12.異世界
「そーらよっと」
『うひゃっ』
小学校低学年くらいの妖精をギルドホームまでテイクアウトした俺は、小娘をソファーの上へと放り投げる。
俺が変なもんを持ち帰ったもんだから、室内の二人は驚き顔だ。ただ、先輩はすぐに笑顔に戻っていつも通り。河合は固まりっぱなしだ。ほんとこいつ咄嗟の状況に弱えな、アドリブきくのは突っ込みだけかよ。
ソファーに転がったまま、俺を睨みつけてくるどチビ。良い度胸だ、肝が据わってんじゃねえか。どうしてやろうかと笑みを零してじりじりと近寄ろうとした瞬間、俺は空を飛んだ。なんてことはねえ、河合が杖で掬い上げるように俺を叩いたからだ。そろそろ洒落にならんレベルじゃねえのかこれは。
床に転がる俺を放置し、河合は慌ててチビの元へと走り安否を確認する。
「だ、大丈夫ですか!? 何か変なことされてませんか!?」
『あ、う、うん、平気……って、あああ! アンタ、こいつと一緒に私の鳥を盗んだ一味!』
「あ、あのときの!? あああ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! 鳥を勝手に使って本当にごめんなさい!」
必死に頭を下げる河合。それとは対照的に目を丸くして呆然とする妖精。
どうやら俺の反応から、河合も上から偉そうに出てくるとでも思っていたのだろう。しかたねえ、俺も河合の頑張りを支えてやるか。
頭をぺこぺこと下げ続ける河合の頭をぽんぽんと叩きながら、俺は軽く息をついて妖精に語る。
「まあ、なんだ。こいつもこれだけ反省してんだ。ここは大きな心をみせて許してやるのが良い女ってもんだろ。ほら河合、反省の色が足んねえよ。頭の位置が高え、その膝はなんで空中に浮いてるんですか、誠意をみせるとき、人はどんな風に謝るんだっけ? ああん?」
『謝るのはこっちの人じゃなくてアンタでしょ!? 何仲間に土下座させようとしてんのよ!? しかも自分は全くやる気ゼロだし!』
「うわ、河合今の聞いた? こいつ俺に土下座しろって言ってきてるわ。土下座強要とかマジ引くんですけど」
「土下座させようとしてるのは斉木君でその対象は私じゃないですか!?」
河合に頭を下げさせて何とか場を収めようとしたが駄目だった。ちっ、しかたねえ。
妖精で遊ぶのも早々に飽きたので、俺は先輩にお願いしてこいつをオンボロギルドまで運んでもらうことにする。
「悪いけど先輩、こいつを一度さっきのボロ小屋につれてってくれね? あそこにこいつから借りてるからあげ丸を置きっぱなしなんだわ」
『いいよんよんっ』
ブイサインをして、先輩はチビと会話をしている。パーティーに入れてそれから転移魔法使うみたいなそんな感じだろう。
二人が一瞬にして消え、俺は大きく息をついてソファーに腰を下ろす。そんな俺に、河合はジト目を向けてくる。なんだこの反抗的な目は。
「何だよ、何かいいたいことあるなら素直に言えよ。いや、待て、俺の気分を害する内容ならオブラードに包んで言え。俺のハートは繊細だからな」
「斉木君ってあれですよね。全然素直じゃないですよね」
「んだよ? 俺は常に自分の欲望に素直で正直ものだっつーの」
「最初からエヴィーを返すために彼女をここまで連れてきたのなら、そう言えば怒られないで済んだのに」
「あれだよな、『私は何でもあなたのことお見通しだよ』って顔する女ってちょーめんどくさそうだよな。あれ、もしかしてだけどー! もしかしてだけどー! これって河合のことじゃーん!」
追いかけ回された。相変わらず足がくっそ速えこいつ。
河合が俺に馬乗りになり、杖を振り上げたところで先輩たちが帰還。素晴らしいタイミング、さすができる女は違うわ。
客人もいる手前、俺から渋々どく河合。なんかむかつくので尻触ろうとしたら、杖を横から振り抜かれ鼻先を掠めた。いあいぎりでも会得してんのかこいつは。
ひりつく鼻先を抑えながら、俺はももタレ丸をつれて満足そうな妖精に声をかける。
「よかったな、脱走した鳥が見つかってよ。一緒に探した俺たちに深く感謝するんだぞ」
『何勝手にストーリー作ってんのよ!? そもそもアンタが盗んだからこんなことにっ!』
「終わりよければすべてよしって言葉を知らねえのか。終わった後でぐちぐち言うようなら、てめえもめんどくさい村の村民にするぞこら。記念すべき村人二号だ」
