第85 話 ヒーロー魔剣少女は長ランを手に
きた!
オレは、家のベッドの上で小躍りした。
きた! きた! やっときたぞ!
オレがしっかり胸に抱えていたもの。通販で頼んだ小包。
前から頼んでいたんだ。とうとう手に入ったぞ。オレは、小包を開ける。
おお、
オレの身体に震えが走る。武者震いだ。
オレが頼んだもの。それは男である証。男の中の男である証。ヒーローの証。硬派の証。
そう、長ランだ!
黒の長ラン!
裾が膝下まである学ランだ。
ううむ。実に美しい。そして力強い。威厳がある。
オレは長ランを両手で抱え、しばし見とれる。
オレは、男の修行、ヒーローの修行を積んできた。強敵とも巡り会ってきた。わかりあってきた。
剣華も越野も、オレのことを認めている。男の坂道を、着実に上っているのだ。長ランを着る資格、十分にある。
オレは、長ランを羽織った。下着の上からだけど。
全身鏡の前に立つ。
おお。
ビリビリくるぜ。
力がみなぎってくる。
男。
鏡に映しされている姿。それは、紛れもなく男。男の坂道を上る、真の男。
これよこれ。
オレがなりたかったのは、これ。
オレの体が熱くなる。燃える。
くるり、一回転してみる。
長ランの裾が華麗に翻る。
うぐっ
痺れるぜ。
キマっている。
キマりすぎ……
男だ。これはもう男でしかありえない。
ようし。これで、女子どもに。
女子どもも、最近だんだんと、ヒーローであるオレのことをわかってきたようだが、それでもなんだかまだ上から目線を感じる。このヒーローに向かってだ。オレはヒーローなんだぞ。男の中の男だぞ。これではいかん。
女子どもによく教えてやるんだ。男の坂道を上るのヒーローのなんたるかを。
◇
どうしてやろうか。
長ランを羽織って陶然としながら、オレは考える。
この長ランで颯爽と女子どもの前に登場してやる?
ふと、委員長の顔が浮かぶ。
うーむ。学校にこれを着ていくのは……なんたって、校則違反だしなぁ。ちょっと危ないかも……委員長に見つかったら、何が起きるか。
やはり見つからない方が良いだろう。
そうだ。
男というのは、力を誇示する必要は無いのだ。
オレが目指すは男の坂道。その頂点。
クラスの女子どもに、かかわりあっている暇など無いのだ。
これは見つからないように……着ていよう。
ママやパパに見つかっても、かなり怪しまれるから、自分の部屋でこっそり着ていればいいんだ。
こっそり?
べ、別に、ヒーローたるもの、こっそりなんてする必要はないが、まあ、陰ながら世を見守るのも、ヒーローたる者の務めだ。
うむ。そういうこと。
オレは、鏡に映った自分の姿にうなずく。
着てるだけで、力がみなぎってくる。気持ちが上がる。それで良いのだ。




