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第99 話 夢粋の少女



 午後の授業。


 オレは何も考えることができない。隣の蘭鳳院(らんほういん)に話しかけることも、もちろんできない。チラッと見ると、お澄まし顔。こっちを見てやいない。オレと話すことなんて、もう何もないというように。


 授業が終わって、ほっとして校庭へ。いつもの自主トレ。汗を流せば、厄介事も……何とかなるだろう……

 

 校庭で1人で体を鍛え、図書室で自習して、家に帰る。夕飯を食べ、2階の自分の部屋のベッドでゴロンとなる。


 明日、蘭鳳院と顔を合わせれば、何かわかるかな。ちょっと聞いてみようか。でもどうやって聞けばいいんだろう。君は、昨日紙飛行機を飛ばしましたか? 誰かのことが好きですか? 君は、強がってるけど、恋をしてもなかなか素直に告白できない、そういうタイプですか?


 聞けるわけがない。


 とりあえず明日だ。なればどうなるかなんて、わからないけど。


 明日。


 あっ

 

 そうだ。恋の紙飛行機のことで、頭がぐちゃぐちゃになっていたせいで、大事なことを忘れていた。明日は、蘭鳳院とペアワーク。それも2人で仕上げるから、夜7時にショッピングモールに来いと。


 そうだ。なんなんだ。これもよくわからないんだけど。


 いや。


 紙飛行機のメッセージからすると、むしろ、すごくよくわかってしまう。そういうことか。


 夜に……蘭鳳院とオレ、2人でのお出かけだ。2人で。オレが誘われたんだ。女子が男子をお出かけに連れ出す。お出かけじゃなくてペアワークだと言ってるけど、学校の課題で夜2人でお出かけなんて絶対おかしいよな。女子が男子を誘い連れ出す。つまり……デート……直にデートしようと言えないから、ペアワークとか言ったのか。まさか。この前野球場に行ったときには、2人で行く勇気がなかったけど、いよいよ2人で、そういうつもりになった?


それならそれで……そういうのはわかるように言ってくれないと。


 でも、もし、はっきりデートに行こう、と誘われたらオレはどうしたんだ?


 オレは、オレの男の坂道を上っているわけで、女子には目もくれない……だよな。で、オレは、きっちり断れるのだろうか。



 うぎゅっ、



 蘭鳳院、おまえはいつもオレを混乱させている。引きずり回している。オレは振り回され、引きずり回されている。なんでこうなるんだ。


 男の中の男、真の男、最後の硬派が……


 落ち着け、もうちょっと考えてみよう。


 そもそも、蘭鳳院が、ほんとにそういう気なのかどうか、まだ決まったわけじゃないぞ。


 そうだ。思い出した。


 花を買って来いと言ってた。花の名前。オレは、スマホにメモっておいた。花に何か意味があるのか? 手がかりになるかも。


 花の名前。チューベローズ。


 なんだ。知らない花。いったいどんな意味が。どう考えても、学校のペアワークの課題とかそういうことではない何かのメッセージ?


ふと、閃く。


 そうだ。花言葉


 蘭鳳院、この前美術館に行った時、確かタンポポやシロツメクサの花言葉について教えてくれた。そういうのに詳しいんだ。と言う事は、この花の花言葉を調べれば、何かわかるかもしれない。


 早速、調べてみると……



 うぎゃっ!



 なんだ? これは?


チューベローズの花言葉。


 “ 危険な快楽“ “危険な関係“


 ガビーン!


 これは……もう……決まり……ですか……


 明日、この花を持って、のこのこと、蘭鳳院についていったら、もうそのまま、一気に、“危険な快楽“、“危険な関係”に、引っ張り込まれてしまう? 有無を言わせず?


 恋愛成就とか、そういう生ぬるいことじゃなくて、もういきなり。


 そうか。やっぱりおまえは、蘭鳳院、そんなこと考えてたんだな? ずっと? いつから考えてたんだ? おまえ、オレに最初からなんだかおかしかったよな。最初から……なのか。ずっと考えてたのか。あんなことやそんなことを。蘭鳳院に比べれば、オレはとんだ甘ちゃん、ねんねえだった。そういうことなのか?


 保健体育の授業の時、オレに妙に詳しく教えてくれたのは、その……オレを引っ張り込むつもりで? つまり、自分のために?


 自分の快楽のために、ずっと、準備?


 快楽!


それって、えーっと。


オレの頭は沸騰していた。いや、頭だけじゃない、体も、妙に熱くて火照って、いや、火照ってるっていうようなものじゃなくて、なんだか体の芯からずっとカッカしてきて。明日2人で、2人だけでショッピングモールへ。そしてそして、どうなるんだ。それでそこで何かして終わり? それともどっかにやっぱり引っ張りこまれて、そしてどうなる?


 蘭鳳院が、とうとう、決意した。そういうこと? 本気で?


 オレを、暗い場所、ピンクのライトの下に引っ張り込んで、2人きりになると、オレの目をしっかりと見つめて、


 「私のメッセージ、ちゃんと受け取ってくれたのね」


 そして、セーラー服のファスナーに手をかける。


 オレは、ただ、蘭鳳院の言うままにするだけ……


 明日、明日、オレは蘭鳳院と?

 

 ぼーっとなっていた。頭がぐるぐるというか。もう、なにも考えられなくて。いや、考えていた。ただ、蘭鳳院のことをずっと。夜中、体の芯からずっと燃えていて。ばちばちとオレは燃えていた。眠れない。いや、眠っていたのかな。夢を見ているのか、目が覚めているのかよくわからない。蘭鳳院の、湯煙の中の白い裸身が、オレを、そっと、いや、強く、強く包んで、そのたびに、体に、ビリッと電流が走る。息が苦しく。もう息もできない。



 うぎゅっ!

 


 今まで感じたことないショック。こみ上げてくるもの、溢れでてくるもの、止められない。



 朝になった。


オレはベッドでぐだぐだとなっていた。一晩一睡もできなかったような気がする。ずっと、夢の中だったような気もする。どっちだろう。よくわからない。体は疲れている。汗をかいている。べとつく汗と、生々しい匂いにオレは包まれて。


 でも、なんだか、妙に力が湧いてくる。


 スッキリしたような。

 

 今日の夜。行ってみよう。ともかくも蘭鳳院の言う通りに。


 もう、迷いはなかった。


オレはヒーローだ。男の修行を積んだ、男の坂道を上るヒーローだ。


 女子の思惑だ、仕掛けだ、それがなんだ。正面から受けて立ってやろう。ヒーローが、女子などに負ける事はありえないのだ。


 ベッドから飛び起きる。


 うむ。汗をかいて、すっきりして、逆に力がみなぎっている。


 学ランを着る。


 ママとパパに、おはよう、と朝の挨拶。


 パパが作ってくれた。朝食を食べる。そして、行ってきますと言って家を出る。



 ママ、パパ、今日の夜、もしかしたらあなたたちの娘が……ついに、初めての……いや、そんな事は、絶対起きない!




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