16.ハッピーエンド
カマホモをボッコボコにしようとしたけど、河合たちに必死に止められた。まる。
俺が激おこりんりん丸状態の中、カマホモは悠然とコーヒーを飲んでやがる。わあ、死ねばいいのに。
しかし、内容が内容だけに流石に温厚な俺も許せるはずがねえ。怒りゲージマックスの怒声で俺はカマホモに咆哮する。
「どんな深い理由があるかと思えば、中坊が授業中に妄想するような話しやがって! 何が異世界救っただ、異世界滅ぼしただ神の力だおらぁ! テメエなんて神様じゃねえ、ただのカマ様じゃねえか! 神を名乗るなら俺たちを元の世界に戻して相坂の純潔復活させやがれボケェ! むしろ俺と相坂が結ばれる新世界のカマ様になりやがれ!」
「落ち着いて下さい斉木君! 最後の方、混乱し過ぎて訳わかんなくなってます!」
「落ち着いてられるか! なんだそのふざけた内容! 俺がゲームの世界に閉じ込められた理由、河合のついでじゃねえか!? 河合のネットの書き込みの願いごと叶えたら、俺までついてきましたって、俺はキャラメルのおまけの玩具か何かか!?」
「斉木君! むしろ斉木君はキャラメルの方だと思うな! 玩具のおまけがキャラメルだよ!」
「そんな突っ込みは期待してねえええええええええええんだよ! だいたい何で河合のついでに俺を拉致なんだよ!? 河合と俺、クラスメイトってところ以外、全然接点ねえじゃねえか!?」
「それは河合さんの願いが『ドキドキするような冒険』を望んでいたからだね。彼女にとってドキドキする冒険、それが君と一緒に冒険することだったんだね。教室の中ではしゃぎまわる君をいつも視線で追い続けた……」
「わー! わー! わー!」
カマホモの言葉を必死に騒いで遮ろうとする河合。なんだこいつ、カマホモのねっとりした視線の盾になってくれてんのか。本当に良い奴だわ河合って。最近河合のこと褒めてばっかだ。
しかし、今は河合の良い女具合を褒めている場合ではない。俺の怒りはマックスハート、カマホモを糾弾しないことには収まらない。
「とにかく、そんな理由で俺がゲーム世界に閉じ込められていることを納得すると思ってんのか!? 滅びたいなら一人で滅び去りやがれ、人を巻き込むんじゃねえ! お前が一人で成仏したら俺だってお悔やみの言葉の一つくらい言ったるわ!」
「仕方ない。僕はそれが許されるだけの力が在るのだから。自分の望みを、願いを通すだけの力があり、君たちには逆らうだけの力がない。力ある者が自由に生きることができ、弱者は利用されるしかない、それがこの世界じゃないのかい?」
「あー、きましたわこれ。いるよねー、法律とか決まりを『所詮は人間の作った勝手なルール』とか言って見下そうとする奴ー。感じちゃうわー、暗黒のオーラ感じちゃうわー、十四の夜だわー。だいたい今はそんな話をしてねえんだよタコ! お前の『世界ってつまんねえわー生きてる意味を見失うわー、あー消えようかなー、ちらっちらっ』に俺たちを巻き込むんじゃねえ! さっさと俺たちを元の世界に帰しやがれ!」
「嫌だと言ったら?」
「そのラノベヒロインみたいな顔面を鉄拳で強制整形してやるわ。死ぬかデスか、二つに一つだ、選べ」
「どっちも死ぬじゃないですか!? ああもう、暴力は駄目です! 話し合いましょう!」
俺に抱きついて必死に押さえながら、対話の道を模索する河合。あ? 抱きついてる? あれ、背中のこの感触ってもしかしなくてもアレか?
