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14.勇者







 カマホモから逃げようとしたら強引に連れ戻されてしまった。


 悪夢だ。カマホモの魔の手からは逃げられねえのか。

 部屋の中に吸引され、再び巨大トカゲの死体の上に座っているカマホモとこんにちは。くそが、さらさらの銀髪がむかつく。トリートメント使ってんじゃねえボケが。

 俺と再び対面し、カマホモは楽しそうに笑みを零しながら俺に再び声をかける。


『いきなり逃げようとするなんて酷いじゃないか。僕の主人公様は相変わらずつれないね』

「うるせえ、扉開けたらカマホモがこんにちわなんて誰が想像できるかよ。俺が心臓弱い人間だったら、驚きのあまりそのまま天に召されてもおかしくねえレベルの衝撃だったわ。全ての人間の罪を背負ってカマホモ、てめえは死ね」

『ふふっ、君の暴言も僕には心地よく感じるよ。もっと僕を意識して欲しい。もっと僕を見つめてほしい。君の心に少しでも僕という存在を残して欲しい、それが今の僕にとって何よりの喜びだからね』

「やだ、このカマホモ話通じない……河合、得意の中二病魔法であのカマホモを焼き殺せ。構わん、俺が許す、バーベキューパーティーだ。小粋なアメリカンジョークを伴いながら軽く消し炭に変えてしまえ」

「中二病魔法って言わないでください! それよりも斉木君、この方は知り合いですか?」

「尻愛とか言うな。本気で寒気がする。俺の尻は俺のもんだ、誰が開発なんぞさせるか」

『ふふっ、初めまして、河合玲夢さん。君には感謝しているよ。君のおかげで僕は長き牢獄の終着点を見出すことができたのだから』

「ど、どうして私の名前を……さ、斉木君教えたんですか?」

「カマホモ野郎に俺たちの個人情報語るくらいなら、悪徳業者に結城の個人情報全部自白するわ」

『な、なんで私なの!?』


 うるせえな、何となく許されるかなって思ったんだよ。きゃんきゃん言うな、ちっぱいめ。

 そんな俺たちの騒乱している光景を楽しげに見守るカマホモ。くそが、トカゲの上から俺を見下ろすんじゃねえよ。

 俺はトカゲの死体に近づき、ゲシゲシと蹴りあげながらカマホモに言葉を紡ぐ。


「俺たちはこのデカブツとキモイ野郎どもに用があってきたんだよ。お前みたいなカマホモに用なんぞ微塵もないわ。つーかお前、船で意味深な別れをしたくせに何半日後に何事もなかったかのように現れてんの? あんだけ意味深な演出をして『はいこんにちわ』って恥ずかしいと思わないの? 疑うわー、マジで正気を疑うわー、俺なら恥ずかしくて三日くらいは顔出せないわー」

『ふふっ、それは仕方がない。他の誰でもない君が僕の想定を遥かに超えて成長してしまったのだから。まさかこの短時間でここまで大きくなるとはね。とても立派だよ……見惚れてしまう』

「やめろ、本気でやめろ。大きくなったとか立派とか見惚れるとか言うの本気でやめろ。くそ、耳が腐る、割と本気で死にてえ。こうなったら耳洗浄するしかねえ。河合、あいつの台詞をお前が繰り返せ」

「い、嫌ですよ!?」

「あ、顔を真っ赤にして何想像してんだお前? 私、優等生ですって顔してとんだ破廉恥娘だ。お前はいつもそんな妄想ばかりしてんのか、お前の脳みそは桃色スペーダーZなのか」


 脇腹を杖で抉られた。肋骨折れそう。

 河合が言ってくれないから、仕方ないので結城で妥協。結城は何一つ躊躇せずリピートしてくれた。こいつ、マジで将来が心配だよ。変な男にひっかけられたりしそうだわ。

 結城に一通りの男が喜びそうなワードを言わせて、満足した俺は改めてカマホモに向かいあい、問いかける。


「もうお前の電波会話はもういいよ、本当に求めてないからそういうの。いったい何の用だよ、俺たちは忙しいんだよ、お前に構ってる暇はないんだよ。あ、ちょっと待てよ? カマに構ってる暇はない……くそつまんねえわボケ! カマホモはやっぱ死ね!」

「なんで逆切れしてるんですか!? 言ったの斉木君ですよね!?」

「うるせえ俺に視線を向けるカマホモは全人類の罪を背負うべきなんだよ、贖罪を行うべきなんだよ! 裁かれろ!」

『君は本当に愉快だね、僕の主人公君。そんな君が好きだよ』

「河合、俺死にたい。なんで人生で経験した告白の四回中四回がカマホモ野郎からなんだよ……俺が前世でどんな大罪を犯したっていうんだよ……俺の前世は魔王でもやってたのかよ……」

「それは……その、本当にご愁傷さまとしか……」

「もういい。とにかくカマホモ、俺たちは帰るぞ。あのキモ野郎どもも約束したのにいねえしよ」

『――ああ、彼らなら消えてもらったよ。邪魔だったからね』


 カマホモの一言に、周囲の空気が張り詰める。そんな中、小指で耳を穿る俺。ほーん、そんで?

