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大一鬼・第二章
『フェアリー英子』の続き。
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分かってる。これは夢だって。
でも、分かったからこそ、それが現実だったのだとも解ってしまった。
『クスクスッ、クスクスクスクスクスッ』
笑っている。妖精が笑って私を追いかけてくる。
隠れた私を探し出してくる。
『見ぃ~つけたぁ~~♪』
妖精の手が私の肩を掴む。
妖艶な笑みで、恐ろしいほど見下した笑みで、それは私に――、
『仲間になりましょう~~』
目が覚めた私は体中汗でびっしょりだった。
部屋の天井をしばらく茫然と眺めて、自分が夢から逃げだせた事を必死に自覚している。
まるで夢と現実の区別がつかなくなっているかのようで恐ろしかった。
「ここは……私の家。私は……燻白沢瑛子」
口に出して名前と場所を自分に教える。帰ってきた事を自覚させる。
……うん。もう大丈夫だ。
たくさんかいた汗で体が気持ち悪いのを思い出す事が出来た。
「……シャワー浴びよう」
わざわざ言葉にする必要なんてない。部屋にいるのは私一人なんだ。告げる相手などいない。でも、声に出して自分を確認したかった。今は現実で、あの夢から帰ってくる事が出来たのだと……、私は尾を引く恐れを掻き消したかった。
服を脱ぎ、浴室で温かいシャワーを浴びると、それだけで気持ちが落ち着くようだった。
温かいというモノは偉大なんだな。昨日も人肌の温もりがとても安心感を与えてくれたし。
私は汗を流すと、気持早めに着替え登校の支度をする。
「おはようございます」
部屋を出ると、空気が重くなりそうな低音の声がすぐ隣から掛けられた。
家で働いてる、がたいの良いサングラスの男性。名前は知らない。でも両親が部下として使っているところを何回か見た事がある。たぶん、この人は私の両親から何か命じられてここにいるのかもしれない。
「お嬢様、ご両親は仕事の都合上、しばらく戻ってこられないようです」
「そうですか」
「しかし、隙を見て何度か戻ってくるとの――」
「別にいい。仕事は大事」
「は、はい……」
私が倒れたからって仕事を放ったからしにして会いに来られても、申し訳ない気持ちになるだけだ。
でも今の言い方だと皮肉みたいに聞こえただろうか?
考えても仕方ない。考え出したら止まるどころか悪循環になるだけだ。
だから黙る。それ以上は言葉を交わさなくていいという意味を込めて。
だけど、その人は私が玄関の戸を開き、背中越しに閉じようとした瞬間、
「おやっさん達の事も考えてやってください」
ビシャンッ!!
自分でも驚くくらい大きな音が、玄関から響く。
つい力が入ってしまったようだ。
いつもこうだ。周りは皆両親の味方をする。
私は両親の仕事が大変な事も、それが重要なんだってことも解ってる。二人が私の心配をしていて、それでも来られないほど大事な立場にいて、罪悪感を感じながらも私と距離を取るような生活になってしまうのは仕方ない。
分かってる。理解している。不満はない。むしろ尊敬だってしてる。
親子の情に流されて、仕事をおろそかにして、他人様に迷惑をかけるよりずっといい。
だけど、その周りは好きに慣れない。
皆私が両親に反抗期に似た心境だと思って接する。
誰の時でもそうだ。昔から皆、私が親が今はどうしてるのかと聞くと決まって「お二人ともとても重要なお仕事をしているのです。ご理解ください」なんて、何も教えないで勝手に諭すような事ばかり言ってくる。
それが気に入らない。
あんまり嫌だった私は何も訊かなくなったが、それがまた逆効果だったらしく、私の態度は親に対する反抗期と取られたようだ。
ついに我慢できなくなった私は、一度だけ、つい口が滑ってこんな事を言ってしまった。
「この家、嫌い……」
家族との食事中だったのが悪かった。それで二人も誤解してしまったらしく、最近距離を感じるようになった。
それでも昨日は無理して来てくれただけ、やっぱり私の親なんだと思う。
でも、やっぱりこの家はつらい……。
あの時は弁解する気力が微塵も起きず、今では弁解しても誰も聞いてくれないだろう。
私は子供だから、子供扱いされるのは仕方ないけど……、大人の勝手な物差しで決め付けられるのだけは勘弁してほしい。
「い……っ、つっ!」
途端に頭が痛くなった。胸の辺りからも何かが込み上げてきそうだ。
辛い。吐き気がする。気持ち悪い。ここに居たくない。
私はゆっくりと足を進めていく。一歩一歩、どこに向かうのかも解らなくなってきそうだ。
ううん……、もう解ってない気がする。
このまま歩き続けてら、私はどこに行ってしまうんだろう?
