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11.召喚術

 






 ブチ切れた河合にひたすら機嫌取りをしていると、先輩がログインした。

 転移魔法でも使ったのか、ボロギルド内に一瞬で姿を現した先輩は、最高の笑顔で俺たちに一言。


『ただいまー! 今日は何してあそぼっか?』


 とりあえず足元の変なクッションみたいなアイテムを先輩の顔面に投げつけた。

 クッションを顔面に受けても動じず、首を傾げる先輩。この天然馬鹿に俺は分かり切ったことを改めて説明することにした。


「先輩、俺たちはネトゲで遊びたいんじゃねえんだ。元の世界に一秒でも早く帰りたい訳だ。遊ぶ暇なんて微塵もない訳だ」

『そうだったね、ごめんごめん。私、早く二人と遊ぶことで今日一日頭がいっぱいだったからっ。えへ』


 殴りたい、この笑顔。智子先輩、俺たちがゲームの世界に閉じ込められているって危機的状況、本当に理解してんのか?

 そんな天然百パーセントな先輩に、俺はせっつくように問いかける。


「それで、どうだった? 学校で俺たちに関する情報に何か変化はあったか? 昨日の話では、意識不明になって病院に運ばれたんだろ?」

『えとね。美穂からの話を聞いた感じだと、女子全員で玲夢ちゃんに何かできることないかって話が持ち上がってるらしいよ。千羽鶴折ろうかみたいな話とか、寄せ書き書こうかみたいな話とか、とにかく玲夢ちゃんが早くよくなるように何かできることはないかって感じで』

「みんな……」


 先輩の話に涙ぐむ河合。なんだ、クラスの奴等、なかなか良い奴等じゃねえか。

 これは男子連中の俺に対するお見舞いも期待できそうだな。なんつったって俺はクラスじゃ人気者だからな。

 ワクワクしながら待つ俺に先輩は今度は男子のことを語り始めた。


『男子も斉木君が早く元気になるように行動してたって美穂が言ってたよ』

「ふふん、男子連中も俺がいなくて寂しいようだな。いなくなって初めて分かるありがたみってやつか。それで、俺にはどんな捧げ物をしてくれるんだ? あいつらのことだ、俺の心をしっかり理解し、心から願うものを送ってくれるだろうが」

『美穂が聞いた話では、斉木君のために沢山エッチな本を買うつもりなんだって。男子たち曰く、巨乳特集本、それが一番斉木君が喜ぶだろうからって』

「心を理解し過ぎるにもほどがあるだろうが! 俺の相坂になんつーこと言ってんだあいつら!?」


 くそが、相坂がドン引きしてる光景が目に浮かぶ。最悪だ、あのクソ共、元の世界に戻ったら一人残らず電気アンマの刑に処してやる。

 河合の奴、今の話を聞いて俺から半歩離れやがった。河合のくせに生意気だ、断固許すまじ。『心配しなくても巨乳じゃねえお前になんて微塵も欲情しねえよ自惚れんなタコ』って言ったらまたアイテム投げられた。頭から回復液が滴って寒いわ。

 しかし、先輩の話を聞く限りだと、現実の世界の俺たちは未だ意識取り戻せねえ感じか。ここに俺たちがいるんだから、当たり前っちゃ当たり前だが……無意識でもいいから、勝手に体動かして学校行ってくれねえかな、俺の体。出席日数だけ稼いでくれたら、それでいいんだが。

 叶うはずもない願いを胸に抱きながら、俺は話題を戻して先輩に話しかけた。


「そんな訳で俺たちに遊んでる暇はない。一刻も早く元の世界に戻る方法を見つけなきゃならん」

「でも、方法分かりませんよ?」

「当たり前だろ。分かってないんだからこそ見つけるんだよ、探すんだよ。ほら、良い案を出せ! 眼鏡のくせにアイディア出さないなんて眼鏡ポジション解雇するぞ!」

「眼鏡ポジションって何ですか!? あと今は眼鏡かけてません!」

『だから、魔王を倒してみようよ魔王! きっとこういう展開のお約束はゲームクリアが条件で、魔王を倒せば元の世界にしゅびびびーん! って感じで戻れるんだよっ!』

「魔王退治ってレベル上げてシナリオ進めて……うわ、超めんどい……だいたいそんなお約束で元の世界に戻れたら苦労はしねえんだよ。もし、そんな方法で元の世界に戻れたらケツからスープスパ食ったるわ」

