表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

98/274

第98話 恋の紙飛行機



 なんだろうな。さっき、蘭鳳院(らんほういん)が言ってたの。ペアワークでチューベローズ?夜7時にショッピングモールで待ち合わせ? なんだそりゃ。


 オレは校舎の間をぶらぶらと歩きながら、考える。考えてもわからないものはわからない。


 まあ、いいや。


 キラキラする光と風の中、オレの気分もだんだん浮き立ってくる。


 ふう。ほんとに春の良い日和だなぁ。こんな日は、ひたすらムニャムニャしてるに限るよ。まったく……なんでいつもうるさいんだろうなあ、蘭鳳院。オレにばっかり。オレはあいつに目をつけられている? 隣の席だから? 学校ってほんと面倒だよなぁ。校舎は綺麗で、スポーツ設備も充実して至れり尽くせり。面倒なのは、綺麗な女子だけ、ときている。あいつら、いったい、どうしたいんだろう?



 おや? なんだ。


 目の前にヒラヒラと、白いものが、落ちてきた。


 ふと、上を見る。


うん? 誰かの人影が屋上に。あそこから落とした、いや投げたのかな。


 拾ってみよう。なんとなく気になった。


落ちてきたのはお財布ですか? 小判ぎっしり入った。そんなことあるわけない……


 うん。つまみ上げてみる。ただの紙飛行機だ。誰かが作って、屋上か校舎の窓から飛ばしたんだな。他愛ない遊び。


 まだまだ新学期、入学したての誰かが、心がウキウキして、春の空に紙飛行機飛ばしたのかな。確かに、自分が飛び立っちゃいたくなる。いい青い空だ。5月の空。飛行機。きれいにきっちり作ってあるな。


 ちょっと広げてみよう。


 何も出てこないと思うけど。出てくるわけない。うん? これはノートを破いて作った紙飛行機だな。あれ? 何か書いてある。文字が出てきた。広げてみると。


 え?


 一文字勇希(いちもんじ ユウキ)


 オレの名前が書いてある。


 誰かが書いたオレの名前。これ、どういうことだろう。


 あれ……確か。紙飛行機に名前を書く……これなんか、つい最近聞いたような。そうだ。女子たちがワイワイ盛り上がってたんだ。好きな人の名前を書いて紙飛行機にして飛ばすと、恋が成就するとか言う……それか。


 まぁ、かわいい遊びだ。おまじないというか。


 そうか。つまり、その、誰か、オレのことを好きな女子が……これを作って飛ばしたってことだな。まあ……まあ……オレはこれでも結構、注目されてるから……こういうことをする女子がいたって別におかしくないよね。


 しかし、誰だろうな。告白されても、お断りするしかない。もうそれしか。あまり厄介なことにならなきゃいいな。


 オレは、オレの、男の道、男の坂道を上っている最中だからな。本当は、女子などに目もくれちゃいけないんだ。なんだか、このところ、やたらと女子とつるんじゃってるけど、それはオレのせいじゃなくて。やたらと女子どもに、絡まれたり、巻き込まれたり、まとわりつかれたり、なかなかうまくかわせなくて……

 

 あれ?


 オレは気づいた。紙飛行機を広げると、切り取ったノート。オレの名前が書いてある裏側に、小さな絵。見覚えのある絵だ。いや、オレにしかわからない絵。


 小さなネコの顔。


 これはオレが描いた絵だ。


 オレは、小学生の頃から、授業中、暇なので、ノートに適当に落書きをする癖があった。特にお気に入りなのは、このネコの顔。オレ以外にはネコには見えないだろうけど、すっかり書く癖がついてしまっている。気がつくと、ノートに書いている。


 間違いない。これはオレが昔から書いているネコの顔。オレにしか書けないネコだ。


 て、ことは。


 これは、オレのノートだ!


 どういうことだ?


待てよ? オレのノートを誰かが切りとって、紙飛行機を作ったなんて、さすがにそれは無理なはずだ。オレのノートは誰の役にも立たないから、誰かに貸したりなど絶対にしていない。


 オレのノートじゃないとすると、

 

 うぎゅっ!


 戦慄が走った。


 まさか、まさか……



蘭鳳院(らんほういん)



そうだ。この前、授業中寝てて、わからなくなったから、蘭鳳院にノートを借りて、写させてもらったんだ。オレはノートをパラパラやりながら、空いてるページに絵を描いちゃう癖がある。で、いつもの癖で、蘭鳳院のノートにネコの絵を描いちゃったんだ。


 そうとしか考えられない。それに違いない。


で、どうなるんだ?


 これが蘭鳳院のノートだとすると……このノートに、オレの名前を書いて、切り取って、紙飛行機を作って、飛ばしたのは……


 

 蘭鳳院!



 頭がぐるぐる。なんだかめまいがする。


春の陽射し、キツすぎるのかな。


 えーと、えーと、蘭鳳院が、なんでオレの名前を書いた紙飛行機を飛ばしたのかっていうと……女子の間では、今、好きな人の名前を書いた紙飛行機を飛ばすのが流行っていて……好きな人の名前を書いた紙飛行機を飛ばすのは……そうすれば……恋が成就するから……



 うぎゅっ!

 


 これ、これって何なの? いや、まさか……あのお澄まし顔のお嬢様が?


 この前、野球に連れてってと言ったときには、みんなも一緒に連れてきたから、別にオレに気があるわけじゃないと思ったんだけど……


 あの時、オレと 2人で行かなかったのは、やっぱりまだ、恥ずかしかったからとか、なにかそういう理由なのか?


 本当はオレのことを……?


 まさか。


 蘭鳳院……


 いろいろオレに対する態度がおかしくて、いつも振り回されたりなんだりしているけど、なんだかんだオレにちょっかい出してきて、気にしてくれている事は確かだ。やっぱりそれって、そうなのか? それで素直にオレに言えないから? あれこれ仕掛けて……


 蘭鳳院の、お澄まし顔がチラつく。


 そして、スマホにしっかり保存してある、新体操演技の動画。レオタード姿。コバルトブルーのチュニック。ひぐらしかなえの選んだ、大胆な露出のミニスカート。削除しちゃったけど、湯煙の中の白い肌。



 ぐるぐるぐるぐる、頭の中を、回る。

 


 ドキュッ!

 


 動悸が。


 ダメだ。


 もう、なんにも考えられない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