4話 要と姉
本来は前話と合わせて1話でしたが、都合により分けました。今まで読んでくださっている方は、1~3話が微妙に変わりましたので、そちらを読み直してから読んで頂ければと思います。
カチャッ
「おい、奏」
「ああ?」
「なんだ、これは?」
「首輪だ。見てわかんねーのか?」
家へ戻った俺はさっそく要を自室に連れていき、黒い革製の首輪をつけてやった。ありがたく思えよ、ポチ。
「ふざけているのか?外せ」
「ふざけてねーよ、大真面目だ」
「・・・・・」
要は額を押さえると「はぁー」とため息ついた。俺に反逆したお前が悪い。
ガチャンと階下で扉が閉まる音がした。誰かが帰ってきたようだ。階下から声が聞こえた。
「奏ー?要ちゃん来てるのー!?」
まずい、帰ってきたのは我が姉のようだ。ドタドタと階段を上ってくる音が聞こえる。そして・・・俺の部屋の扉が開かれた。
「ちょっと!奏あなたまた要ちゃんをいじめてるのー!?」
首輪をつけた要を見た瞬間激高した我が姉の名は零。俺たちより1つ年上で、桜華学園高等部の新2年生だ。彼女はアヤと同様に男女問わず人気である。アヤ派とレイ派という派閥ができるほどに。見た目はストレートの黒髪で、それが似合う美人だ。さらにその美貌に加えて、1年生にもかかわらず、夏の終わりにはテニス部の副部長に任命されたほどテニスがうまい。昨年は一年生ながら全国大会で入賞するほどだ。
「いや、反逆されたから鎮圧しただけなんだけど」
「零さん、こんばんは」
「こんばんは、要ちゃん。待ってて今外してあげるから」
「ふざけんな、せっかくつけたのに!・・・なぁ、ポチ!」
俺がそう言うと姉は近くの本棚にあった六法全書を掴み、俺に振り下ろしてきた。ゴツっという音がした。
「いっ~~~~」
俺は声にならない声を上げて倒れた。
「もう子供じゃないんだから、いじめなんてかっこ悪いことはやめなさい!」
別にいじめじゃないし・・・反逆者を鎮圧しただけだし。俺のこの思いも虚しく、姉は要の首輪を外すと、俺に見せ付けるかのように要を抱きしめた。
「要ちゃん、リビング行こっか?」
「あ、はい」
姉のたわわに実った物に顔を埋めていた要は蕩けた様な顔のまま姉と部屋を出て行った。いつもクールな要は姉といるときだけ、幼いころの、弱気な少年になる。ほれた弱みというやつか?
いつまでも倒れたままでいるわけにもいかないので、俺は頭痛を我慢して立ち上がり、下へと降りた。
リビングへ入ると姉と要が会話していた。
「ねぇ、要ちゃん。今から夕食作るんだけど何がいい?」
「いえ、俺にはお構いなく」
「え~?未来のお嫁さんが作るって言ってるんだよ?」
「あ、あの・・・」
爆弾発言に要は耳まで真っ赤にしている。
「では、お任せで」
「しょうがないなあ。じゃあ適当になんか作るから待っててね」
そう言うと、エプロンを身に着けてキッチンへ移動した。3ヶ月ほど前、我が姉は要に恋していると気づいたみたいだ。その当時にベラベラ話し始めた姉は、日に日に男らしく成長している要を見ると、胸がドキドキいって苦しい。昔は弱虫な弟みたいに思ってたのになんでだろ?などと言っていた。自分の気持ちを認識してからの行動は早く。次の日から要にベタベタし始めたのだ。
「要ちゃん、ご飯食べ終わったら昔みたいに一緒にお風呂入ろっか?」
料理を作りながら要に顔を向けニコニコしている。
「え!?いや、俺は自分の家で入るので」
こいつら俺が大人しくしてるからって調子に乗ってイチャイチャし始めやがって。うざったいなー。そんなことを思っていると、呼び鈴がなった。
「あ、誰か来たみたい。奏出てくれるー?」
「わかった、出るよ」
俺は少し低い声で不機嫌に言った。玄関に行き、のぞき窓で誰か確認する。
・・・アヤか、ちょうどいい。こいつならあのむかつくリビングの雰囲気を少し壊せるだろう。俺は扉を開けてアヤを招き入れた。
「あの、奏。今日は妹が変なもの見せてごめんね?」
玄関に上がるなりアヤはそんなことを言ってきた。
「いやなもん思い出させんなよ」
「ご、ごめんね?でも奏急に帰っちゃったし・・・怒ってるのかなーって」
「別に怒ってないぞ?リビングのアレのせいで機嫌は悪いがな」
「え?リビング?」
「行くぞ」
俺はアヤを連れてリビングへ戻った。
リビングではすでに姉と要が夕食をとっていた。作るの早っ!テーブルの上には麻婆豆腐や点心、あんかけヤキソバが乗っていた。
「零さん、こんばんは」
「あら、アヤちゃんいらっしゃい」
アヤは姉に挨拶すると、その左隣の椅子に座った。それを見て俺は姉の右隣に座っている要の隣に座った。アヤは我が姉をかなり尊敬している。だから、その相手が近くにいるとなると話しかけずにはいられないようだ。
「零さん、今日私奏と試合したんですよ」
「まあ!そうなの?それでどちらが勝ったのかしら?」
「悔しいですけど5-7で負けました」
「あら、でも奏から5ゲームもとるなんて凄いじゃない!」
二人は共通の趣味で盛り上がった。ナイスだアヤ。これで俺は忌まわしいイチャイチャワールドを見なくてすむ。・・・と思ったがそうはならなくなった。
「ごちそうさまでした。零さんおいしかったです」
「あらぁ、要ちゃん私もすぐに食べ終わるから待っててくれるかしら?」
「いや、俺は帰ります!」
姉のさっきの言葉を思い出したのだろう。顔を紅くしながら要が言う。
「え~?いいじゃない。将来夫婦になるんだから」
「零さんたら、大胆」
強引な姉の物言いに、何故かアヤが両頬に手をくっ付けながらほぅっと息をはいた。
「私も零さんみたいに大胆になれたらなー」
アヤやめとけ。お前が俺の姉みたくなったら、数々の女の子が犠牲になる。視覚的にはうれしいがな。
「実家に帰らせていただきます!」
要はそう言うと帰っていった。何が実家だよ、俺ん家の裏じゃねーか。
「じゃあ、要ちゃんの家行って来るねー!」
そう言い残し、姉は要を追いかけていった。姉はアヤに夕食を出さずに行きやがった。
「アヤ、お前も夕食食べてけよ」
「え?いいの?」
「ああ、ヤキソバはないけど、ご飯ならあるから、それでいいか?」
「うん!ありがとう」
アヤはうれしそうに俺に笑顔を向けている。
・・・はぁー、お前がレズじゃなかったら彼女にしてやってもいいのに、もったいないな。俺は、そう思いながら茶碗にご飯をよそう。
「ほら」
「ありがと」
アヤは俺から茶碗を受け取るとき、空いてる左手で俺の手を握ってきた。アヤを見ると、頬を染めて潤んだ瞳をしている。
「うっ!」
なんだか、顔が熱くなってきた。俺がドキッとするような顔をするなんて。こいついったい何がしたいんだ?
「あ、ごめんね」
そう言うとアヤは目を逸らし、夕食を食べ始めた。それにあわせて俺も夕食を食べ始める。
「どうしたんだ?さっきは」俺が尋ねると、アヤは「なんでもないよ」と俺に微笑んだ。向日葵のような、輝かしい笑顔だった。
やっと卒業式の日が終わりました。




