾワッ…。

 その言葉を発した瞬間。

 陽気なアナベーの背中から、

 とてつもない程の殺気が放たれた。

 レイナとマリエは瞬時にそれを察知し、思わず腰を落として身構えていた。


 怪しい動きをすれば殺す。

 些細な策略も企てるなよ。 


 そんなメッセージを含んだ、

 彼からの無言の警告であった。 

 二人は顔を見合わせ、

 この陽気に見える男が、大陸の副官であること。

 つまり自分達では、まだ手におえる相手ではないことを再認識する。

 二人は無言で頷き、

 下手な動きは決してしまいと心に決めた。

 

 (悠)

 「さあ~、大地の帝。一体どんな男かな~。」

 「そういえば俺、男の帝は始めて見るな~。」

 「ねえ、ブラザー。大地の帝ってどんな人?」

 「いい奴なら良いんだけどな~。」

 「あ、黒服さんお疲れさま。」

 「君たちは休んでていいって。」

 「俺のブラザーがそう言ってるから、たぶん大丈夫だよ。」  

 「はい、下がって下がって~。」

 (アナベー)

 「オー、ブラザー。浮気ハダメヨ。」

 「ミーハ一途ナ男ガ好キネー。」

 「ベルチャンハトッテモイイ男ネ。」

 「タダ惚レテモ手酷ク捨テラレルヨー。」


 毎度の事だが、悠はこの手の気配にはことさら鈍い様だ。

 黒服達を軽く扱い。アナベーと仲良く肩を組ながら、自ら大きな扉に手を掛ける。

 警戒心の欠片も見せてはいない。

 その様子を見て、彼の仲間達は不安を感じていた。

 

 (マリエ)

 「ねえ、レイナちゃん。」

 「万が一なんだけど…。」

 「あの人って、もしかしたら大物なんじゃないかしら?」  

 「それともただのバカ?」

 (レイナ)

 「いや~、どうでしょうね?」

 「普段やることなすこと小物過ぎて、彼の器量はいつも計りかねます。」

 「まあ、少なくとも得体は知れないですね。」

 「知りたくもありませんが。」

 「故に私は、後者の説が有力かと。」


 ギィ~。

 二人の心配を他所に、悠は扉を押し開けていく。

 そして重く、大きな扉がゆっくりと開かれた。

 

 部屋が開けられた瞬間だった。

 レイナとマリエは、先程とは違う種類の。

 淀んだ気配に身を包まれるのを感じていた。

 二人の額に、再び冷たい汗が流れる。


 (マリエ)

 『何かいる。この部屋の中には。』

 『私達が、決して触れてはいけない何かが。』

 (レイナ)

 『空気が重い。息が詰まる。』

 『これは気配?いや、プレッシャー?』

 『この圧力…。人間が発する類いのものとは思えません!』


 その部屋は以外に質素で、一つのテーブルとソファーが置かれているだけであった。

 そしてソファーには、銀髪の華奢な男が一人。  

 (レイナ)

 「あれが…、大地の帝…?」

 (マリエ)

 「この気配の正体…?」


 想像していた様な、屈強な大男ではない。

 勿論人間以外の獣の類いではない。

 体躯はむしろ平均的な、細身の男が座っていた。


 男は両手をだらりと下げ、悠達を睨み付ける。

 どうやら左手は義手。右足は義足の様だ。

 右目も眼帯で隠されている。


 しかし、レイナとマリエを驚かせたのは、彼の特種な容姿ではない。

 そう、それはやはり、彼から放たれている異質な気配だ。


 近付いた事でより鮮明になった。

 あの男は、明らかにこれ迄の人間とは。

 いや、普通の人間とは違う。 

 どこか歪んだ、全身にまとわりつく様な。

 そんな異質な気配を、男は纏っていたのだ。


 レイナとマリエは、その気配に恐怖を感じ。

 いつでも攻撃を仕掛けられる様、背中に手を回し、ゆっくりと心具に手をかけた。


 (マリエ)

