13.テイマー
俺の怒鳴り声に反応したのか、ギルド内にいた河合と先輩も外に出てきた。
困惑する野郎どもと威嚇する俺、そんな俺の背中に隠れてる結城の姿を見ながら、河合は困惑しながら訊ねかけてきた。
「あ、あの、何事ですか? なんだか斉木君、物々しい雰囲気ですが……」
「こいつらが結城にあんな娘といいなヤレたらいいなをリアルでやろうとしてたんだよ。いや、ゲームの世界だからバーチャルか? とにかくこいつら、最低最悪の吐き気を催すほどのロリコンだわ。そういうのは頭の中だけに……いや、頭の中で考えられるのもマジ気持ち悪いわ。もういいよ、お前ら全員ネットゲーム児ポ法違反で俺が断罪してやる。夢の児ポネット激打を加えてやる」
『勝手に暴力を振るった上に勝手に人をロリコン扱いしないでくれ! 俺たちはそこのゆっきーに用があるんだよ!』
「その割にはこいつ嫌がってんじゃねえか。用って何だよ、聞いてやるから言えよ」
『な、なんでお前に理由を話す必要が――』
股間を押さえたまま反論しようとした鳥男に近づき、俺は容赦なく顔面崩壊ハンマー発動。
顔面にヘッドバッドをくらい、哀れ鳥男のライフゲージはゼロに。そのまま地に崩れ落ち、動かなくなった鳥男を足蹴にしながら、俺は残る二人に上から語りかける。
「俺のイチモツを虚仮にした鳥は死んでろ。それで? こいつと同じ目にあって装備全ロストするか事情を話すか、お前らはどっちが好みだ?」
『な、何でプレイヤーを攻撃できるんだよ!? このゲームは……』
「話聞いてますかぁー? 事情を話すつもりがないなら、てめえらまとめて裸にしてゲームから強制引退決定なんですけどお?」
『わ、分かった! 理由を話すから聞いてくれ!』
そう言って、虎みたいな獣人が慌てて理由を話し出す。どうやら俺が鳥男の装備をマジで剥ぎ出したことに戦慄を覚えたらしい。
虎男の話の内容、それはギルド内の揉め事だった。
何でも結城はこの男たちのいるギルドに数日前まで所属していたらしく、一緒に冒険したり遊んだりしていたらしい。
ただ、結城がどうも絶望的にこのゲームが下手くそらしく、色々とギルドメンバーの足を引っ張っていたとのこと。俺にはよく分からんが、結城は回復職、ヒーラーなのだが、このヒーラーが下手くそだとボスとかが苦しいらしい。
んで、ギルドのメンバーも最初は仕方ない仕方ない言ってたらしいんだが、結城の下手くそさに我慢の限界がきたらしく、色々と指示をするようになったらしい。このときにこうしろ、ああしろって細かく指摘しまくってたとか。
そんな状況に耐えられなくなったらしく、我慢の限界を迎えた結城はギルドから勝手に脱退。結城が勝手に脱退したことが許せないらしく、こいつらはずっと結城を探していたらしい。そして先ほど、偶然見つけたのだという。
ギルドに連れ戻して説得という名の拉致を行おうとしていたら、俺が現れたと。虎男と背後からぼそぼそ付け加える結城の話を合わせた結果、こういう経緯らしい。
全てを聞き終え、俺は判決を下した。
「つまりこういうことか。テニスサークルに入った初心者の結城があまりに粗大ゴミ級の運動音痴で、毎回ミスする度に罵倒してたら結城が嫌気をさして勝手にサークル止めましたってことか。問題終わってんじゃねえか。女に愛想尽かされた分際で、未だにそいつのケツを追っかけてんじゃねえよダセエ。判決を言い渡しまーす、無様な男は死ね! 見てすらもらえねえって哀れだな! はっはー!」
「あの、斉木君もその、相坂さんに……」
過去一番つらい河合の突っ込みだった。
こいつ、人の傷口に塩を……俺の美穂はあれだ、何かの間違いなんだよ。元の世界に戻ったら俺と付き合うんだよ、くそが。
とにかく、こいつらに結城を連れてく権利なんぞ何一つないことが分かった。別に結城なんぞいくらでも連れて行っても構わんが、嫌がる女にどうこうしようって気概が気に食わねえ。こいつは俺の貴重な玩具だ、誰がてめえら何ぞに渡すか。よし、こいつらをおちょくって遊ぼう。
俺は結城の首元に腕を回して、上から目線で男どもを虚仮にしてやる。
「悪いけど、こいつもう身も心も俺のだから。お前らなんて眼中にねえから、振られた男は消えてくれる?」
