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第83話 素敵な春のコーデを



 病室の少女。ひぐらしかなえ。


 やつれはあるが、活き活きとした笑顔で蘭鳳院(らんほういん)を見つめる。


 「うれしい。着て来てくれたんだ」


 露出過剰でド派手な服のことか。蘭鳳院が、にっこりと。


 「買ってきてくれたのは、越野(こしの)君」


 「そうなんだ。なにからなにまで」


 「買ってくるの、とても楽しかったよ」


テニス王子、まだ、かなえの手を握っている。離したくないみたいだ。


 かなえ、じっと蘭鳳院を見て、


 「どう?」


 蘭鳳院、両手を広げてみせる。露出過剰な服。蘭鳳院の白い肌、病室の灯りにキラキラと輝く。


 「すごくいいよ。春らしくて、明るくて、心がウキウキしてくる」


 「そう? 本当に?」


かなえの青白い顔、少し赤くなる。


蘭鳳院、くるり、と手を広げたまま一回転。本当に優雅な動きだ。隙がない。会心の演技。オレも目を奪われる。スカートは思いっきり捲れるけど。


 「綺麗」


 かなえは、じっと見つめている。


 「すごくいいコーデだよ」


 と、蘭鳳院。


 「麗奈(りな)が綺麗なんだよ」


 「素敵な服、選んでくれたから」


「ううん、綺麗なのは、麗奈」


 蘭鳳院とかなえ、にこにこして、見つめあう。


 この2人、仲良しなんだな。温かい心の交わり。伝わってくる。


 かなえがオレを見て、


 「私、ファッションデザイナーになりたいんです。それが、夢なんです」


 そうなんだ。なるほど。


病室の棚に、デザイン関係の本がいっぱい置いてある。ノート類もある。


 「でも、まだ自分でデザインとかはできなくて。だけど、いろいろファッション誌見ながら、こんな服がいいな。あんな服がいいなって……いろいろ考えているうち、そうだ、麗奈のためのコーデをしてみよう、そう考えたの」


 かなえ、恥ずかしそうに、


 「いろいろ考えて、選んだのを、越野君に頼んで」


 「僕が探して買ってきて、麗奈さんに渡して、今日着てきてもらったんです」


 越野が引き取る。


そういうことだったんだ。


 かなえ、蘭鳳院を、自分で選んだ服を見て、


 「すごく綺麗……でもちょっと大胆だったかな。」


 「そんなことないよ」


 蘭鳳院が真面目な顔で言う。


 かなえは、蘭鳳院から目を離さない。


「そう? それなら、本当によかった。麗奈、本当に綺麗で。肌がすごくキラキラで。春だから、思いっきり麗奈がキラキラするようにと選んだんだけど……私、この生活だから……春だし、外に出て、はしゃぎまくって、開放的になれたら、どんなにいいだろうって。それを、麗奈にやってもらおうとしちゃって……自分勝手だったかな」


 「すごくいいよ。本当に」


 蘭鳳院は、力強く言う。


 「開放的になるって、私も憧れてた。自分じゃちょっと踏み切れなかったけど。かなえのおかげで、この服が着れてすごく嬉しかった」


 「ありがとう」


 かなえは、また、うつむく。


 ちょっと涙ぐんでいるようだ。


 オレたちは黙って、かなえを見守る。


 

 「一文字(いちもんじ)君」


 かなえが、顔を上げて、


 「いつも、麗奈から、話聞いてる」


そうなんだ。オレの話、いったいなにを話してるんだろう。


 「一文字君の話を聞いていると、すごく胸がワクワクをしてきて」


 かなえがオレを見つめる。青白い顔。瞳をキラキラさせて、


 「スポーツエリートなんだよね。学年一の。それで勉強もがんばっていて、お笑いもできるんでしょう? 人気者なんでしょう?本当にすごい。話聞いてるだけで元気になる」


 うーむ。なんだか。蘭鳳院のやつめ、やっぱり妙な具合にオレのこと説明してやがったな。


 お笑いなんてやったことないぞ。勉強がんばっているってのも……話盛りすぎだな。


 でも、目の前のかなえは、


 「あの、できればだけど。一文字君にお願いがあって」


 かなえ、赤くなる。


 なんだろう。でも、オレはヒーロー。なんであっても。女子の期待を裏切ってはいけない。


 「なんでも言って。オレでできることならなんでもするんで」


 蘭鳳院と越野、ニコニコして、オレを見つめている。かなえ、恥ずかしそうに、


 「この前、野球で大活躍したんでしょ?野球している動画、もらえませんか?」


「え?」


 オレはスマホを取り出す。この前の野球の試合、野球部員が撮影した動画をオレも貰った。フォームをチェックしたりするから、試合は撮影するのが基本だ。ま、結局オレは入部しなかったわけだけど、試合の記念に動画をもらって悪いわけは無い。


 「これで、いいかな」


 かなえに見せる。


 「うわあ」


 かなえ、目を輝かせる。オレの投球動画を見いる。


 「これでいい? じゃあ、動画送るね」


 かなえが自分のスマホを取り出す。オレは、かなえのスマホに動画を送る。


 「うれしい」


かなえが言う。


 かなえと一緒に、動画を見ながら、蘭鳳院が言う。


「かなえに、勇希(ユウキ)のこと、これまで何度も話したの。すごく、嬉しがっていた。喜んでいたよ」


 いろいろ盛って話してるみたいだけど。


 越野がいう。


 「この前のテニスの話もしたよ。一文字君、ものすごい運動能力だった。圧倒されたから」



 フッ



 さすが越野。わかってるな。やはりアスリートだ。オレたちはわかりあえている。


 オレは、かなえに、


 「オレの野球、興味を持ってもらえた? そうだったら、プロ野球とか、メジャーリーグとかもっと迫力あるから。ぜひ見てみて」


 かなえ、うなずく。


「うん。見てみる。でも、一文字君の野球、すごく、すごく心が躍る。元気になれる。身近にこんなすごい人がいるなんて。越野君のテニスも麗奈の新体操の動画ももらってるけど、みんなに、本当に元気を貰える」


 かなえ、微笑む。


 蘭鳳院が言う。


 「遠くの大きなヒーローより、身近な小さなヒーローに勇気づけられることもあるのよ」


 小さなが余計だよ。


 かなえが言った。


 「あ、一文字君はどう思う? 私が麗奈のために選んだ服」


 ちょっと心配そう。


 「すごく、すごくいいよ」


 オレは言った。


 「明るくて、軽やかで、春らしくて、気品があって。オレも、かなえさんに服を選んでもらいたいな」



 かなえ、頬を紅潮させる。瞳がキラキラ。



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