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おやじ妄想ファンタジー   作者: もふもふクッキー
10/114

クラン活動の章Ⅵ

 ○ 初陣 


 宿屋を飛び出した俺たちは辺りを見渡した。

 何人か怪我をしている人達はいるが、村に大きな

損害はないようだ。


 大丈夫ですか!?

 レイナは倒れている人に駆け寄り傷を癒している。   


 こりゃ凄い!あんた傷を治せるのかい!?

 レイナは女性に声をかけられていた。

 

 はい!治せるんです!

 ですから他に傷を負った人がいたら全員連れてきて下さい!

 レイナは怪我人全員の治療を行うつもりらしい。


 しかし、その話を聞いていた女性はこう切り返した。


 そうかい。そうだねぇ。

 あんたみたいなのの方がいいかもしれないねぇ。

 

 治療は大丈夫だよ。

 実はみんな大した怪我じゃない。

 それより山賊を追ってくれるかい?

 何だか忍びないお願いになっちゃうけどさ。

 その方がいい気がするんだよ。


 ??

 え??どういうことですか??

 貴方はいったい…。

 レイナは状況が理解できず困惑している。


 おばさん山賊の居場所分かるんだね!?

 教えて!私がブッ飛ばして来てあげる!

 リナが女性に対し自信満々に言い放った。


 ブッ飛ばしてかい!?

 アハハハハ~!

 お嬢ちゃんも面白いね~!

 気に入ったよ!

 教えてあげるからついておいで!


 女性に連れられ、俺達は村の裏側の山道に案内された。


 いいかい。

 この道を真っ直ぐ進むと奴等のアジトがある。

 奴等は6人でクランを組んでいる。

 武器は剣が二人。弓が二人。魔法使い二人だ。

 魔法の威力が強いから十分注意しな。


 分かった!おばちゃんありがとう!(リナ)

 ありがとうございました。

 どうか安全な所に避難していて下さい。(レイナ)


 二人は暗い山道を駆け上がっていく。


 ジ~~。

 俺はその女性を黙って見つめていた。


 気付いたかい?

 まあ、色々と訳ありなんだよ。

 後でちゃんと説明するさ。

 いい娘たちじゃないか。

 しっかり守っておやりよ。

 女性は落ち着いた様子で話した。


 分かりました。

 ありがとうございました。

 俺は一礼し、二人に続いた。



 ・ 山頂付近にて


 二人とも大丈夫か?

 山頂付近で草影に隠れる二人に声をかける。


 悠兄、遅いよ。

 何やってんのさ!

 リナに小声でお叱りを受ける。

 

 少し用事があったんだよ。

 で、状況は?(悠)


 はい。あの女性の言う通り6人のクランです。

 心具も剣二人。弓二人。杖二人。

 女性のアドバイス通りかと思います。

 レイナは遠くから相手を見ながら戦力を分析していたようだ。

 さすがとしか言いようがない。


 相手の数は多いが、この場所なら村や周りのクランに迷惑がかかることはないだろう。


 よし!二人とも準備はいいか!?

 俺達のデビュー戦だ!

 派手にやってやろうぜ!


 よっしゃ!/はい!

 二人も気合い十分といった様子で返事をする。


 では、クランバトルスタートだ!

 俺は端末を操作し、バトルの申請を行う。


 すると端末から。


 クランバトルの申請を受け付けました。

 これより天使を派遣し、

 バトルフィールド及びルールを確認します。

 天部からのアナウンスが流れる。


 空が光り、一人の金髪の少女が現れた。

 白いドレスを纏っている。

 その美しさはまさに天使そのものだ。


 天使が口を開く…。


 クランバトルの申請は受理されました。

 バトルフィールドは私を中心に半径50メートル

 ルールは殺傷攻撃不可。

 今回の特別ルールは風属性での攻撃禁止です。 

 特別ルールを破るとクランバトルの勝利ポイントが減点されます。

 クランのランクアップに繋がるポイントです。

 注意してください。


 では、

 クランアサシンハウス 6人

 クランディープインパクト 3人

 

 3分後にバトルを始めます。 

 各自配置に着いてください。


 この3分間で必ずやるようマザーから指示されたことがある。

 それは相手のクランランクと個人のランクの確認だ。 

 クランバトルの申請が通ると、この段階で相手のランク情報が解禁されるようだ。


 アサシンハウスのクランランクはD。

 俺達よりも格上だ。


 ただ個人ランクも全員Dだ。

 落ち着いていけば倒せない相手じゃない!


