第98話 恋の紙飛行機
なんだろうな。さっき、蘭鳳院が言ってたの。ペアワークでチューベローズ?夜7時にショッピングモールで待ち合わせ? なんだそりゃ。
オレは校舎の間をぶらぶらと歩きながら、考える。考えてもわからないものはわからない。
まあ、いいや。
キラキラする光と風の中、オレの気分もだんだん浮き立ってくる。
ふう。ほんとに春の良い日和だなぁ。こんな日は、ひたすらムニャムニャしてるに限るよ。まったく……なんでいつもうるさいんだろうなあ、蘭鳳院。オレにばっかり。オレはあいつに目をつけられている? 隣の席だから? 学校ってほんと面倒だよなぁ。校舎は綺麗で、スポーツ設備も充実して至れり尽くせり。面倒なのは、綺麗な女子だけ、ときている。あいつら、いったい、どうしたいんだろう?
おや? なんだ。
目の前にヒラヒラと、白いものが、落ちてきた。
ふと、上を見る。
うん? 誰かの人影が屋上に。あそこから落とした、いや投げたのかな。
拾ってみよう。なんとなく気になった。
落ちてきたのはお財布ですか? 小判ぎっしり入った。そんなことあるわけない……
うん。つまみ上げてみる。ただの紙飛行機だ。誰かが作って、屋上か校舎の窓から飛ばしたんだな。他愛ない遊び。
まだまだ新学期、入学したての誰かが、心がウキウキして、春の空に紙飛行機飛ばしたのかな。確かに、自分が飛び立っちゃいたくなる。いい青い空だ。5月の空。飛行機。きれいにきっちり作ってあるな。
ちょっと広げてみよう。
何も出てこないと思うけど。出てくるわけない。うん? これはノートを破いて作った紙飛行機だな。あれ? 何か書いてある。文字が出てきた。広げてみると。
え?
一文字勇希
オレの名前が書いてある。
誰かが書いたオレの名前。これ、どういうことだろう。
あれ……確か。紙飛行機に名前を書く……これなんか、つい最近聞いたような。そうだ。女子たちがワイワイ盛り上がってたんだ。好きな人の名前を書いて紙飛行機にして飛ばすと、恋が成就するとか言う……それか。
まぁ、かわいい遊びだ。おまじないというか。
そうか。つまり、その、誰か、オレのことを好きな女子が……これを作って飛ばしたってことだな。まあ……まあ……オレはこれでも結構、注目されてるから……こういうことをする女子がいたって別におかしくないよね。
しかし、誰だろうな。告白されても、お断りするしかない。もうそれしか。あまり厄介なことにならなきゃいいな。
オレは、オレの、男の道、男の坂道を上っている最中だからな。本当は、女子などに目もくれちゃいけないんだ。なんだか、このところ、やたらと女子とつるんじゃってるけど、それはオレのせいじゃなくて。やたらと女子どもに、絡まれたり、巻き込まれたり、まとわりつかれたり、なかなかうまくかわせなくて……
あれ?
オレは気づいた。紙飛行機を広げると、切り取ったノート。オレの名前が書いてある裏側に、小さな絵。見覚えのある絵だ。いや、オレにしかわからない絵。
小さなネコの顔。
これはオレが描いた絵だ。
オレは、小学生の頃から、授業中、暇なので、ノートに適当に落書きをする癖があった。特にお気に入りなのは、このネコの顔。オレ以外にはネコには見えないだろうけど、すっかり書く癖がついてしまっている。気がつくと、ノートに書いている。
間違いない。これはオレが昔から書いているネコの顔。オレにしか書けないネコだ。
て、ことは。
これは、オレのノートだ!
どういうことだ?
待てよ? オレのノートを誰かが切りとって、紙飛行機を作ったなんて、さすがにそれは無理なはずだ。オレのノートは誰の役にも立たないから、誰かに貸したりなど絶対にしていない。
オレのノートじゃないとすると、
うぎゅっ!
戦慄が走った。
まさか、まさか……
蘭鳳院!
そうだ。この前、授業中寝てて、わからなくなったから、蘭鳳院にノートを借りて、写させてもらったんだ。オレはノートをパラパラやりながら、空いてるページに絵を描いちゃう癖がある。で、いつもの癖で、蘭鳳院のノートにネコの絵を描いちゃったんだ。
そうとしか考えられない。それに違いない。
で、どうなるんだ?
これが蘭鳳院のノートだとすると……このノートに、オレの名前を書いて、切り取って、紙飛行機を作って、飛ばしたのは……
蘭鳳院!
頭がぐるぐる。なんだかめまいがする。
春の陽射し、キツすぎるのかな。
えーと、えーと、蘭鳳院が、なんでオレの名前を書いた紙飛行機を飛ばしたのかっていうと……女子の間では、今、好きな人の名前を書いた紙飛行機を飛ばすのが流行っていて……好きな人の名前を書いた紙飛行機を飛ばすのは……そうすれば……恋が成就するから……
うぎゅっ!
これ、これって何なの? いや、まさか……あのお澄まし顔のお嬢様が?
この前、野球に連れてってと言ったときには、みんなも一緒に連れてきたから、別にオレに気があるわけじゃないと思ったんだけど……
あの時、オレと 2人で行かなかったのは、やっぱりまだ、恥ずかしかったからとか、なにかそういう理由なのか?
本当はオレのことを……?
まさか。
蘭鳳院……
いろいろオレに対する態度がおかしくて、いつも振り回されたりなんだりしているけど、なんだかんだオレにちょっかい出してきて、気にしてくれている事は確かだ。やっぱりそれって、そうなのか? それで素直にオレに言えないから? あれこれ仕掛けて……
蘭鳳院の、お澄まし顔がチラつく。
そして、スマホにしっかり保存してある、新体操演技の動画。レオタード姿。コバルトブルーのチュニック。ひぐらしかなえの選んだ、大胆な露出のミニスカート。削除しちゃったけど、湯煙の中の白い肌。
ぐるぐるぐるぐる、頭の中を、回る。
ドキュッ!
動悸が。
ダメだ。
もう、なんにも考えられない。