「それ、食べるって言うんでしょうか……でも、もしもの可能性もありますし、やっぱりここはストーリーを……」

「いーやーだ! クエスト受けて、ボス倒して、迷宮まわって……そんなサイクルを延々繰り返して、いったい何を得るっつーんだ! 俺はそんな敷かれたレールの上を歩く人生はまっぴらごめんなんだよ! 途中のシナリオ全部すっとばして最初からラスボスと戦えるなら考えてもいい」

「なんて滅茶苦茶な……」


 何とでも言え。お前は魔法が使えるようになって、魔物退治したくてたまらないかもしれんが、俺の身を考えろ。

 俺が使えると特技は顔面を大地に叩きつけて顔面崩壊を引き起こす『顔面崩壊ハンマー』しかねえんだぞ。これが唯一の攻撃手段だっつーのに、これから雑魚敵だボスだと戦ってみろ。

 『敵が出たぞ! 倒せ!』→顔面崩壊→『ボスが出たぞ! 潰せ!』→顔面崩壊→『俺たちをこの世界に閉じ込めた黒幕が出たぞ! 殺せ!』→顔面崩壊。俺の顔、元の世界に戻る頃、絶対もとの原型留めてねえだろこれ。

 俺の美顔をお好み焼き状態にする訳にはいかん。しかし、顔を守るために強引に反対したものの、これといって元の世界に戻るアイディアがないのも事実なんだよな。

 なんか良い方法ねえかなあ。一発で元の世界に戻れるような、画期的な方法。

 先輩の魔法でホームギルドに戻って、ソファーに腰を下ろしながら俺は一人思考する。河合は先輩とギルド加入の手続きを行っていた。まーた河合の廃人レベルがこれで上がってしまうのか、あいつ自分の廃人ぶりを俺に隠さなくなってきたな。またそのことを後で弄ってやろう。


 良い考えも思い浮かばず、仕方ないので俺は二人を置いて街へと飛び出した。

 こういう煮詰まった状況で良いアイディアは便秘のウンコのごとくでねえもんだ。こういうときこそ、頭を問題から一度切り離してしまうのが肝要。そうすれば良いひらめきも生まれるってもんだ。

 うんと伸びをして、俺は街を歩いて気晴らしを行うことにした。とりあえず街にいるNPCらしき村人のおっさんに声をかける。俺はいつでも挨拶を忘れない礼儀を知る男なのだ。


『ようボウズ! ここから南にあるマトリーヌ洞にはもういったか? あそこはファイアトカゲが生息してるからな、回復薬を買いこんでから向かうんだぜ。気をつけて行けよ!』

「誰が坊主だ、俺のトリートメントばっちりのモイッシュな髪が目に入らねえのか。マドレーヌだか何だか知らねえが、危険なモンスターいるって分かってる所に向かわせようとすんじゃねえよ」

『ようボウズ! ここから南にある……』


 俺の問いかけを無視して同じ台詞を繰り返す親父。俺は無視されるのが何よりも嫌いなんだよ。

 親父の被っていた帽子を道具屋の屋根に放り投げ、俺はさわやかに街中を再び歩き出す。次は何をして遊ぼうかと考えていた俺だが、街をゆく俺の背中に響いてくる小娘の声。あ? なんだ?

 一瞬他人に叫んでるのかと思い、無視を決め込んで歩き去ろうとしたが、そういかないらしい。俺の背中に再び響く小娘ボイス。


『ちょっと待ちなさいよ! そこのあんた! 斉木陽太!』

「あ? こら、どこのどなた様だか知らねえが、初対面の相手を呼び捨てするなんて良い度胸じゃねえか。俺は人を呼び捨てにするのは好きだが、されるのは大嫌いなんだよ」


 首をぐるんと回して、俺は罵声の飛んできた方向へ視線を送る。

 そこには蒼髪をした、意志の強そうな釣り目が特徴的なちんまい妖精がいた。頭の上には『・ゆっきー・』って書いてある。点ゆっきー点ってなんて読むんだこれ、変な名前な上に知らねえ顔だな。初対面だわ。しかしこいつ、初対面のくせに人を呼び捨てにしやがって。許さん。