 リナ!レイナ!

 いつも通りだ!

 隊列を崩さず声を掛け合おう!


 よーし!やったる!

 私の伝説はここから始まるのだ!(リナ)


 私は…。私は負けない!

 二人を絶対に傷付けずに勝って見せる!(レイナ)

 

 では、開始10秒前です。

 天使が始まりの時間を告げる。


 10・9・8・7・6・5秒前。

 4・3・2・1 …。 パ~~!(ラッパの音)


 バトルスタートです。



 ・ 絶好調


 開始と同時に俺達は走り出した。


 ハアアアア~!

 先ずはリナが突撃し、相手の隊列を乱す作戦だ。

 

 早い!後列ブロックしろ!

 相手の弓部隊がリナ目掛けて矢を放つ。


 しかし

 バシバシバシ!

 俺はリナに向かう矢をすべて弾き飛ばした。


 悠兄どうも!

 話しながらリナは更にスピードをあげる。

 暗く。足場が悪いことなんて関係ない。

 リナはいつだって。

 戦いの場においては誰よりも速い。

  

 速すぎる!魔法の出力が追い付かない!

 さっきの弓を弾いたのはどんな仕掛けだ!?

 相手のクランの焦りが伝わってくる。


 リナはどんどんスピードを上げ、ついには相手の前衛に攻撃を仕掛けた。


 ハアアアア~!

 リナが気合いを入れる時の声だ。

 前衛一人に目を向け、空高く飛び上がる。

 そして全体重を乗せた一撃を降り下ろした。


 バキン!

 相手の心具が弾き飛ぶ。

 おっし!

 リナが会心の声をあげた。


 しかしその時。

 心具を弾かれた相手が胸元から短刀をとりだし、リナを切りつけた。


 アブな!

 顔寸前のところで短刀をかわしたリナだが、よろけて大きく体制を崩した。

 そこに狙い済ましたかのように、もう一人が剣を降り下ろした。


 ズバ! 

 空気を切り裂く音が響く。

 バキ!剣が何かをとらえた。


 ざまあみろ!一人で調子にのるからだ!

 その男はリナを仕留め舞い上がっているようだ。


 しかし、男は直ぐに気付いた。

 剣はリナに届いておらず顔の前で止まっている。

  

 リナはニッコリ笑い。

 男に手を振っている。


 どうも~♪ごめんね~。

 私たちには過保護なおじさんがいて、基本的に戦いで怪我できないの。 


 何で!?当たったはずだろ!?

 男は事態が飲み込めず戸惑っている。


 ゆっくり休んでから自分で考えてね!

 じゃ、おやすみ~♪

 リナは男の頭を鞘で殴り付けた。

 男は白目を向き泡を吹いて気絶したようだ。


 悠兄!何度もありがとう!

 リナはこちらに手を振っている。


 リナ!油断しすぎだ!

 隊列は乱さず、前衛を抑えることに集中しろ!

 レイナの攻撃まで時間を稼ぐんだ!


 リナの動きはいつにも増して切れがある。

 リナもそれに気づき、上手くブレーキをかけられないようだ。

 しかし、隊列や役割はきちんと保たなければ。

 俺がそう思い、リナに注意をしていると…。


 いえ~。もう十分です~。

 時間はいりません~。

 後ろからレイナの声が聞こえた。


 もう?

 いいのか!?

 いつもよりかなり早い気がするが…。

 振り返るとその光景に驚いた。


 レイナが魔法を放つとき。

 周囲が魔力でキラキラと光り輝いている。

 その光景は息を飲むほどに美しいものだ。


 そして今日のレイナはいつも以上に美しく、鮮やかな魔力に包まれている。

 まるで魔力のドレスを身に纏っているかの様だ。


 私もなんか調子いいみたいです~。

 多分これだけあれば簡単に倒せます~。


 いつも通りおっとりしているが、言っていることは恐ろしい。


 リナ!準備ができた!

 レイナの所まで退却だ!


 え!?もう!?

 早くない!?

 うわっ!なんかレイナ凄いことに…。

 分かったよ!

 なんだもう出番終わりか!


 リナも余りの早さに驚いている。


 よし!レイナOKだ!

 俺はレイナに合図を出した。


 ファイアーウォール!!!

 レイナが魔法を放った。


 ゴゴゴゴゴゴ~~~~!!!!

