3.5話 凶宴
第一話から若干修正しました。
「はぁっ、はぁ、はぁ・・・」
・・・今度こそ勝てると思ったのに。要がくれたアドバイスはとても役に立った。でも、後一歩というところで負けてしまった。惜しかったなぁ、あともう一息で奏とデート(釣り)に行けたのに・・・。
私は別に釣りが好きなわけではない。むしろどこが良いのかすらわからない。でも、好きな人の趣味を一緒にして思い出にしたい。そう思ったのだ。
「お姉ちゃん!大丈夫!?」
「あ、あの・・・大丈夫ですか?」
私が伏せっていた顔を上げると、スポーツドリンクの入ったペットボトルを持った命と、タオルを持った明が目の前まで来た。
「はい」
「はぁ、はぁ・・・ふぅ、ありがとう命」
私は命からペットボトルを受け取ると、半分くらいまで一気に飲み干して、お礼を言った。そのついでに、頭をなでなでした。
「えへへ」
命は目を細め、うれしそうに笑った。やっぱりかわいい・・・とても癒される。
「お姉さま、その、・・・お拭きしますね」
今度は明が私の汗をカモミールがほのかに香るタオルで拭いてくれた。ああ・・・健気な明もかわいい。体はだるいけど、敗戦のショックはいくらかやわらいだ気がする。私は愛らしい二人の妹に癒されていった。
「おい、涼。明が怪獣のターゲットにされてるぞ」
俺はアヤを下した後、重い足を引きずりながらベンチへ移動。要の隣に座り、突っ伏していたあいつに駆け寄った妹二人を眺めていた。そのとき俺は見てしまった。虎視眈々と二人を狙う肉食獣のごとき眼をしたあいつの顔を・・・。
「うわっ、ほんとだ!こうしてはいられない。明ちゃん!」
涼は焦った顔をして、全速力で明の元に駆けて行った。明の元へ行った涼は、互いに頬を染めながら、見詰め合って会話し始めた。俺の視界の範囲内でイチャイチャするとは、生意気だ。
「涼!あんたね、明に手を出したらただじゃおかないぞ!」
獲物をとられまいと、怪獣が威嚇をしている。
「何を言ってるんだ?アヤの方こそ、そのいやらしい視線を命ちゃんと明ちゃんに向けるのをやめたらどうだ?」
「な、なんだとぉ!?」
かわいらしい二人の少女をめぐっての戦争。超男VS怪獣。いつものパターンだ。ギャーギャー騒いでいる二人を横目で一目見てから、俺は要に言った。
「要、お前よくもアヤに入れ知恵してくれたな」
「ふっ、そうでもしなければ奏がつまらなかっただろう?」
こいつ、俺に挑発的な態度をとりやがった。目がいかにも・・・。むかつくヤローだ。だが、まあいいだろう。俺の寛大な心でその不敬を許してやろう。さあ、俺を仏のごとく崇めるがいい!
「さあ、俺を仏のごとく崇めるがいい!」
「何を言い出すんだ?お前は」
「おっと、つい声に出てしまった」
「ふん、変わったやつだ」
お前ほどじゃねーよ。戦争を起こした二人に再び視線を向けると、小動物のように震えている命と明がいた。ここは超イケメンで、聖母マリアよりも慈悲深い俺が助けるべきだろう。そうだ、全知全能の神もそう言っている。
「俺が二人を助け・・・」
「二人を助けてくる。奏、お前は家に帰ってシャワー浴びて来い」
要はそう言うと、さっさと行ってしまった。
・・・
・・・
さ、帰るか。
俺は家に帰宅しシャワーを浴びた後、黒いTシャツの上にグレンチェックのブルゾン、黒のガーゴパンツといった格好に着替え、再び水城邸を訪れた。
「おーい、開けろ」
「ひ、ひゃい!」
どうやら応対したのは明のようだ。俺はアヤが出るもんだと思ってつい、荒い口調で言ってしまった。ガチャッという音と共に扉が開いた。
「入るぜ」
「ど、どうぞ・・・」
やべ、怖がられてる。それにしても明は気が弱いな。8年前の事件のせいっていうのは知ってるんだが、いったいどんな事件だったのかはよく知らない。ただ、それのせいで明は両親を失ったというのは確実だが・・・。
「あのぉ、着きましたよ。奏さん」
「ん、ああ・・・悪い」
「いえ・・・」
他人の過去を推し量るなんて俺らしくないな。俺は白いきれいな扉を開け、リビングへと入る。
「二人ともおかえりー」
アヤがちょっと沈んだ声で言った。ソファの上に着替えた姿で寝転んでいる。服は紺色のノースリーブスのミラー加工されたレザーカーディを着ていて、下はダークインディゴのダメージカットデニムをはいている。首元には銀色のネックレスに付いたプレートが光っていて、なかなかオシャレだ。
だがどうやら、超男にまで敗北したらしい。だらしねえ怪獣だな。
一方の勝者、超男は椅子に腰掛け、アップルジュースを飲みながらテレビを見ている。俺は涼の隣の椅子に腰掛けていた獲物を発見、捕らえた。
「・・・なんだ?奏」
「ちょっと黙ってろ」
俺は例の物をポケットから取り出すと、両手を要の後ろへと持っていく。そして例の物を首にはめようとした時・・・。
「きゃあ~!」
命の黄色い嬌声により中断させられた。
「ど、どうしたの!?命」
アヤが慌ててソファから起き上がった。
「ま、まさかここでこの本の表紙の出来事が起きるなんて!」
命はそう言うや、絨毯においてあった彼女のカバンの中から「俺と薔薇兄貴」とかいう、いかにも危ない本を取り出した。
「え゛!?」
「ふぇっ!?」
「なっ!?」
「はぁ!?」
「おぇぇ~」
おい要!吐くなよ?
アヤは目を見開いて、明は口元を手で隠し、涼はポカーンとして驚いている。そうか、レズの妹は腐女子か。終わってんなこの家系。
「ど、どうしたのかな?命、この本は・・・」
アヤが震えた声で命に尋ねる。
「あ、ええと・・・この本は今日友達に読んで来いと渡されたの
「じょ、冗談じゃないわよ!!そんなもの早く返してきなさい!」
「え?でも読んで来いって・・・」
「ダメよ!早く行きなさい!」
珍しくアヤが怒った。その迫力に命は目に涙を浮かべて「は、はい!」と力強く返事をすると玄関へ向かった。
「はあー、命には今度友達の選び方を教えないとね」
盛大なため息を吐いて、額を押さえている。そんな彼女を見て明が言った。
「あの、お姉さま!命ちゃんは決してあんな本を喜んで見るよう変態じゃないです!」
驚いた。明がここまで強く言うなんて。彼女がここまで言うならおそらく、命は違うのだろう。よかったなオヤジさん、水城家はまだ大丈夫みたいだぞ。明の言葉を聞いたアヤは目を輝かせて明を見つめる。
「そうよね、ごめんね明」
「いえ、私のほうこそ」
なんかダラダラと俺には理解できない姉妹愛とやらが見られそうだったが、俺は興味ないので石化した涼を置き去りにして獲物だけを引きずって家へと帰った。
今回は短いです。