「え、えええっ!? 何ですかその恋愛小説の悪役キャラみたいな台詞!?」
『な、なんだと!? 何を勝手なことを! そんなこと認められるか! ゆっきーはウチのギルドに戻るんだよ!』
「はっはぁー! 惨めな声で鳴くじゃねえか! ほら、結城、お前も言えよ? あいつらより俺の方が最高にイイってよ」
『あ、あんた達より、その、陽太の方がいい……』
「ああん? 声が小せえなあ? もっと大きな声で聞かせてやれよ! あいつ等と俺、お前はどっちがイイんだよ!?」
『陽太がいいっ! 私は陽太がいいっ! アンタたちはうるさくて怖いばっかりだけど、陽太は違うもん! 陽太といると楽しいもん!』
「ってことらしいぜ? そういうわけで、女一人満足させられないふにゃりん野郎は家に帰っていかがわしい本でも見てゆきちゃんゆきちゃんって涙零してろや? ひゃーっはっはっは! 惨めだなぁ、オイ!? お前らじゃ駄目なんだってよぉ! お前らとじゃ気持ちよくプレイできないんだってよぉ!」
やべえ、すげえ気持ち良い。なんだこの背徳感、すげえぞくぞくする。
惨めな男どもから結城を奪って馬鹿にすることがこんなに気持ちいいことだとは知らなかった。
これは是非とも、追い打ちをかけて男どもの精神をボロボロにしてやらねばなるまい。そうすれば俺はもっと高揚感が得られるはずだ。
そんな訳で更に結城を使って遊ぼうとしていた俺だが、無論そんなことを正義執行委員河合が許すはずもなく。
調子に乗りに乗った俺の脳天に杖を落下。痛みに転がりまわる俺をおいて、間に入った河合が男たちとの会話を行う。
「事情は全て分かりました。どう考えても雪ちゃんは悪くないです。ギルドを抜けるのは個人の自由、あなたたちに雪ちゃんをどうこうする権利なんてありません。むしろ、雪ちゃんのプレイスキルに対する暴言は見過ごせません。これは暴言として通報できる内容だと思います」
『う……で、でもこいつマジで下手なんだよ! どれだけこいつのせいで俺たちが迷惑を被ったか』
「それを優しく導いてあげるのが上級者プレイヤーではないですか。とにかく雪ちゃんを連れて行かせません。これ以上言うなら、GMに通報しますよ」
「さすが廃人河合先生は言うことが違った。いいぞ河合、もっと廃人常識をひけらかしてやれ! 頑張れ河合、お前が廃人ナンバーワンだ!」
「廃人は関係ありません! そもそも私は廃人じゃありません!」
応援したのに怒鳴られた。本当にこいつは訳分からんわ。
ただ、俺の暴言に加えて河合の正論が効いたらしく、野郎どもは完全に押されている。論破された奴ほど哀れなもんはねえな。
用は済んだとばかりに、ギルドの中に引き返そうとした俺たちだが、諦めの悪い惨め男はそんな俺たちに要求を突き付けてくる。
『な、なら勝負だ! どうやらそっちも彼女をギルドに引き抜くのが目的みたいだから、正々堂々と勝負しようじゃないか!』
「勝負って、たった今てめえら惨敗したばっかじゃねえか。仲間の鳥男はボロ雑巾にされるわ、目の前で他の男に靡かれるわ、お前らほど惨敗って言葉が似合う奴等見たことねえよ。惨めな敗北って書いて惨敗、うわ、お前らマジで惨敗だわ。まだ恥の上塗りをしようとか、ちょー笑えるんですけど」
『ウチはA級ギルド、有名プレイヤーも沢山集まってる新進気鋭のギルドなんだ! それをここまで馬鹿にされ、メンバーを引き抜かれて、はいそうですかって終われる訳がない! というか、このまま帰ったら、ギルドリーダーにチーム除隊される……』
「おい、何か最後情けなくなってきたぞ」
『頼む! どうか勝負してくれ! お願いだ!』
「……なあ、他のギルドってこんなめんどくさいのか? これ、ゲームしてて面白いのか?」
「上級者たちだけが集まるギルドはこういうところも多いですよ。ギルドリーダーが決まり、ルールを作って統制し、守れない人はクビって感じです」
「会社に縛られ、ゲームでも縛られ……マジで哀れだわ、もののあはれ過ぎるわ。んで? 勝負って、どんな無様な負け方をすればてめえは諦めるんだ。俺にボコボコにされるか、目の前で俺に結城を弄ばれるか、好きな方選べや」
「どっちも止めて下さい!」
河合の怒声ちょーこええ。なんだこいつ、何かいつも以上に機嫌悪くないか?