 トレーニングの時とは桁外れの。

 規格外の炎の壁が出力された。


 えええ~~…。

 うっそでしょ~~。(リナ)


 マジかよ。短時間でこんな大規模な…。

 こんなのくらったらどうなんだよ…。(悠)


 あまりの威力に、俺達は開いた口が塞がらなかった。

 相手のクランも最早隊列など関係ない。

 我先に逃げ出そうとしていた。


 ハッ!レイナダメだ!

 そんなもの人に放ったら!!

 俺は殺傷禁止のルールを思い出し、レイナを止めようとした。


 その時だった。


 このバトルそこまでとする!!!


 聞いたことのない声が辺りに響いた。



 ○ 山賊の真意


 声の方に目をやる。

 そこには金髪碧眼の細身で背の高い男が立っていた。体には赤い鎧を纏っている。


 何あれ!?

 あの人凄いカッコいい!!

 リナが男に気付き、声をあげた。


 誰ですかあの人?

 私これからだったのに…。

 レイナは調子の良い状態の魔法を邪魔され、若干不機嫌な様子だ。


 その時、端末から天使の声がした。


 アサシンハウスが降伏を申し出ました。

 おめでとうございます。

 ディープインパクトの勝利です。


 …え?

 マジかよ!?降伏!?

 ってことは…。

 やった! 俺たち勝ったんだ!!

 皆やったぞ!!

 俺たちの勝ちだ!!(悠)

 

 やった~~!!

 初勝利だ~~!!

 私の伝説の始まりだ~~!!(リナ)


 勝ちました~~!!

 私も頑張りました~~!!(レイナ)

 

 3人で手を取り合い、小躍りして喜んだ。


 これまでの人生。

 こんな達成感を味わったことがあっただろうか。


 今日は人生最良の日だ。

 そう思えるほど。

 震えが止まらないほど嬉しかった。

 生まれて始めて何かをやり遂げた。

 そんな幸福感に満たされていた。


 あ~。それでなんですが。

 気が付くとさっきの男がすぐ近くに立っていた。


 …。

 あの~。

 どちら様でしょうか?

 私たち今はバトル初勝利のお祝い中でして…。

 もし急ぎでないなら後にして貰いたいんですが。


 俺は生け簀かない男を前に丁寧にお断りをした。

 我ながら大人の対応だと思う。


 いや、そうではなくてだね…。

 男はまだ何かを言おうとしている。


 空気の読めない奴だ。

 日本なら嫌われるぞ。

 俺は少しイラつき始めていた。


 悠兄。何いってんの?

 この人あれだよ。きっと…。

 リナが男を指差し話し出す。


 男もようやく話が進むと思ったのか、安堵の表情を見せている。


 ほらこの人きっとモデルさんだよ。

 背も高くてカッコいいし。

 サイン貰わないとダメじゃない?


 男の表情はがっかりとした物に変わっていた。



 ・フレッド・バニスター


 いやいや。モデルではありません。

 申し遅れましたが。

 私はフレッド・バニスター。

 今回の山賊討伐の依頼人です。


 あんたが!?

 炎のクランの重鎮の!?(悠)


 俺は想像とは違うその容姿に驚いた。

 てっきり50代くらいのムキムキのオッサンかと思っていたのだ。

 しかし、実物は若く美形であった。


 こいつこの年で組織の重鎮!?

 しかも美形って。

 気に入らねぇ。オラ気に入らねぇぞ!

 俺はこいつを一人の男として敵と認定した。


 んん!大きな咳払いをする。

 えーと、それでー?

 依頼人様がこんなところまで何の御用ですかね?

 ちゃんと働いてるか確認ですか~?

 すいませんね~。

 我々あなたとは違いぺーぺーですもんね。

 信頼されなくても仕方ないですよねー?

 

 俺は皮肉たっぷりに男に話しかけた。


 いやいや、決してそんなつもりは。(男)


 焦ってる。焦ってる。

 なかなかいい反応をするじゃないか。

 こりゃ楽しめるかな。

 そう思った矢先。


 ドカン!

 後頭部を叩かれた。


 痛って~~。何すんだよ!?

