5.精霊と契約
あらすじ。
俺たちの頭上に『ギルドへの招待! SSギルド『黒猫の茶会』から斉木陽太様に招待が送られました! ギルドホームへ向かいますか?』と書かれた白ボードが浮いてる。おしまい。
向かいますか、と問われても、コントローラなんてもんがない俺たちはイエスノーを返答出来る訳がない。
どうするんだこれ、と視線で河合に問いかけてみるが、肝心の河合は呆然自失。まるで時間が止まったように固まって白ボードに釘付けだ。
これはいかんと思い、俺は近くにいたナリアを一匹両手で捕まえて持ち上げる。がっしりと掴んで持ち上げてみるが、俺のライフゲージは減らない。
こいつの攻撃判定は『体当たり』らしく、ただの接触では体力は減らないようだ。ぷきーぷきーと鳴くナリアを俺はゆっくりと河合の頬に近づけて、そして着弾。
「うひゃああああああああ!? な、何するんですか!? ナリアを捨てて下さい!」
「魂がどこかに飛んでそうだったからショック療法を。正気に戻ったか、よかったよかった」
河合の無事に安堵し、俺はナリアをゴールキーパーのキックの如く蹴り上げて大空の彼方へ吹っ飛ばした。
事を済まして手を払いながら、河合にギルドの招待のことを改めて訊ねかけた。
「で、どうするんだ? これ、どうやって返事すればいいと思う?」
「いやいやいやっ、そんなあっさり言うことじゃないです! SSですよ!? SS級ギルドなんですよ!?」
「俺は優秀だから当然のオファーだろう。艱難辛苦を乗り越え、ペーパーテストで満点を叩きだした俺に神が与えた結果だと思え」
「ううう……伝わらない、SS級ギルドに誘われることがどれだけ凄いことなのか、斉木君に全然伝わりません……」
「当たり前だろ。俺はこのゲームプレイしてねえんだから。例えば俺がお前にマリモレーシングでレインビールードを二分半切れるっつって力込めて語っても、その凄さが分かんねえだろ?」
「全然分かりません……ううう、私だってBランクギルドなのに……」
しゅんとして納得した河合。意外と素直な奴ではある。めんどくさい系女子ではあるがこういうところは感心。
さて、河合が落ち着いたところで問題に戻らねば。どうやったらこの誘いに返事ができるかだ。
メッセージボードが出てはいるものの、イエス・ノーの選択の選び方なんて分かる訳もねえ。どうしたもんかなあ……方法の思いつかない俺は、とりあえずメッセージボードを殴ってみた。腕がボードをすり抜けたと思った刹那、新たなメッセージボードが。
『SSギルド『黒猫の茶会』からの招待を断りました!』
「あ」
「あああああああっ!? な、な、な、なんてことしてるんですか!?」
「し、知らねえよ!? 不可抗力だよ!」
なぜかノーが選択されてしまっていたらしく、メッセージボードは消えてしまった。やべえ、やっちまったらしい。
俺以上に慌てるのは河合だった。涙目で声を震わせて動揺してる。こいつ、さっきから変だぞ。SSランクのギルドってそんなやべえのかよ。
河合のことだ、このままじゃめんどくさい系女子の本領を発揮してネチネチネチネチと延々俺に絡んでくることは間違いない。
何とか回避しなければと必死に頭を働かせる俺だが、俺が行動するよりも早く再び白ボードが現れた。
『ギルドへの招待! SSギルド『黒猫の茶会』から斉木陽太様に招待が送られました! ギルドホームへ向かいますか?』
「お? また出たぞ?」
「よ、よかった……どうやらあちらがもう一度誘いを出してくれたみたいです」
「そういうことか。なかなか気の利く奴じゃねえか。つまり、もう一度くらい失敗してもまた誘いを飛ばしてくれるってことだろ」
「失敗する前提で話を進めないでくださいっ!」
ふかーっと怒った猫のように威嚇する河合。おお、怖い怖い。
チェシャ猫を怒らせないよう心がけつつ、俺は再び頭上のメッセージボードに視線を送る。さっきは右下を殴ったらノーになったわけだ。なら答えは簡単じゃねえか。右が駄目なら左を叩けばいい。
左拳でガツンとメッセージボードを叩くと、新たに出てくる次のメッセージ。
『SSギルド『黒猫の茶会』からの招待を承諾しました! ギルドホームへと案内します!』
その文章が出た刹那、俺と河合の体は光に包まれた。
眩い光が収まると、そこは見知らぬ誰かの家の中。
正直言おう。汚え。部屋が掃除されてない類の清潔感的汚さではなく、物が整理されておらず適当に投げ出された汚さと言えば分かるだろうか。
光り輝く鎧だの剣だの杖だのがその辺に乱雑に置かれ、本は山積み状態。薬瓶なんか下手すりゃ棚から落ちて一気に割れかねないほどだ。
家に地震がきたら間違いなく壊滅的な打撃をうけるだろうな、そんな室内だ。
その家の中を見渡していると、奥の部屋からひょっこり現れた黒髪の女。ゆったりとしたローブ風の衣装に身を纏い、頭には銀の冠。身長はやや河合より高いくらいか。顔はまあ可愛いな。可愛いというより綺麗系の類か。まあ、ゲームだしな。キャラなんて幾らでも可愛くできるしな。ただ、こいつ、どっかで見たような?