 『なにこの男…。本当に不気味…。』

 『仕掛けてくる様子はないけど、明らかに普通の人間とは違う…。』

 『品定めでもするかの様な…。人を物として見ているかの様な…。体にまとわりつく気配…。』

 『何だかとても気味が悪い…。』

 『本当にこれが同じ人間の空気なの…。』

 (レイナ)

 『何でしょう…。この気配…。』

 『決して魔力の強さではない…。』

 『けれど、全身を何かがまとわりつく様な…。』

 『体をくまなく調べられているかの様な、気持ちの悪い気配…。』

 『この人は違う。バトルや資質とは違う。』   『私たちの何かを見ている。』

 『普通の人には分からない何かを…。』

 『怖い…。こんな異質な気配は始めてです…。』


 警戒する二人を他所に、ベルガリスはゆっくりとアナベーを見つめた。


 (ベルガリス)

 「よお、アナベー。遅かったな。」

 「なんだ。そいつらがそうなのか?」

 (アナベー)

 「イエ~ス!彼等ガ水ノ大陸カラノ使者ネー。」

 「新書モチャント持ッテイタヨー。」

 「ソレニ結構楽シイ人達ネー!」

 (ベルガリス)

 「はあ?水?なんだそりゃ。」

 「確か順番的には風じゃなかったか?」

 「何で水の姉ちゃんから何だよ。」

 「話が違うじゃねーか。」


 そう告げると、

 ベルガリスはアナベーを睨み付けた。

 その怒気だけで、部屋全体の空気が震えている。


 (レイナ) 

 『怖い!早くこの人から離れたいです!』


 レイナはその気配に、

 思わず身を縮めてしまった。


 (アナベー)

 「オー!怖イデスネー。落チ着イテヨー。」

 「ケレド、ソレハミーニモ分カリマセ~ン。」

 「ベルチャンガ親書ヲ読ンデ、自分デ確カメルシカナイネー。」

 「ミーモマダ、中身ヲ知ラナイヨー。」

 「ムシロ読ンダラ怒ルデショー?」

 (ベルガリス)

 「チッ。そうかよ。仕方ねぇな。」


 ベルガリスは舌打ちをし、ゆっくりと悠に向かって手を差し出した。 


 (ベルガリス)

 「おら。お前か?早くよこせ。」

 (悠)

 「は?何の話だよ?」

 (ベルガリス)

 「親書だよ!話聞いてんだろ!」

 「早くよこせ。めんどくさい奴だな。」

 「俺はトロい奴は嫌いなんだよ。」

 (悠)

 「何だとコラ!テメエ!偉そうに!」

 「帝だからって、誰でもはいはい言うこと聞くと思うなよ!」

 「調子のってんならブッ飛ばすぞ!」

 (ベルガリス)

 「ああ~?テメエ…。何て言った?」

 「テメエ、俺を舐めてんのか?」


 ベルガリスはゆらりと手を伸ばし、

 ゆっくりと悠の胸ぐらを掴もうとする。


 (レイナ・マリエ)

 「ダメです悠兄さん!ダメよ悠さん!」


 レイナとマリエが危険を察知し、悠を止めようと手を伸ばした。

 しかしその時…。


 カチャリ…。

 既にアナベーが銃の銃口を、

 悠のこめかみにめり込ませていたのだ。


 (アナベー)

 「ノー。ブラザー。ソレハダメヨー。」

 「ベルチャン怒ラス良クナイネー。」

 「下手シタラ、ココニイル皆ガ死ヌコトニナルヨー。ミーハマダマダ死ニタクナイネー。」

 「ミーハ明日モ太陽ノ光ヲ浴ビタイネー。」


 カチャン…。

 アナベーは、銃の引き金に手を掛ける。


 (アナベー)

 「頼ムカラ、落チ着イテクダサーイ。」


 (悠)

