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桃郷前夜録  作者: 卜人
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第一録/遭遇

記録ーー鬼ヶ島平定。異常なし。


記録ーー

都で起きた宝物庫襲撃事件において、主犯格を鬼ヶ島の一派であると断定。


記録ーー

後日、鬼ヶ島道中の妖の消失を確認。


記録ーー

現地に猿衆を放ち、現状の報告を命ず。


記録ーー

民からは「桃」と称される者を確認。鬼ヶ島方面へ前進中。


記録ーー

猿衆一派の飛猿、桃と接触。案内、監視を続行。




ーー山中。


「遅いな……」


さざめきながらも山は静まり返っており、風の音がなる。遠くからは鷹の声が聞こえる。


奴…「桃」を監視せよとのことだったが。

はたして戦力になるのだろうか。

よもや。

すでにあやかしに取り殺されているとも限らぬ。


枯葉を踏み折る音。


「!」


飛猿は木の上へ駆け登り、木の陰へ身を滑り込ませた。

揺れ動くものを見据える。猪か、鹿か。それともーー人か。

懐の手裏剣に手を伸ばす。


「だーかーらー」

聞こえてきたのは少年の声だった。

「俺は見てんだよ。上からな!戦うよりも情報集めが優先なの。わかる?だから上空で鷹を飛ばして先のことを調べてるんだろうが!?」


「それでもお前の体力はのこっているだろう!ならば我々に力を貸すべきなのではないか!?ただでさえ少ない人数だ。しかもこの山中。何が出てくるかも分からないのだ!」



少年の言葉は年相応の軽さはあれども視野は広い。

少年と…だれだろう。武士崩れのような人間と少年が言い争っている。あれがもしや「桃」なのか?


「お前はほんっとに人の話を聞かないな!だから監視させてんだろ!?」

「山のなかの様子など、上から見てわかるものか!」


「お前らやめろ。」


三人目…。


「…御曹子…。」

「葛の兄貴…。」

「鬼は人の邪な心から生まれたという。これでは我々が鬼を呼ぶ。」

静かだが、あれは…

「仲良くしろ。」

(あれが「桃」、か。)


確かに。

今の時代では珍しく、気品が高そうな顔をしている。


(だが…)


甘い。


「それに、お客の前に礼を欠くだろう。」

(…!)

奴の視線がまっすぐと俺を射抜いた。


(…見えて、いるのか。)


いや。


(「見られて」いた…ずっと。)


「そこの人」


敵意はない。声も穏やかだ。だが。


(強い…!)


「話をしようじゃないか。」


飛猿はわずかに息を吐いた。

(……ここで退くか?)

任務は監視。

接触は不要。

だが。

(……いや)

奴はすでに、こちらの存在を捉えている。

ここで姿を消せば、逆に不自然。

(ならば…)

飛猿は枝を蹴った。


飛猿は「桃」の前にひざまずく。

「お初お目にかかります。飛猿ひえんと申します。以後お見知りおきを。先々の無礼、御容赦ください。」


「ならば俺も名乗らねばね。」


「俺はかずら。名を冠するなら、桃太郎だ。」







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