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第1話 義母と義姉たち登場

私の名前はエレクトラ・ハワード。家は伯爵家なので世間的には大したものだろうけれど、伯爵を名乗る家は多い。富豪でも貧乏でもなく、歴史が長い訳でもない我が家は、貴族の中では、特筆すべき点が何もない家だった。


当家の目立つ点と言えば、父が隣国で有能外交官として活躍していることくらいだ。近々、侯爵位を賜るだろうとまで言われてるほどだ。もっとも爵位の変動なんて聞いたこともないので、私は聞き流していた。母が亡くなってしまって以来、社交界の噂がぱったり入ってこなくなってしまったのと、父はあまり自分の功績を語る人ではないので、真偽のほどはわからない。


私自身も平凡極まりなくて、髪色はよくある栗色、目の色も青とこれまた平凡。自分でも特長がないなあと思っていたが、悪いことはしないし、特に問題はない令嬢だと思っていたのだけれど。


「厚かましい」


義母のハワード夫人にとっては、そうではなかった。


「アンやステラを少しは見習いなさい」


新ハワード夫人は、つい三ヶ月ほど前、父と再婚してこの家にやってきた。

アンとステラは連れ子である。私よりアンは二つ上、ステラはひとつ年上だった。

元はヘイスティング侯爵夫人という。侯爵が亡くなったのち、跡取りのアンドリューを婚家先の侯爵家に残し、娘二人はうちに連れてきちゃったと言うパターンだった。


なんで娘二人も侯爵家に残しておいてくれなかったのかしら。

侯爵令嬢の方が聞こえはいいと思うのよ。


「何をおかしなことを。アンとステラはどこに住まおうと、侯爵令嬢です。あなたとは格が違います。父は侯爵なのですから」


私には六歳年上の脳筋気味の兄がいる。ヘイスティング家を継いだ新侯爵と同い年で、顔も知っているらしい。こっそり兄のヘンリーに聞いたところによると、アンとステラの兄の新侯爵は、とにかく母親と仲が悪い。ついでに言うと、妹二人とも仲が悪い。


「なぜかと言うと彼女は後妻なんだ。侯爵の実母は、彼がまだ小さいころに亡くなられてね」


兄はため息をついた。


「なんだって、うちに来たんだろう。嫌な予感がするよ。アンドリューに言わせると、性格が悪いそうだよ」


アンドリューと言うのが新侯爵の名前らしい。


一方、元侯爵夫人、現伯爵夫人の侍女に言わせると、新侯爵は身持ちが悪く、毎晩悪友を呼んでどんちゃん騒ぎをするのだとか。(悪友って、うちの兄のことかしら)

とても若いご令嬢様方にお話しできるようなありさまではございませんと侍女は言った。


清く正しいアンとステラに堪えられるはずがない。それにそんな家に一緒に住んでいたら、アンとステラの評判に悪影響が出るだろう。


「ハワード家の都合は一切考慮されていないのでは?」


私は内心そう思った。


兄は王家に仕える官吏として、王城内に部屋があり、この家には住んでいなかった。父は外交官なので、今は隣国に赴任している。つまり、二人とも家にはいない。


父が新婚で浮かれている様子なんか見たくなかったが、新婚なのにどうしてすぐに隣国に赴任してしまったのかしら。


こんな押しの強そうな貴婦人三人組に、私一人で対抗できる気がしないのですが!



この結婚のせいで、私は家の中で一番狭い部屋に撤退せざるを得なかった。


二人の侯爵令嬢が、以前の部屋より狭い部屋には住みたくないとおっしゃったからである。


以前のお屋敷風の暮らしを続けるつもりらしかった。

侯爵家紋章付きの馬車まで元侯爵夫人は持参してきた。ヘイスティング侯爵家には、草の根一本残ってないんじゃないかしら。おそろしい。


私は貴族学園に通っていた。アンとステラも同じ学校にいた。


「あなたはハワード家の馬車で行きなさい。アンとステラは、侯爵家の馬車で」


「あら、嫌だ。ステラと一緒の馬車なんて気分が悪いわ」


ステラがアンをにらんだ。


「アンったら、ああいう失礼を言うのですよ。我慢にも限界がありますわ」


ステラが母親に訴えた。


「では、どちらかはハワード家の馬車に乗りなさい」


「あの、私の乗る馬車は?」


ヤバい。私はどうなるの?


「たかが伯爵家の冴えない末娘のくせに、馬車の心配だなんて口だけは一人前ね!」


三人に同時ににらまれた。


そんなこと言われても、ハワード家の馬車はあなた方のものではありませんわ!


などと言う正論は歯牙にもかけられなかった。なぜなら、アンとステラのどちらがハワード家なんかの馬車に乗るのか、大舌戦が始まったからである。


「こんな貧乏伯爵家のチンケな馬車に誰が乗るもんですか!」


「あなたにはピッタリではなくて? 背が低くて、お肌が汚くて、高貴な身の上には見えませんわ!」


いくらステラが実の妹とは言え、そんな言い方ないんじゃないの? 


「お姉さまこそ、高慢ちきでプライドばかり!」


それは……正しい見解な気がする。


いやしかし、このままでは遅刻してしまう。


私は究極の選択をした。


執事のセバスに命じて、食料品を運ぶ荷馬車に乗ることにしたのである。


「エレクトラお嬢様がそんなとばっちりを……」


セバスは、怒りに打ち震えたが、荷馬車には幌がついてるので中は見えないから! それに遅刻したくないから!


その日、結局、二人は登校しなかったらしい。どっちがどっちの馬車に乗るか、結論が出なかったと言う。


二台とも余ってたのなら、私はなんのために荷馬車で通学しなくちゃいけなかったのか。


それはとにかく、荷馬車通学はとても目立ってしまった。


貴族学園ならではの話だが、私のお友達には、なぜか普通ならお目にかかることすらなさそうな、高位貴族の皆様ばかりだった。

アーネスティン様(王弟殿下の娘)も、マチルダ様(公爵家令嬢)も、ローズマリー(侯爵家の娘)もいた。


学園の場で、高位貴族と縁を求めたがる手合いは多かった。そんなつもりはなかったのだが、私はこの三人とあっという間に仲良しになっていた。


「エレクトラの荷馬車事件!」


三人は笑い転げた。とても上品に。











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