 いるよね、こういうの。得意げな顔して『消した』だの『消えてもらった』だの『処分した』だの言って雰囲気出そうとするボス。漫画とかでよく見るけど、こう実際にやられると『ふーん』だわ。

 そりゃ、あのキモ男どもの死体でも並べられてりゃ俺も解説役キャラのごとく『げえー! ブサ男がやられてしまったー!』と反応してやってもいいんだが、死んでもゲームオーバーハイやり直しのゲームの世界でそんなこと言われてもねえ。俺だってナリア蹴り飛ばして『消した』くらい言えるわ。

 あまり動じない俺に気付いたのか、カマホモはくすりと笑って俺に問いかける。


『驚かないんだね? 私の主人公様は肝が大きいようだ』

「俺のゴールデンボールの話題を出すな、セクホモ罪で殺されてえか。だって驚きようがねえし。むしろあいつら鬱陶しかったし、消してくれて万々歳って感じ? 二度と戻ってこれねえようにキャラデリートしてくれたんだろうな」

『そうだね、二度と彼らが君の前に現れることはないだろうね。彼らはもう世界には存在しないのだから』

「いちいち大袈裟な比喩しねえと会話できねえのかお前は。奴等いねえんなら用はねえ、帰るわ。ぐっばい、カマホモ、フォーエバー」

『いいのかい? 僕がここに現れた理由は、君たちに元の世界に戻る方法を教えるためだというのに』

「え、ええええっ!? 元の世界に戻る方法、知ってるんですか!? いえ、それよりも、私たちがゲームの世界に閉じ込められているってどうして――」

『知っているよ。なぜなら僕こそが、君たちをこの世界に連れてきた張本人――』

「だっしゃおらああああああああああ!」


 会話が終わるよりも早く、俺はカマホモの体目がけてタックル。突然の俺の行動に対応できなかったのか、カマホモは大地に無様に転がった。

 カマホモを寝転がし、俺は即座に立ちあがり、転んだカマホモ目がけてストンピングの嵐。これでもかこれでもかと容赦なく蹴りを入れ続ける。

 総計五十発ものストンピングを入れた後、俺はナリア狩りで鍛えた自慢のレフティーで蹴り上げた。息の根が止まったであろうカマホモにおまけの右蹴りを加えて、河合たちに宣言するのだった。


「元凶は殺した! さあ、元の世界に戻れるぞ河合! 俺たちのハッピー学園生活の時間だ!」

「な、な、なんてことしてるんですか!?」

「こいつが今自供したじゃねえか、俺たちをゲームの世界に閉じ込めた張本人だって。こんなクソみたいな目にあわせやがったカマホモなんぞ生かしておけねえ。この馬鹿が俺をこの世界に閉じ込めたせいで、俺の相坂が奪われちまったんだぞ。この程度の罪でも生温いわ」

『斉木君! 美穂が付き合いだしたのは一カ月くらい前からだよ!』

「やかましい! 時期なんて関係ねえんだよ! 俺の相坂を奪われたのも、日本経済が上手く回らねえのも、世界から争いがなくならねえのも、何もかもこいつが悪い! ゆえに俺が人類代表として成敗したんだ! 俺は悪くねえ!」

「す、清々しいくらいに最低です! とにかく回復アイテムを――」


 河合が俺たちの方へ駆けだそうとしたが、その足をぴたりと止めた。そして驚愕に目を見開いたような顔で俺の方を見つめている。あん? なんだ? 幽霊でもみたような顔しやがって。

 何に対して驚いているのか分からない俺だったが、その理由は嫌でも即座に分かることになる。


『――いきなり激しい攻撃をしてくるなんて、嬉しいじゃないか。荒々しいところも、本当に素敵だよ、斉木陽太君』

「ひっ!?」


 背後から首周りと腰に腕を回され、耳元で息をかけてきたカマホモに、俺はぞくりと全身鳥肌状態だ。

 やべえ、なんだこいつ、無駄に艶めかしい。抱きしめられて感じる熱、吐息、香り、全てがエロい。頭がクラクラする。

 何より俺が危機を感じてるのは、我が息子が背後のカマホモの熱にゆっくりと反応し始めてるということだ。嘘だろお前!? 他の何でもない、カマホモ相手に反応するなんて一生の汚点じゃねえか!?