瞬間、俺は意識をカマホモから河合、もとい河合の柔らかいあれに集中する。カマホモなんかどうでもよくなった。俺にとって大事なのは、今、目の前にある幸せだ。
俺が押し黙ったことで、静けさが室内に満ちる。背中に神経を集中させる俺に、カマホモはコーヒーを机に置き直して、柔らかな笑顔で語り続ける。いや、もうお前の話どうでもいいわ。
「僕の都合で君たちを振り回していること、少しだけ心苦しくも思っていはいるんだよ。たった一日だけど、君たちと接して久々に人間の温かさを知った。もし、僕がこうなる前に君たちと出会えていたらと思ってしまう。君たちと過ごした時間はそれくらい楽しい時間だった」
「おう、俺は今、現在進行形で人間の温もりを感じているぞ。河合、力弱えよ。もっと強く締め付けろよ、頑張れよマジで」
「いや、斉木君の言葉の意味が全然分からないんですけど……でも、愛理さん、それなら私たちと無理に戦ったり、ましてや滅びを望んだりする必要なんて」
「……疲れたのさ。生きることに、力を持て余すことに。人の生涯とは困難を乗り越え、その先に在る何かを掴み取った達成感、充足感を得ることの繰り返しだ。だけど、僕にはその感動もなければ道を歩く術もない。僕にとってスタートとゴールは同じなんだ。僕の生は終わりなき休息を繰り返しているのと同義、毎日をベッドの上で寝て過ごしているのと何ら変わらないのさ」
「お前、その台詞を路上でスピーカー持って叫んでみろよ。休日取れねえリーマン連中に軽くリンチされるぞマジで」
「だからこそ、僕は終わりを迎えたい。それもただの終わりじゃない、僕という存在の生涯に意味があったと世界に刻みつけるために――この物語を、最高の主人公である君の手で終わらせてほしいんだ、斉木陽太君」
「そうか! 分かった! よし! 死ねぇ!」
「あああっ! なりぽーんっ!」
結城の抱きしめていたナリアを鷲掴みにし、カマホモの顔面へ強襲シュート。
けど、ナリアが派手に吹っ飛んだだけで、カマホモは微塵もダメージなんて受けてねえ。ちっ、やっぱりか。レベル3000万とか世界を滅ぼしたとか、ハッタリじゃねえってことかよ。
悠然と微笑みながら、カマホモは軽く息をついて言葉を紡ぐ。
「言った筈だよ、僕のレベルは3000万だって。どんな攻撃でも、僕には1しかダメージを与えられないんだ。これは『メアサガ』のゲームシステムを流用しているだけマシな方だ。現実世界の僕だったら、その1すらダメージを通せないんだから」
「『メアサガ』のシステム上、どれだけ攻撃力と防御力が乖離していても、必ず1はダメージが通るんですよ、斉木君」
「いや、心底どうでもいいわ。つーか馬鹿だろお前。そんなお前をどうやって俺が倒すんだよ。恐竜と蟻の戦いじゃねえか」
「この絶望を覆してこそ主人公だとは思わないかい? 君ならできると僕は思っているんだけれどね」
「ないわ。つーかお前、あれだもん。『負けたいわー、敗北を知りたいわー』とか言いながら負ける気ゼロだもん。お前あれだろ? 負けたい消えたい言いながら、本当はそんなつもり微塵もないだろ?」
「そんなことは……」
あ、ちょっと言葉に詰まりやがった。どうやら自分でも少し矛盾してるかと感じていたらしい。
ふん、馬鹿め。口論の最中に隙を見せやがった。僅かばかりの、針の穴ほどの隙だが、それを見逃すほど俺はお人好しじゃねえ。ごりごり攻めたるわ。
「いいや、そんなことはあるね。お前がやってることは小学生がラジコンで遊んでる中に大人がフォーミュラカーで勝負してるようなもんじゃねえか。小学生のラジコンをフォーミュラカーで踏みつぶして『あー、負けたいわー』とか言ってんのと同じだぞ。え、何それ、恥ずかしくないの? 俺だったら無理だなー、ちょっとそれでドヤ顔するのは人としてないわー」
