第4話 婚約話、浮上
最近、家の中が何か不穏。
いやだなあ。私のせいではありません。アンとステラがどーんとしているのがいけないのよ。
数週間たったある日、私は義母に捕まった。
「あなたに大事なお話があるのよ。食堂へいらっしゃい」
私に対しての大事な話なのに、どうして一緒にアンとステラが一緒に聞いているのかしら。
食堂に入ると、アンとステラがすでに待ち受けていた。なんだか、にやにやしているような気がする。
「簡単に言うわね。この度、あなたの婚約が決まりました」
私はびっくりした。
婚約が決まる前に、顔合わせぐらいするのがふつうである。
「婚約ですか? 私は初めてお聞きしたのですが」
義母はコホンと咳をした。
「特に問題のある婚約ではありません。お受けになった方が身のためだと思います」
アンとステラのにやにや笑いが本物になってきた。
「お相手はどなたでしょう?」
聞かないわけにはいかなかった。
「モートン伯爵家の次男の方ですよ。お名前はマーク様。今年十四歳になられます」
義母は澄まして言った。
私はちょっと青ざめたと思う。
「こ、婚約するには若すぎませんか?」
高位貴族の場合、十歳くらいでも婚約することはある。
でも、それはよっぽどの事情がある場合だ。
アーネスティン様だって、マチルダ様だって、婚約が決まられたのは、最近のはず。お話そのものは以前からあったが、本人同士が気に入らないと、やはり都合が悪いからと、双方の親が様子を見ていたらしい。ローズマリー様も、ほぼ決まりだが正式には、まだ進行中のお話だ。
会ってもいない相手といきなり婚約って、それはないでしょう!
「もちろん顔合わせはありますわ。安心しなさい。相手のお家だって、あなたで満足するかどうかわかりませんから。マークがあなたを気に入るかどうかだってわからないでしょう」
私の気持ちは、どうでもいいの?
「十四歳が婚約しなくてはならない理由がわかりません」
「それはあちらのおうちの都合だと思いますね。とにかく、結婚できるチャンスがあってよかったと思いなさい」
学園内で恋愛結婚は多いんですが! 私に声をかけてくる男性は確かに一人もいなかったけど、今後、あるかもしれないわ!
「まだ、学内のダンスパーティに参加もしていません。今後、よいお相手を見つけることができるかもしれないのに、どうして今決めてしまわないといけないのですか?」
次男は領地も財産もついて来ない。もちろん次男以下でも結婚はする。それは、貴族学園とか騎士学校とかへ行って、王宮で働いたり軍に入って地位を得て、暮らしに問題がなくなってからだ。十四歳ではどうなるか将来が見えてこないわ。
ダンスパーティと私が言うと、嫌な声でアンとステラが笑い出した。
「確かに一年生は出ないわね。だから知らないのよ」
「あんなこと言ってるわ。お誘いが来るとでも思っているのかしら」
「私たちでさえ、爵位持ちの方々はガードが固くて大変でしたのよ」
義母が猫なで声で言った。
「このお話は、お父様からのお話ですから、恨むならお父様を恨んでくださいね。それから、来週お茶の会をします。マークを招待しますから」
「私たちも参加してあげるわ」
いや、いらない。
「安心して。ちゃんと話を盛り上げてあげるわ。面白いわね、ステラ」
「ええ、お姉さま。何を着ようかしら」
二人はキャッキャッと笑いながら、食堂から出て行った。あとに残された義母に、私は最後の抵抗を試みた。
「お義母様、私は十四歳と婚約は嫌です」
「私はあなたの母親ではありません。婚約時は十四歳でも、結婚する頃には二十五歳くらいにはなっているでしょう。爵位がないから、生活できるようになっていないといけませんからね」
その頃には私は二十七歳だ。大年増だ。十年以上結婚を待ち続けて、婚約解消されて、もっと若い娘に乗り換えられたらどうしよう。