結城が来てから顕著な気がする。あれかね、表面は仲よしこよししてるけど、実は二人仲がくっそ悪いとかなのか。女社会マジ怖えわ。
げきおこな河合に恐々とする俺に、腰抜け野郎どもは勝負の内容を語る。
奴等が提案してきたのはタイムアタック。
三人一組でマトリーヌ洞とかいう場所のボス『フレイムヘビードン』とかいうボスを何分で倒せるか、最速を競うというもの。
戦闘タイムはよく分からんがシステム画面がどうこうで確認できるらしく、不正に嘘のタイムを報告したりはできないらしい。
つまり、変態男三人と俺、河合、先輩の三人で競うとのこと。タイムアタック、良いじゃねえか。マリモレーシングに命をかけている俺には魂が震える言葉だ。
奴等が出した条件に、俺は即座に頷いて了承する。
「いいだろう。その勝負、受けてやるよ」
「斉木君!? ま、まずいですよ! フレイムヘビードンは魔法耐性が高く、先輩や私の魔法が通じませんよ!? これでは圧倒的に不利……」
「いいか河合、俺にそんな常識は通用しねえ。魔法耐性だろうが何だろうが、俺が勝つと決めた以上、勝利は絶対だ。お前らは黙って俺を信じてりゃいいんだよ。結城、てめえも文句言わずに俺を信じてろ、いいな」
『う、うん……』
なんか目を潤ませて結城が見詰めてくる。なんだこいつ、ガンつけてんのか。誰のために戦ってると思ってんだ礼儀の知らん小娘が。
ガンつけ返そうとするが、それより早く虎男が嬉々として俺の承諾を歓迎する声を上げた。
『それでは決定だ! もし俺たちが勝てばゆっきーを返して貰う! それで構わないな!』
「ああ、それでいいわ」
『では今から一時間後、マトリーヌ洞のボスの部屋の前の扉に集合だ!』
そう言って、惨めな野郎どもは俺達の前から去って行った。
その後ろ姿を眺める俺に、河合は困ったような表情を浮かべながら提案をしてきた。
「とにかく、対策を練りましょう。フレイムヘビードンは強敵です、耐性を整えて魔法以外の攻撃手段を確保しなければ……」
「そんな面倒なことするわけねえだろ。さ、中に入ろうぜ。今日も俺たちがどうやって元の世界に戻るかを話し合うんだよ」
「え、ええええ!? 今から一時間後にボス戦が待ってるんですよ!? 雪ちゃんの運命がかかってるんですよ!?」
慌てふためく河合に、俺は大きく溜息をつく。本当に真面目が服着て歩いてるお手本だな、こいつは。
頭をかきながら、俺は河合へと振り返り、肩を竦めて告げるのだった。
「あんなゴミどもとの約束なんざ守るわけねえだろ? ボスなんていかねえよ、勝手に盛り上がった馬鹿たちに付き合う暇なんて俺たちにはねえんだ」
「そ、そんな無茶苦茶な!? 雪ちゃんはどうなるんですか!?」
「結城はもらう。俺の貴重な玩具二号だ、あんなクソ共に返す訳ねえだろ。勝負はしねえ。あの馬鹿どもは、永遠に来ない俺たちをいつまでも洞窟の奥底で待ってりゃいいんだよ」
『ほええ……斉木君、頭いいねえ』
「感心しないでください先輩! 頭いいとかそんなんじゃないです、ただただ無茶苦茶なだけです! あと玩具二号って何ですか!? もしかしなくても玩具一号って私なんですか!?」
「言っただろうが、俺に常識なんてものは通用しねえってよ」
「常識を無視してるだけじゃないですか!?」
切れ切れの河合の突っ込みに満足しつつ、俺は小脇に結城を抱きかかえてギルド内へ入るのだった。
しかし、こいつ急に抵抗しなくなったな。さっきまでこういうことされるとジタバタ暴れてたくせに。まーたやる気スイッチオフになってんのか、先輩に乳首押して貰うか。
三時間後。俺たちはマトリーヌ洞へと足を運んでいた。
