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第9話 家事手伝いと使用人の反抗

『親愛なるハワード嬢へ』


書き出しは至って普通だった。


婚約者予定者なんて思うと、ワクワクしてしまったが、所詮(しょせん)相手は十四歳。まだ子どもである。


内容もごく普通で、愛の言葉やらが書かれている訳がなかった。


『そちらにお邪魔することは中々難しいかもしれないので』


うん。残念ながらウチにはあの義姉たちがいる。お茶会とかしたら、絶対参加するだろう。あなた方には他にするべきことがあるんじゃないの? 勉強とか勉強とか勉強とか!


『差し当たっては、手紙をお送りしたいと思います。お会いする機会も、手紙で相談できればと思います』


どうしよう。


父には、あなたの妻は人の手紙を開封して読む人なので、執事宛てに私の手紙を送ってくださいと書けばすむ話だ。


だけど、婚約者予定者に対しては、どうなのかしら? あなたの手紙を義母や義姉が開封して読んでしまうので、執事宛てに出してくださいなんて言われたら、家の恥じゃないかしら。

あんな義母や義姉がいる娘と結婚を望む人なんているかしら。最低限のマナーが守れない親族なんて歓迎されないと思うのだけど。


しかたない。


モートン様には黙っておこう。

どうせ相手は十四歳。熱烈な愛の言葉なんか送ってくるはずがなかった。変な心配はいらない。

それに彼は思慮深くあまり自慢をする人物でもないようだ。

成績が良いとか、将来が明るいとか書かれたら、うちの義姉たちは乗っ取りに来る危険性がある。

私の部屋も乗っ取られたし、馬車も取られるところだった。婚約予定者も危ない。


文学とか歴史の話題なら、モートン様なら喜ぶかもしれない。

そういう話題に終始すれば、義姉たちはきっと興味を失って、読まなくなると思う。


『親愛なるモートン様

お手紙ありがとうございました。

学業の妨げにならない程度に、お手紙を書いてくださいませ。楽しみにしております。

私は地理や歴史が好きです。また、モートン様が好きな科目があれば教えてください』


よし。これでどうにかなると思う。



学園でこの話をしたら、アーネスティン様は眉をひそめられた。


「実の親子なら、心配なので読みたいと思うかもしれないけれど、あなたのところは完全に好奇心だけですわよね」


「その通りだと思います」


「本当に困ったわね。今後もなにか起きるかもしれないわ」


マチルダ様は、やきもきしたようで真剣に心配してくださったが、この高貴な方々に私の家のことなんかで不愉快な思いをさせるわけにはいかない。


「それより二年生になったら、学園のダンスパーティに参加することができるのでしょう?」


明るい調子で、私は姉がいるマチルダ様に話を振ってみた。とりあえず話題を変えよう。


「お姉さまから、いろいろお話を聞いてらっしゃるのでは?」


もうすぐダンスパーティの時期がやってくる。


社交界の前哨戦みたいなものだ。


婚約者がいれば一緒に参加する方が多い。なぜなら、売約済みとお知らせするためだ。不要な恋愛事件を防ぐ目的がある。


逆に、婚約者がいない場合は、売り出しに出る必要がある。

ダンスパーティがご縁になって結婚する方も多い。


マチルダ様のお姉さまは、ダンスパーティがご縁で隣国の大公爵家へ嫁がれた。たまたま、学園を見てみたいとおっしゃられ、完全な一目ぼれだったそうな。


「そんなこともあるのですね。シンデレラみたい。いいですわねえ」


乙女の夢だわ。


ところが、家に戻ると、魔法使いのおばあさんの出現前のシンデレラ状態が待っていた。


「モートン様にお返事を出しました」


義母に言われ、私は怪訝(けげん)な顔をした。せざるを得なかった。


「何の返事を?」


義母宛てではなかったはず。義母の出番はどこにもないのでは?


「あなたに代わって、ぜひ婚約を結びたいとお願いしておきました」


「私に代わって?」


私は頭に血が上ってきた。あなたが言うことではないはずよ。


「いいお話ではないですか。あなたのお父様がそう書いて来られていたでしょう?」


モートン様にバカと言われるだけある。


モートン様は本気にしないだろう。義母の筆跡の手紙なんか、宛先違いもはなはだしい。


だが、それより困ったことが起きた。義母の侍女がやってきて私に言ったのだ。


「奥様の命令により、あなたは家事手伝いの修行をすることになりました」













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