「あの、斉木君、その村の一号って……」
河合の発言をスルーして、俺は妖精との話を切り上げる。
求めていたもんも返したし、これで終わりだ。さっさと帰れと扉を指差すが、なぜかチビは家から出ようとしない。あ? 何家に残ってんだこいつ、座敷わらしにでもなりてえのか。
仕方ない。俺は心を鬼にして、チビ助に早く帰るように告げる。俺たちは元の世界に戻ることで忙しいんだよ。
「ほら、用が済んだら帰れ帰れ。俺たちはスケジュールがいっぱい夢もいっぱいおっぱいがいっぱいなんだよ」
『ねえ、なんでアンタの名前、本名っぽいの? それと職業の学生って……』
「お前馬鹿か? なんでネットゲーム上で俺の個人情報見知らぬガキに晒さなきゃなんねーんだよ。黙秘しまーす、この線路を黙秘が通過しまーす、線の内側にお下がりゲームの電源をこのままお切りくださーい」
『む、むかつくこいつー! ねえ、教えてよ、気になるのよ』
意味分かんねえ。なんだこいつ、どんだけ俺の個人情報を漏えいさせようとしてんだよ。これこそGM呼ぶ対象じゃねえのかよ。
俺は面倒なあまり、視線を河合へと向ける。おらいけ忠犬、こういうのの相手はお前がするって約束だろうが。
俺の視線を受け、河合は少し考えた後、分かったとばかりに頷いて小娘へと近づいて話しかける。本当、河合って有能だわ。俺、最近こいつに惹かれ始めたかもしんねえ。馬鹿と会話した後、河合と接すると最高に癒されるわー河合マジ天使だわー。
「斉木陽太って名前は斉木君の本名です。彼は私立桜峰学園という高校の二年B組に通っていて……」
「頭沸いてんのか詐欺眼鏡! なんで俺の個人情報ばらしてんの!?」
「え? だ、だって視線を何度も向けられたものですから、私に代わりに説明するように言ってるのかと」
「ネトゲ廃人のくせに個人情報保護能力皆無ってクソじゃねえか!? 本当に河合は使えない村の使えないクイーンだわ! 立派なのは顔と安産型のデカ尻だけじゃねえか!」
杖の先端をケツにぶっさされた。やべえ、異世界に旅立てそう。カマホモが笑顔で手招きしてる。
俺が片手で尻を抑えてよろめいているなか、妖精の顔が見るからに曇った。なんだこいつ、さっきまできゃあきゃあ言ってたと思ったらいきなり落ち込んでやがる。やる気スイッチでもあんのか。
しかたねえ、再びスイッチを押してオンにしてやるしかあるめえ。俺は紳士だから、やる気スイッチなどといって乳首をダブルクリックなどという卑劣な真似はしねえ。そんなセクハラをするような男じゃねえからな。
ということで、俺は迷わず河合に指示を出した。
「河合、そこの落ち込んでるチビのやる気スイッチを押してやれ。両乳首を指で突いて『やる気スイッチ、おっぱいぼーん!』って叫べ」
「やりませんよ!? 絶対やりませんよ!?」
『やる気スイッチ、おっぱいぼーん!』
「って、やるんですか!?」
河合ではなく先輩が嬉々としてやっていた。やっぱこの先輩ただもんじゃねえわ、留年も怖がってねえし、マジリスペクトだわ。
ちっぱいを押されたチビはびくんと微妙にやる気を取り出したものの、その表情は冴えねえ。そんなチビにどうしたのと心配そうに問いかける女性陣。ち、どいつもこいつもお人好しが。ほうっておきゃいいのによ。しかたねえ、事情を俺も聞いてやるか、筋トレの片手暇だけどよ。
ソファーの上で腹筋を始めた俺を余所に、チビはぽつりと口を開く。
『じ、実は私も……桜峰学園の生徒なの。一年A組の生徒で……』
「いや、何あっさり個人情報ばらしてんだ。そういうのはネットに流しちゃ駄目だってパパママに教わらなかったのか。個人情報は大事にしろよマジで」
『頭の上に本名貼り付けてるアンタにだけは言われたくないわよっ!』
「あ? 何タメ口きいてんだお前? お前は一年、俺は二年、年上は敬え敬語は最低条件だろうが。年上に対する言葉遣いすら駄目なんて人として終わってんだろ。もう少し一般常識を学んでこいや。あと先輩、いつまでアンタ俺の乳首押し続けてんだ。俺の乳首押してもやる気なんてでねえわ、ぶっとばすぞマジで」
『えへへ』
「もうどこから突っ込んでいいのか分からないです……」
唯一の仕事である突っ込みを放棄した河合。お前が突っ込まねえと収集つかねえだろうが、もっと頑張れよ。
先輩の頭を叩いてひっぺがしている俺に、チビは俯いたまま再び話を続けた。え、まだ続けんの?