どこでもいいか、ここでなければ……。
『クスクスッ、クスクスクスクスクスッ』
頭の中で、何かが聞こえる。
それはあの不快な声。
でも、今は不快じゃない声。
『クスクスッ、クスクスクスクスクスッ』
不思議と心地い。不思議と受け入れられる、不思議な笑い声。
『おいでおいで、一緒においで。仲間になりましょう~♪』
歌うように紡がれた言葉に、私は蜜を求める蝶のように導かれる。
『クスクスッ、クスクスクスクスクスッ』
『おいでおいで、一緒においで』
『クスクスッ、クスクスクスクスクスッ』
『踊ろう踊ろう、一緒に踊ろう』
『クスクスッ、クスクスクスクスクスッ』
『こっちこっち、こっちにおいで』
『クスクスッ、クスクスクスクスクスッ』
歌が導く。唄が誘う。
穴の空いた心に、何かで満たされるような不思議な気分に、私は酔う様に浸り、足を進める。
笑い声が、歌が、私を呼んでいる……。
「……そっちに行ったら」
もう、辛くない?
「秋、機械、鼬、ちりめんじゃこ、木枯らし、芝生、布巾……」
「え?」
雑音のように変な単語の羅列が、私の頭の中を突き抜けていく。
その雑音は、私の酔いを覚まし、注意を向けさせるのには十分で、私は思わず振り返っていた。
「あ、『ん』が付いちゃった」
特に気にしてないような屈託のない笑み。
セミロングに伸びた、艶のある黒髪。
肩幅が狭くとっても華奢で、なんだかお人形さん見たいに可愛い少女。
誰だか解って、その笑みが自分に向けられていると気づいて、おまけに不意打ちだったって事に驚いて、私は顔を真っ赤にして、それ以上何も考えられないほど、意味も解らない恥ずかしさに固まってしまった。
鬼裂姫が、私を眺めて嬉しそうにニコニコ笑っている。
6
「さんま♪」
「松」
「つみき♪」
「如月」
「ぎっ……、ぎぃ~~……?」
登校中、なぜか私は鬼裂としりとりをしていた。
意味は解らない。どうしてこうなったのかも思い出せない。
ただ、恥ずかしくて頭が真っ白になっている私に、鬼裂が話しかけてきて、適当に返答していたらいつの間にしりとりして登校する事になっていた。
「ぎんかん?」
「それ、きんかん」
「じゃあそれっ♪」
「しりとりじゃなくなってる。そもそもどっちにしても『ん』が付いてる」
「あや?」
小首を傾げて、自分の台詞を口に出しながら思い出し、理解すると「ああぁ~~~~!」と大げさに納得の声をあげた。
「朝からうるさい」
「あやや? ごめんなさい」
つい冷たい言い方をしてしまったが、鬼裂は特に気にした風もなく相変わらずの無邪気な笑みを向けてくる。
その姿が無防備で、なんだか羨ましい。
きっとこの子は、普通の家庭で育って、普通の生活を送っていて、だけどとっても特別で幸せな毎日を送っているんだろうな。
自分の家だって結構恵まれているのに、私は情けないのかもしれない。
この子みたいになれたら、私も今のような生活は送っていなかったのだろうか?
「眉間に皺っ!」
ビスッ! と、人差し指が私の眉間に突き刺さった。
あまりの早技に一瞬思考回路が停止した。
鬼裂は人差指で私の眉間をくりくりと軽くマッサージするようにこねりながら言う。
「そんな暗い表情してると陰気を寄せて、何かに憑かれるよ」
「つ、憑かれる?」
ちょっとその例えは冗談に聞こえない。
でも、たぶん怒ってるであろう鬼裂の表情は、子供が可愛らしくむくれてるみたいで全然迫力がない。
「うん陰気。陰気は妖怪にとって花の香り、匂いにつられて出てきたのが良い子なら大丈夫だけど、悪い子だったら悪戯されるよ」
にっこり笑い直した鬼裂は、でもなんだか今までより真剣な眼差しが少し怖い感じがした。
もしかして、この子は本当は何かを知っているのではないだろうか?