 何とか男としての尊厳を守るために、俺は必死で心の中で虚数を数える。アイ、いちアイ、にアイ、さんアイ、やべえええええスタンダップが止まんねええええ! このままじゃカマホモ相手に『第一話、マイブラザー、大地に立つ』とタイトルコールされちまう!

 そんな俺の心を読み透かしているのか、カマホモは楽しげに愉悦を零しながら、腰にまわした手を俺の下腹部へともっていき、声をかける。


『僕を感じてくれているんだね。長らく忘れていた感情だ、嬉しいよ。他の誰でもない君が僕を意識してくれている、そう考えるだけで僕も体の熱を覚えてしまう。正直に言うよ、僕も興奮が抑えられない』

「いやああああああ! 河合! 先輩! 結城! 助けてえええええええ!」


 あまりの恐怖に、俺は恥も外聞もプライドもなく三人に助けを求めた。触られてる! ガチでカマホモに触られてる!

 カマホモ相手に完全仁王立ちするくらいなら、惨めな醜態さらしたほうがマシだ。今逃げて三人の誰かに抱きつけば、カマホモじゃなくて女体に欲求したと事実を塗り替えることができる。

 俺の危機に我を取り戻したのか、河合たちは杖を向けてカマホモに警告する。


「な、何が起きてるのかよく分かりませんが、斉木君を離して下さい! 嫌がってることをするのは駄目です!」

『嫌がっているとは心外だね。彼は口とは反対にこんなにも悦んでいるというのに。もちろん僕の体も悦んでいるんだけどね』

「悦んでねえ! 微塵も悦んでねえ! 河合早く助けてくれ! このカマホモの手から解放されたら、お前のおっぱい揉ませてくれ! 俺の心を浄化させてくれ!」

「全力でセクハラ発言しないでください! 助ける気なくなるじゃないですか!?」

『よく分からないけど陽太返して! なんか見てるとムカつくから!』

『楽しそうだから私も混ぜてっ!』


 俺を助けるためにカマホモに立ち向かう女性陣。

 ああ、仲間って最高だわ。俺を心配する気持ちが河合からしか感じられねえ気がするけど、とにかく仲間って最高だわ。

 そんな河合たちを見つめながら、カマホモは楽しげに微笑みながら、ゆっくりと俺を解放した。

 カマホモの手から逃れた俺は、全力ダッシュで河合たちの傍にいき心を癒すために河合に頭を下げる。


「助かったぜ、河合! とりあえず駆けつけ一杯ならぬ駆けつけおっぱい頼むわ!」


 本気で殴られた。杖が俺の顎を振り抜きやがった。そろそろ俺、河合にライフゲージゼロにされてもおかしくねえんじゃねえかな。

 ちなみに、河合にばかりセクハラするのはあれだ。先輩と結城はゲームキャラだから抵抗できねえからする気がおきねえ。

 無抵抗の相手にセクハラをするのは主義じゃねえ。俺は根っからの紳士なのだ。そう、俺は河合じゃないと駄目なんだ。これからも河合にどんどんセクハラしていこう。そんな誓いを朦朧の意識の中で行う俺だった。

 しかし、河合にぶん殴られたおかげで俺の息子は収まってくれた。危うくカマホモにスタンダップさせられたなどという一生モノの罪を背負うところだったわ。顎を抑えながら、俺はカマホモを睨んで言葉を紡ぐ。


「くそ……俺の体にセクハラしたことは全て忘れてやる。それよりも何故、俺のマシンガンアタックが効いてねえんだ。あんだけ袋にしたのに、微塵も堪えてねえなんて」

『当然だよ。君はまだ、僕にダメージを与えられる程強くはないからね。レベル差があり過ぎるんだよ』

「レベル差だと?」

『ふふっ、参考までに教えてあげよう。斉木君、君のレベルが30ならば、僕のレベルを表現するなら――3000万というところかな』


 ……ドヤ顔で何言ってんだこいつ。本気でドン引きするんだけど。

 仕方ないので、俺はカマホモに優しくその辺りを教えてやることにする。


「数字の圧倒的差を明確に出せば、他人に強さを伝えられると思ってんのか。こんなに差があると、逆に分かりづれえんだよ。じゃあそんなに差があるなら、普段の生活どうしてるんですかね。3000万レベルの力なら、俺に触れるだけで俺木端微塵になるんじゃないですかね。そんなステータス出されても『ふーん』としか思えねえんだよ、タコ。おら、教えろよ、3000万パワーでグラスとか持てんのかよ?」