 「アナベー!テメエ!」

 「さっきまで陽気なブラザー面して、油断させて裏切りやがったな!」

 「お前とは色々な意味で、友達になれると思ってたのによ!」


 悠は叫びながらも両手を上にあげ、

 抵抗の意思がない事を示した。


 (アナベー)

 「違ウヨブラザー。言ッテシマエバ、ユーハ今一度死ンデイタネー。」

 「モシカシタラ僕モダケドネー。」

 「ベルチャン怒ルト手ガツケラレナイネー。」

 「特ニ知ラナイ相手ニハ敏感ネー。」

 「本当ニ容赦シナイヨー。」

 「今ハミーガ、ユーヲギリギリデ助ケタヨー。」

 「ムシロ感謝シテ欲シイクライネー。」

  

 アナベーは首を振りながら、悠の懐から親書を取りだし、ベルガリスに手渡した。

 

 (悠)

 「離せ!この裏切り者!」

 「裏切りブラザーズ!」


 悠はアナベーの手を振り払い、睨み付けながらレイナとマリエの元に戻った。

 悠は直ぐに二人に取り押さえられ、これ迄の行動のお叱りを受ける。


 (マリエ)

 「何やってんのよ貴方は!」

 「アイツの異様な気配に気付かないの!?」

 「明らかに危ない人間じゃないの!」

 「絶対関わっちゃダメな相手じゃない!」

 「何でそういう相手ばかりに喧嘩を売るのよ!」

 「アホなの!?その頭の中には蟹味噌でも入ってるの!?」

 「それとも入ってないの!?」

 「人間性と同じで空っぽなの!?」

 (レイナ)

 「悠兄さん!今回ばかりは洒落の通じる相手ではありませんよ!」  

 「アナベーさんの仰った通り!」

 「あのまま捕まっていたら、どんな目に遭わされていたか!」

 「悠兄さんは、もう少し相手の気配を見抜く訓練を徹底して下さい!」

 「頭が空っぽでもいいですから!」

 「私たちを巻き込まないで下さい!」

 (悠)

 「何だよ二人ともビビっちゃって。」

 「あんな奴全然大したことないって。」

 「はいはい、分~かりましたよ!」

 「以後気を付けます~!」

 「ただ俺はさ!人間同士!」

 「最低限相手に払うべき、敬意ってもんがあるんじゃないかって事が言いたかっただけなんだよ!」

 (マリエ)

 「チョット貴方ね!」

 「そんな一般教養を、化け物相手に吹聴して回っていたら、命が幾つ有っても足りないわよ!」

 「そんな話をありんこに言われて、連中が聞く耳を持つわけないでしょう!?」

 「うるせえ!って踏み潰されてお仕舞い!」

 「はい死んだ!貴方はやっぱり今死んだのよ!」

 「いい!?ここは常識ではなく資質が全てを統べる世界!」

 「蟻の話を人間は聞かないの!」

 「分かった!?常識を言えば偉くなれるほど、ここは優しい世界ではないの!!」

 「それを肝に命じておきなさい!」

 「どうせ頭には入らないでしょ!」

 (悠)

 「わ、分かったよ~。」

 「何もそんなに怒鳴らなくても…。」

 (レイナ)

 「死ね!次にやったらマジで死ね!」

 「私を巻き込むな!このクソ虫!」


 一通り説教を終えると、マリエとレイナはベルガリスの方を向き直した。

 正確に言えば、片時も目を離してはいたくなかったのだ。 

 ベルガリスが発する異形のオーラが、彼女達から一瞬たりとも気を緩めるチャンスを与えてはくれなかったのだ。


 (アナベー)

 『オ嬢サン方ノ反応ガ当タリ前ネ。』

 『ベルチャンガ気ヲ許サナイ相手ニ放ツオーラニハ、一切ノ躊躇ガナイ。』

 『言ッテシマエバ、殺意ノ塊。』

 『躊躇ノナイ悪意ソノモノデース。』

 