『私と同じ桜峰学園の人がいるのって、何か安心した……アンタ達、平日の昼間からインしてたってことは、学校さぼってたんでしょ? 仲間ができて嬉しいっていうか』
「おい、河合。こいつ、もしかしなくても登校拒否児って奴じゃねえのか。どうすんだ、俺、重過ぎる女はお前だけで腹いっぱいなんだけど」
「お、重い女ってどういうことですか!?」
「しゃーねえなあ……おい、妖精。お前も若い身空で平日から家に引き篭もってゲームしてんじゃねえよ。学校行け学校。学生は勉強が本分だろうが」
『アンタだって平日に朝からゲームしてるじゃないっ!』
「俺をお前と一緒にすんじゃねえ。俺だってこんなクソゲーの便所に跨ってバーチャル・ウンコしてるよりも学校で相坂と愛溢れる青春謳歌してえわ」
『元の世界に戻ったら、私がデートしてあげるね!』
「ポンコツな方の相坂はお呼びじゃねえんだよおおお! 妹を出せ妹を!」
『美穂は今日二年C組の野上君とデートでーすっ。実は美穂、最近彼氏さんをゲットしたのでしたー』
「あ、死にたい。もういいや、別に人生生きててもろくなことねえし、ははっ、殺せよ」
「ちょ、斉木君しっかりしてくださいっ!」
口から魂が抜ける俺。俺の美穂が野上ごときに奪われた。俺のダイナマイトボディが、サッカー部のエースごときに。
肩を河合にがくがくとゆすぶられ、なんとか俺は復活を果たした。もう本当、今すぐ死にてえくらいだけど、辛い現実こそ真摯に受け止めなくちゃなんねえ。
今はつらくても、これが人を成長させるんだ。とりあえず元の世界に戻ったらあの手この手を使って野上から俺の相坂を強奪してやる。
頭の中で色々考えてると、目の前のちんまい小学生もどきが俺に視線を向けてきている。なんだ、告白する前から振られた男を笑い物にしてえのか。ははっ、笑えよ、好きなだけ笑えよ。もう何も怖くねえわ。
『ねえねえ、私、雪。結城雪』
「ウキウキウッキーって何だよ。時代を逆行どころか種族を逆行してんじゃねえか。いや、そもそも人間じゃねえお前の祖先は猿じゃねえだろ。俺の見立てではトンボだわ。トンボが脱皮を百回くらい繰り返したらお前みたいな妖精になるわ。すげえなトンボ、蚊も食ってくれるし最強の人類の味方だわ」
『違う、名前! 私の名前、結城雪って言うの』
「……おい、河合。この世間知らずのガキにマジで個人情報の大切さを教えてやれよ。こいつ、エロビデオのスタートシーンの女優ばりにぺらぺら自己紹介してやがるぞ、なんとかしろよ」
「そんな卑猥な例えしないでくださいっ! でも、雪ちゃんでしたか。斉木君ではありませんが、あまり簡単に個人情報を流すのは……あ、私の本名は桜峰学園二年B組の河合玲夢って言います」
『私は三年A組の相坂智子ちゃんでーす! 気軽に智ちゃん先輩って呼んでね!』
「よし、お前らちょっと一列に並べや。まとめて闘魂ぶちこんでやる」
ぺらぺらと本名を名乗りだす二人に俺は突っ込まずにはいられない。
こいつらマジで頭沸いてんのか。なんでネトゲしねえ俺が情報保護を一番強く訴えかけてんだ。その俺の頭の上はフルネームなんだからギャグにしかならねえっつーのに。
女二人も同じ学校の生徒だと分かると、目に見て上機嫌になるチビ。落ち込みはどこいった。とりあえず俺は雑談を始めようとするチビ助の会話を制止して追い払うことにした。こいつがいると、俺たちの元の世界へ戻る冒険が始められねえだろうが。冒険する気もねえけど。