 後ろには二人が立っていた。


 何ミジンコみたいに小さいこと言ってんのよ。

 重鎮が何の理由なく出てくる訳ないでしょ。

 (リナ)


 帝のことや帰る方法を聴くチャンスです。

 穏便に済ませましょう。(レイナ)


 やっぱり二人の方が遥かに大人だ。


 こう言われたら仕方がない。


 はいはい。分かりましたよ。

 俺はバニスターの方を見る。


 始めましてフレッド・バニスターさん。

 我々はディープインパクトというクランです。

 貴方の依頼を受け、山賊退治に来ています。

 お互い話すべきことがありそうですし、一度村まで戻りませんか?

 

 バニスターはゆっくりと頷いた。


 分かりました。

 私としても、皆さんとはゆっくり話をするべきと考えていました。

 村に戻りお話ししましょう。

 バニスターの同意を得て、俺達は村に戻った。

 

 ・ 依頼の真意


 バニスターに案内され、村の村長宅で話し合うこととなった。


 あれ?さっきの?(リナ)

 そこには先程、俺たちに山賊の居場所を教えてくれた女性が住んでいた。


 おやおや。やっぱりそうなったかい。

 あんた達を見たとき、そうなるような気がしてたんだよ。(女性) 


 女性はバニスターとも知り合いの様で、お互いに会釈を交わしていた。


 彼女はここの村長なんです。

 今回の依頼の件で何かとご協力いただきました。

 (バニスター)


 そうみたいだな。

 山賊が出たときも村ぐるみで協力してたようだし (悠)


 お気付きでしたか。

 やはり私が見込んだ方々です。(バニスター)


 え?なになに?

 何の話してんの?

 リナは状況が掴めないようだ。


 だからさ。(悠)

 山賊なんて始めっからいなかったんだよ。

 おそらく依頼も嘘なんだ。


 さっきの山賊は…。

 たぶん炎の帝勢力のクランで、村が襲われたってのは演技だったわけ。

 理由は分からないけど。

 村の皆も協力して、俺たちや依頼を受けた他のクランを騙してたんだよ。


 どうしてそんなことを?(レイナ)

 

 多分それをこれからお話し頂けるんだと思うんだが。(悠)

 俺はバニスターの方に視線を向けた。


 はい。私から説明致します。

 バニスターが話し始める。


 先ずは依頼についてです。

 私たちは訳あって、どのクランとも同盟を結んでおらず、ランクは低めで、実力のあるクランを探していました。

 今回の依頼にランク等の参加要件を設けたのはこのためです。


 そして依頼を受けたクランの様子を観察し、十分な実力を有するかを見極めました。

 村全体に協力を頂いたのはこの為です。

 村人を含め、至るところに我々のクランの人員を配置し、皆さんを偵察させていただきました。


 ええ~~。ずっと見られてたんだ。

 なんか気持ち悪いな~。(リナ)


 申し訳ありません。(バニスター)

 ですがそのお陰で皆さんを見つけることができました。

 噂では聞いていたんです。

 この大陸にディープインパクトという、全員Cランク以上の強力な新設クランがあると。

 

 偶然レストランで皆さんが話しているのを聞いた者がいて。

 名前を聞いて直ぐ、噂のクランだと気付き、山賊の手配を整えさせたのです。

 

 …。

 あっれ~?

 うちのクランって何でそんなに有名なんだっけ?

 まさか帝の重鎮にまで知られていたなんて。

 どうしてかな~?(悠)


 皮肉を込めてリナを見るが、絶対に目を会わせようとはしなかった。

 レイナが苦笑いをしながら、まあまあと身振りで俺をなだめた。


 ??

 俺たちのやり取りをみて、

 バニスターは不思議そうな顔をしている。


 そして皆さんは我々のクランと戦い。

 圧倒的な力で勝利しました。

 戦いを見ていましたが、その強さは本物です。

 炎の大陸を探し回っても、これほど強いクランを他に見つけることは出来ないでしょう。

 (バニスター)


 強いって言っても、貴方の条件に合う中でってことでしょう?

 まあ、私たちは帝に会って色々聞こうと思ってるからね。

 ある程度は強くないと始まんないのよ。

 リナがバニスターに語りかけた。


 帝に?何をお聞きになりたいのですか?

 バニスターが尋ねる。


 願ってもないチャンスだ!

 俺はそう考え、自分達の状況を伝えた。


 ……。

 なるほど。

 皆さんは違う世界から来たと…。


 俺の話を聞き終え、バニスターは少し考え込んでいた。


 あの…。何かご存知ないでしょうか?