『それは問題ないよ。普段は僕の能力で人並み程度の力に抑えているからね。僕が真の力を発揮するのは、戦いの時だけさ』

「で、でたー! 圧倒的な力を不思議な力で『人並み程度』に抑える馬鹿! 本気の戦いの時ってなんだよ? 本気になったら解放されんのか? 力込めたら3000万パワー出るのか? だったらお前がウンコしたとき、ちょっとした弾みで3000万パワーの加速を伴ったウンコが便器に衝突するんだな? メテオウンコで地球が崩壊するじゃねえか! 小便がウォーターカッターじゃねえか!」

『……その辺りも、色々と、神の力で……』

「排泄にそんだけ配慮するってお前はトイレの神様でも信仰してんのか、ああん? いいかカマホモ、てめえがレベルやステータスなんていうもんで力を自慢するなら、俺はとことん、そこに突っ込みを入れるぞ。だいたい、今時そんなレベルとかパワーとかの数値の大小で『うおおおお! すげええええ!』ってなる奴いねえよ。二十年前に出直してこいや。懸賞金やアルファベットランクなら使ってもいい」

「あの、斉木君、話がずれているような……」

「とにかくやり直し。いいか、五分だけ時間をやる。俺が『すげええええ! こいつやべええええ!』ってなるように、もう一度アピールしろ。間違っても『地球を滅ぼせる』だの『全人類を殺せる』だの『時を止められる』だの言うんじゃねえぞ。俺の心を本気で恐怖に打ち震わせるような、子供だましじゃねえ本気のヤバさアピールしてこいや」

『う、うう……』


 俺の厳しい追及に、頭を悩ませて考え込むカマホモ。大丈夫かコイツ、既にキャラ完全にブチ壊れかけてんぞ。

 あんだけミステリアスキャラを演じていたくせに、ちょっと突っ込むとボロボロじゃねえか。

 俺程度に泣きが入るようじゃ、社会に出たときやっていけんのかね。俺はカマホモの未来を案じながら、奴からの回答を待つ。

 たっぷり五分考えて、カマホモは涙目で俺に向かって、必死に考えた『僕凄いですアピール』を敢行する。さてさて、どんな答えを用意したのやら。


『その……僕の凄さを言葉にするなら、カマキリの卵を五つ頭の上で孵化させても、その状態で平然と朝食を楽しむレベルだよ……』

「やべええええええ! 河合逃げよう! こいつマジでやべえよ!? こんな最強の奴に勝てるはずがねえ! 俺たちはもうおしまいだあ!」

「気持ち悪いだけじゃないですか!? あなたもそんな例えしないでください! ちょっと想像しちゃったじゃないですか!?」

『ご、ごめん……』


 取り乱す俺を一喝する河合。やべえ、このカマホモ、本気で化物だ……すげえボスが現れちまった、どうすりゃいいんだ……

 こほんと咳払いをして、カマホモは落ち着きを必死に取り戻しながら俺たちに話を続けた。メンタルは意外と強いらしい。


『と、とにかく僕は君とは比べ物にならないくらい強いからダメージがなかったのさ。そもそも、ゲームシステムを改竄できる僕にダメージを与えても無意味だけれどね』

「そういえば、あなたはどうしてネームやライフゲージ、マナゲージが頭上にないんですか? ゲームキャラならば、存在しているはずなのに……」

『僕はゲームに捉われない存在だからね。人間を超越し、全ての枠を超えて不可能を可能にする者、それが僕だよ。ある日信じられないほどに強大な力を手にし、望まずして人間を辞めてしまった哀れな道化さ』

「いや、お前の鳥肌もんの自分語りなんてどうでもいいわ。大事なのはカマホモ、てめえが俺たちをこの世界に連れてきた理由だ。いや、理由すらどうでもいい、さっさと俺たちを今すぐ元の世界に戻しやがれ。俺が留年でもしてみろ、てめえを素っ裸にして歩道橋から吊るすぞ」