「ほら、用は済んだだろうが。満足したら帰れ帰れ」
『そんな邪険にしないでもいいじゃない! 同じ学校しかも学校さぼりの仲間じゃない!』
「俺たちはさぼりじゃねえっつってんだろ! 山よりも深く海よりも高い事情があるんだよ! 勝手な決め付けで話すんじゃねえ!」
「あの、斉木君、その例えだと、全然大した事情がないってことになるような……」
「とにかくお前は学校行けや! 学校さぼってゲームに熱中してるとロクな人間にならねえぞ! な、先輩!」
『そうだよっ! 私みたいに学校の先生から土下座されて頼むから進級してくれなんて言われることになるよ!』
「自虐過ぎです相坂先輩っ!」
俺たちの説得に、ウキウッキーもとい結城は頬を膨らませる。どうでもいいけどこのゲーム細かい仕草多いなマジで。
味方が誰一人もいないと理解したらしく、結城は大きく溜息をついて登校拒否の理由を語る。おい、いじめとかそういうのマジで止めろよ。重い話なんか誰も求めてねえんだからな。ソフトなの、ベリーソフトなのにしろよ。
『学校、楽しくないんだもん……入学して二カ月経つけど、周りの子の話に全然ついていけないし……つまんない』
「いや、そこは合わせろよ。つまんなくても合わせろよ、お前、学生の段階でそこに躓いてどうすんだよ。ネトゲで養ったコミュ力を最大限に発揮しろよ」
『タイピングと会話は違うもん。とにかく学校やだ。行きたくない』
「このガキ……俺は今、死ぬほど学校に行きたくて行きたくてしかたねえっつーのに! 俺の代わりにてめーがゲーム世界に永住しろや! 河合、お前も何か言ってやれ! ゲームの世界はクソだって、一秒でも早くこんな世界とはおさらばしたいって言ってやれ!」
「え? あ、えっと……元の世界、楽しいよ?」
「何お茶を濁したような言葉吐いてんだお前は! 今一瞬『この世界も楽しいんだけどなあ』なんて思っただろ!? ぜってえ思っただろ!?」
「そそそ、そんなことないですっ!」
『斉木君! 私は今でも君たちみたいにゲームの世界の住人になれたらって祈り続けてるよ!』
「ぽんこつは黙ってろ! ああもう、結城とか言ったか、お前マジで許せねえ! 俺が元の世界に戻ったら、意地でも学校に連れ出してやるわ!」
『え……』
「俺がどんだけ学校に行きたいと願ってると思ってんだ。それなのにお前、『ええーつまんないんですけどー? 学校が楽しいとか超うけるー』みたいな台詞言いやがって。絶対許さん、お前が嫌がることを徹底的にすると俺は今日決めた。お前の家に乗り込んで学校に叩きこんで休み時間もひたすら粘着してやるわ!」
呆然とする結城に、俺はふんぞり返って『結城が泣いて謝るまで嫌がらせを続ける計画』を語り続けた。
こういう引きこもりが過干渉を極度に嫌がることくらい、俺だって知ってる。そこをついて、これでもかってレベルで嫌がらせしてやる。泣いて謝ったらそこで手打ちにしてくれる。俺は女子供だからといって甘い顔はしねえ、男女平等に厳しく接するのだ。
『もうやめてよお!』と結城からそろそろ泣きが入ると思ったが、いつまでたっても奴から文句がこねえ。あれ? おかしいな。俺の予定では絶望の未来に豆腐メンタル小娘が泣きだす頃なんだが。
ちらりと視線を結城に向けると、そこには目をキラキラと輝かせたチビ助の姿が。あ? なんだこいつ、何で目を輝かせてんだ? 絶望は?
