第81話 ヒーロー少女は悪の一味の相談につきあいません
「どうかな」
蘭鳳院、右腕を上げる。
うわわあっ!
腋、見せてる。
肩も腕も胸元まで丸出しだから。
これもう、服見せてるんじゃなくて、肌をアピールしてるんだよね。
幼馴染の2人って、外で会うたび、肌チェックとか必要なの?
「いいよ。とっても」
越野がいう。真面目な表情だ。ちょっと微笑んで。
いいって……
蘭鳳院のワキが?
ねえ。いったい何をやってるの?
蘭鳳院、オレの見てる前で、いや、越野が見てる前で……越野に見せるために……
いろいろ、ポーズとって。
なんだか、もうファッションショー状態!
いや、服を見せているんじゃなくて、中身のモデルを見せる、モデルショーだ!
蘭鳳院が、新体操をするために、削ってきた。究めてきた身体。
スレンダーな身体が軽やかに。
白く透き通るような肌が、キラキラと。
蘭鳳院、くるりと一回転。
スカートの裾が翻る。
うわっ!
オレの心臓が止まりそうになる。
ダメ!
見えちゃうよ。本当に見えちゃうって!
スカートの下のがチラチラ。
オレは呆然となる。
越野の手。
蘭鳳院の胸に伸びる。
おい、なにしてるんだ、やめろ。
みんな見てるんだぞ。
ダメ! 絶対ダメ!
越野は、蘭鳳院の胸の紐飾りを手に。
なんなんだ?
なにが起きてるんだ?
オレの目の前で、まるでオレなんか見えないというかのように、見つめ合う2人。
2人とも、妙に真剣で、すごくうれしそう。
これって絶対……
幼馴染とかじゃないよね。
幼馴染じゃなかったら、それは……それは……つまり……
やっぱりこいつらは、そういう関係なのか?
もうとっくに。
人目も憚らず、ヒーローのオレが見ている前で、派手なファッションショー。露出全開コーデで。
蘭鳳院、越野しか見えてないの?
越野がいう。
「よかった。本当に。やっぱりすごくいいね」
よかった?
それは、いいだろう。おまえにはな。
越野が続ける。
「買うときは、ちょっとどうかと思ったんだよ。すごく、派手じゃない? でも、麗奈が気にいってくれてよかった」
蘭鳳院は、うなずく。満面の笑顔だ。
「本当に、これ最高。着てみて、すごく気持ちいい。買ってきてくれて、ありがとう」
え?
この服、買ってきた……越野が?
で、蘭鳳院が着ている。つまり、越野がプレゼントして、それをそのまま、着てここに来ちゃったってこと?
もう……決まりだ……
わかった……
終わりだ……すべて……
こいつらは……そういう関係なんだ。
うぐ、うぐぐ、
なにを考えてるんだ?
越野、おまえは、蘭鳳院とそういう関係……それで、蘭鳳院にこんな格好させて満足なのか? みんな見てる前で。
本当にいいのか?
蘭鳳院のことをちゃんと考えてるのか?
こんなはしたない格好させて。
違うだろう。
越野、蘭鳳院がおまえの……なら、蘭鳳院のことをちゃんと大事にしろ!
世界で一番大事にしろ!
そうじゃないか!
それが男ってもんだろ!
服をプレゼントしたっていい。だけど、こんなの、おかしいよ!
下品なだけだ!
最低だ!
蘭鳳院!
おまえもおまえだ。男に言われたから、こんな格好したのか?
はしたなくて、下品で、最低な……
なんで? おまえってそんな奴だったの?
情けないよ。
なんで自分で考えないんだ。なんで自分をしっかり持とうとしないんだ。
自分で着る服くらい、自分で決めろ。プレゼントされたっていい。けれど、それでもちゃんと主張しなくちゃ。
ただ、ただ男に流されてるだけ? 男のいうとおりに? それでいいのか?
おまえの将来の夢ってなんだったっけ?
今からこんなんじゃ……
絶対、絶対、絶対、
おまえなんか、なに一つできはしないぞ!
だいたい……
オレに、越野はただの幼馴染って言ったじゃないか。
あれは嘘だったのか。
オレもいろいろ嘘ついてるけど、オレが嘘ついてるからって、おまえがオレに嘘をついていいことにはならないんだぞ!
オレはヒーローだ。
男の修行を積んだ、男の中の男。真の男だ。
男の坂道を上るヒーローだ。
だから、目の前の女子を助ける。自分になんの得もなくても。なにを失ってでもだ。
でも、
でも、
でも!
これはひどいよ!
こんなのないよ!
ヒーローだって、限度があるんだぞ!
ずっと……いつだって……女子を守れるってわけじゃ……
ないんだ。
そうだ。
蘭鳳院、お前みたいに、悪さをする奴は、悪に身を落とす奴は、もう助けてやることができないんだ。
ヒーローだって……
ヒーローだって……
限界なんだぞ……
おまえら2人は、手を取り合って、一緒に墜ちていけばいいんだ。
悪の道に。
もうしらねえ……
さよならだ。
悪の道に落ちたものは、ヒーローは決して助けない。
それが定めなんだ。
悪く思うなよ……
蘭鳳院と越野、オレの目の前で、オレそっちのけで、何か話をしている。が、もうオレには何も聞こえない。聞きたくもない。
どうでもいいんだ。
悪の道に落ちた二人。
もう、オレとは何の関係もない……
蘭鳳院が言った。
「勇希、一緒に来ない?」
え?
なにをいってるの?
一緒に来ない?
どこに?
君たちは悪の仲間なんだよね。
世界を滅ぼす相談でもしてたの?
オレに付き合って?
オレはヒーローだよ。男の坂道を上るヒーローだよ。真の男だよ。悪に付き合えって?
いったいなにを言ってるのかな?
誰に言ってるのかな?
おまえ、オレが誰だかわかっているのか?
悪の仲間にオレがなるなんて、そんなの絶対ありえない……
「どこに行くの?」
オレは訊いた。
いや、その、行き先ぐらい訊いてもいいよね。
ヒーローは、悪の一味について、いろいろ知っておかなきゃ…
「病院よ」
蘭鳳院が言った。
「私たち、これからお見舞いに行くの」