「むむむ……」
「何がむむむだ。結局お前がやってるのってそういうことなんだよ。歩一個で将棋が勝てると思ってんのかよ。お前は敗北を望みながら、相手に最低条件すら満たしてやろうとしてねえんだよ」
「ならば僕はどうすればいい? どうすれば心を満たすことができるというんだい?」
きた。とうとう奴からこの言葉を引きだした。
俺は待っていたとばかりに、カマホモにニヤリと笑ってその条件を口にした。
「そこで俺はお前に二つ提案したい。まず、俺たちのレベルをお前と同じ3000万まで引き上げろ」
「なんだって?」
「圧倒的なステータスの差があるから、お前の戦いは嘘っぱちになんだよ。心充足する最後を飾りたいなら、お前の認めた俺たちの強さが30程度じゃ話にならねえ。同じ3000万パワーズになってこそ、戦いになるってもんだ。お前はカマ様なんだろ? できないとは言わせねえ」
「斉木君、カマ様じゃなくて神様じゃ……」
「例え俺たちが3000万になったところで、お前には異世界とか現実世界の軍隊とかで戦った経験がある。一方俺たちは戦いのたの字も知らねえ初心者だ。そもそもお前にはカマパワーがあるんだ。四対一でも問題ねえレベルだろうが」
「そうだね……いいだろう。君たちも僕と同じレベル3000万まで引き上げさせてもらうよ」
カマホモは俺たちに手をかざし、虹色の光を解き放つ。
瞬間、俺たちの体が黄金の光に包まれた。おおおお、何だこれ!? 体がやべえ! マジかよ、今なら素手でビル破壊できそうだわ。
「わ、わ、わ! 凄いです! 力が、力が溢れてきますっ!」
「あわわわわっ! 体が軽い、軽いよっ!」
「ふわあっ! これが、レベル3000万なの!?」
『ぷきゅー!』
河合たちだけじゃなくてナリアまで輝いてた。レベル3000万のナリアって、それもうナリアじゃねえだろ。
驚く俺たちに、カマホモは優しく笑って説明を行う。
「私生活に影響が出ないように、君たちの力が発揮されるのは戦いの時だけに限定させてもらったよ。それと、レベルが上がったことで獲得した新呪文、新スキルも詠唱不要にさせてもらった。使いたいと思うだけで魔法もスキルも発動するようにした。いちいち詠唱を暗記する必要もないからね。あとはそうだね、君たちの職業を全て最上級職へと変更させてもらったよ。職業と使える呪文、スキル一覧は後で紙にまとめて渡させてもらうよ」
す、すげえ、マジでいたせりつくせりじゃねえか。自分で提案しておいてなんだが、ここまで呑んでくれるとは。
本当、良い奴だよなカマホモって。女だったら惚れてたかもしれねえ。普通の男だったら親友になれてたかもしれねえ。それくらい良い奴なのに、なんでカマホモなんだよ……世界って残酷だわ。
しかし、最上級職か。俺の職業、確か『学生』なんだよな。これの最上級職って何だよ、そもそもスキルって何が追加されたんだ。やべえ、すげえ気になる。俺はカマホモにその疑問をぶつけた。
「なあ、俺の最上級職って何だ? 『学生』から何に変わったんだ?」
「斉木君は何も変わらないよ。そもそも君はゲームのキャラを媒体とせずにこのゲームの世界に来てしまったイレギュラーだからね。ゲーム上の職業の定義が存在しないんだ」
「マジかよ……じゃあ新しいスキルとか魔法とか」
「もちろん覚えないよ」
絶望した。俺のスキルは相変わらず顔面崩壊ハンマーだけかよ……レベル3000万の顔面崩壊ハンマーとか、マジで顔面整形されるじゃねえか。
まあいい、とにかくこれで俺たちも3000万パワーになれた。レベル30じゃこの化物ならぬバケホモ相手には話にならねえからな。