あり得ないと分かっているのに、私は勝手にそんな事を考えてしまう。これはちょっと怯え過ぎかもしれない。
この子の言うとおり、もっと気を楽にしていた方が良い。
「そんじゃあ笑顔になったところで、そろそろ学校行こう!」
「え、あっ!? 手ぇ……っ!?」
鬼裂は言うが早いか私の手を取ると、学校に向かって走り出した。
急な事だったので逃げる事もできず、そのまま手を引かれて走る事になってしまった。
なんだか少し恥ずかしくて少し顔に血が集まってしまう。
鬼裂と一緒に登校していて解った事がある。
「おはよう姫~! 今日も元気いっぱいね!」
「おはよう八千草さん! インコの伊衛門さんは元気~?」
「ちぃ~ッス姫っ子! 今日も元気いっぱいだなぁ!」
「ちぃ~ッス! マッキーは古文頑張んないとまた赤点だよ~!」
「あ、えっと……」
「おはようかごめちゃん。今日も園芸部のお花、見に行くからね~!」
「は、はいっ!」
「姫ちゃん、あんまり走るとまたこけるよ~~?」
「は~~いっ! 気おつけま~す。やっちー!」
鬼裂はただ皆から好かれているだけじゃなくて、朝の挨拶をした全員の名前と綽名を憶えていた。
挨拶してくる相手だけでも相当な人数だと言うのに、鬼裂は全員の名前を呼びながら手を振ったり、短い話題を振ったりしている。
この子が人気者なもう一つの理由は、この記憶能力にあるのかもしれない。
友達との些細な会話を覚えておいて、次回の話でそれを生かす。単純だが意識的にやろうとすると困難な方法だ。
意外と人間関係に器用なのかもしれない。
「おはよう。……おい姫。お前が連れてるそれはなんだ? ゆでダコか?」
ゆでダコと言うのはもちろん私の事だ。それは仕方ない。だってこの人通りも多くなった登校道で、ただでさえ目立つ女の子と手を繋いで走っていれば、恥ずかしくもなるというものだ。
「? 友達だよ」
そして、この子はそれを知っていか知らずか、能天気に微笑んでいたりするのだから……、呆れて言葉が出てこない。
「どうしたの瑛子? ほらほら笑顔だよ! 笑えば福が憑くんだよ!」
「福でも『憑く』って表現は怖い……」
「神様が降りてくるんだよ!」
「大げさすぎて有難味を想像できない」
そんな風にして私は鬼裂にめいっぱい恥ずかしめられてから教室に辿り着けた。
その時になってやっと気付いた。私、いつの間にか今朝の頭痛がしなくなってる?
今朝、鬼裂きに出会ってから私の体調はすこぶる良くなっていた。
まるで私の体調を見計らったかのような登場して、他人を元気にさせると去っていく。鬼裂姫は、なんだかとても不思議な女の子だ。
そんな不思議な少女の不思議な行動は意外にも、この後も続いた。
私が休み時間、お手洗いに立つと、まるでそれを見計らっていたかのように、鬼裂が表れ、
「男子から連れしょんするの仲の良い相手らしいと聞いた! 瑛子! 連れしょんって何か実践的に教えて~~~!!」
むろん言葉にできず、真っ赤になった私は硬直する事しかできませんでした。
幸いなのはその発言の後すぐに二人組の男子が表れ、鬼裂の両脇を捕まえて――、
「ごめんっ! ほっんとごめんっ!! お前があまりにも物事を素直に受け取るもんだから調子に乗った!!」
「俺達が悪かった! だからそんな事を女の子が言っちゃいけません! いや、マジでごめんっ!!」
――と、そのまま鬼裂を連れて行ってくれた。
昼休みになり、急いで出てしまいお弁当を忘れていた私は購買に向かい、そこで鬼裂と偶然出会う。
「あ、瑛子! 良かったらパン買ってきてあげるけど、何が良い?」
「別にいい。あの混雑から取りに行くのは大変」
「だからこそ萌えるんだよ!」
「萌えるの?」
「僕的には萌えるんだよ!」
「そ、そう」
「で、何かリクエストはない?」
「じゃあ、メロンパン」
一応競争率の低いモノを頼んだ。
「わかった。行ってくるね」
笑顔でそう答えると、混雑する購買部へ向けて突進していく。
「ふぎゃぁーーー!!」
そして一瞬ではじかれた。
「い、痛い……、痛すぎる……」
しかも例によって痛みに物凄く悶えている。
あれで本当に大丈夫だろうか?