俺が言葉を止めていると、結城は眉を顰めて不満そうに俺に文句を言ってくる。
『続きは? 昼休み、私を教室に連れて男子の中に放り込んで何するの?』
「あ、ああ……そこで俺たちB組の七賢者と呼ばれる猛者たちの会議に参加してもらう。議題はMKB人気投票七位に上昇したセリカの胸は本物かどうか、だ」
『あんなの偽物に決まってんじゃん。パッド入れてないとあんな形でるわけないじゃん』
「馬鹿、お前、そんなはっきりいったら会議で斬首ものだからな。俺だってそう思うが、そこを割り切れないのがファン心理ってもんだろうが。如何に他の連中が傷つかないようにそのことを説明するのかが大事なんだよ。分かるか?」
『分かんないけど……そういうもんかなあ。それで?』
「その後は今回九位までランキングが下降したシオリの敗因についてだ。三本の指にも入れると思っていたシオリがなぜここまで落ち込んだのか、その理由を探らなきゃなんねえ」
『男問題しかないでしょ。シオリ、イナヅマのタケトと交際疑惑たったじゃん』
「脳みその代わりに豆腐でも入ってんのかお前は! それをいかにソフトに伝えるのかが肝要だって言ったばっかだろうが! もっと角が立たないようにだな……」
「……滅茶苦茶馴染んでますね、二人」
『だね! 仲良きことはいいことだよ!』
そこから俺と結城はひたすら学校での予定について語り合う。時々、何がしたいなんて意見を言ってくることもあったが、調子に乗るんじゃねえとシャットアウト。俺は厳しい男なのだ。でも、結城の奴、嬉しそうな顔しかしてねえ、変な奴。
結局どのくらい話しこんだのか分かんねえ。散々今後の予定を話し合い、俺と結城の会議は終了となる。
「いいか、話した通りの日程消化するんだからしっかり覚えとけよ」
『うん、楽しみにしてるわ。そうだ、連絡先教えてよ。暇なときとか連絡するから』
「ゲームの世界にいんのに持ってる訳ねえだろうが。俺は自分のアドレスも番号も空で言えねえんだよ」
『うー……じゃあ、また今度直接会ったら教えてよね。絶対だからね!』
「おい、河合、こいつなんとかしてくれよ……って、お前なにおっかねえ顔してんだよ。素でびびっちまったじゃねえか、仁王像かお前は」
「し、失礼なこと言わないでください! それよりも斉木君、さっきから雪ちゃんと遊ぶ予定のことしか話してません」
「……あ?」
河合の一言に、俺はこれまでの結城との会話を振りかえる。うん、学校で結城と何をするかしか話してねえな。あれ?