 人生とは礼節に始まり礼節で終わる。人に対して汚い言葉を平気で使う奴なんてロクな奴じゃねえ。俺が礼儀の大切さを教えてやるわ。

 軽く肩を鳴らしながら、俺は妖精にびしっと指をさして礼儀正しい言葉遣いで諭してやった。


「仲の良い相手でもない人間に汚ねえ言葉遣いしやがって。礼儀ってもんをしらねえのかくそぼけが」

『あ、アンタの方がよっぽど口汚いじゃないのよ!』

「うっせえ俺はいいんだよ。それよりてめえ、何で俺の名前を知ってやがる。どこの組織の回しもんだ、マリモレーシングを潰す会の一員か」

『頭の上にプレイヤーネーム表示されてるじゃない、ばっかじゃないの!?』

「ば……なんだろう、このクソ生意気なチビを見ていたら、河合が女神に思えてきた。あいつ、すげえ良い女だわ。そしててめえはクソだ。クソチビ、俺にいったい何の用だ。初対面の俺を呼びとめたからには、何か重大な用事があるんだろうな。なかったらそのちんまい体ごとスムージーにかけて『妖精の秘密のエキス』って名前で一杯600円でその辺の奴等に売りつけてやる」

『初対面じゃないわよ! 返してよ、私の鳥!』

「初対面云々って少し前にこのやりとりした気がすんな。鳥ってなんだよ、ペットのオカメインコでも脱走したのか」

『私の移動用鳥獣エヴィーのぷーちゃん! あんた私から奪っていったでしょ!? どんなバグやチートを使ったのかしらないけど、返しなさいよ! 今返してくれたらGMに通報しないで済ませてあげるから早く!』


 妖精の言葉に、俺はやっと用件を理解した。この妖精、俺と河合が午前中に街の外で強奪したもも丸の持ち主じゃねえか。

 こいつの口ぶりからして、どうやら奪われたもんを取り返しにきたらしいが……拙い。レバー丸は河合の旧ギルドのホームに置いて来ちまった。

 取りに戻るのもめんどくせえし……よし、自分で取りに行かせよう。俺は今、色々と多忙だからな。


「そうか、分かった。そこまで言うなら返してやる」

『なんで上から目線なのよ……ったく、鈴を鳴らしても戻ってこないから困ってんだから。サポセンに連絡しても返信こないし』

「ここから適当にいった先のなんとかって街の次元を超える船に乗っていった先のよく分からん街の寂れたギルドホーム、そこにお前の求めてるものがある。とってこい」

『適当とか何とかとか具体的な名前何一つ出てきてないじゃない!? そんなの探せる訳ないでしょ!? しかも何で私が探しにいかなきゃいけないのよ!?』

「うるせえな、街の名前なんていちいち覚えてらんねえよ。それにほら、お前らゲーマーは冒険好きだろ? 冒険してこいよ冒険。わずかなヒントを頼りにクエスト達成して充実感味わってこいよ」

『そんなヒントで見つけられるか! ぶっ飛ばすわよ!?』


 あ? ぶっ飛ばすだあ? この妖精、人が死ぬほど優しくしていれば調子に乗りやがって。

 怒髪天をついた俺は妖精に向かって命の大切さを語ることにした。


「いいかチビ助、そんな気軽にぶっ飛ばすとか言うんじゃねえよ」

『う……ご、ごめん』

「人をぶっ飛ばすってことは、人を傷つけるってことだ。それはつまり、命を粗末に扱うってことだ。俺はな、気軽に死ねとかくたばれとか言う人間が許せねえんだよ! 人に死ねなんて言ったり、暴力に訴えるなんて最低のクズだ、そんな奴は俺が自慢の拳でサンドバッグにしてぶっ殺してやるわ!」