 レイナがバニスターに尋ねる。


 申し訳ないのですが、私もマザーさんがお話しされた以上のことは知りません。

 過去。確かにそういう人物がいたようですが、現在我々のクランの中では、そういった人物の在籍は確認されておりません。


 そうですか。

 レイナは少し期待していたのだろう。

 がっくりと肩を落としていた。 


 ですが、もしかしたら我々にも協力することは出来るかもしれません。

 もしよろしければ、少し私からお話しをさせていただけませんか?


 俺達は全員頷き。

 バニスターの話を聞くことにした。



 ・依頼の真意Ⅱ


 実は、私たちが今回嘘の依頼を出し。

 皆さんのようなクランを探したのはこれが原因なんです。


 バニスターは広告のような紙を取りだし、テーブルに広げた。

 

 何々…。(悠)


 ◎月☆日

 水の都にてクランバトル大会を開催。


 参加要件

 クランバトル数が30回以下であること

 クランランクがDランク以下であること 


 優勝クランには

 水の帝との謁見時間を与える


 ……は?

 なんだよこれ!?

 優勝クランには水の帝との謁見時間を与える!?

 なんでこんなランクの低い大会で!?

 

 ちょっと見せて!

 リナとレイナも広告を見る。


 なにこれ?

 こんなことして水の帝に何のメリットがあるの?

 リナの疑問も最もだ。

 

 これは…。

 ホントにどんな意味があるのでしょう?

 帝が暇潰しに困ってやったのですか?

 レイナがそう考えてもおかしくはない。  


 今回の依頼を受けた時もそうだったが、ランクを高く設定して依頼をするのは理解できる。

 強いクランであれば、危険な依頼も行えるし、自分のクランにスカウトすることも出来るからだ。


 しかし、今回もまたランクを低く設定し、大会を告知している。  

 これでは優勝したクランに、大した依頼なんて出来るはずがない

 ましてやクランの力を強化することにも繋がらないだろう。


 そんなクランと帝が謁見して何の得になる。

 水の帝が何をしたいのかさっぱり分からない。


 皆さんはどうお考えになりますか?

 バニスターが口を開いた。


 どうも何も二人のいう通りだよ。 

 さっぱり意味が分からない。(悠)


 そうなんです。(バニスター)

 どう考えてもこんな大会をするメリットがないんです。

 ただイタズラに帝を人前に晒すだけなんて…。

 帝の情報は最重要機密ですし…。

 ですが。だからこそ。

 何か意味があるのではと疑ってしまうんです。


 考えすぎじゃない?

 レイナの言う通り暇潰しだよ。(リナ)


 そうだといいのですが。(バニスター)

 水の帝は常に冷静な合理主義者です。

 時間を割いてまで無意味なことをするとは…。

 それに今は、ステラ全体が緊張した状態になっていますし…。


 なるほど。(悠)

 だからあんたは今回みたいな依頼を出したのか。


 どういうことですか?(レイナ)

 

 要するに、代わりに俺たちを大会に参加させる。

 あわよくば優勝し、俺達を通して大会の真意を水の帝から聞き出したい。

 今回の依頼は、大会参加クランの選出が目的だった。そういうことだな?(悠)

 

 その通りです。(バニスター)


 え?どうしてですか?

 炎のクランの方達は大会に出ないんですか?

 レイナは不思議そうな顔で質問をした。 

 

 出たくても…。

 出られないんです。(バニスター)

 

 え?なんで?

 もしかして炎のクランには優勝出来そうな人いないの?人材不足? (リナ)

 

 いやいや。

 長いこと敵対してるって聞いたでしょ。(悠)


 …。その通りです。

 バニスターは顔を下に向け頷いた。


 つまりさ。(悠)

 長いこと敵対関係にある、炎のクラン関係者が行っても、大会には参加させて貰えない。

 最悪捕まっちゃう可能性まであるわけだよ。


 万が一参加して優勝出来ても、敵対クランに大会の真意とか重要なお願いを話すとは考えられない。


 水の帝の目的を知るためには、どことも同盟を結んでいない。

 そして駆け出しで警戒されにくい。

 俺達みたいなクランに入り込ませるのが一番ってわけなんだよ。


 おっしゃる通りです。

 こちらの意図は全て見透かされているのですね。

 (バニスター)

 

 悠兄さん。凄いです。

 私そんなこと思い付きもしませんでした。


 レイナはホントに素直に誉めてくれる。

 おじさんは非常に幸せな気持ちになります。


 悔しいけど。

 今回については認めざるを得ないね。

 凄いよ悠兄! 


