表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『勇者リリアと記憶の王都ミルフェリア』Eden Force Stories Ⅲ(第三部)  作者: 瀬尾 碧


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/36

『第六話・1 : 合葬鎮魂聖櫃(レクイエム・アーク・ゼロ)』

リリアの腕の中で、ラムタフの肉体はすでに冷え始めていた。

もう声はない。魂も尽きた。

残っているのは──弟子として培った「血脈」だけだった。


セラフィーもブッくんも、言葉をなくして立ち尽くしていた。

それを、誰も直視できなかった。


だが次の瞬間、セラフィーが蒼白な顔で叫んだ。

「リリア……っ!

 デモリオンが……動き出したわ!

 術の残滓を取り込んでる……制御がない……!

 このままじゃ――王都ごと、消える!!」


ブッくんは頁をばたばた震わせながら絶叫した。

「アホかァァァ!! 封印ぶっ壊したのアイツやろ!?

 よりによってデモリオン解放って、師匠超えどころか人類戦犯やんけ!!

 おい運営!! リセマラやり直しやァァ!!」


砦の奥で、崩れた魔法陣の残骸を踏み破りながら、

長く静止していた巨影がのそりと動き出した。

音はなかった。にもかかわらず、空気だけが軋んだ。

全身を黒炎に包み、紅晶の破片を鎧のようにまとった怪物。

裂けた単眼から溢れる光は、怒りとも哀哭ともつかぬ色で脈動していた。


次の瞬間、リリアの視界の端にウィンドウが弾けるように展開される。


【NAME:デモリオン(世界殲滅神)】

【Lv:500】

【属性:深淵/殲滅】

【HP:?????】

【攻撃:世界圧壊/紅晶共鳴/黒炎吸収】

【特殊:存在侵食(物質・魔力・生命を強制吸収)】

【耐性:物理・魔法全系統 無効】

【弱点:旧約コード999による封印干渉のみ】

《警告:対象は封印指定“旧約コード”由来存在》


(はぁ!? 久々に出たなUI!このタイミングで!?

ランダム表示か?いや違う、作者が忘れてただけだろ!!つか、なんだ?このステータス?どうしろっていうんだこれ?)


視界の端でウィンドウがチカチカ瞬く。

そのフォントすら、悪意を帯びた赤に染まっていた。


だがツッコミは、現実を和らげてはくれない。

黒炎をまとった巨影が一歩動くたび、大地は呻き声を上げ、空気は肺を潰すほどの重圧に変わる。

砦の石壁は音もなく砂塵へと崩れ、夜空の星々は一つ残らず掻き消された。


デモリオンの単眼が開く。

――それを「見た」と認識した瞬間、視界はもう遅れていた。

彗星のごとき光が奔り、視界に映るすべてを呑み込む灼光の奔流となる。

森は音もなく蒸発し、大地は白骨のように崩れ、夜そのものが赤に塗り替えられていった。


セラフィーが震える声を絞り出す。

「リリア……!デモリオンに普通の攻撃は効かない!

 あれは存在そのものが“殲滅の理”……

 けれど、あなたの旧約コードなら、干渉できるはず……でも依代が……」


その先を、セラフィーは言えなかった。


リリアは答えず、

腕の中の重さを一度だけ、強く抱きしめる。


(……分かってる)


(旧約コードに触れるには、“魔”の依代が要る。

人の命じゃ届かない。

今この場で“殲滅の理”に触れられるのは――

あいつの血脈しかない。)


そう心の中で告げて、

ラムタフの亡骸を、静かに大地へ横たえた。


その仕草だけで悟り、セラフィーが叫ぶ。


「リリア……!

 それは……死者を依代にするなんて、正気じゃ……!」


「せやけどタイムリミットや!

 このままじゃ王都が蒸発するで!?」


ブッくんが、頁をばしばし叩きながら叫ぶ。


だが、その声を打ち消すように、

デモリオンの咆哮が轟き、宙気そのものが砕け散る。


「──ラムタフ。お前の身体、使わせてもらうぞ」


リリアは剣を構え――

ほんの一瞬だけ、刃先を止めた。


(……すまん。)


次の瞬間、リリアは、最強の魔法剣レーヴァテイン・ゼロを、ためらいなくその胸に突き立てた。


――血は、流れなかった。


代わりに、ラムタフの亡骸の内側から

赤黒い光が脈打つ。

砕けたはずの血脈が、剣を核に再編され、

死体だった身体が、“魔の依代”として応え始める。


「……反応してる」

セラフィーが息を呑む。

「血脈が……旧約コードに届いてる……!」


リリアは剣を握ったまま、短く言った。


「――全員、依代に叩き込め。

 制御は、俺がやる」


セラフィーは一瞬だけ目を閉じ、

覚悟を決めたように黄金の光輪を背に広げ、詠唱する。


「──神よ、絶望に沈む魂をすくい給え。

 悲哭を浄め、光に変えて降り注げ……

 《セラフィック・ベネディクション》!」


純白の輪がラムタフの亡骸を覆い、神の祈りが大気を震わせた。


続いてブッくんが全身の頁を震わせ、呪詛のような声を吐き出す。


「呪いや呪いや呪いやァァ!

 悲しみを呪いに転じ、喰らい尽くせ……

 《カース・マキシマム》ッ!!」


黒紫の炎が書の頁から噴き上がり、セラフィーの光と絡み合って、奔流となりリリアの魔力を押し上げる。


ワン太も静かに一歩前に出た。

ただリリアの隣に立ち、毛並みを逆立てて黒炎の風圧に耐える。


リリアは仲間たちの力を束ね、剣を掲げて叫ぶ。

「祈りと呪い、悲しみと絆──すべてを重ね、今こそ断罪の刃へ!」


赤黒い陣がラムタフの血脈を核に再び浮かび上がる。

だが今度は暴走ではなく、三者三様の力で制御された巨大な魔法陣だった。


リリアは剣を掲げ、胸の奥から声を解き放つ。


「──悲しみを弦に、祈りを旋律に……!

 呪いを刃に、絆を……ッ!」


言葉が、そこで一度、詰まった。

夜空が悲鳴をあげ、魔法陣の光が一点へと収束する。


「──合葬鎮魂聖櫃レクイエム・アーク・ゼロッ!!」


陣が轟烈に唸りを上げ、慰撫の光、噛み砕く呪炎、そして無言の盾の力までもがひとつに結晶した。

慟哭の咆哮は天地を切り裂き、爆ぜるような熱量を伴って解き放たれる。


空気は叫びを上げて沸き立ち、夜空は白炎の光槍に貫かれた。

その輝きは影を拒み、森を焼き消し、大地の骨までも融かし、砦の残骸を白い灰へ変えていく。

蒼穹そのものがひとつの楽器の弦のように鳴動した。


その光槍の中心に立つリリアの胸裏では──心臓が凄絶に打ち鳴らされていた。

その響きはもはや彼ひとりの鼓動ではなく、万象そのものが鳴り渡る雷鳴。

宇宙の拍動と共鳴し、あらゆる命の息吹を貫き、

それは──蒼穹を震わせる交響へと昇華した。


(……終わらせる!)


だが、その光槍が巨影へ届くより前──


デモリオンの裂けた単眼が、ぎらりと輝いた。

世界殲滅の眼光が、光槍を迎え撃とうと脈動する。

殲滅の理が逆流するように大気を裂き、

天地そのものが悲鳴をあげた。


(ちょ、ちょっと待て!? この衝突、絶対バグでワールドデータ吹っ飛ぶやつだろ!?)


──世界そのものが、心臓を止めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