結構悶えてから起き上った鬼裂は再度集団に向けて突進する。
だが、そのたびに一瞬で弾き飛ばされ、痛みに悶えてタイムロス。これはもう無理だろうって言葉に出さなくても良く解った。
さすがに鬼裂が涙目になってきた辺りで止めるべきだと思いいたったけど、そう思って声をかけようとした時、鬼裂は集団を睨みつけた。
「こうなったら最後の手段……これだけは卑怯だから使いたくなかったけど……」
そう言った鬼裂は手を交差させて、ゆっくりと両手を腰に溜め、目を閉じて精神を集中する。
その後しばらく、それっぽそうな「こーはー、こーはー」と呼吸をしていた鬼裂は、集中が高まったのか、カッ! と目を見開く。
「梅お姉さ~~~~~~~~んっ!! メロンパン一つ取っておいて~~~~~~~っ!!」
「分かったよ姫ちゃ~~~んっ!」
鬼裂の声に返事をしたのは購買のお姉さんだった。
「……」
「これで絶対メロンパン食べられるよ!」
「最初からこうすればよかったのでは?」
「それは萌えないんだよ!」
「萌えが重要だったの?」
「さして重要じゃないけど、楽しい事は必要な事なんだよ」
力強く言われて、私は返す言葉を失ってしまいました。
っと、いうか呆れてました。
ついでに補足すると、その後メロンパンを回収した鬼裂は「しまった!? 自分の分頼むの忘れてたよ!?」とドジっ子まで披露してくれた。
放課後になると、何故か鬼裂が現れてそのまま園芸部に連れて行かれたかと思ったら、花の観賞をさせられた。
嫌じゃないけど、かなり強制的に有無を言わさずだったので、あんまり素直に受け止める事が出来なかった。
おまけに会話の内容も「きれいだね~~~!」「さすが園芸部だね~~」とか取りとめのない話ばかりだった。
翌日になってもそれは変わらなくて、登校途中、鬼裂が後ろから抱きついてきた。
何かと思ったら、ただ単に私を見つけたのが嬉しかったから飛びついてきたらしい。犬みたいな習性だと思った。
珍しく体育の時間で一緒になって、バスケをやった。同じチームに入って息が切れるまで体を動かした。
鬼裂がはしゃぐので、自然と楽しくなって皆汗だくになるまで動いていた。
途中、覗きに来た男子がいたが、それもちゃっかり鬼裂に見つかり一悶着で終わった。
昼休みになり、何故か私は鬼裂の連れてきた初めて会う生徒とご飯をした。
放課後、また別のメンバーで公園に遊びに連れて行かれた。
この歳で砂遊びをして、ちょっと浮かれてしまった。
家に鬼裂からの電話が来て、少しばかり長話してしまった。
そんな毎日をしばらく過ごし、私はいつのまに楽しい毎日に浸りきってしまっていた。
時々私の方から鬼裂に声をかけるようになるほど、学校と言うモノが楽しくなっていた。明日もまた鬼裂に出会える。それがなんでか嬉しくて、胸の奥がぽかぽかしていた。
あの時こびりついた笑い声、家の人達への不満、それを忘れて、充実した日々に浸る。
それはとても温かくて、そして時の流れを瞬きの如く感じる一時。
だから、その話は私にとってはとても突然に思えた。
「え? 今なんて?」
「だから、鬼裂さん来週に転校するらしいの。今あっちこっちであいさつ回りしてた」
鬼裂が……、鬼裂が、もう……、ここからいなくなる……?
頭の奥で、忘れていたはずの笑い声が、また蘇ってきたような気がした。
『クスクスッ、クスクスクスクスクスッ』
『おいでおいで、一緒においで』
『クスクスッ、クスクスクスクスクスッ』
『踊ろう踊ろう、一緒に踊ろう』
『クスクスッ、クスクスクスクスクスッ』
『こっちこっち、こっちにおいで』
『クスクスッ、クスクスクスクスクスッ』
7
頭が痛い、お腹が気持ち悪い、目眩がする。
挙げ始めたら切りがないほどの状態悪化が私の中で渦巻いている。
苦しい苦しい。誰か助けて!
また鬼裂に出会ったら、話をしたら落ち着くんだろうか? あの温かさに触れたら安らぐんだろうか?
それはきっと正解なんだ。だって思い出すだけでこんなに胸がスッとするんだもん。
『クスクスッ、でもあの子はいずれいなくなる。あなたの傍にいなくなる』
「!?」
『クスクスッ、あの子にとって貴女なんてたくさんの友達の一人、貴女が特別なわけじゃない』
解ってる! そんなの解ってる!
『卑しく求め、醜く望む。クスクスッ、欲しいなら、欲するなら、こっちへ来て、一緒に……、クスクスックスクスクスクスクスッ』
笑い声が頭に響く、起きているのみ夢を見ているようだ。
もし本当に夢ならこんなにひどい悪夢はないと思う。
黒い何かにがんじがらめにされているような、とても息苦しい。
誰か助けて!