俺たちを強化してくれたカマホモに、俺はもう一つの提案を行った。
「レベルが同じになったことで、これでようやく戦いの勝利条件を提示できるわ」
「勝利条件?」
「ああ。俺たちの戦いはあくまで『ゲーム上』の戦いに乗っ取ること。つまり、お前のライフゲージがゼロになるか、俺たち全員のライフゲージがゼロになるかで勝負は決定だ」
「なるほど。あくまで『メアサガ』のゲームのシステム上の戦いをすると。別に僕はそれでも構わないよ。同じレベルになったとはいえ、僕は百戦錬磨、あらゆる修羅場を潜ってきたからね。まだまだ君たちに負けるとは思えない。けれど、その条件を提示してきた理由が知りたいな」
「あ? 決まってんじゃん、リアルの生身で殺し合いして痛い思いなんてしたくねえよ。もし、そんな思いをするくらいなら、俺は戦いを放棄して、ゲームの世界で生きる決意するわ。元の世界よりも俺は自分の命が可愛いんだよ、誰が元の世界のために命なんぞかけるか。俺は自分の身が最高に可愛い超自己中人間なんだよ。おら、文句あるか?」
「ないよ。しかし、本当に君は天の邪鬼だ。三人の女の子に痛い思いや怖い思いをさせたくないって素直に言えば喜んでもらえるだろうに。そういうところも好きだよ」
とりあえず蹴っておいた。本当一言多いカマホモだな、おい。
しかし、ルールをゲームと同じに設定出来たのは大きい。こいつ、絶対ガチの殺し合いだとやばそうなんだもん。組織や軍隊生身で潰したとか、どこのラノベ主人公だよこいつ。そんな化物とリアルバトルとかただの自殺じゃねえか。こいつ怒らせたら、優しい笑顔浮かべながら手足千切りそうだわ、マジ怖え。
というわけで、この条件を呑んでくれて助かった。もし断られてたら、こいつを倒す以外の方法で元の世界に戻る方法を考えなきゃならんところだったわ。
俺たちのレベルは上がり、ルールも決まった。あとは本気で戦ってこいつを負かすだけ。死闘の果てにカマホモを打ち負かせば、こいつもきっと成仏してルーペンスの絵の前で裸の露出狂天使どものお迎えが訪れる筈だ。
俺たちを一度見渡し、カマホモは楽しそうに笑って問いかけた。
「さて、これで準備は整ったわけだけれど……今すぐやるのかい? 僕は君たちが望むとき、いつでも戦いに応じるつもりだよ」
「馬鹿、急ぎ過ぎだ。俺たちは自分がどの程度戦えるのか、能力の確認とかもしてねえんだぞ。戦いは当分先だ、焦るんじゃねえよ」
「なるほど、冷静だね。それでは、僕は君たちがその時を迎えるまで、レストレール城で待つことにしよう」
「いや、それも待て。何でお前はそうせっかちなんだ」
俺たちの前から去ろうとするカマホモを俺は呼びとめる。
首を傾げるカマホモに、俺は再びある提案を行った。
「どうせそのなんちゃら城に行ってもぼーっとしてるだけだろ? 止めとけ止めとけ、そんなの暇なだけだ、一人でいてもつまんねえだけだ。俺たちの準備が整うまで、お前もここに滞在してろよ」
「……驚いた。まさか君からそんな提案をされるとは。いいのかい? 僕としては、好意を抱く君たちと過ごせるのは嬉しい限りだけれど、僕は敵だよ?」
「拳を向け合うまで敵もくそもあるか。お前は確かにカマホモだし、いらっとすることも多いけど、お前の淹れるコーヒー美味いしよ。お前たちも別にいいだろ?」
俺の問いかけに、驚きの表情を浮かべながらも、三人娘は頷いて肯定する。
そんな俺たちの反応にびっくりしつつ、やがてカマホモは心から嬉しそうに微笑んだ。やだ、すげえ可愛い、滅びればいいのにくそボケ。
俺たちに礼を告げながら、カマホモは早速この部屋に滞在する準備を始めようとする。何でも私生活の荷物は、全部レストレール城とかいうところに置いてるらしい。それを取りに戻るそうだ。