結局あの後、男たちが俺たちの元に現れ、頭を地面に擦り付けて『お願いします、勝負して下さい、ギルドをクビになりたくないんです』と懇願してきた。本当に惨めだわ、こいつら。
色々と結城を使ってネチネチと甚振った結果、勝敗に関わらず結城にはもうノータッチだと約束させた。じゃあ勝負する意味ねえじゃんと思うのだろうが、とにかくこいつらは『勝負をした結果』という理由が欲しいらしい。本当、社畜って表現がぴったりだわこいつら。どんだけクビになること恐れてんだ。
あまりに哀れだったせいか、女性陣が口をそろえて少しだけでも付き合ってあげようと言った時のこいつらの喜び様といったら。お前ら目を覚ませよ、本気で哀れまれてんだぞ、生類哀れみの令発動だぞ。
そんな訳で俺たちは洞窟進行形という訳だ。はあ、めんどくさい……俺たちぁこんなことしてる場合じゃねえんだよ。早く元の世界に戻る方法みつけねえと、俺の相坂が野上のクソ野郎にあんなことやこんなことを……ああ、また軽く死にたくなってきたわ。俺の相坂になんてことしやがる。
一人鬱鬱としていると、横から延々と楽しげに語りかけてくる馬鹿一人。やかまし小娘結城である。
『ねえねえ、本当にゲームの世界に入ってるの? 冗談じゃなくてリアル?』
「うっせえな、気になるなら明日二年B組にいって俺と河合の状況訊いてこいよ。こんなくそ面白くねえ冗談なんか言わねえよ」
『えええ……早く元の世界に戻って来てよ。陽太いないと私学校行く理由ないじゃない。陽太いないと行かない』
「何俺を理由にして引きこもり続行しようとしてんだ、ぶっとばすぞお前。あと、何勝手に俺のこと陽太なんてファーストネーム呼び捨てにしてんだこら。『世界で一番格好良くて素敵でハードボイルドで抱かれたい男ナンバーワンの斉木陽太先輩』だろうが、ああん?」
『ねえねえ、陽太は好きなゲームって他に何があるの?』
「うるっせえええええええええ! どんだけ俺に構ってほしいんだよおめえは! 近所のポメラニアンのぽめ子ぐらいうぜえ! ゲームはマリモレーシングこそ至高、いつまでも遊んでられる最高のゲームだ」
理由は微塵も分からんが、少し前からこいつ、何か異常に俺に懐いてきやがる。
どんだけ邪険にされても纏わりついて構ってコール。くそ、河合がめんどくさい系美少女なら、こいつは鬱陶しい系美少女だ。マジ最悪だわ。俺の苦手なタイプだわ。
少し前まで俺のことボロクソに言ってたくせに、何だこの変わり様。何度も引っぺがして二人に押し付けようとしても、すぐこっちに戻ってきやがる。マジでポメラニアンだわこいつ。先輩はぼけっとしたゴールデンレトリバー、河合はボーダーコリーって感じか。やべえ俺、テイマーだわ、職業学生やめてわんころテイマー名乗るわ。題して『俺と三匹の雌犬がゲームの世界で色々ヤるようです』。
しかし、ボスまでの道中、こいつの口が止まる気配がねえ。学校でぼっちなんじゃねえのか、会話できねえくらいのコミュ障じゃねえのかよ。何でいきいきしてんだよ。
結城の相手に疲れたので、俺は大きく溜息をつきながら河合へ視線を送る。難しい顔をしつつも、必要な時以外騒がないこいつがマジ女神に思えてきた。こいつ、マジで大和撫子だわ。
「河合、お前本当に良い女だわ。俺が間違ってた、お前最高に良いわ」
「な、なんですか急に!?」
「頼むからありのままの超絶死ぬほどめんどくさい河合でいてくれよ。めんどくさい河合マジ天使だわ」
「褒めてませんよね! 馬鹿にしてるんですよね!」
怒る河合とそれをひらひらと流す俺。
ああ、河合との会話のキャッチボールが心地いいわ。結城は駄目だ、こいつは会話のドッジボールだわ。