俺たちの登場に黒髪の女――頭の上にプリエラと書かれた女は人懐こそうな笑みを浮かべて俺たちに声をかけてきた。
『やあやあ、こんにちは。ギルドの招待に応じてくれてありがとねー』
「おう、来てやったぞ。まずは茶から出して貰おうか」
「な、なんで上から目線で要求してるの!? すみませんすみません本当にすみません」
『あはは、イインダヨー。といっても、お茶を出すシステムなんてないから出来ないんだけどね。まあ適当に座ってよ』
どうぞどうぞと促され、俺と河合は用意されていたソファーに腰をかける。おお、良い感じにふわっふわだ。
となりで何故かガチガチに緊張している河合。ほんとこいつどうしちまったんだ。SSランクだからってビビり過ぎだろ。
例えばこいつがSSランクだからって俺より偉い訳じゃねえ。教師な訳でも上司な訳でも親でも警察でも裁判長でもねえ。強きで出ればいいんだよ。
踏ん反り返る俺に、ニコニコと笑いながら向かいあうように座って語り始める黒髪の女。
『いやー、最近のゲームは凄いよね。こうやって椅子を設置したら座るようにモーションできるんだからねっ』
「座るくらいで感心されてもな。俺ならソファーの上で三点倒立を成功させることだってできるぜ」
『あっはっは! 相変わらず面白い発言する男の子だね、斉木陽太君は。桜峰学園でも普段そんな感じなのかな?』
「ああ? 何言ってんだお前、桜学でも俺は品行方正成績優秀女子の黄色い声援の的として……ちょっと待て、お前、なんで俺が桜峰学園の生徒だって知ってやがる?」
俺のプライバシー情報を提示してきた女に、俺は警戒を引きあげた。
そんな俺の反応にも、女はいししと楽しげに笑うだけ。こいつ、まさか俺たちと同じ桜峰学園の人間でゲーム世界に閉じ込められた奴か?
その考えを俺は即座に自分自身で否定する。もし、同じ立場の人間なら会話中にメッセージボードがでないはずだ。俺と河合のように、声だけの会話になるはずだからそれはありえねえ。
じゃあどうして。そこまで疑問を浮かべる俺に、黒髪の女は相変わらず読めねえ笑顔を浮かべながら語り始めた。
『順番に話そうか。まず、君のことを知ったのが昨日の夜。『メアサガ』の世界にインしてすぐ、チュトリの街のど真ん中で他のプレイヤーと口論してる君を見つけたんだよね』
「見てたのかよ……忘れろ、くそ」
あのときの俺は動揺し過ぎて本気でどうにかしてた。忘れたい過去だ。
『プレイヤー同士がパーティーチャット以外で口論なんてなかなか見れるもんじゃないから、野次馬根性で見に行ったんだ。そうしたら、君の格好に目がいった。君の着ていたジャージ、あれは私の母校である川岸東中の体操服だったんだから目を奪われない訳がないよね。君のステータスも色々おかしかった。本名のような名前を登録しているし、何より職業が高校生になってた。そんな職業存在しないからびっくりしたよ』
「なるほど……思いだした。お前、俺のジャージを一万リリルで買った人間女だな」
『正解。正確には人間じゃないんだけどね。夜の精霊って種族なんだけど」
「夜の精霊!? うそ、レベル百を超えないと転生でなれない後天的種族のことじゃないですか!?」
『うん、それ。私は人間じゃなくて精霊なんだよね。やは、勿論リアルでは人間なんだけどっ』
「言われんでも分かるわ。リアルで猫がプレイしてますとか言われてもリアクションに困るしよ。問題はお前の中身が本当に女かどうかだ。てめえ、ネカマって奴か」
「何でいちいち喧嘩腰なんですか!?」
「こいつは俺の個人情報を握っている、いわば俺に対してイニチアシブを握ってんだよ。対して俺はこいつの個人情報を何一つ知らねえ。これじゃ俺はこいつに弱みを握られたままになっちまう。いいか河合、話し合いってもんは弱みを見せたら負けだ。空手でも如何にも武器を持っているように見せかけて強気で出ねえと駄目なんだよ。なんでもそうだ、世の中舐められたら負けだ」