『なんで一言の中に矛盾が生じてるのよ!? あーもう、早く鳥返して! 私の鳥! 鳥!』

「鳥鳥うっせえ! いねえもんはいねえんだからしょうがねえだろ! 無い袖は振れねえんだ、諦めろや!」

『諦められる訳ないでしょ!? もともとは私の鳥なのに、アンタが勝手に盗んだから!』

「盗んでねえよ! ちょっとだけ借りただけだ! そして鳥は既にお前に返してあるだろうが! ただ場所が少しだけ遠いだけだ!」

『それ返したって言わないじゃない!』

「お前の常識で物事を語るんじゃねえよ! 一般常識で物事を語りやがれ!」

『なんでその台詞をアンタが吐くのよ!? 私の台詞でしょ!?』


 俺と妖精の激論はヒートアップしていく。売り言葉に買い言葉、次々に飛び交う罵詈雑言の嵐。

 そんなことを街中でやっていれば、当然人目も集まる。俺たちを取り囲むように集まる他のプレイヤー達。

 くそ、また注目集めちまった。しかも、こんなくだらねえことで。一刻も早く抜けだしたいが、チビが俺を離そうとしねえ。

 やがて、俺たちの口論の内容を聞いていたプレイヤーたちがチビ助の味方をし始めやがった。『君が悪い』だの『さっさと返してやれよ』だの、鬱陶しいメッセージがやたら飛んでくる。

 周囲からの俺が悪い、謝れコール。勝ち誇る妖精。

 この光景は覚えがある。これはあれだ、俺が小学生の頃、ホームルームで女子たちに吊り上げられた状況によく似ている。

 俺だけが立たされ、そこから始まる女子たちの罪状報告。斉木君がスカートめくりました、斉木君が私のことブスって言いました、斉木君が私のノートの名字を三木から玉木に書き変えてました等など……あれはつらい時間だった。

 俺は女子連中に必死で言い訳を重ねたが通じなかった。

 『スカートめくってません風が吹いただけです』『附子って毒の知識自慢をしたかっただけです』『てめえの名字はなんか夢の国の住人っぽいから変えてやったんだよむしろナイスファインセーブだろうが』。

 くそ、そんな悲しい思い出が甦っちまった。女子連中、面白がって次々俺の罪状並べたてやがって。


 そんな俺のデリケートなトラウマを容赦なく抉ってくるなんて絶対に許せねえ。

 折れた剣を大地につきたて、俺は再び力強く大地を足で立ち上がる。負けねえんだよ、負けられねえんだよ、俺は! 男には引けねえ戦いがあるんだよ!

 大きく息を吸い込み、俺は妖精と周囲の馬鹿どもに絶叫。


「うるせえええええええええ! 一人じゃ何もできねえカスどもが群れてネチネチ言ってきやがって! 文句あるなら一人一人かかってこいやこらあ!」

『論破されたもんだから切れてやんの。だせー』

「うるせー猫耳男! その尻尾引っこ抜かれてえか! そもそもてめえを含めた人外どもは魔王退治じゃなくて勇者退治する側だろうが! なに調子こいて人間様側についてんだこら! まとめて剥製にしてやろうか! 絶滅危惧種レッドリストに載せられてえのか!」

『あーこれ暴言だわ。間違いなく暴言だわ。通報だわー。GMきちゃうわー。召喚決定だわー。アカBANお疲れー!』

「何言ってるか分かんねえんだよ! シーエムだかエスエムだか何だか知らねえが、呼びたきゃ呼べや! おら! 俺は逃げも隠れもしねえからさっさと頼みの綱のエーエムとか言う奴呼べよ! てめえらの自慢のお友達を召喚してみやがれ! 俺がこの拳でぶっ潰したるわ! 一週間前不良漫画を読破した俺を舐めんじゃねえぞ!」

『通報しました』『通報しました』『通報しました』『通報しました』『フレンド申請されました』『通報しました』『通報しました』

「うるせえええええええええええええ!」


 次々浮かび上がる警告音と赤メッセージの嵐。

 よく分からんが、ジーエムっていうのはプレイヤーの強い奴か何かか。どこのゼネラルマネージャーか知らねえが、かかってこいや。

 そして、口論を続けながら待つこと数分。プレイヤーたちの歓声と共に現れる全身黒タイツ男……ただの変態じゃねーか!?

 こんなもんをこいつら頼りにしてたのかよ……哀れを通り越して笑えてくるわ。姿を見せたジーエムって奴が、俺に向けて早速上から目線のメッセージを与えてくる。


『暴言を確認しました。ただちに強制転移を行います。拒否権はありません』

「転移だあ? どこに転移するのか知らねえがやってみろや! 可能なら現実世界に戻してくれるとありがてえんだけどよ!」

『転移します』


 そう言って固まるタイツ男。微塵も動かねえ。なんだこいつ、フリーズしてんのか?