 『ソンナ淀ンダ人間ノ悪意、普通ノ生活デハ決シテ触レル機会ナンテナイハズ…。』

 『正体不明ノ純粋ナ悪意。』

 『腰ガ振レナクテモ…。オー、間違エマシタ。』

 『腰ガ引ケテシマッテモ当タリ前デース。』

 『ケド~。コッチノブラザーハ、ドウシテ無反応?』

 『サッキモ、ミーガ放ッタ怒気ニ、全ク動ジマセンデシター。』

 『何故ニホワイ?彼モマタ特別ナ何カヲ…?』


 アナベーはじっと悠を見つめていた。  


 『ウーン、何モ感ジマセーン。』

 『ナントイイマスカ、悪意モ善意モ感ジナイデース。アレ?ソンナ事有リエマスカ?無垢ッテ事?』

 『ウーン、全ク分カリマセンネー。』

 『仕方ナイネー。取リアエズハ、様子ヲ見マショー。』

 『正直、考エルノモ面倒デース!イエー!』


 そしてアナベーは考えるのを止め、

 親書を読むベルガリスに視線を戻した。


 (ベルガリス)

 「ああ、なるほど。そういうことか。」

 「だから先に、ウチに送った訳ね。」

 「まあ、姉ちゃん方も色々と大変だった訳か。」

 「しかし触媒か。考えることは皆同じだな。」


 ベルガリスは読み終えた親書を、グシャグシャと丸め、ソファーの後ろに放り投げ捨てた。

 

 (ベルガリス)  

 「気に入らねえ。これじゃあつまんねぇな。」

 (悠)

 「あ?何だって?」

 (ベルガリス)

 「だから、気に入らねえって言ったんだ。」

 「お前らが堕天者に絡まれた事とか、全大陸の利益の為に力を貸して欲しいとか、そんなごちゃごちゃした理由なんざ、俺には関係ねぇ~んだよ。」


 ベルガリスはゆっくりと立ち上がり、杖を付きながらゆっくりと三人に歩み寄ってくる。


 (ベルガリス)

 「要するにだ。結局の所、俺がお前らを気に入るかどうかなんだよ。」

 「ステラの為とか、堕天者討伐の為とかどうだっていい!」

 「ギャンブルって言うのはな!」

 「《今!そいつが楽しいかどうか!》」

 「それが全てなんだよ!」


 「将来面白くなりそうだとか!」

 「今後こうなったら困るとか!」

 「延び白があるとか!戦力になるとか!」

 「そんなもんは一切関係ねぇんだ!」


 「今!お前らが!俺を楽しませられるのか!」 

 「重要なのはそこだ!」

 「俺が求めているのはそれだけなんだよ!」


 ベルガリスは顔を近付け、ニヤニヤしながら3人の顔を見回していく。


 (悠)

 「なんだこいつ。さっきから気持ち悪い。」

 「危ない薬でもやってんじゃねーのか?」  


 悠はあまりに横暴な態度に、

 再び不快感を表し始めた。

 彼はやはりベルガリスが気に入らないらしい。


 (ベルガリス)

