表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

87/274

第87話 隣の子は特別な少女



 朝の学園。


 今日は、力が入るなあ。


 

 フッ、



 オレは、天下へ決意覚悟を布告する男。堂々、背中で語る男。


一切の迷いなし。怯みなし。臆する心、なし。


 もう後戻りはできぬのだ。


 春の風が心地良い。


 全てがキラキラしている。



 朝の教室に入る。


 長ランで入れないのが、本当に残念だ。


嬢ちゃん坊ちゃんども、オレの長ランを見たら、いったいどんな顔しやがるだろうか。


 ま、このクラスのことは、委員長剣華(けんばな)に任せてあるわけだし、オレは静かにしていよう。男たるもの、動かざる時間も大事。


 しかし、みんな無邪気だなぁ。女子も男子もワイワイキャッキャして。目の前のヒーローの凄み、まだあまり感じてないようだ。ま、これからだ。



 ◇



 蘭鳳院(らんほういん)。席についている。


 オレは、悠々と隣に座る。


 「おはよう」


蘭鳳院が言った。ちゃんとこっちを見て。相変わらずのお澄まし顔。そっけない言い方だけど。


 うむ。なかなかできるようになってきたじゃないか、お嬢さん。


 オレは、軽く蘭鳳院の方を向いて、


 「蘭鳳院、おはよう」


 威厳を示す。


 スポーツバックの中の長ランが力を与えてくれる。今日のオレは、違うのだ。


 朝の挨拶を交わしたオレたち。成長しているのを感じる。蘭鳳院は、すぐ前を向いた。



 蘭鳳院の横顔。いつもと変わりないけど。


そうだ、蘭鳳院、昨日病院から出る時、オレのことを最高とか言ってたな。


 オレは最高。


 うむ。そうだ。わかってきたじゃないか。お澄まし顔のお嬢さん。


 最高、か。


頂点。てっぺん。いい響きだ。


 天下無双。


背中に入れる刺繍文字。そういうのでもいいな。


 志は、高く持たねばならぬ。


 目指すは頂点。


男の坂道を上りきった先に見える世界なんだ。


 まあ、蘭鳳院よ、お前のようなお嬢さんには、到底想像もつかない世界であろう。


 最高……か。オレが最高……


蘭鳳院よ、おまえにはそう見えるだろうけど、オレはまだまだ最高とは言えぬな。


 今は、まだ、頂点、てっぺんに向かう途中の坂道。これからまだまだ試練があるだろう。


 そこを突破した時こそ、オレは真の頂点に立つ。誰でも目指せる道でもない。誰もが目指さなくても、もちろん良い。


 これまで幾多の試練を潜って、オレは確実に強くなった。おまえも認めるようにな。


 そして、これから、



 「ねえ」


 オレの視線に気づいた、蘭鳳院がこっちを向く。


 ん?


 オレは、男の未来についてずっと考えてたんだけど、蘭鳳院をじっと見ていたことになる?


 「気になるんだ、やっぱり。勇希(ユウキ)も、男子だもんね」


 蘭鳳院が、オレを見つめる。


 気になる? 男子? 男子が気にすること?


最高とかてっぺんとか、頂点とか? そりゃ気になるぜ。なんたって、それが全てだからな。


 男の全て。


 そこが、真に自分を懸けられるもの。


 男の坂道のその上にあるもの、先にあるもの。それを掴む為なら、オレは何だってやってやるんだ。わかるか? わからないだろう。おまえには。女子だからな。

 


 フッ、



 でも、いいんだぜ、お嬢さん。オレは男の中の男。最後の硬派。女子にわかってくれとは言わない。ただこのヒーローとわずかでも道が交わったことで、お嬢さん、あなたの心に何か1つでも響くものを残せたら、それでいいんだ。お前はオレの目の前に一瞬舞う花びら。ただそれだけの関係。それでもこのヒーローの熱い心、届けずにはいられないんだ。ヒーローとはそういうものなんだ。


 「スカートの丈、短すぎると、勇希(ユウキ)でも、ずっと気になっちゃうんだね。女子お断りとか関係なく」


 え?


 「昨日、私のスカートが短いのが気になって、追い回してたんでしょ? びっくりしちゃった」


あれ?


昨日?


そうだ、昨日、蘭鳳院の夜の約束が気になって、そしたら蘭鳳院が、あの服で現れて……その後、病院にお見舞いに行ってすっかり忘れてたけど。


 スカートが短いのが気になって追い回していた?


そういう話になってたんだっけ?


 「大丈夫だからね」


 蘭鳳院が、ふっと笑った。


 「ああいうの履く時、女子は必ず下にスパッツ履いてるから。知らなかった?   これで安心した? それとも期待してたの?」


 期待?


そんな、まさか。


 「あ、そういえば」


蘭鳳院が、真顔に戻ってオレを見つめる。


 「昨日、私のことを特別って言ってたじゃない? あれ、どういうことなの?」


 「特別?」


「ほら、病院から出る時、言ってたよ。すごく真剣な顔してた」


 そういえば、そんなこと言ったな。


 なんでそんなこと言ったんだろう。オレも……よくわからないんだ。ただその、つい口から出ちゃった。


  「えーと……」


 オレはまごついた。


 「ほら、蘭鳳院、オレの隣の席じゃない。だから」


 「え?」


蘭鳳院は、きょとんとする。


 「じゃあ、隣の席の女子だから特別なんだ。そういうことだったんだ。わかったわ」


 蘭鳳院は前を向く。


 いつものお澄まし顔。


 そうだ、蘭鳳院。昨日お前はオレのこと最高って言ったじゃないか。あれはどういう意味だったんだ? 説明しろよ。そう思ったけど、オレは言えなかった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