 リナも受け入れる時は爽やかでいいよね。


 ただ、残念なことに。

 二人が誉めてくれたのは俺の資質ではない…。

 これは俺が社会で生きていく中で身に付けた。

 ただの処世術だ。


 社会の中で生活していくと、何となく相手方の嫌がってること。後ろめたい部分が透けて見えるようになる。


 不足部分を相手方に気付かれない様に伝えているつもりでも、ここ触れられたくないなぁ~、って思いながら話してると。

 相手にも、ああここ触れられたくないんだなって自然と伝わるものなんだ。


 取引先のプレゼンほど顕著なものはない。

 自信満々に商品をPRしてくるが、

 ちょっと不足な点を指摘すると大慌てだ。

 不足部分に気づいた時。

 ここ触れたらどんな反応するかな~。

 なんてほくそ笑みながら指摘して、相手方がぐらぐらになる。

 あれほど楽しいものはない。


 今のバニスターがまさにそうだ。

 後ろめたい気持ちが会話に滲み出ていた。

 きっと優しい男なんだろう。

 素直さに紛れて隠したい不安が漏れ出ている。

 

 あの、よろしいでしょうか?

 ボーッとする俺に対しバニスターが口を開いた。


 どうでしょう皆さん。

 我々に代わってこの大会に参加して頂けませんか?

 勿論、成果に応じた報酬もお渡しします。

 水の帝に話を聞くチャンスを得られるのは、皆さんにとって願ってもないことでしょう?


 うーん、確かに。レイナどう思う?(リナ)


 私は難しいことは…。悠兄さんはどうですか?

 (レイナ)

 

 俺か~。 うーん。

 なあ、これは同盟には当たらないんだろうか?

 俺はバニスターに尋ねた。


 今回はあくまで依頼者と受任者の関係ですから、同盟には当たらないでしょう。

 ですが、個人的な意見として。

 この依頼が終わった後には、是非とも皆さんを我がクランにお迎えしたい。

 これほど資質の高い方が揃うクランなんて滅多にありません。

 私達にとって強力な戦力になって頂けると確信しています。

 どうでしょう。是非お考え頂けませんか?


 バニスターは真剣な表情でこちらを見た。

 

 えー?スカウトー?

 どうしようかな~?

 リナがおどけて答えようとする。


 今はまだ同盟は組めません。

 俺はそれを遮りバニスターに意志を答えた。


 バニスターは少し考え込んでいるようだ。


 「今は」の真意はなんでしょうか?

 あなたならば、実際にはこれから強力な後ろ楯が必要になることも分かっておいででしょう?

 今度はバニスターにこちらの状況を見透かされているようだ。


 それは分かってるよ。でも…。

 もしかしたら、他にも知り合いがこっちに来てるかもしれないんだ。

 それがはっきりするまでは…。

 大きな勢力と同盟は結べないんだよ。

 俺は何も隠さず。本音を伝えた。


 なるほど。(バニスター)

 万が一知り合いもこちらに来ていて、どこかのクランと同盟を結んでいた場合。

 貴方が私たちと同盟を結んでしまうと、敵対しなくてはならない場面に出くわす可能性がある。

 貴方はそれを危惧しているのですね?

 

 完璧に見透かされてるな。

 そう思いながら俺は黙って頷いた。


 ふー。

 バニスターは一度大きく息をついた。


 分かりました。(バニスター)

 答えは今すぐいただかなくても結構ですよ。

 事情も事情ですしね。

 ただ一つ言っておきます。

 万が一あなた方が我々に敵対した場合。

 この件の責任をとって、私が直々に手を下すことになるでしょう。

 それだけはお忘れなく。


 そう話すバニスターの目には、今までにはない迫力が宿っていた。

 さすがは大クランの重鎮。

 百戦錬磨だ。



 ・ 新しい依頼


 さて、少々お話しが長引いてしまいましたね。

 バニスターが話を切り上げ始めた。


 それで如何でしょう?

 水の帝との接触について、依頼を受けていただけませんか?

 勿論、こちらに流していただく情報は最低限のもので結構です。

 個人的な質問や会話の内容までは聞いたりしません。

 あくまでこの大会を開いた意図。

 それを確認させていただければ結構です。


 俺達は顔を見合わせる。

 どーしよっか?(リナ)

 何だか話がうますぎて怖いです~。(レイナ)

 確かにな~。

 けど他にあてなんて無いしな~。(悠)


 …。

 取り合えず、

 やってみっか/みよう!/みましょう!

