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エレメンタルランド  作者: 闘松春崇
第一章「一人目の勇者」
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レクイエム


レースは二周目に突入する。

今のところ私が奴、「黒い騎士」の前に出たときは一度もない。


十個に連なるハードルを乗り越えた後、奴に異変がおこった。


「グギギギ……グオォォォォーー!!!」


奴は鼓膜が破れるほどの咆哮をあげる。

咆哮の振動により、奴と奴の馬の黒い鎧にヒビが入り始めた。


「なに……? なんなの……?」


訳がわからない。だが奴はどんどん減速していっている。これはチャンスだ。

第一コーナーに差し掛かった時、私は奴を抜いた。


「よしっ! やった!」


だが何故だろうか。素直に喜ぶことができない。この明らかに感じる異変。

これから何が起こるかわからない恐怖。

集中しないと心が押し潰されそうになる。


奴との差はどんどん開いていく。

ねじり曲がったコースを進み、第二コーナーへと差し掛かる。


「このまま行けば……勝てる!」


希望がどんどん見えてくる。

だがそんな希望も次の瞬間、絶望へと変わった。


「ガギギギ、ガギャァァァァーー!」


再び奴の咆哮がこのフィールドへ迸る。


何が起こったのだろう。

だが、先ほどまでと空気が全く違う。


馬の足音がする。私の馬ではない。

その音はどんどん大きくなっていく。

私の本能が訴える。逃げろと。


「後ろを見ては……ダメ!」


現状はどうなっている。

奴に今、何が起こっている。

だが一つだけわかることがある。

奴は私のすぐ後ろにいると。


そして坂をかけ降り、再び縦回転コースへと突き進む。


馬が震え始める。

ああ、あのときムチで何回も叩いてしまったからだ……。


「さっきはごめんね…。もう叩かないから…。

今度は二人で乗り越えよ! 頑張ろ!」


馬の首を撫でながらそう言った。

馬が落ち着き始める。だが私は落ち着けない。背後からの威圧が私の心を押し潰す。


馬の尻を手で優しく叩く。

馬が走る速度を上げる。


空がどんどん近づいてくる。

それとともにGが凄まじくかかる。

さらにプレッシャーがかかる。

上手く呼吸ができない。苦しい。


天と地が逆転する。

その瞬間、背後から熱風とともに奴の気配が消え失せた。


「うっ……」


奴に抜かされた。

熱風が肌を熱くする。目をこすり前見る。

ずっと気になっていた奴のことが明らかになった。


奴と奴の馬の鎧は紅蓮に染まっており、鬼のような覇気を放っている。

鎧の一部が剥がれ落ち、身軽になりスピードが上がっているようだ。


奴のことを見ているうちに、景色が元通りになる。

心臓破りの坂が立ちふさがる。

だが奴は減速していない。

むしろ加速している。


「奴との差をつけないで! 速く!」


私達もスピードを上げる。

必死に奴に食らい付く。


第三コーナーに差し掛かり、コースがひねり始める。

ぐるぐる回る景色など見向きもせず、私は奴だけを見る。


奴の背後まで追い付く。すると奴が背後を伺う。

余裕なのだろうか……?

奴の仮面はまさに鬼のようだ。

威嚇されているように感じる。

私は睨む。とにかく睨む。

奴は前を向いた。


今まで奴を見てきてわかったことがある。

それは奴のコーナーワークに馬が入り込めそうな隙間があることだ。

この走り方はパパに似ている。

ずっとその走りを見てきた。


「勝負はまだついていない。次が最後のチャンス……」


第四コーナーに全てをかける。


「まだ……やれるよね?」


馬に語りかける。


「ブルルル!」


いい返事だ。

心が通いあっている。これならいける!


運命の第四コーナーに差し掛かる。

奴のコーナーワークには隙間がある。


「今よ!」


馬が壁ギリギリへと走り込む。

そして加速する。

私はコーナーワークには自信がある。

体をおもいっきり傾ける。

頭が壁にぶつかりそうになるぐらいまで。


そしてついに奴と並ぶ。


「グオォォォォ……」


奴が威嚇する。そんなものには屈しない!

第四コーナーが終わりを迎える。

奴を前に出させない!


コーナーが終わるとともに奴の前に出る。

直角のコースを落ちるように進む。


奴が私の前に出ようとしてくる。

させない。奴が前に出ないよう

ルートをふさぎこむように被せる。


「飛んで!」


馬が天高く飛び上がる。無重力へと突入する。

奴の馬はそのまま地面へと激突し、無重力へと突入した。


地上へと飛び降りる。ゴールはもう目の前だ。


その時、背後で奴の馬が悲鳴を上げた。

そのままコースの壁へと衝突し、倒れこんだ。


私は突き進み、見事ゴールへとたどり着いた。


その後奴のところへと行く。

奴の馬は脚が折れ曲がっており、動けない状態へと陥っていた。


パパが昔、教えてくれたことを思い出す。




「しずく、お馬さんはな、脚が折れると走れなくなって死んじゃうんだよ」


「えっ?どうして!?可哀想!」


「お馬さんは四本の脚で自分の体を一生懸命支えているんだよ。

だから一本でも折れてしまうともう生きれないんだ」


「そう……なんだ……」


「だからお馬さんの脚は大事にするんだぞ。

決して、お馬さんに危険な走りをさせてやらないないようにするんだぞ。」




私は涙が込み上げてくる。

もう、この子は走られない。

死んじゃうんだ。


すると、その馬と騎士が淡い光に包まれた。


「しずく……」


優しい声が聞こえる。聞き慣れた声。

落ち着く声。この声は……パパだ。


「しずく……!」


騎士の鎧が完全に壊れる。


「パ、パパ……!」


騎士の正体は私のお父さんだった。


「パ、パパァァァーーー!」


私はパパに抱きつく。暖かい。

安心したせいか、更に涙がこぼれ落ちる。


「しずく、辛い思いをさせてすまない……。

そして私を救ってくれてありがとう。」


「……………………」


涙で言葉が出ない。


「私はあの日の地震で命を落とした。死んでも死にきれず、私はこの地に居続けた。その後、この国は変わってしまった。

私の魂は奴らに囚われてしまった。

その後は辛かったよ。これでやっと天へ帰れる。ありがとう。しずく」


そう言い残すとパパと馬は眩い光に包まれて消えてしまった。


「待って! パパ!」


言葉が出たときはもう遅かった。

聞きたいことが山のようにでてくる。

パパを苦しめていた「奴ら」とは? 私の中にたくさんの疑問が残る。


気がつくと妖精があわただしくパパがいたところを飛んでいた。

何かが落ちている。


「これは……もしかして……宝玉!?」


怪しく、きらびやかに紫色に光る宝玉。

アメシストのような輝きを見せる。


「綺麗……」


思わず言葉がこぼれ落ちた。

心が奪われそうになる。


「ありがとうパパ。私、頑張るから……。

また、一緒に走ろうね」


悲しみが込み上げてくる。

私は上を、前を向く。もう泣かない。

平穏な日常を取り戻すその日まで。

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