『僕が君たちを連れてきた目的と元の世界に戻る方法は当然、教えるよ。けれど、その前に――』


 そう言って、カマホモは人差し指を立てて俺に向けて軽く指を折った。

 刹那、俺の腰に下げていた袋から、白い石がカマホモの元へと飛んでいく……何だっけ? あの白い石。

 記憶に残っていない不思議アイテムをカマホモは俺から奪い、うっとりとしながら声を漏らす。なんか地味に表情がエロいのがむかつく、カマホモは滅びろ。


『素晴らしい……これほどまでに『主人公』としての要素を揃えた人間は他にいなかった。石の輝きは十分過ぎるようだね』

「電波な会話は要らねえっつってんだろ。俺たちを元の世界に戻しやがれ、ハリーハリーハリー!」

『それだけじゃない、君はこの短期間で三人ものヒロインを揃えてみせた。『主人公』としての要素を備え、数多のヒロインに囲まれている……合格だ。やはり君しかいない。斉木陽太君、僕の愛する主人公様――君こそが、僕の物語の最後を飾るに相応しい主人公だ!』


 嬉々として断言した刹那、カマホモは黄金の輝きを体から解き放ち、周囲へ放つ。何勝手に光り輝いてんのこいつ、命の灯火を消灯されてえのか。

 黄金の輝きが室内を包み込み、光が収まるのを小指で鼻をほじりながら待つ俺。どんだけ演出なげえんだよ、はよ終われよもう。

 そして、光が収束すると、そこには相変わらずのドヤ顔のカマホモがいるだけ。何だよ、何も変わらねえじゃねえか。てっきり第二形態とかになって『僕がこの姿になった以上、君たちは終わりだよ』なんて言うのかと思ったわ。

 光るだけならホタルだって出来るわ。俺は戻る方法を吐かせようと、カマホモに近づこうとしたその時だった。背後の結城や先輩から悲鳴のような声があがったのは。


「な、な、な、何これえええっ!?」

「わ、わわわわっ!」

「ああん? どうした急に騒ぎやがって――」


 そこまで言葉にして、俺は二人の状態に違和感を覚えた。あれ? なんでこいつらメッセージボード出てねえんだ?

 俺と河合、この世界に閉じ込められた人間以外はゲームのキャラクターらしく白いメッセージボードに文章が出ていたはずだ。それが出ておらず、今は普通の会話のように音声だけでやりとりしている。

 呆然とする俺と河合に、二人は困惑したまま俺に泣きついて……こねえ。興奮して、嬉々として俺に声を発してきやがった。


「やった! やったよ陽太! 私もゲームの世界に来ちゃったよ! これで陽太とずっと一緒に遊べる!」

「全力で喜んでるんじゃねえ! うぜええええ! 腕に抱きつくんじゃねえ!」

「どうしよう、斉木君! 私、ゲームの世界に入れちゃったよ! もう一生ここで過ごしてもいいんじゃないかな!? 私もう元の世界戻らなくていいよ!」

「目を輝かせながらクソみてえな提案してくるんじゃねえ! どんだけゲームの世界に憧れてたんだよ、このぽんこつ!」


 まな板のチビ妖精とおっぱい精霊に抱きつかれながら、俺は全力で声を荒げる。

 なんでこいつらまでゲームの世界に来てんだよ、意味分かんねえよ。全員来ちまったら、俺にマイエンジェル相坂の情報を誰が届けるんだよくそが。

 河合なんか驚き過ぎて突っ込みすら置き去りじゃねえか。頑張れよ河合、お前から突っ込み無くしたら顔と頭の良さとなかなかの胸と尻と……あれ、結構残るな。河合マジで高性能過ぎじゃね? 結城と先輩があれすぎて、評価うなぎのぼりだわ、めんどくせえけどマジ良い女だわ。

 騒ぎ立てる俺たちに、カマホモはにんまりと笑ってこの状況について語り始めた。


『これで僕が君たちをこの世界に連れてきたこと、信じてもらえたかな? 相坂智子さんに結城雪さん、二人は河合玲夢さんと同じく物語の根幹を為すヒロインだ。玲夢さんだけこの世界で斉木君と一緒に居続けるのもフェアじゃないからね』

「あ、アンタ良い奴じゃない! ありがとう! 凄く感謝してる!」

「私も感謝するよっ! ゲームの世界に連れてきてくれてありがとう! 君は神様だよっ!」

「揃いも揃って斜め上な感謝述べてんじゃねえ! つーかこいつらゲーム世界に連れてくるなら、それと引き換えに俺たちを返せや! 二対二のトレードの形にしろ!」

『ふふっ、これで役者は揃った。もはや元の世界なんて必要ない。ここが、ここだけが僕の望む世界、僕の求めた世界の終着点だ。僕も君たちと同じように、この世界に体を埋めよう。元の世界に戻る必要なんてない』

「ちょっとー! 何勝手に俺をゲーム世界に永住決意した転移主人公みたいに扱ってんの!? 帰りてえんだよ! ゴーホームしてえんだよ! 元の世界に心残りしかねえんだよ! 本当に話の通じねえカマホモだな、割とマジで滅びてほしいんですけど!」


 俺の言葉を無視して、再び体を光に包ませるカマホモ。光ってばっかだな、マジでホタルか何かかよこのカマ野郎。

 そして、光が収まった時、またしても変化の見えないカマ野郎。天丼じゃねえか! ぶっ飛ばすぞマジで!