 俺達の意見は一致していた。

 考え込んでも分からないなら、取り合えずやってみる!

 リナのスタンスがクランに根付いてきた。


 話の通りだ。バニスターさん。

 俺たちディープインパクト。

 この依頼、確かに承った!(悠)


 俺達の次の目的地が決定した。

 水の帝の統べる都アクアスタムに…。



 ・ 初報酬


 ありがとうございます!

 皆さんになら安心して任せられます。

 バニスターは深々と頭を下げた。


 いや、貴方の言う通り。

 こっちにもメリットがあるんだ。

 いい依頼を貰って助かったよ。(悠)


 俺は自分に頭を下げてくる人間に悪人はいないと信じるタイプだ。

 こいつの顔が良いという事実。

 甘んじて受け入れてやろう!

 

 では、今回の依頼を行うにあたり、こちらをお渡ししておきます。

 バニスターは巻物状の文書を俺に手渡した。


 これは?(悠)


 炎の帝から水の帝への親書です。(バニスター)

 中は開けないで下さいね。

 炎の帝に殺されてしまいますよ。


 さらりと怖いことを言うよこの兄ちゃんは。

 絶対に開けないよう心に誓った。


 それと山賊討伐依頼への報酬ですが…。

 有益な情報とは、先程の水の都での大会の件なんです。

 皆さんにとって役立つものかは分かりませんが、何卒お許し下さい。

 そして馬車ですが…。

 既に外に用意させてあります。

 バニスターに促され、俺達は外に出る。


 そこには、逞しい馬と大きな馬車があった。


 すっごーーい!!

 これ貰っていいの!?

 広い!! 中、ちょー広いよ!!

 ふかふか!椅子ふかふか! (リナ) 


 見てください。

 お馬さん。とても綺麗で。

 毛並みがつやつやです。

 目も真っ黒で真ん丸です。

 素直そうなとてもいい子なんですね。(レイナ)


 本当に喜ぶ所まで対照的だ。

 なんで二人が仲良くやっていけるのか、少し疑問を感じてしまった。


 如何ですか?なかなかの物でしょう?

 バニスターが横に立ち満載気に話しかけてきた。


 いやいや。凄すぎだよ。

 いいのかよ?こんな立派なもん貰って?

 俺は馬車を見上げながらバニスターに尋ねた。


 もちろんです。

 こちらの都合で嘘の依頼を受けさせてしまった。

 その上さらに難題まで押し付けたんですよ。

 これくらいは当然の報酬です。

 それに水の大陸に行くには、この先の砂漠を越えて港街に行かなくてはいけません。

 道中馬車は必須です。

 是非とも役立てて下さい。

 バニスターはニッコリと笑ってこちらを見た。


 …。

 悔しい。

 イケメンな上に爽やかだ。

 けど…。

 あんた割りといい奴みたいだな。

 ありがとう。

 ありがたく使わせて貰うよ。

 

 俺はバニスターに向け手を差し出した。


 少しでもお役に立てたなら光栄です。

 バニスターも手を差し、がっちりと握手を交わした。


 …。もじもじ。

 俺はしばし手を握り続ける。

 あのぉ~。それでなんですけど~。

 俺は何故か緊張し、もじもじとした動きになっていた。

 

 ど、どうかされましたか?

 バニスターが俺の異変に気付き、若干警戒を強めている。


 いやいや。あの変なお願いじゃないんですけど。

 その…。連絡先を…。

 教えて欲しいな~。なんて…。


 俺はまるで好きな男の子に連絡先を聞く女子高生のようだった。

 好きな人に連絡先を聞くのってこんな気持ちなの?嫌だ!私ドキドキしちゃう!

 俺はそんなことを考えながら体をくねらせていた。

 遠くから感じる二人の視線が痛い…。


 ああ、端末の連絡先ですね。

 何を要求されるのかドキドキしてしまいました。

 (バニスター)

 

 バニスターもドキドキしたの!?

 いい友達になれる気がしてきたわ!

 

 こうして俺達は大クランと結び付きを得ることに成功した。

 

 次の目的地は水の大陸。

 水の帝だ。


 旅はまだまだ続いていく…。

 いつになったら終わるのか。

 まだまだ検討もつかないが、俺たちなら何とかなるだろう。

 そんな風に思えてきた…。







 

 



 



 















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