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『勇者リリアと記憶の王都ミルフェリア』Eden Force Stories Ⅲ(第三部)  作者: 瀬尾 碧


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『第五話・6 : 師の背中へ、届かなかった答え 』


「……ッ!」

リリアは息を詰め、駆け出す。


血煙と瓦礫の中で、ラムタフのぼろぼろの身体が崩れ落ちていた。

リリアはその身を抱きとめ、胸に引き寄せる。


「ラムタフ……!」


彼の瞳が血に濡れながらわずかに開いた。

震える声で、途切れ途切れに言葉を零す。


「……し、ししょう……俺、やっと……ちょっとは……近づけた……か……?」


リリアは、首を横に振った。


「……違う」


それでも、その手は離さなかった。


(……俺は)


(俺は、この人の“背中”を追い越したかっただけだ)


勝ちたかったわけじゃない。

支配したかったわけでもない。

魔王の力が欲しかったのも、本当は――


(追いつけないのが、怖かっただけだ)


だから、借りた。

だから、なぞった。

だから、自分で生み出すことから逃げた。


その答えに辿り着いた瞬間、

胸の奥で何かが、静かに崩れ落ちた。


(……ああ)


(だから、斬られたのか)


世界が拒んだんじゃない。

剣が選ばなかったんじゃない。


(俺自身が……

 最初から、前に進もうとしていなかった)


ラムタフは、かすかに顔を上げた。

すぐ近くに――

リリアがいた。

腕を離さず、ただ、静かに自分を抱きとめている。


その瞳に、一瞬だけ──

弟子だった頃に何度も見た、“あの光”が宿っていた。


沈黙が、二人のあいだに落ちていった。

リリアは、その重さから目を逸らさなかった。


──本当は、言いたいことが山ほどあった。

叱りたかった。

抱き締めたかった。

生きろと、叫びたかった。


けれど、そのすべては喉で折れ、

声になる前に、胸の奥へ沈んでいく。


ただ、腕の中で冷えていく弟子を抱きしめながら、

涙と一緒に、心の底で――


「……バカヤロウ」


そう、呟くしかなかった。


その瞬間、

脳裏に差し込むように、ひとつの光景が蘇る。


「師匠、もう一回だけ!」


幼い声。

拙い詠唱。

弾ける光の火花に、はしゃいでいたあの日の笑顔。


腕の中の重さが、

その記憶だけを――静かに、引き裂いた。


セラフィーは剣を下ろす。

ただ、それ以上は何もできなかった。


(……これは、二人の物語。

 世界でさえ、踏み込む資格はない)


ブッくんは墨を垂らし、ページを小さく震わせていた。

「……あかんわ……こんなん……

 ワイの黒インク……滲んでもうたやんけ……」


ワン太はリリアの膝元で“ぽふっ”と跳ね、

何も言わずに、尻尾を垂らす。

それだけで、十分だった。


赤光に染まった戦場で、

仲間たちはただ沈黙の中に立ち尽くしていた。


師と弟子の物語が、確かにここで終わったことを――

誰もが、言葉なしに理解していた。


そして、リリアは顔を上げる。

その視線に、もはや憎しみはない。


あるのはただ、

終わらせなければならない者を、終わらせるための目だけだった。

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