「斉木君ギルドに入るために来てるんですよね!? ギルドマスター相手に喧嘩を売ってどうするんですか!?」
『やははっ! 本当に面白い男の子だね、君は。でも、君の言うことも一理ある。私だけ二年B組の斉木陽太君の個人情報を握っているのもね――お教えしよう、私の名はプリエラ改め相坂智子! 桜峰学園三年A組現役女子高生、智子ちゃんです!』
「うわあ……」
自己紹介を始めたプリエラ改め相坂先輩に俺は心からドン引きする。
河合といい、相坂先輩といい、なんでこのネトゲしてる女子は色々と残念な人間しかいねえんだ。現役女子高生って、うわあ……言うか、普通。
ドン引きしてる俺の反応をものともせず、相坂先輩は笑いながら話を続けた。
『私の正体を明かしたことで話がスムーズになると思うんだ。君の名前を見たとき、ピーンときたんだよ。斉木陽太君ってよく妹から噂を聞いてる同じクラスの男子と同じ名前だなって。私や妹と同じ中学校のジャージといい、もしかして本物なんじゃないかって思ったんだね』
「へえ、妹ねえ……待て。相坂、妹? ま、まさかお前、あの相坂美穂のお姉様なのか!?」
『そうでーす。美穂は私の一つ違いの妹なのでしたー。美穂から斉木君の噂はいろいろ聞いてたから、街で滅茶苦茶な口論してる姿を見てきゅぴーんって!』
「そんなことはどうでもいい! あ、相坂さんは俺のこと、そのどんな風に言ってましたかお義姉様っ」
「何で一気にステップアップして義姉扱いしてるんですか!?」
『それはひーみーつー。とりあえず訊かない方がいいかなっ! 美穂は私と違って普通の男の子がタイプだからーごめんねなのっ! 私は斉木君みたいな話の面白い子はいいなって思うよ!』
「あ、終わった。なんか軽く人生終わった気がした」
相坂先輩の発言からして、どう考えても俺のことを好感持ってるとは思えねえ。くそ、分かってたけどよ、現実ってせちがれえよ。今ならゲームの世界に引き篭もる連中の気持ちが少しわかる気がしたよ、くそったれ。
絶望の波動を全身から放つ俺に代わり、河合がバトンタッチして相坂先輩と会話を続けた。
「あの、私も実は斉木君と同じクラスメイトなんです。本当の名前は河合玲夢と言いまして……」
『おおー、玲夢ちゃんね。君のことも美穂から聞いてるよん! 一番クラスで可愛いってべた褒めだよ!』
「そ、そんなことないです……」
「お世辞だからな。持ち上げてるだけだからな」
「一言余計ですっ!」
『仲が良いね! それで、玲夢ちゃんはゲームキャラっぽいから気付かなかったけど、斉木君は明らかに不自然だったからね! 君からジャージは購入して、装備の説明欄みると『桜峰学園2年B組斉木陽太愛用のジャージ』って書いてた訳だ。こりゃ何かあるぞと思って、今日学校でこっそり君のクラスに行ってみたら、君は意識不明で緊急入院してるって噂でもちきりだったんだ! そのときは気にしてなかったけど、玲夢ちゃんも同じ症状で病院に搬送されてるみたいだよ!』
「ぬああああああああ! 完全に病院送りコースじゃねえか!?」
「ああああ……や、やっぱり……」
『でもでもおかしいんだよね! 君たちは入院してるって話なのに、私は昨日から斉木君の姿をゲームで確認してる。一度気になると止められない性格だからさー、今日は学校を早退してすぐゲームにログインして君たちを探してたって訳だ! そうしたら、ギルドの新人情報のところに君のことが載ってたんだよ! 早速こうして招待を送ったって訳!』
「おい、今さりげなく学校さぼったって宣言したぞ。大丈夫なのかこの先輩」
「ど、どうなのかな……」
