第90話 魔剣少女はヒーロー男子として立つ
「オレは男だ。女子はみんなオレの前に這いつくばれ」
宣戦布告だ!
女子どもへの宣戦布告!
そうだ。これだ。これだ。これだよ。
女子ども。女子どもだ。女子どもが問題なのだ。
オレに妙なおちょくりしたり、ふざけた真似をしてくるのは女子だ。
男子は問題ない。学校の男子は、そりゃオレのこと、冷やかしたり、からかったりするしてくる奴がいることはいる。でも、女子ほどしつこくオレにつきまとったり絡んできたりはしない。さっぱりしたもんだ。
オレの前に立ち塞がるのは決まって女子なのだ。
奥菜結理には、勉強で世話になってるし、他の女子連中もなんだかんだ優しくしてる時はあるけど、ヒーローたるもの、男たるもの、あれこれ留保している場合ではないのだ。
うむ。
女子ども。
奴らは男を立てると言うことを知らん。
そうだ。女子は男を立てねばならぬ。
それができぬのがいかん。それを"わからせ"てやるのだ。
この文字、しっかり背中に刻んで、オレの態度をはっきりさせてやるんだ。言葉にするのも大事だ。心を決める。背中で語る。そうよ。それよ。
もちろん、こんなの女子どもに見られたらまずい。実にまずい。特に、委員長には……見つかったら、何されるかわからない。あの委員長、あまりヒーローと言うものを、理解してないようだからな。全く、困ったものだ。
長ランは家でこっそり着よう。心で長ランを着るんだ。オレの気を高める。気を上げる。それが大事なんだ。
この言葉を、文字を、背中に負えば、女子どもなんて、もう、なんでもないからな!
ん?
目の前の店員のお姉さん。
きょとんとしている。
なるほど、びっくりしたんだろうな。
いきなり世界が違う。世界が変わった。それじゃ、どうしたらいいかわからないだろう。
よし、もう一度言ってやろう。
オレはゆっくりとはっきりと、自信を持って堂々と繰り返す。
「オレは男だ。女子はみんなオレの前に這いつくばれ、背中に入れる文字はそれでお願いします」
今度は、わかったかな?
ま、いきなりヒーローのことを理解しろってもう無理だけど。
店員、お姉さん、うつむく。
なんだ?
お姉さんの頬がピクピク。体が軽く震えている。
「えーと、お客様」
お姉さんが、やや、うつむきながら言う。声も少し震えている。
「あの……あの……本当に……プ……これで……ププ……よろしいんですね? ……プププ……オレは男だ……ププ……女子はみんな、オレの前に這いつくばれ……プププ、プヒャヒャ」
なんだ、お姉さん……笑ってる?
なんで?
どうしたんだ急に? 思い出し笑いか?
困るな。ちゃんと仕事やってくれないと。オレは真剣なんだ。
ともかくも、オレはうなずく。刺繍を頼まなきゃいけない。
「それでお願いします」
どうだ、いい言葉だろう。背中に刻むにはこれしかない。
店員お姉さんは伝票を差し出す。
「では……これに……プププ……しっかりお書き下さい……プ、プヒャヒャヒャヒャ」
ゴホン、ゴホン、
お姉さんが、咳き込んでみせる。オレの不信の目に気づいたようだ。
「あ、申し訳ありません。ちょっと喉の調子が悪くて、おみぐるしいところを、プ、プ、プヒャ、プヒャヒャヒャヒャ」
なんだ、そういうことか。喉の調子が悪くて、さっきからおかしかったのか。それなら仕方がない。
オレは、渡された伝票に背中に刺繍する文字を書きつける。
「オレは男だ。女子はみんなオレの前に這いつくばれ」
うーむ。
書いてるだけで気持ちがいいぜ。
お姉さんは、苦しそうにしている。ププ、クスクスと。
よっぽど調子悪いのかな。
ククク、
お姉さんの苦しそうな声、まだまだ続く。




