第93 話 超能力者との対決!?
うわあああああっ!
なんで? なんで? なんで知ってるの!?
オレの頭、グラグラと。
やっぱり、蘭鳳院は、超能力者なんだ! それとも宇宙人? 未来人?
それ、ついさっき、刺繍文字専門店で、オレが閃いたんだよ。
おかしいよ! もう試練とかそういうレベルじゃなくて。
ヒーローの前に現れる強敵? いや、限度があるだろ! オレがすっかり油断していた時に、こんな攻撃食らうってあるの。あっていいの。さすがにもう。
なんだか、ひたすらまずい。とにかくまずい。
でも、どうしたらいいかわからない。わかるわけない。相手は超能力者なんだ。こっちはヒーローっていっても、ただの高校生で。
蘭鳳院、最初に会った時から、別世界感があった。やっぱり完全に別世界の人間だったんだ。いや人間じゃないのかもしれないけれど。天破活剣発動なのか?
オレはすっかり固まってしまっていて、呆然となって、ひたすら蘭鳳院を見つめるしかなかった。もう何もできない。
「やっぱり、勇希だったんだ」
蘭鳳院がいった。
「3階にある、刺繍文字の専門店、私もたまに利用してるの。で、今行ったら、店員の人が、ついさっき天輦学園のネーム入りのバッグを持った男の子が来て、裾の長い特注学ランの背中に、そういう文字を入れるの注文されたって教えてくれたの、小柄でかわいい男の子って言うから、きっと勇希だろうと思った」
は?
オレの頭は相変わらずぐるぐるしている。頭が動き出すのに、時間がかかりそうだ。だいぶ。何が起きてるんだ。渋谷ってこんな街だったっけ。
至るところに罠が仕掛けられている。
みんなでオレを狙って。
「……………」
だめだ。何も言えない。口が開かない。開いても、いったい何を言えばいいんだか。
蘭鳳院が続ける。
「店員のお姉さん、大笑いしてた。すごい台詞でしょ、これを背中にでっかく入れてくれだって、ものすごい中二病だよね。きっと学校で女子に散々ひどい目にあわされた、いじめられっ子。引きこもりになって、言い返したりやり返したりできないから、1人でこっそりイキリ倒したいんだよ、かわいそうに。て、いってた」
蘭鳳院、バツが悪そうに、ややうつむく。
「勇希がこうなっちゃったのって、ひょっとして私にも責任があるのかなって思って……」
呼吸が止まった。いやひょっとして心臓も。
オレの頭、もう真っ白。完全に血が引いている。頭に血が一滴も残っていない。
やや青ざめて、うつむいている蘭鳳院。
オレは、ぼおっとなって、蘭鳳院を見つめる。
この子、責任とか言っちゃってるけど。少しは、隣の席の男子のことを考えてくれてるんだな。
なかなかいい子じゃないか。
でも、オレのこと、ちょっと勘違いしてない? オレは、ヒーローで、男の中の男、真の男で、最後の硬派……だから、その、女子を怖がったりとか、そんなこと、そんなこと絶対に……
中二病? いじめられっ子? いったい、何の話をしてるんだ……
オレたち、オレと蘭鳳院は。どのくらい黙って向き合っていたんだろう。
ずいぶん長い時間にオレには感じられた。実際には、ほんの少しの間だけだったかもしれない。
◇
「あの」
蘭鳳院が言った。
「私から、クラスの女子に言おうか? 勇希に、あんまりストレスになるようなことしないでって。私も、気をつけるから」
「あ、」
やっと、オレの口から言葉が出た。
少しずつ、頭が回り始める。息もちゃんとできている。
とりあえず……何が起きてるんだっけ? オレはさっき確か……ええと、女子のパンツを手にしていた事は、もう完全にどこかへいってるんだね。蘭鳳院は、オレへのストレスとか、責任のことで頭がいっぱいで、やっぱりパンツは目に入ってなかったんだ。
うむ。よろしい。これはこれで一安心。
で今考えるべき事は、オレの長ランの背中の文字。
クラスの女子に言う?
いや、それは……それだけは……
絶対……絶対、だめ! だめ! とにかくダメ! 何がなんでもダメ!
「蘭鳳院!」
オレは声を張り上げる。
「あの、これ、絶対にみんなには言わないで! 特に委員長には!」
オレは、蘭鳳院に、ペコリと頭を下げた。
もう、こうなったら!
とにかく、あの暴力委員長の制裁を食らうのは避けねばならない。それが最優先だ。うむ。オレも的確な判断ができるようになったもんだ。これも修行のおかげだろう。瞬時の決断、これが大事。これがヒーローだ。
オレは必死で、
「あ、ストレスとか責任とか、オレのことを心配してくれたんだ。あはは。そんなことないよ。全然ないよ。なんともないから。クラスのみんなの事は、女子のみんなのことは、蘭鳳院、君のことは特に、大好きだよ。みんな、みんな、仲間友達。オレ、そのただ……ちょっとふざけてみただけだから。本当に。なんにも考えないで適当に言葉を考えた。ただ、それだけ。ほんとにそれだけ。だから気にしないで!」
蘭鳳院、オレをまじまじと見つめている。
「そうなんだ」
やがて言った。
「本当に、私たちのことで、抱え込んじゃってるわけじゃないのね? それならいいんだけど。心配しちゃった。よかった」
「あはは。全然オレのことで心配なんかしなくていいよ。だから、あの……文字のことも、みんなには言わないでね」
「うん」
蘭鳳院、軽く笑みを浮かべる。
頬が、少し赤くなっている。
「言わないよ。誰でも、人に知られたくない、思いっきり恥ずかしいこと、しちゃうことあるよね。みんなそうだから。勇希も気にしなくていいよ。絶対言わないから」
なんだろう。オレの体中に、安堵が広がる。とにかく、危機は乗り切ったようだ。
人に知られちゃいけない恥ずかしいこと? オレってしてたの? そんなことないと思うんだけども。
ただ、その、男として、男の中の男として、男の坂道を上るヒーローとして、その、全世界に宣言したかっただけで。
でも、今はそんな事はもう、とにかく……
「ねぇ、勇希」
蘭鳳院が言った。
「私たち、水着買いにきたの。よかったら付き合ってくれない?」
私たち? 水着?
またまた。なんでオレが? ついていけないといけないの?
「あれ、勇希じゃない」
「どうしたの? 麗奈と一緒で」
声がした。振り返る。
剣華と満月。
剣華は驚いた様子。
満月は、ニヤリとしている。
オレの行く手、ヒーローの前には、必ず女子どもが待ち構えているんだ。
試練。
男の坂道。それは試練だ。
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