『自慢じゃないけど学業は赤点だらけだよ! 去年は先生の温情で進級できたくらいにやばいかな!』
「おい、この先輩アホだぞ。それだけやばいの分かってるのに堂々と学校さぼってるぞ」
「ううん……」
曖昧に言葉を濁す河合。ちっ、良い子ちゃんめ。
俺からアホアホ言われても先輩は微塵も気にすることなくおおらかに笑って話を続けた。
『そんなわけで、君たちをギルドに呼んだのは話を是非とも聞かせてほしかったから! 入院している筈の君たちが不思議なキャラクターとして『メアサガ』の世界にログインしている……君たちに何が起きてるのか、私に教えてほしいんだ!』
「説明してもいいが、絶対に先輩信じねえぞ。俺たちだって自分の身に起きてることが未だ現実だって認めたくねえくらいなんだからよ」
『大丈夫! 私は人を信じることに関しては自信がある方なんだよ! 三日前もあやうく三十万のツボを信じて買っちゃうところだったくらいだよ!』
「それ全然大丈夫じゃないですよね!?」
河合の突っ込みに同意しつつも、他に頼れる相手もいない俺たちは相坂先輩に事情を話した。
気付けばゲームの世界にいたこと、昨日から今日までの行動。その全てを赤裸々に語り、全てを神妙に聞いていた相坂先輩はやがて目を輝かせて興奮気味に語った。
『凄い! 実に凄くて素晴らしい経験だよ! ゲームの世界に入れるだなんて、君たちは最高にラッキーだよ!』
「微塵もラッキーじゃねえよ!? 河合といい、このゲームのプレイヤーはこんなアホ思考な人間しかいねえのかよ!?」
「い、一緒にしないでください! 少なくとも私は帰りたいと思っています!」
『いいな、いいな。私もゲームの世界に入りたいよ、方法知りたいよ。二人だけ幸せな経験をするなんてずるいよっ!』
「下らんことを責める前に俺たちが一秒でも早く現実世界に帰るための方法を考えてくれねえかな」
『ええ、帰るの……? 折角だから私がそっちにいけるようになるまでエンジョイしてみようよお』
「いい加減ぶっ飛ばすぞお前!? ゲームの世界で延々とちんたらしてたら留年決まっちまうじゃねえか! 俺は! 一秒でも早く! 帰りてえんだよ!」
「すいません、相坂先輩、私たち本当に余裕無くて……とにかく帰りたいです、なんとか協力お願いできませんか」
『もちろんいいよー。困ってる後輩の頼みだもん、おねーさんに任せなさいっ』
気軽に了承をくれた相坂先輩だが……畜生、心の底から頼りにならねえ。大丈夫かこいつ。
河合の話じゃSSギルドマスターとか言う凄え奴らしいんだが、微塵も凄いと思えねえ……ぽわぽわしてて、将来絶対変な男を掴んで騙されるタイプだ。性格がくそみてえで乱暴で横柄で傲慢で自分が最高だと思ってるような馬鹿な男を『でも面白くて本当は良い人だよ』とか言ってフォローして知らず知らずの内に苦労するタイプだな。そんな最低な男が現実にいるのかは疑問だが、そんな男を連れてきても俺は納得するね。ああ、騙されたな、って。
けれど、今の俺たちはまさしく藁をも掴むレッド・ラムだ。この先輩を上手く利用……もとい協力してもらわなければならない。
頭を下げる河合と踏ん反り返る俺。頭は下げねえ、それが俺の意地だ。そんな俺たちに相坂先輩は『そうだねー』と考えながら言葉を続けた。
『とりあえず予定通り、斉木君は私のギルド所属として登録しておくね。河合さんは既に入ってるから無理だけど』
「頼むわ。これで俺も『黒猫応援団』の一員か。他のメンバーとかどうなってんだ? 筋を通す為にも挨拶しとかねえとな」
『『黒猫の茶会』だよーう。他のメンバーはいませーん! 私一人だけのぼっちギルドだからね。斉木君が記念すべき二人目となります!』
「え、えええええ!? 一人で、たった一人でギルドをSSランクまで昇りつめたんですか!? ど、どうやって!?」
