第3話 どーんとしている義姉たち
もちろん、アンとステラが、私の超ハイクラスな友人のお眼鏡にかなうはずがなかった。
聞いただけで却下された。
「あの人たち、いつでも身分身分って、うるさいそうですの」
アーネスティン様がおっしゃった。
「そうですわ。学年は上だけど、聞いたことがありますわ。なんでも、お友達に身の回りの世話をさせるそうですの」
マチルダ様も少し苦々し気に言った。
「学園では、自分でしなくちゃいけないことも多いでしょう?」
お昼ご飯は食堂で食べる。侍女が付いてくるわけではないので、その用意は自分でしなくてはならない。教科書を持ち運ぶのも、インク壷の補充も自分でやらなくてはならない。
「それを全部、家格が下の同じクラスのお友達にやらせてるって聞きましたわ」
ローズマリー様もおっとりと言った。
「あのう、それがお友達なんでしょうか」
私は最近、お友達の定義について悩むところがあったので、三人の意見を聞いてみた。
「お友達ではないと思いますわ。それに、それを私たちにやらせようと言うのでしたら、お断りですわ」
アーネスティン様が言い切った。
「一緒にいて楽しいのがお友達、それだけですわ」
栗毛の豊かな髪を振ってマチルダ様もおっしゃった。ローズマリー様は元々口数が少ない方なので黙ってうなずいている。
私も、その通りだと思う。
そして、私が漠然と心配していた理由は、アンとステラは二人とも、なんというかどーんとしているからだった。
今、どーんとしていると言う意味を、アーネスティン様は言い当てたのだ。
つまり、他人の反応に敏感でない。そして動きが鈍い。
例えば、昼食の席にあの二人が加わったとしよう。
無意識のうちに、公爵令嬢に向かってパンを取って欲しいと意思表示してしまい、パンを取ってもらってもお礼を言わないかもしれない。なおかつパンを取って欲しいと言う公爵令嬢からの空気に気が付かない可能性が高い。
公爵令嬢は眉をしかめるかもしれないが、アンとステラは、それにも気が付かないだろう。
私はゾォォとした。
だからアーネスティン様も、マチルダ様も、ローズマリー様も、サラッとアンとステラのことは無視していたのだ。
不愉快な思いはしたくないし、なぜ不愉快なのか説明しても分かってもらえないに違いない。無視最高と言う訳だ。
侯爵家以上の家の数は意外に少なく、学園に通う年回りの令嬢がいる家はさらに少ない。
高位の家の娘がこんなに多く入学した年も珍しいと思う。高位の貴族には高位の貴族だからこその悩みもあるので、高位貴族同士、友達になることが多いが、アンとステラは侯爵家令嬢なのに無視されていた。
そりゃあそうだわ。
私の友人たちは、優雅な所作や隅々までいきわたった礼儀作法で、育ちの良さを感じさせたが、全くどーんとなんかしていなかった。この三人は気が回って、陽気で、自分でさっさと何でもする人たちだった。婚約者もいて、それぞれ仲がよさそうだった。
「それはそうよね。アンとステラでは、婚約者がいたところで白紙に戻りそうだわ」
私にもいないけどね。
そんなわけで、結局、義母の命令は実行されなかった。
私は言い訳に苦労した。
ダイレクトに、お断りされましたと言うのもはばかられる気がする。
なにせ、相手はどーんと構えているのだ。理解能力が低そうだ。
「じゃあ、なんでエレクトラはお友達なの? そんな身なりなのに?」
本人に理由を聞きに行ったりしないでね。不敬だと思うわ。特にアーネスティン様に体当たりをかましたりしないで欲しいな。私が友達だったら、自分たちはもっと大歓迎されるはずと言う発想は、どこから出てくるのかしら。
「エレクトラは気にしないで。私たちには、そんなふうに特攻をかけてくる方がたまにいらっしゃるのよ。仕方ないことなのよ」
ちょっとだけ寂しそうにアーネスティン様は言った。どうやら王家の影みたいな部隊がいるらしくて、そちらから何かが伝わったらしい。
義母は、その後、この件に関しては何も言わなくなった。
だが、そのせいで、恨みは私の方に向けられている気がした。