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MY LOVER  作者: RAN
3/3

後編

 家に着き、リビングに入ると、前を歩いていたシュウジがいきなり後ろを振り向き、私を抱きしめた。

 ギリギリと私は締めつけられる。

 私はただ黙ってされるがままになっていた。なんだか怖かったから。

「……………たん……ぞ」

 しばらくその状態が続いた後、シュウジのかすれた声が聞こえた。


「……え……?」

 よく聞き取れなくて、身動きが取れないかわりに、声で問う。


 「……心配、したんだぞ」


 シュウジの言葉は、大きな衝撃とともに、私に温かく響いた。

「家に帰ったらいるはずだと思った冬華がいないし、ケータイはつながらないし、何かあったんじゃないかって色々考えたりして……」

 シュウジはさらにきつく私を抱き締めた。

 存在を確かめるかのように、私の髪や背中をなでる。

 私は胸が熱くなっていった。

「ごめん……」

「……もう、何も言わないでどこにも行かないでくれ……働きになんて出ないでいいから、家で俺を出迎えてくれ」

 シュウジが少し離れて、私の目を覗き込む。顔に手を添えられ、視線を合わせられた。

 私は、誓いを求められている。


「……うん」


 その目に飲み込まれそうになりながら、私はゆっくりとうなずいた。

 シュウジはじわじわと嬉しさを顔で表した。溶けそうな笑顔がそこにあった。

「よし」

 シュウジのお許しがでて、私はホッと息をついた。が……

「ところでさ、トウカ。二人っきりなんて久しぶりじゃないか?」

 シュウジが少し体の方向を変えた。

 これは、私をどこかへ誘導しようとしている……。

「そ、そうね」

 なんだかこういう雰囲気はずいぶん前にあったような気がする。

 なんとなく感づいてはいたが、久しぶりだし急だったから、私は動揺した。

 と、そうしてる間にも修治に私は追いやられている。近くにあったソファーに。

「久しぶりだからさ、ねぇ……」

 ついに私はソファーにぶち当たり、少しよろけた隙にシュウジに押し倒されてしまった。

「シュ、シュウジ……」


――――――ピンポーン


 その時、玄関のチャイムが鳴った。

 一瞬私と修治は固まる。

「……シュウジ……誰か来たみたいだよ」

「……………無視しよう」

「待って待って待ってー!」

 さすがにこれには抵抗した。

 シュウジはあからさまに不服そうな顔をしていたが、私はシュウジから抜け出し、玄関へ向かった。



「こんばんは」

 玄関を開けたら、そこにはヤマダさんがいた。

「ヤマダさん、どうしたんですか?」

 私の声を聞いて、修治も出てきた。

「ヤマダか。どうしたんだ? せっかくいいところだったのに」

「シュウジ!」

 私のとがめる声にまたもシュウジは不満そうな顔をした。

 ヤマダさんは苦笑いを浮かべていた。何があったか察してしまったようだ。

 いくら気の知れたヤマダさんとはいえ、恥ずかしい。

「何だって、あんな騒ぎになって何だはないでしょう。明日は覚悟しといてくださいよ。……まぁ、それはそれとして、これお願いします」

 そう言って、ヤマダさんは一枚の紙を差し出した。

 シュウジがそれを黙って受け取り、広げて見て、目を大きく見開いて、ヤマダさんの顔を穴が開くほど見ていた。

「お前、コレ……」

 私は何かと、シュウジの持っている紙を覗いた。

 そして、私もシュウジと同じ反応をしてヤマダさんを見た。

 ヤマダさんは満面の笑みをその顔にたたえている。

 この笑顔は本当に曲者だと思う。

 ヤマダさんが持ってきたのは、婚姻届だった。

「これで、二人ともいい加減けじめつけてください」

 あぁ、なんだ、けじめってそういうことだったのか。

 私は知らず笑みがこぼれていた。

「さっさと書いてくださいね。私が出しに行きますから」

「……トウカ、いいか?」

「何言ってるのよ」

 私はシュウジの手を取って、その顔を見つめた。


「いいに決まってるじゃないの」

 私は嬉しすぎて、顔いっぱいに笑みを浮かべていた。

 シュウジも、口元を柔らかくほころばせた。私はますます嬉しくなった。



 これからきっと色々めんどうなことがあるんだろうけど、シュウジと一緒なら乗り越えていける。

 私は、先立つ不安より、新しいことが始まる期待感に胸が高鳴っていた。

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