『ボス倒したり知らないダンジョン適当に潜ってレアアイテム手に入れたりしてたら、気付いたらこうなってたかにゃあ。ほら、私って廃人プレイヤーだし』
「自分で認めるあたり潔いよな。河合にはこういう精神が足りねえ。私一般人ですみたいに気取りやがって、先輩みたいに早く廃人宣言しろよ廃人ゲーマー」
「私は廃人じゃありませんっ! 嗜む程度だったら嗜む程度なんです! ちょっとゲームが好きなだけの普通の女の子なんです!」
どうしてもそこは譲れないらしい。女心はよく分からん、相坂先輩みたいに明け透けになりゃ楽になれるだろうに。
そして俺は先輩に促されるままに、ギルド入会の手続きなるものを行う。と言っても書類を書いたりといった手順がある訳じゃない。
いつものようにホワイトボードが表示され、ギルドに入会するかどうかの確認が行われたのだが、そこで問題が発生した。
ギルドに入会するための規約、それが無茶苦茶だったのだ。長々とホワイトボードに書かれていた内容を要約するとこうだ。
・ギルドメンバーはギルド長にリリルの全てを預けなければならない。メンバーがリリルを必要とするとき、ギルド長の判断によって必要分を渡す。
・ギルドメンバーの手に入れたアイテムは全てギルド長に一週間以内に提出しなければならない。道具の分配はギルド長が判断する。
・ギルドメンバーはギルド長の許可なく他のプレイヤーとパーティを組んではならない。事前報告を必ず行い許可を得ること。
・ギルドメンバーは一日最低十時間ログインを行える環境でなければならない。仕事や学校よりもゲームを優先すること。
「何じゃこの無茶苦茶な契約は!? ブラックギルドなんてレベルじゃねえぞ!?」
ブラック企業も真っ青の奴隷契約に俺は思わず叫んでしまう。当たり前だ、ゲームに疎い俺ですらこの酷さは理解出来る。
河合なんか絶句しちまってる。声にこそ出さないが『うわあ』って感じでドン引きじゃねえか。
そんな俺たちに先輩は相変わらず楽しそうに笑いながら、その理由を語ってくれた。
『いやー、私一人でSSランクまでギルドを成長させたんだけど、ギルドに入れてくれってフレンドが多かったんだよ。なかには悪質な人もいてさー、それで私、むかちーんってきちゃって、勢い余ってギルドに入る条件をそれで固定しちゃったんだよね。その条件なら入りたいなんて考える人もいなくなるかなーって。その作戦は見事に成功して、今は入りたいなんて言う人ゼロだよ!』
「俺だって辞退するわ! こんなクソ条件飲めるか!」
『あはは、だよねー! まあこれはあくまで人避けのための形だけの条件だって思ってくれて構わないよ! 斉木君からリリルを回収しないし、アイテムだって好きにしていいし。そもそも私、手遅れなレベルの廃人だから初心者からアイテム巻き上げても意味ないし!』
「す、清々しく廃人宣言してくれるじゃねえか……いいか、河合、これが気持ちのいい女ってもんだ。お前もめんどくさい系を追及してないで、こういう真っ直ぐさを育てた方がいい」
「だからめんどくさい系って言わないでください!」
『本当に二人は仲良しなんだねっ!』
先輩の笑い声を横に、俺は提示されたメッセージボードの左隅を拳で殴ってイエスを選んだ。
夜の精霊とかいう河合もびっくりの超絶廃人との契約締結だ。相坂があれだけ綺麗なんだから、先輩もさぞや美少女なんだろうに、ここまで残念なのは……溜息しか出ねえ。ここは残念系美少女のバーゲンセールかよ。
こうして俺は相坂先輩のSSランクギルド『黒猫の茶会』に所属することとなったのだった。
神の石が淡く光り輝きました。
属性『精霊と契約』を石に記録します。
(´>∀<)人(´・ω・)ノ
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