「……これで僕も生身をこちらに移した。さあ、僕の物語に必要な鍵は揃った。後は粛々と時計の針を進めよう」

「話聞けよこのボケ! 俺を元の世界に戻せっつってんだよ! もしくはヒロインとやらに相坂を入れろ! 相坂と恋愛ストーリーらぶえっち物語なら少しくらい付き合ってやってもいい! 一生歩んでもいい!」

「じゃじゃじゃーん。お呼びに応えた相坂ですにゃーんっ」

「ぽんこつはその辺で中二病魔法でも撃ってろや! 俺が求めてるのは妹の方だっつってんだろ! さあ、早く相坂妹を召喚しろ! お前の電波の力でこの世界に最強ヒロインの相坂を!」

「残念だが、君の求める女性はヒロインとして不適格だよ。僕の考える主人公様のヒロインに、主人公以外の彼氏持ち、しかも君以外の相手で純潔を失った人は相応しくないからね」

「さ、斉木くーーーーん!?」


 あ、死んだ。今度こそ本当に死んだ。

 足元がなくなる感覚って言うのかな。びっくりするくらい浮遊感を感じた後、気付けば地面に転がってた。涙止まんねえ、どうしよう。

 河合が必死に起こしてくれるけど、足に力が入らねえ。これがレベル3000万の力かよ……こんなの勝てるわけねえ、絶望しかねえよ……

 そうか、そうかよ……俺がゲームの世界でウンコしてる間に、俺の美穂は大人の階段昇ってたのかよ……俺以外の男と、ドキドキ体験してたのかよ……

 もはや戦う力を失った俺を必死に支えて立ち上がらせようとする河合。そんなボロボロの俺たちに、大魔王カマホモは話を続けた。


「さて、こうして君たちはゲームの世界に入った訳だけれど、君たちが元の世界に戻る方法はただ一つ――僕を倒すことだけだ」

「元の世界とかいいよもう……マジでどうでもいいわ、俺はこのゲーム世界でからあげ丸と二人で傷心旅行にでるわ……」

「意欲を失わないでくださいっ! あれだけ戻る戻るって言ってたじゃないですか!?」

「学校にいって、相坂を見る度に『あ、もうやることやってんだな』って思いたくねえよ……どんな罰ゲームだよ……貝になりたい」

「別にいいじゃん、元の世界に戻らなくても。私とこの世界で遊ぼうよ、陽太」

「そうだよ! この世界で沢山冒険して遊ぼうよ! 私も一緒に遊ぶよ! 斉木君!」

「お願いですから斉木君が元の世界に戻りたくなくなるような発言は止めて下さい!」

「おや、すっかり僕の主人公様がやる気を失ってしまったようだね。そんなつもりじゃなかったのだけれど。さて、どうするんだい、斉木君。君が元の世界に帰還するのを望まないならそれはそれで構わないよ。君と三人のヒロインがこの世界で過ごす様をのんびり楽しませてもらうのも悪くはないからね。時間をかけたら、君は更に『主人公』として大きな輝きをみせてくれそうだ。逸ってしまったけれど、時間をかけて熟成させるのも悪くはない」


 笑いながら、カマホモは白い石を俺の道具袋へと突き返した。

 どうやらカマホモ的には、俺がここで反抗の牙を突き立てようが、全てを諦めゲーム世界に永住しようが、どちらでも美味しいらしい。

 なんでここまで俺に入れこんでるのかは分からねえが、とにかく俺の反応を見て映画鑑賞のごとく楽しんでいるようだ。

 普段の俺なら、ここで気合を入れてカマホモをぶち殺すところだが、今の俺にその力はねえ。相坂の真実、非処女宣言で俺の心は完全に折れちまった。涙も枯れ果てた。

 そんな俺を必死に鼓舞するために、河合は肩をゆすりながら俺に声をぶつける。


「斉木君、しっかりしてください! 元の世界に戻るんじゃなかったんですか! こんなことで諦めてどうするんですか!」

「無理だ……河合、俺はもう戦えねえ。剣が折れちまったんだ……」

「そんなの斉木君らしくないです! あんな風に馬鹿にされてこのまま終わるんですか!? いつもの無茶苦茶ぶりはどこいったんですか!? どこまでも我儘勝手に、常識を壊して暴れるのが斉木君じゃなかったんですか!? こんな斉木君なんて、斉木君じゃないです!」