「それじゃ少し離れるよ。部屋は昨日借りた部屋をそのまま利用させてもらうね」
「ああ、そうしろそうしろ」
「では河合さん、相坂さん、結城さん、そして僕の愛しの主人公様、また会おう」
「いいからさっさと行け! 俺を主人公なんて呼ぶんじゃねえ!」
銀色の髪を揺らしながら、カマホモは転移して消えた。
カマホモの姿が消えたことを確認し、河合はびっくりしたような表情で俺に問いかける。
「でも、本当に驚きました。レベルアップや勝利条件の設定もですが、何よりも斉木君が愛理さんの滞在を許すなんて。理由はよく分かりませんが、斉木君が愛理さんを嫌がっているのは何となく感じていましたから……まさか、一緒に住もうなんて言うなんて」
「あ? 何言ってんだ、当たり前じゃねえか。カマホモに遠くに行かれちゃ困るだろ」
「そうですね……愛理さんも、悪い人じゃありませんから。きっと満足すれば、私たちを元の世界に戻してくれるはずです。なんとか戦い以外の方法を、一緒に生活する事で見つけていければ……」
「何を勘違いしてるんだお前は。そんな悠長な方法で元の世界に戻ろうとしたら俺たち寿命でくたばっちまうわ。俺は、今すぐ、なんとしても元の世界にもどりてーんだよ。そのためにカマホモに遠いお城になんて引き篭もられちゃ困るっつってんだよ」
「あ、あの、それはどういう……」
「はーい、円陣お願いしまーす」
河合の声を遮り、俺は三人にこの場で円陣を組むように命令する。
訳の分からぬまま、俺の言葉通りに輪を作る三人と一匹。顔を見合せながら、俺は不敵に笑って作戦を告げるのだ。
「それでは今夜、カマホモが寝入ったタイミングを見計らって全員で襲撃しまーす。名付けて『永遠におやすみ! レッツカマホモ殲滅作戦』です」
「え、えええええ!?」
河合の驚きの声が心地いいわ。そういう反応じゃなきゃ困る。
目を見開いて驚く河合に、俺は淡々と説明を続ける。
「いいか、河合。もう分かっているだろうが、あいつはカマホモだがそれ以上に化物だ。軍と戦っただの異世界をどうこうしただの、言葉だけ聞けばハッタリに聞こえるかもしれねえ。だが、俺たちをゲームの世界に閉じ込めたり、レベルを3000万まで引き上げたりを見る限り、現実だろうと認めざるをえねえ。認めるんだ、あいつはカマホモで化物なんだと」
「いえ、カマホモの部分以外は認めてますけど……でも、寝込みを襲うなんて、それはちょっと……愛理さん、仲良くなれたのに、そんな相手にそれは……」
「何甘いこと言ってんだ! まさかお前、ガチバトルであいつに勝てると思ってんのか? ちょっと魔法が使えるようになっただけ、レベルが上がっただけでカブト虫が恐竜に勝てると思ってんのか? いいか、もうここまできたんだ、甘い考えは全部捨てろ! あいつに勝つには、眠っている隙にやれるだけの魔法をぶちこんで、ライフゲージを削り、その優位性を保ったまま押し切るしかねえんだよ!」
俺の言葉に悩みに悩む河合。こいつは真面目良い子ちゃんだから、どうしてもその心が判断を邪魔するのだろう。
その点、他の二人は頭が柔らかい。俺の話に、先輩と結城はやがて肯定する意見を口にした。
「まあ、愛理ちゃんとんでもないからねえ。格上に勝とうとするなら奇襲は大事だよねっ!」
「陽太がするなら私となりぽんも頑張るだけかなー」
前言撤回。一名というかポメラニアン一匹は頭の中空っぽだわ。とにかく二人は俺の意見に肯定的だ。
残るは頑固者の河合。こいつさえ説得すれば、夜にカマホモの部屋に忍び込んで魔法ブチ込みまくって袋にしてゲームセットだ。
