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Go Ape!!  作者: 雀羽仁
序章 Prelude
1/5

tune:0   in a Silent Night

かつて別サイトにて展開していたお話をリメイクしました。

テーマは「人はどこまで人を愛せるか?」です。

どことなくそんな感じを味わって下されば幸いかと。


それでは、どうかお楽しみ下さい。

 誰かに呼ばれたような気がして、俺は目を覚ました。

 しかし勿論そんなことはあるはずも無い。今は深夜だ。呼ぶとしたら幽霊とかそんな類のものしかいないだろう。

 辺りを見渡す。窓からは暗い闇が流れ込み、雑多にものの散らばった室内を黒く染め上げている。静寂が世界を包み、耳鳴りがやたら大きく聞こえた。


 (煩い)


 夜は馴れ馴れしい。空間がじっとりと、粘つく液体の様に肌を這い回る。

 闇が嫌いだった。夜が嫌いだった。光の無い世界が、異様に不安を掻き立てるからだ。

 こういう時、無力な自分が露呈する気がして、それに酷く嫌悪感を覚えていた。

 苛々と髪を掻き混ぜる。数本が音を立てて切れた感触、その微かな痛みが自分の存在を叫ぶ。

 生きている実感。痛みを感じる。腹が減る。喉が渇く。死ねばそれは全て消え去る。

 感じられるだけ、自分はまだマシだということなのだろう。――死者から見れば。


 (――くそ、)


 口の中がどうも気持ち悪い。水でも飲もうかと起き上がると、不意に隣で身じろぐ気配。

 ――敵か、

 一瞬身構え、そしてすぐに正気に戻った。敵では無い。

 漸く暗闇に慣れた目が、隣で横たわる肢体のぼんやりとした輪郭を捉えた。

 

 「……寝てろよ、まだ夜だ」


 声が届いたのか、ぼんやりと光る銀髪が、呻きながらもそりと布を被った。

 暗い色の布に包まったその肢体は、紛れも無く、よく見知った“彼女”のものだ。

 寝相が悪い為に剥き出しになった白い脚を、目のやり場に困りつつ布で覆ってやりながら、思う。

 ――今はもう、独りでは無いのだ。

 今でも信じ難い。ついこの間まではそうだったというのに、未だにこの感覚に慣れない。喜べばいいのか、それとも煩わしがるべきなのか。

 こうして隣に居るのが赤の他人ならば、きっとここまで悩んでは居なかったのだろう。しかし“彼女”は違う。

 少なくとも“彼女”は俺にとって、特別な存在であった。

 そして今も、そう在り続けている。

 

 「――トニア」


 小さな声で名を呼んだ。無論反応は無い。この名は“彼女”のものであって、そうではないのだから。

 思わず自嘲した。神様とやらは、随分と俺を嫌ってくれているらしい。俺が何をしたのかは知らないが。

 真面目に崇拝しなかった罰が今更下ったのだろうか。馬鹿馬鹿しい。

 もう一度布団に潜り込み、目を閉じた。まだ朝まで時間はある。喉は渇いたままだが、それでいい。

 自分がまだ人間で、咎を負って生きているのだという事実を、身を以て感じていられるのだから。




 (逃げられないことぐらい、もうとっくに知ってんだよ)




 その罪は、罰は、今も自分の横で寝息を立てている。

 かつての死者が隣で息をしている矛盾を、俺は呪い、そして嗤った。


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