おかしい。このクソ生意気な小娘を絶望に沈めて外に追い出すはずがどうしてこうなった。話題を逸らしに逸らしやがって、とんでもないクソガキだ。
俺は結城を脇に抱え、ギルドの外へと運んでいく。急に抱きかかえられた結城は何事か頭に疑問符を浮かべるばかり。
そして、俺はギルドの外に結城を放ち、ついでに結城のものへと戻ったため、興味を失ったフライドチキン丸も外に出して、にっこりと笑顔で告げる。
「本日の営業は終了しました。またのご来店を全然待ってねえ。そんじゃあな」
『え、ええええ!? なんで、ちょっとー!』
扉を閉めて俺は結城を締めだした。
扉をどんどん叩きながら開けてと連呼してくるが華麗にスルー。呆然とする河合に向きあい、俺は白い歯を見せて口を開く。
「さて、今日も元の世界に戻るための作戦会議を始めるか」
「え、あ、あれ? 雪ちゃんは、その……」
「あいつは明日からの新生活の準備で忙しいんだよ。ネットゲームなんてしてる暇があったら、学校さぼった分の学業を取り戻さなきゃなんねえんだ。つーかあいつがいると話がずれて元の世界に戻る行動に出れなくなる。邪魔者は消す、それだけだ」
「あ、あれだけ雪ちゃんの気分を盛り上げたのは斉木君じゃないですか!? その気にさせるだけさせて捨てるんですか!?」
「おい、馬鹿、やめろ。なんだか俺がイケナイ男のように聞こえるだろうが。俺は結城を危険な目に合わせたくねえだけだ。これからの戦い、結城ごときではついてこれそうもねえからな」
『雪ちゃん、さっきステータスみたけどレベル79だったよー。なんと斉木君にトリプルスコアだっ! しかもヒーラーだからパーティーに必須人員だね!』
「だってあいつ、うるせえんだもん。近所のポメラニアンみてえにキャンキャン吠えやがって」
「最低な本音を言わないでくださいっ!」
扉の外から半泣きになった結城の声が聞こえてきた。なんでゲームでチャット打ってるだけなのに、涙声になってんだあいつ。
流石にこの状況は英国紳士ならぬ冷酷紳士な俺でも堪えてきたぞ。ジト目の河合、なんだよ、俺が悪人みてえじゃねえか。
別に虐めてるつもりはねえっつーのに。俺は大きく溜息をつきながら、扉の方へと歩いてく。べ、別に結城のために扉をあけてやるんじゃねんだからなっ!
扉まで近づくと、結城の声が収まっているのに気付く。お、泣きやんだか。だまってりゃ河合に負けないくらい美少女だし、それくらいが男受けもいいんじゃねえのかね。
そんな失礼なことを考えつつ、扉を開けると、そこには予想外の光景が。
結城を取り囲むように集まっていた男キャラ三人。怯える結城。あ? なんだこれ? まさか欲求不満を持て余してる俺にマジもんのシーンでも見せるつもりか? 馬鹿が、あれは演出だから興奮するんだろうが。マジもんみておっ勃つわけねえだろ。ましてや結城みてえなガキに。
俺の姿に気付いた結城は、あわあわと慌てて俺の背中に隠れる。あ? 何かくれんぼしてんだこいつ。童心に帰り過ぎだろ。
そしてそんな結城を追いかけるように、今度は俺を囲い込む野郎ども。左から順にムキマッチョの人間、虎みたいな獣人、背中に羽の生えた鳥人。険悪な空気の中、俺は肩を鳴らしながら目を細めてむさくるしい奴等に口を開く。
「俺様の別荘の前でなにガキ追いかけまわして興奮してんだ、こら。回答次第じゃてめえら一人残らずまとめて、俺の手でその顔面キャラメイクし直すぞ、ああん? ビデオ撮りするなら、こんな鳥がらじゃなくて、もっと巨乳のねーちゃんに札束積んで契約してから俺の前にこいや」
『な、なんだお前! お前には関係ないだろ! その役立たずを返せよ!』
「あああん? 誰のナニが役立たずだこらあっ! 実物見たことねえのに、人のグレートカノン砲馬鹿にしてんじゃねえよ、くそがっ! 実戦経験ねえのがそんなに悪いのかボケぇ!」
思わず目の前の鳥人間の股間を蹴り上げてしまった俺に罪はねえ。ぐんぐん減っていく鳥男のライフゲージに、連中はびびったのか慌てて俺から距離を取る。くそどもが、他の何が馬鹿にされようと、男がイチモツを虚仮にされたらその時点で戦争だろうが。一人残らずぶっ潰してやる。
先ほど、俺に鳥がらと言われたことで怒り狂っているのか、背後からげしげしと結城の蹴りが俺の背中に入ってるが、お仕置きは後回しだ。
今は俺の愛息を舐め腐った奴等を処理するのが先だ。河合の杖にぶっ刺され、未だズキズキと痛む尻を片手で押さえながら、俺はゴミ共に怒りを向けるのだった。
神の石が淡く光り輝きました。
属性『異世界』を石に記録します。
(  ̄д ̄;)