『でも、助けてくれた人は、何処かに行っちゃうよ』
やめてっ! やめてよ!
『欲しいなら、奪わないとなくなるよ?』
『クスクスッ、求めてるなら自分で取らないと、誰かに取られちゃうよ?』
『クスクスックスクスクスクスクスッ、望んだモノは、一度手放すと戻ってこないよ?』
じゃあっ! どうしろって言うのっ!? 皆私を知ってくれてない! 解ってくれてない! 理解してくれてない……! それならどうしたらいいの……。
『クスクスッ、クスクスクスクスクスッ』
『私達と一緒に踊りましょう?』
踊る?
『皆仲良く踊りましょう?』
皆で?
『そう、舞踏会を開くの♪ 貴女の手で、私達の手で、皆で一緒に踊りましょう♪』
父さんや母さんも?
『もちろん』
家の人達も?
『お呼びしましょう』
学校の皆も?
『招待状を作りましょう』
……えっと、
『クスクスッ、誰を一番に呼びたいの?』
お、鬼裂は……?
『クスクスッ、一番最初にご招待~♪』
……なら、
きっと……、
「…… おどりましょう ……」
『クスクスッ、クスクスクスクスクスッ、いらっしゃい、私達の新しい仲間』
8
「ん?」
何かに気付いたのか、鬼裂が肩越しにこちらに振り返る。
私は学校中探してて荒くなった息を必死に整えながら、鬼裂の元へ歩む。
「ハア……ッ、ハア……ッ、お、おにさ、き……」
「ど、どうしたの? 何か物凄く息が荒いけど?」
鬼裂が動揺して一歩下がってしまう。
夕暮れの廊下で照らされた彼女は、あの無邪気な姿とは裏腹に、何処か大人びて見えるのがちょっと不思議だ。
私の知らなかった鬼裂の姿がここにあった。もっと一緒に居れば、もっとたくさんの鬼裂を見られるような気がする。この無邪気で可愛らしい女の子の姿を、ずっと傍で、たくさん、一杯、……クスクスッ、クスッ。
「? 瑛子?」
ふいに鬼裂が今までとは違う、疑問の表情を私に向ける。
一般的には普通な、でも鬼裂には珍しい訝しむ表情。いや、もっとはっきり言って疑念を抱いた表情と言って良い。鬼裂にもこんな表情が出来るんだ。また発見した。クスクスッ、クスクスクスクスクスッ。
「……っ! 瑛子、もしかして―――!!」
鬼裂の表情がすごく焦ったものへと変わる。
たくさんの鬼裂が見られる。
なあ~んだ。最初っからこうすればよかったんだ。
最初っから受け入れていれば、欲しいモノは何でも手に入ったんだね。
私は内側に燻っていた何かを解き放つ。その瞬間、背中から蝶のような綺麗な羽が二対飛び出し、キラキラと眩い鱗粉をまき散らす。
「―――ッ!? せい……っ! ――よう……」
鬼裂の瞳が光を失う。こてりっ、と私の胸に倒れ込んできた。私は彼女を優しく抱き止め、その肌の温かさにたまらず力いっぱい抱きしめた。
うん……、やっぱり私はこれが欲しかったんだ……。
自分のやった成果に、確かな実感を得ながら、私は鬼裂を抱き上げながら沈む夕日を背に鬼裂に囁く。
「二人だけじゃ鬼裂は寂しいよね? すぐに皆も呼ぶからね?」
羽を羽ばたかせながら、キラキラと光る鱗粉をまき散らし、スキップするように廊下を跳ねる。
「さあ、皆一緒に惑いましょう……』
不思議と自分が自分でなくなっていく感覚を覚えながら、私はそれ以上の快感に、ただ酔い痴れていた。
だって、こんなに楽しくて、気持良くて、
―――こんなに幸せなんだもん……。
のん「まだ続くぞ」
姫「のんさん、すでにギリギリですよね?」
のん「言うな。これでも頑張っている」
姫「ところでこれってどこまで続くの?」
のん「お前が転校してから少しまで………。アニメ版『ぬらりひ○んの孫』のワンクール分ってところだな」
姫「短いよね………。本として一冊になるのかな?」
のん「文章量的にはいくだろ?」
姫「それって、ただ単にだらだら長いってだけじゃ?」
のん「次回もお楽しみに~~~!」
姫「のんさん………」