「駄目なんだよ、河合……俺の中にもう活力が、エネルギーがねえんだ……戦う意味すら見出せねえ……」

「う、うううっ、そんなに相坂さんがいいんですかっ! 相坂さんじゃないと駄目なんですかっ!」


 顔を真っ赤にしてがくがくと俺を揺する河合。脳が揺れてその理由で意識失いそう。

 しかし、河合、本当に悪いが、俺が復活する事はねえ。相坂という心の女神を失って、俺が立ちあがることなんてできるはずがねえ。

 相坂と付き合う夢は壊れ、それどころか相坂は既にやることやっていて……元の世界に何を求めて戻ればいいんだよ。もう目の前が真っ暗だ、何も見えねえんだよ……相坂と付き合う以上の希望なんて、俺には……

 沈黙が支配する中、やがて意を決したように河合はキッと俺を見つめて、顔をりんごのごとく染めたままハッキリと言い放つ。


「だったら、だったら私のために立ちあがってください!」

「河合……お前」

「私は元の世界に戻りたいです! また家族に会いたいです! みんなと会いたいです! ですから斉木君は、私の願いを叶えるために頑張ってください! もし、もしも私の願いを叶えてくれたら……か、叶えてくれたら……」

「叶えてくれたら……?」

「……む、胸、少しだけなら触っても、いいです……」

「ほあああああああああああっっっっっ!」


 瞬間、俺の体が爆ぜた。かつてないほどのエネルギーを伴って、爆発した。俺の脳は河合のおっぱいのことしかねえ。巨乳ではなく美乳の良さ、真理に目覚めた勇者、覚醒したおっぱい勇者、それが俺だ。

 その場に力強く立ち上がり、大地を踏みしめてカマホモを睨みつける俺。俺の急激な変化に驚き目を見開くカマホモ。

 全身を見えない闘気に包ませて、俺の体は激しく躍動する。今の俺なら、神にも勝てる。

 奴に対し、俺は拳を握りしめ、目に炎を燃やし、不敵な笑みを浮かべて語りかけるのだ。


「よお、待たせちまったなカマホモ。斉木陽太、絶望の淵から不死鳥のごとく舞い戻ってきたぜ――てめえを地獄へと叩き落とすためにな」

「どうやら元気になったようで何よりだよ。ヒロインの力によって復活、実に主人公らしくて素晴らしい。やはり君は僕の求めていた主人公様だよ、斉木陽太君」

「お前の望み通りの展開ってところが気に食わねえが、河合の願いを叶える為だ、しかたねえ。てめえをぶっ飛ばさねえと、河合が元の世界に戻れねえからな。俺がぶっ潰すと言った以上、お前が地べたに這いつくばる未来は決定だ。覚悟しろよ――俺はテメエをぶっ飛ばして、リアル世界で存分に河合のおっぱいを揉む!」

「大きい声で恥ずかしいこと叫ばないでくださいっ!」


 力を漲らせた俺の叫びに、カマホモはやがて高らかに笑い声をあげる。心から嬉しそうに。

 そして、俺の言葉を受けとめ、満面の笑みで語り続ける。


「そうだ! それでいいんだ! 君たちが元の世界に戻るためには、僕を倒さなければならない! 僕を超えなければならない! しかし、今の君たちでは僕の敵にはならない! もっと力を積み、しかるべき時を迎えた時こそが決戦の時!」

「へ、舐めてくれるじゃねえか。今すぐお前の顔面にこの拳を突き立ててもいいんだがな? 俺の拳は安くねえ、俺の拳には河合のおっぱいへの想いが乗せられてるからよ!」

「だからそういうことを言うのは止めて下さい! 乗せてません!」

「ラビエーラ山に在るレストレール城! そこで僕は君たちの訪れを待ち続けよう! 何年かかってもいい、何十年かかってもいい! 僕に勝てると思ったとき、その場所を訪れるがいい! 楽しみにしているよ、僕の主人公様! そしてヒロインの諸君! はははははっ!」


