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第97 話 チューベローズを買ってきて



 春の平和な授業。オレの幸せ。安らぎ。


 トロトロと。気持ちいいなあ。キラキラと春の光がいっぱいの教室。暖かい机の上に突っ伏して。


 授業は聞いていても、やっぱりよくわからないや。まぁいいや、勉強会で奥菜に教えてもらおう。


 ムニャムニャ……今日はずっとこうしていたい。



でも、もちろんそうはいかない。絶対そうならない。必ず邪魔が入る。いったいどうして。


 「ねぇ、ちょっと、勇希(ユウキ)。起きて。起きて。なに寝てるの? 起きなさいよ。ここどこだと思っているの? 今がいつだと思っているの?」


 早速だ。ちょっとトロトロしたかと思うと。楽しい夢見心地に、いきなりもう……


 オレは顔を上げる。やっぱり蘭鳳院(らんほういん)だ。隣の席の子。


 蘭鳳院のお澄まし顔が、オレを覗き込んでいる。


 「うん……なんだよ、人がせっかく寝てるのに……すごく気持ちよく……寝かしといてよ、ムニャムニャ……」


 「だから、今授業中よ。ここは教室よ。そんなに寝てばっかりじゃだめ!」


 「授業中? 教室? そんなのわかってるよ。だから何? オレのことはほっといてくれ。勉強は後でやるから。ムニャムニャ……」


 「だめっ!」


 蘭鳳院が、ピシャリと言う。


 そして、オレの髪を引っ張る。最近ちょっと伸ばしているんだ。


 「あ、痛いっ!」


 オレはやっとはっきり目が覚めた。


 「なにするんだよ」


 まったく……勝手にオレの髪引っ張るなよ。暴力反対。委員長の真似をして、乱暴になってきたな。お節介もだんだんひどくなってきている。くうっ、オレが女子に絶対手を出しできない男だからって……一方的に……ずるいぞ。


 オレは眠気を吹っ飛ばされて、少し腹を立てた。


 「なあ、蘭鳳院、オレとおまえ、何の関係もないだろ。オレに構うなよ」


 「そういうわけにいかないのよ」


 蘭鳳院は、ピシャリと決めつける。上から目線だ。いつもの上から目線。


 「なんで?」


 「ペアワークよ。聞いてなかったの? そんなに寝てたら何もわかんないよね。課題なの。2人でやるの。ちゃんと参加して」


 「ペアワーク? あぁ……またそれか……」


 いやはや。なんなんだ?


 いつもいつもペアワーク。そればっかだな。なんでこの学校、ペアワークがそんなに好きなんだ? これが高校なのか? まったく……生徒を1人きりにさせてくれないもんかね。みんなでお節介しあうなんて、ガキじゃねーんだし……


 教室、ざわざわガヤガヤしている。そうか。ペアワークの課題が出て、それでみんなあれこれ話し合ってるんだ。みんなも好きだね。なんでも一緒にやればいいってもんじゃないと思うんだけど。そんなに楽しいか? 女子と男子で2人で課題って。


 しかし、ここで蘭鳳院に、あれこれ言ってもだめだ。


 オレは頭を振りながら、


 「あー、わかったよ。蘭鳳院、それやっといてよ。オレ、おまえがやることに何でも賛成だから。おまえが決めて、やってくれていいよ。オレなんかと一緒にやるより、おまえ1人でやったほうが絶対いいに違いないよ」


 「そうはいかないのよ。これはペアワークなの。2人でやらなきゃいけないの」


 めんどくせーな。それに蘭鳳院、おまえ少し頭が固いぞ。いや、だいぶ頭が固い。課題なんて、適当にやりゃ、それでいいじゃないか。ペアでやれと言われたからって無理してやろうとしなくたって……おまえなら2人分だって1人で充分できるだろう。オレはおまえのこと認めてやってるんだぜ。頭の良さはな。


 でも、こうも頭が固いって事は、やっぱりそれほど頭がいいと言う事でもないのかもしれない。


 ともかく、オレはこのお澄まし顔のお嬢様から、逃れられないんだ。


 「あぁ、もう、はいはい、分かったよ。わかりましたよ。オレは何すればいいんだ。おまえの言う通りにするから。オレが何したらいいのか言ってくれ」


 「うん。やっと、わかってくれた?」


 蘭鳳院は言う。


 「明日、チューベローズの花を買ってきて。そして、夜7時に駅前のショッピングモールに来て。私、部活終わってから行くから。そこで、ペアワークの仕上げをするからね」


 え? なに? なに言ってるの?


 花を買ってこい。それで、ショッピングモールに来い? なんだか急に話が、飛んでるな。わかってくれた? いや、わからないよ。ますますわからなくなってくる。


 オレは言った。


 「あの……なに、それ? なんで? チューベローズの花? そんなの、知らないよ」


 「花屋さんに言って聞けばわかるから」


 蘭鳳院は、平然と言う。いや、そこじゃなくて。


 「とりあえず買っていけばいいの? だけど、なんでショッピングモールに行かなきゃいけないの? ペアワークの仕上げをショッピングモールでするって?」


 蘭鳳院、オレをしっかりと見つめて、


 「私の言った通りにするって言ったでしょう? とにかく、言った通り、ちゃんとやってね。やればいいから」


 いや、もう、オレはわかりましたとしか言えなくて。


 なんだか呆然となった。


そのままなんとなく授業の時間は終わった。オレが目覚めた時、与えられたペアワークの課題についての打ち合わせの時間だったらしい。確かに打ち合わせをしたけど。なんだこりゃ。ほんとに、高校の授業の課題なのかね。



 そのまま昼休みになる。蘭鳳院はいつものように学食だかどっかへいってしまう。


  オレはそそくさと弁当食べると、教室を出て、外へ。少し気分転換しなきゃ。



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