 「薬!?なんだお前!?薬が怖いのか!?」

 「情けない奴だな~!」

 「楽しくなるならいいじゃねーか!」

 「ドンドン使え!生きてる感覚を楽しもうぜ!」

 「その日のスリルが、人生で一番の物になるなら!」

 「薬だろうと何だろうとドンドン使うべきだ!」


 「ただ漫然と、平和に生きて何になる!」

 「落ち着いた、安定した生活!?」

 「そんな物で何が残る!何処に快楽がある!」

 「そんな奴の人生を誰が覚えてるんだよ!」

 「男に産まれたからには、命を懸けた勝負に!」

 「綱渡りの生き方に!生の喜びを感じるもんだろうが!」


 「金も!地位も!名誉も!命も!」

 「全部削らねえと見えない世界があるんだよ!」

 「そんな度胸を持たない連中なら、さっさとこの大陸を後にするんだな!」

 「ここの連中は、明日の生活費が手元にあるなら、それを担保に掛け金を捻り出すイカれた連中ばかりだ!」

 「その位の度胸がなけりゃあこの大陸で!」

 「一日足りとも生きていけねぇよ!」


 「アーハッハッハッ!!」

 「お前らは来るところを間違えてるよ!」

 「ここじゃ誰も他人を守ってなんかくれない!」

 「今日の掛けの為なら、自分の命だって担保に掛ける!」

 「そんな連中が集まる街!」

 「それがここ!俺が統べる楽園!」

 「ポートゴールドランドだ!」


 ベルガリスは高らかに笑うと、ディープインパクトのメンバーに背を向け、ソファーに座り直した。

 そして、大きく息を吐き再び3人を睨み付けた。


 (ベルガリス)

 「あ~、甘い。甘すぎだよお前ら。」

 「このままじゃ時間の無駄だな。」

 「そこで提案がある。」

 「俺と賭けをしねぇか?」

 (悠)

 「賭け?お前と?」


 (ベルガリス)

 「そう賭けだ。親書を読んでみるに、それなりに面白い人間である事は間違いなさそうだ。」

 「真面目な水の姉ちゃん方が言ったんだ。」

 「そりゃあ、間違いないだろうさ。」


 「だが、俺がお前らをどう思うか。」

 「それは俺が決める。俺が自分で見極める。」

 「他人が決めた評価なんて、知ったことか。」

 「俺には俺のやり方がある。」

 「今のお前らの評価は最悪だがな。」


 「だから挽回の機会をやるよ。」

 「俺と賭けをしよう。」

 「簡単なゲームをやって、お前らが勝ったら俺もお前らに協力してやる。」

 「何ならどんな事でも一つ、言うことを聞いてやってもいい。」

 「死ねと言われれば、その場で喜んで死んでやる。」

 「そうじゃなければつまらないからな。」


 「ただし俺が勝ったなら…。」

 「そうだな…。」


 ベルガリスは3人をまじまじと見つめる。


 「よし。そこの男。」

 「お前をアナベーの男にする。」

 「残りの女は帰っていい。」

 「かなりの価値がありそうだが。」

 「俺は紳士でね。強要は好まねえからな。」

 「まあ、残りたいなら残ればいい。」

 「その時は俺が良いように使ってやるよ。」

 (アナベー)

 「オー!ウェルカ~ム!ラッキーネ!」

 「皆是非ヤッテミルヨ!」

 「新シイフレンド!楽シミネー!」

 (ベルガリス)

 「どうだ?やってみないか?」

 「それなりに楽しめそうじゃねぇか。」

 「まあ、やらねぇって言うならそれも良い。」

 「誰だって好きに生きてぇからな。」

 「まあ、その場合はさっさと荷物をまとめて帰るんだな。」

 「水の姉ちゃんには、ビビって帰っちまったと伝えておいてやるよ。」


 ベルガリスは座ったまま足を組み、肘をついて3人を見下すような視線を向けた。

 その視線の鋭さに、

 悠は思わず狼狽えてしまった。


 (ベルガリス)

 「さあ、どうする?」

 「やるかやらないか。」

 「俺は気が長い方じゃない。」

 「決めるならさっさと決めな。」


 ベルガリスの問いに、悠は二人の意見を聞こうと後ろを振り返る。 

 後ろでは、不安そうな顔をしたレイナが、すがるような視線でこちらを見ていた。


 (悠) 

 「どうする?バトルでは無いにしろ、どう考えても相手の土俵だ…。」

 「何か仕掛けられてもおかしくない。」

 「まして、賭け事なんて俺にも経験が…。」


 悠もどちらかと言えば、賭けに否定的だった。

 リターンは大きいがリスクも…。

 ましてやあの余裕。

 何か秘策があるのかもしれない。

 そう考えると決断をしかねていた。

 だが…。


 (マリエ)

