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今終わった
ただこなすだけの部活が終わり、シュールストレミングより臭いであろう道着袴を鞄に詰め彼女の家に向かう。
土日は僕の部活でめったに遠出ができないので、彼女の家で午後を過ごすのがお決まりだ。
「おまたせー、今日も暑いね。」
「練習おつかれ、しんどかった?」
「まあ、ふつー。」
「ふーん、じゃあ映画みよ?」
家に着くやいなや、例の鞄の奥から借りてきた映画を取り出す。
今日見るのはホラーとアクションの2作だ。毎回念入りに調べて借りてくるが、正直最後まで見終わった記憶はない。ジャンルなんてどうでもいい、ただ口実が欲しいだけだ。
案の定、いつものように僕が仕掛けて、君が応える。
途中、映画の盛り上がるシーンがくるたび手を止め、布団から2人で顔を出す。そんなことを繰り返すうちに日はすっかり落ち、カーテンの隙間からはオレンジの光が差し込んでいた。
「終わっちゃったね、もう一本みる?」
僕の腕の中から、八重歯を見せながら君が言う。
「ううん。」
もう少しばかりこうしてたいと、僕はそっとキスをした。
「私も。」
と言ってくれるように、君も優しく返してくれた。
こんな時間がいつまでも続けばいいのに、本当にそう思った。その安心に油断したのか、僕の意識がじわじわと遠のいていく。
「ねー、寝ないでよー。」
少し嫌がりつつも、優しく抱きしめる君。
そのぬくもりを感じながら、僕の電源は落ちた。
静寂の中、錆びれたまぶたがゆっくりと開く。
まだ薄暗い部屋に僕の鼓動だけが響いていた。さっきまでのぬくもりはない。
「あぁ、、またか。」
別れてから4年。
それでも君は変わらず夢に現れる。
何度も見てるはずなのにいつも思い出そうとしても、すりガラス越しに見るような曖昧な輪郭の君しか出てこない。
ただ、不思議とそんな日に限って少しほっとしている自分がいる。たとえそれが僕の未練が作り出した幻だとしても、君に会えたという事実は消えないから。
「会いたいなぁ…」
君が残した輪郭をただなぞるだけしかできない日々。記憶の檻に閉じ込められた、操り人形のように。
それが君を愛した罰というなら、僕は喜んでその役目を全うしよう。