先輩はあれだな、会話の壁当てだ、どんなバウンドボールが返ってくるか微塵も予測がつかねえんだもん。
しかし、なんで結城のやつ、こんなに俺に食いつくんだよ……俺と河合がゲームの世界に閉じ込められて、脱出方法を探してる話はしたが、それに興味を示したなら河合相手でもいいじゃねえか。なんで俺ばっかり……変なの拾っちまったなあ。クーリングオフできねえかなあ。
俺は溜息をつきながら、適当に結城の相手をしながら道中を進んでいく。
道中の雑魚敵は、当然ながら全て先輩が魔法で一瞬でねじ伏せている。先輩魔法→回復アイテムの繰り返しだ。
おかげで俺のレベルも30を超えてしまった。何もしてないのにレベルがあがる、まさしく寄生だ。河合の肩を叩いて『寄生プレイして楽しいですか? 廃人なのに寄生するってぶっちゃけどうなの? プライドとかないの?』って言ったらぎゃーぎゃー怒られた。河合はあれだよ、見てるとなぜか構いたくなるんだよ、しかたねえ。
そんな感じで洞窟の最奥まで辿り着く俺たち。だが、扉の前に来ても奴らは姿が見えねえ。ああん? どういうことだ? 先に行くっつってたよな? 首を傾げる俺に、河合が意見を述べる。
「もしかしたら先に戦っているのかもしれません。最後の練習をやっているとか」
「勝っても負けても同じ結果なのに、練習なんてする意味ねえだろ。どーせ俺たちは全滅プレイでわざと負けるんだしよ。おら! 何俺たちを置いて勝手に遊んでんだこらぁ! さっさと出てこいやボケェ! 会社クビにされてえか!」
ガンガンと扉を蹴って奴等を呼ぼうとする俺。そんな俺の真似をして扉を楽しそうに蹴る結城。なんてことしてんだこいつ。
多分あれだわ、こいつ付き合う男に染まっちまうタイプだわ。俺は本気でこいつの将来が心配だ。性格のくそねじ曲がったゴミみてえな男に惚れなきゃいいが。
どれだけ蹴り続けても中から返事は返ってこない。俺は無視されることが許せねえタイプだ。ボス戦闘中だろうがしったことか。
扉に手をかけ、俺は勢いよく扉を開け放った。悠長にボスと戦ってる奴等の尻に蹴りくれてやるわ。意気揚々と扉を開けた俺だが、視界に映し出された光景に足を止めた。中にいたのは、巨大な赤トカゲの死体の上に腰をかけ、悠然と微笑むカマホモ。
『やあ、僕の愛しき主人公様。君のことを待ってい――』
閉めた。扉を全力で叩き壊すかのごとく閉めた。
厳重に締めただけじゃ足りねえ。取っ手部分を腰に下げていた剣で叩き壊し、二度と入れないようにした。
突然奇行を始めた俺を怪訝な目で見つめる女たち。完全に扉を使えなくした俺は、軽く息をついて、三人に何事もなかったかのように告げる。
「さ、帰るぞ。早く帰らねえと先輩たちの寝る時間がなくなっちまう」
「え、ええええ!? ボスと戦うんじゃないんですか!? 約束は!?」
「中を見たけど何もいなかったわ。どうやらあいつらボス指定間違ってたみたいだわ。ほら、早く帰るぞ。つーか帰らねえと拙い気がビンビンすんだよ! 俺の尻の穴がレッドアラームなりっぱなしなんだよ!」
「い、意味分かんないですよ!?」
「おら! ちんたらしてんじゃねえ! さっさと脱出魔法を――」
俺が口にできるのはそこまでだった。扉が勢いよく開かれ、中から風が吹き荒れて俺たちを室内へと吸い込んでいった。
まるで掃除機にバキュームされるように部屋の中に吸い込まれながら、俺は軽く息を吐いて思うのだ。こんな風になると予感してたよ、マジでカマホモ死ねよくそが。
神の石が淡く光り輝きました。
属性『テイマー』を石に記録します。
Σ(・ω・;)