 「やりましょう。こちらにリスクが無いのなら、ノッた所で損はないんだから。」 

 「この勝負。絶対に受けるべきよ。」


 マリエだけは、既に腹を決めていたのだ。


 (レイナ)

 「マリエ姉さん!?」

 (悠)

 「ちょっと待って下さい!リスクが無い!?」

 「こちらは大地の帝の協力を得られなくなるんですよ!?」

 「せっかく親書を持ってきたのに!」

 「それに俺がアナベーの物に!」

 「俺の貞操もかかってるんですよ!?」


 二人はマリエの瞬時の決断に、

 驚きの表情を浮かべていた。


 (マリエ)

 「そうね。確かにそう言ってたわね。」

 「協力は得られない。」

 「けど、それは本当にリスクかしら?」


 「あの男から協力を得られるかどうかなんて、元々ここに来るまで分からなかったじゃない?」

 「水の大陸であの女に言われたから、私たちはこうして赴いているけど…。」

 「実際ここに来た理由はそれだけ。」

 「それ以上も以下でもないわ。」


 「大地の帝が、本当に協力的なのかも分からなかったし、親書の中身も知らなかった。」

 「それが、勝ったら無償で協力してくれるって言うのよ?」

 「こんな有りがたい話、滅多に無いわよ。」

 「こちらからお願いしなくていいのよ?」

 「むしろラッキーなのはこっちじゃない?」

 「気が変わらない内に、さっさと受けるべきだわ。」


 「良く考えて?私たちには、リスクらしいリスクなんて、実はこの賭けには存在しないのよ。」

 「アイツの口車にのせられてはダメ。」

 「私たちは、勝ったら堂々と協力して貰う。」

 「負けたらただ帰るだけ。」

 「どう考えても、ノーリスクハイリターン。」

 「こんなウマイ話、ノラない手はないわよ。」


 マリエの話には、確かに筋が通っていた。

 不可侵の条約を結んでいるからと言って、必ずしも水の帝の申し出を、ベルガリスが受け入れるとは限らないのだ。

 歴史を辿ればむしろ敵同士。

 親書の有無を問わず、協力を得られるリターンは遥かに大きい。


 (レイナ)

 「そうですね。確かに…。」

 「そもそも本当に協力してくれるかも分からなかった。」

 「私たちは、エリアスさんに言われたからここに来ただけ…。」

 「負けたら協力して貰えないけど、私たちは帰るだけ…。」

 「そう考えると、あれ?リスクは…。ない?」

 (マリエ)

 「でしょ?」

 (レイナ)

 「はい!ない…。ですよね!」

 「それなら別に…。受けてみても…。」


 レイナもマリエの提案を理解し、納得がいったようだ。

 そう、彼女達にリスクなど存在しないのだ。

 この賭けは、大地の帝の戯れでしかない。

 マリエは直ぐにそれに気付いた。


 そう、彼女達にとってリスクない…。


 (悠)

 『俺の貞操は~~!!!???』


 そう、彼女達には関係のない話だが。

 一つだけリスクはあったのだ。

 負けたら悠は、アナベーにウェルカムされるのである。

 ブラザーと調子をこいて吹聴していたが、悠にはそんな度胸も性癖も、始めから持ち合わせていないのだ。


 (ベルガリス)

 「どうだい?待つのも飽きた。」

 「そろそろ決めてくれたかい?」


 ベルガリスは肘をついたまま、欠伸をして尋ねる。

 それに対して、レイナとマリエは笑顔で答えるのだ。


 (レイナ)

 「はい!決まりました!」

 (マリエ)

 「この賭け!ノラせていただくわ!」

 (ベルガリス)

 「へえ。楽しいね。お嬢さん方。」  


 ベルガリスはニヤリと笑い。

 ソファーから立ち上がった。


 (悠)

 『だから俺の貞操は~~!!?』

 『リスクにそれが入ってな~い!!』


 リスクを背負うのは、いつだって立場の弱い人間なのだと…。

 悠はこの日、改めて理解するのであった…。

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