 周りから『GMどうしたんだ?』『もしかして排除できないのか?』『そんなことあるかよ』『バグ?』なんて会話が繰り広げられているが、どうやらこいつ、必殺技みてえなのが出せねえらしい。だせえ。

 俺は必殺技が出ないのをいつまでも出るまでまってやるほどお人好しじゃねえ。よく分からんが、こいつを倒せばこの喧しい奴等も散開するだろう。そう考えた俺はジーエムって野郎に足払いをしかけた。

 盛大にすっ転んだジーエム君に対してマウントポジション確保。指を鳴らしながら、俺は優しい口調でジーエム君に語りかける。


「けけけっ、いつまでもてめえがちんたらしてるから、先に足が出ちまったよ。そんで? いつ俺を転移してくれるんだ? ほら、やれよ? やらないの? ん? やらないんですかぁー? じーえむくぅーん?」


 挑発しても言葉が帰ってこない。なんだこのガンジーも真っ青な非暴力是服従主義者。それともマジでフリーズしてんのか? 

 耳を口元に近づけると、かすかな声で『アイディー存在しない』とか『ゲームキャラじゃない』とか『システム班の担当呼べ』だの聞こえる。意味分かんねえわ。

 とりあえず、このまま解放してやってもいいんだが、俺を舐めた連中に目に物みせるためにも、こいつはみせしめで潰す必要がある。必要な犠牲ってやつだ。俺は千人を救う為に一人を、俺を救う為に万人を犠牲にできる鉄の心を持つアイアンマンなのだ。

 俺はマウント状態のまま、黒タイツ野郎に唯一のスキルである『顔面崩壊ハンマー』を解き放つ。痛いのは嫌だが、なめられっぱなしっつーのはもっと嫌だ。よって断罪決行。


「くらいやがれぇ! おら! おら! おらあっ! キツツキさんに穴をあけられた木の痛みを思い知りやがれっ!」


 容赦なく黒タイツの顔面に打ちつけられ続ける俺の顔面崩壊ハンマー、もといヘッドバッド。

 十発くらい繰り返したら、黒タイツの頭の上のライフゲージが0になり、ぴくりとも動かなくなる。声も聞こえねえ。

 しんと静まり返った野次馬ども。そういえば、このゲームはプレイヤー同士の戦闘ができねえって河合が言ってたな。俺が黒タイツをぶっ潰したのが、衝撃だったらしい。

 だったら後は簡単だ。俺はにっと笑って周囲の連中を睨み、脅すように怒声をまき散らした。


「次はてめえらの番だ! ひゃっはー! てめえらみんなまとめてライフゼロにして、その無駄に豪華な装備全部はぎ取って捨ててやらあ! 装備だけじゃねえ、アイテムも金もだ! てめえらの数百時間をドブ水に帰してやるぜええええっ!」

『に、にげろおおおお!』

『じょ、冗談だろおい!? 『メアサガ』でPKができるなんて聞いてねえぞ!?』

『てかGMが倒されるゲームなんて前代未聞だろ!? まじやべえよ何だあいつ!?』

『いやあああ私のレアアイテムううう!』


 俺の脅しに屈し、野次馬共は蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。

 そして、その場に残されたのは、呆然と立ち尽くす蒼髪のどチビ妖精とぴくぴくと痙攣している全身黒タイツ。

 俺を見て、やっと状況を理解したのか、逃げようとしたチビを俺が逃がすはずもなく。全ての元凶である小娘をしっかりゲットした。

 離して離してと涙目でじたばたするチビ助に制裁を加えるために、俺は片手にぐったりとした妖精を持って意気揚々とギルドへ帰還するのだった。新しい玩具、みーつけたっと。















 神の石が淡く光り輝きました。



 属性『召喚術』を石に記録します。







 

( ;∀;)




河合さんの廃人たしなむていどのゲーマーによるワンポイント解説コーナー


GMゲームマスター

オンラインゲームの管理者さんで、不正なことをしたりするとプレイヤーさんをビシビシッとお仕置きする人のことです。

本来ならば斉木君のように倒したりすることなんて絶対に駄目です、そもそもできません。

もし、声をかけられたら神妙にお縄につきましょう。アカウント停止処置くらいで済ませてくれるかもしれません。


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