 舞台の役者のように気取りながら、転移を行おうとするカマホモ。

 消えようとした奴に、俺は慌てて制止の声をあげる。


「待ちやがれ! 消える前に一つだけ訊かせろ!」

「なんだい? 何でも答えようじゃないか」

「ラビエーラ山のレストレール城ってどこだよこら! 地名だけ言われても分かるかボケ!」

「……他の三人が知ってるんじゃないのかい?」

「すみません、行ったことない場所見たいで知らないです……」

「私も知らないにゃー。隠しダンジョンかな?」

「聞いたこともないわよ」


 顔を見合わせ、首を傾げる三人娘たち。誰も知らねえじゃねえか、そんなマイナーな場所指名すんじゃねえよ馬鹿かこいつは。

 それから俺たち五人は顔を突き合わせて地図を広げ、目的地までの道順を確認し合った。

 途中、腹が減ったと俺が叫ぶと、カマホモが嫌な顔一つせず料理を用意してくれた。なんでも異空間に転移して、わざわざ料理してくれたらしい。カマホモの手料理ってのは気に食わねえが、味は滅茶苦茶美味かった。そのことを褒めたら顔を赤らめて喜んでいた。また顔赤らめてやがる、ほんときめえ。

 道中、どんな道を行くか、乗り物は何を使うか、どんな敵に気をつけるかを丁寧に教えてくれるカマホモ。それをメモする俺たち。

 結局話し合いが遅くまでかかってしまい、しかも完全に終わらなかったので、ギルドホームに戻ることにした。

 会議は明日へ持ち越しとなり、仲間の全員がギルドホームに寝泊まりすることになる。俺は身の危険を感じているので、カマホモと一番離れた部屋にしてもらった。当然の処置だ。




 翌日、たっぷり眠った俺は大欠伸をしながら寝室から出ていく。

 俺は二階に寝泊まりしていたので、階段を降りていると背後からカマホモから声がかけられた。律儀に挨拶するカマホモ、この辺の礼儀は認めてやってもいいな。


「おはよう、僕の主人公様。ゆっくり眠れたかい?」

「まあな、俺はどんな場所でも熟睡できる男だからよ。お前こそベッドが違って眠れないとかオカマみてえなこと言わねえだろうな?」

「そこまで神経質に見えるかい?」

「見えねえな。神経質な相手なら俺の言葉に泣きだしてるだろ」

「違いないね」


 カマホモと肩を並べて、俺たちはギルドホームの一階へ降りる。

 そこには既に朝食の準備をしてくれていた女性陣三人の姿がある。台所に女三人、仲よさげに笑って料理してる。いいもんだな、こういう光景ってのは。

 俺たちは三人に朝の挨拶を告げながら、テーブルへとつく。そんな俺に、カマホモは声をかける。


「コーヒー作るけど、君もいるかい?」

「おうよ。砂糖と牛乳たっぷりな。俺はコーヒー牛乳をこよなく愛する男なのだ。笑ったら死刑だからな」

「可愛らしくて結構なことじゃないか。河合さん、相坂さん、結城さん、君たちはどうだい?」

「あ、ブラックでお願いします」

「私はミルクだけほしいかなー? よろしくねっ!」

「私は陽太と同じのがいい!」

「了解したよ。すぐ作ってくるから」


 異空間とやらに入り、コーヒーを淹れて戻ってくるカマホモ。うん、すげえ美味い。こいつ良い腕してんなあ。何言っても笑ってくれるし、気が効くし、こいつが女だったら最高の奥さんなれそうなのに、本当にカマホモは残念なカマホモだわ。

 カマホモのコーヒーを楽しみつつ、女性陣の作ってくれた料理に舌鼓を打ちつつ。やがて朝食を終えた俺たち五人は、顔を突き合わせて会議の本題へと入るのだ。


「それじゃ、そろそろ真面目に話し合うか。議題はどうやったらレベル3000万のカマホモを俺たちが倒せるかだ。俺たちは絶対に元の世界に帰るんだからな、真剣にアイディアを出し合うぞ。いいなっ!」

「「「「はいっ!」」」」


 俺の声にしっかりと力強い返事を返す河合、相坂、結城、カマホモ。頼りになるじゃねえかこいつら、これならカマホモを倒す方法も見つかりそうだわ。

 カマホモの淹れなおしてくれたコーヒーを片手に、俺たちはどうすればカマホモを撃破できるのかを熱く語り合うのだった。……あれ? なんかおかしいな、何だこの違和感。まあいいや。カマホモコーヒーマジうめえ。



















 神の石が淡く光り輝きました。



 属性『勇者』を石に記録します。








( ̄∀+ ̄)



お気に入り1500突破、ポイント4000超えしました。あわわわわ。

本当に本当にありがとうございますっ! 少しでも楽しいお話が描けるよう、誠心誠意これからも頑張りますっ!


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