うんうん困り果てる河合に、俺は拳を握って悪魔の囁きを送り続ける。
「いいか河合、カマホモを倒さなければ、俺たちはマジでいつ元の世界に戻れるか分かんねえんだぞ! 三十年、四十年、元の世界に戻ったとき、俺たちが老人になってたらどうすんだ!? リアル浦島太郎だぞ!? 玉手箱が自動オープンっつー不親切設計つきなんだぞ!?」
「それは、いやです……」
「家族に会いたくねえのか! 家族はお前が一日でも早く戻るのを祈って待ってんだぞ! お前は親父さんに、おふくろさんにウェディングドレス姿も見せねえまま、このゲーム世界で終わっちまうつもりなのかよ!? それでいいのかよ!?」
「う、ううう……」
「河合、俺を信じろ! 俺がお前に必ずウェディングドレスを着せてやる! お前の両親に、お前の一世一代の晴れ姿を特等席で眺めさせてやる! 両親に悲しみの涙を零させるんじゃねえ、お前が両親に流させるべきは幸せの涙なんじゃねえのかよ! 約束してやる! 俺が絶対に悲しみの涙を喜びの涙に塗り替えてやる! だから諦めるんじゃねえよ! 無理だって、下向いて諦めて絶望する必要なんてねえ! お前は俺が必ず幸せにしてやる! 他のことなんて何も必要ねえ――この俺を、他の誰でもないこの俺だけを信じてろ!」
俺の大統領演説ばりの叫びに、やがて河合は折れた。下を向いて小さくこくんと頷いた。ちょろいわ。
仲間たちの心は一つになり、何の障害もねえ。あとはぐっすり眠ったカマホモを全員で袋にするだけだ。
くはは、悪いなカマホモ。どうやらてめえの下らねえゲーム遊びもこれまでのようだわ。俺は元の世界に戻る為なら、悪魔にだって余裕で魂を売り渡すんだ。この世はいつだって悪が勝つんだよ。
いったいどんな絶望の表情を見せてくれるのか、本当に楽しみだわ。ああ、夜が待ち遠しいわ。覚悟してろよ、カマホモ、今日の夜がお前の最後だ!
「おはよう、僕の主人公様。よく眠れたみたいだね」
「……あ?」
日光が窓から突き刺す中、ゆっくりと瞼を開く俺。あれ、なんか凄く良い匂いがする。頭クラクラする、なんだこれ。
体を包む感触から、どうやら俺はベッドの上で寝ていたらしい。あれ? おかしいな、何で俺寝てんだ?
俺は確か、夜中、カマホモが寝入ってから、かしまし娘三人を引き連れてそっとカマホモの寝室に侵入した筈だ。それで眠っているカマホモを袋にしようとして……それから記憶がねえぞ。
ゆっくりと横を向くと、同じベッドで横になり、俺を楽しげに見つめてくるカマホモ。あれ、何か顔近くね? しかも何か顔赤くね? なんだこれ? カマホモと顔が近いって何だ? 頭が理解を受け付けてねえ、どこの言語だ? つーか良い匂いってこいつの髪の匂いか、マジでやばい、頭クラクラする。全然頭が働かねえ。
未だ頭がはっきりしない中、カマホモはとても嬉しそうに微笑みながら俺に声をかけてくる。
「どうやらまだ本調子じゃないようだね。もう少し眠るかい?」
「んあ……そうするわ。くそ、カマホモ襲撃しようとしたのに訳分かんねえ……とりあえず寝る。俺の代わりにみんなでカマホモ潰しといてくれ」
「ふふっ、本当に君は面白いね。いいよ、君は何も心配せずに眠るといい。僕ももう少し傍で君の温もりを感じていたいから」
なんかよく分からんが、とりあえず寝ていいらしい。眠気もやべえし、二度寝するか。忌まわしいあのカマホモは、目の前のカマホモが潰してくれるだろ、こいつ何だかんだ良い奴だしな。頼むわカマホモ、カマホモを潰してくれ。おやすみなさい。ぐー。
神の石が淡く光り輝きました。
属性『ハッピーエンド』を石に記録します。
/(^o^)\
多分完結まであと5話くらいです。最後までしっかり頑張りますっ。