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第8話 目指せ最後の硬派男子! 少女はヒーロー少年漫画をひたすら読みふける。これが男になるための修行



 転校2日目も、午後の授業が終わると、全力で教室から飛び出した。誰かに捕まる前に。


 なんだか逃げてるみたいだけど。

 

 うぐぐ……


 逃げてるんじゃない!


 これも、ヒーロー跡目になるための戦いだ!

 

 昼休みのことを思い出す。


 女子どもに追い回されて。


 私は、教室の隅に、追い詰められた。


 目をランランと光らせながら、私に襲いかかろうとする、女子たち。


 もうダメだ、と観念した。


 でも、その時。


 あのクラス委員長、剣華優希が、助けてくれたんだ。


 「みんな、やめてあげて、転校生をからかったりしちゃ、だめ」


 びしっと、凛とした声で。


 「はーい」


 女子たちは引き下がった。

 

 このクラスの女子、とりあえず委員長の言うことは聞くんだ。


 委員長は、私に向かって、にっこりする。


 ほっとした。


 ありがとう。委員長。助かったよ。



 しかし、危なかったなぁ。


家への帰り道、考える。


 ヒーローになる。本当にこれでいいのかな。


 とりあえずは女子バレを防ぐ。


 18歳になったら、一族の長老会とやらの、ヒーロー認定があるっていうけど。


 それまでひたすら女子バレを防いでいればそれでいいの?


 ヒーロー。


兄は間違いなく、どう見てもヒーローだった。


 兄みたいになればいい?


 どう考えても、それは……無理。


 ママとパパにどうすればいいか聞いても、時季が来れば、ちゃんとわかる、今は話す事は無い、そういうばかりだった。


 何も考えなくていいのか?


 いや。


 そんな事は無い。


一族の宿命とやらを背負わされているのは私だ。


失敗したら人面犬だ、鬼面鳥だに襲われる呪いで脅されているのは私だ。


これは私の問題なんだ。


宿命の方では、私が失敗したら、別の誰かをヒーロー候補に探すだろう。


でも私は。


絶対に失敗するのは嫌だ。


呪われて人生終了するなんて。


だから自分で何が何でも突破するんだ。


ヒーローの道。


それは自分で見つけるんだ。自分で進んでいくしかないんだ。



 そこで考えた。


私なりに必死に考えたんだ。


 帰り道、書店に寄った。


 目的のものを買い込む。


 いろいろ考えた末に出した結論だ。



 家に着く。


 両親にただいまと言って、早々に夕食を取る。


 両親には、学校ではうまくいっている、クラスのみんなとはすぐ仲良くなって、と言っておく。


 夕食を終えると、2階の私の部屋に駆け込んだ。

 

 よし、始めるぞ。


 私の宿命。


男のヒーローにならなければならない。


とにかく何千年前からの決まりらしい。


これに合格しなきゃいけないんだ。


 女子バレを防ぐ。


 男子のフリをし続ける……いや……フリをする、それではだめだ。やっぱり本気で男にならなきゃいけない。


 そう、私は、考えたんだ。


 完全に男になる。


 文句なしの男子になる。


 そのためにはどうしたらいい? 


 私の答え。


 修行。


 やっぱり修行だ。修練だ。


 男になる修行をするんだ。

 

 うん。

 

 必死に修行をする。それしかない。


 時間をかけてる場合ではない。今すぐ、完全な男にならなくちゃいけない。


 ヒーローと認められなければならない。


 そこで、思い当たったんだ。


 私は、書店の大きな紙袋を見る。買ってきたんだ。


 この国に伝わる、男の三大聖典。


 誰もが知っている、三大聖典。


 男の聖典。


 男が、男になるための聖典。


 男の中の男のための聖典。


 真の男になるための聖典。


 私は男の三大聖典のことは知っていた。


 みんな、聞いたことがあるんだ。誰もが知っている、男の聖典。


 私は女子。これまで、読んだ事はなかった。手にとったことも、なかった。



 でも、いよいよ必要になったんだ。なにせ、男にならなくちゃ、いけない。


本物の男に。それには、聖典が必要だ。聖典で、修行するんだ。男の修行をするんだ。それしかない。


 私は書店の大きな紙袋から聖典を取り出す。


 男の三大聖典。

 

 『男の坂』


 『北都の拳』


 『男一匹ガキ番長』


 三大少年ヒーロー漫画。


 これだ。


 これが、この国に伝わる、男の三大聖典。


 私は、聖典を、手に取った。


 よし、修行を始めるぞ。


 これを、男の聖典をひたすら読むんだ。


 真の男、男の中の男、誰が見ても文句のつけようのない男、誰もが認める男、私の目指す男、絶対になってやる。修行だ。ひたすら修行だ。 


 私は、聖典を読みふけった。



 男について、ヒーローについて、どんどん頭に入っていく。いや体で感じ取っていく。ぐんぐん入っていく。それがはっきりとわかる。


 男。男の道。ヒーローの道を行く男。


 それはずっと長い果てしない坂道を上ること。


 きっと前を見据えて。何があろうと、歩みを止める事は無い。それが男。真のヒーロー。

 

 そして、


 硬派。


 この言葉に行き当たった。


 硬派だ。


 硬派男子ヒーロー。


 男たるもの、女子には目もくれずに、わが道を行かねばならない。


うむ、そうだ。


 学園で男デビューしたけど、厄介なのは女子。女子どもがまとわりついてきて、おちょくり悪戯を仕掛けてきやがる。


 これでいいわけない。


 やつらをギャフンと言わせるためには、そう、硬派ヒーローにならねばならぬ。


 硬派か。


 こんな言葉知らなかった。今の男子どもは、ふにゃけて女子にデレデレしている奴らばかりだからな。


 硬派はとっくに絶滅していたんだ。


だったら私がなってやろう。


最後の硬派に。


 これだ。


 これよこれ。

 


 夜が更けて行く。時間も、もう気にならなかった。



 ◇



 転校3日目、朝の清々しい空気の中、家を出た。


 パパは、今日も弁当を用意してくれる。いつも、本当に愛情たっぷりだ。感謝するぜ。


 今日は転校3日目だ。今日もやってやるぞ。


 フッ、


 昨日一昨日は、なかなか良い出来だった。


 いや、最初にしちゃ、上出来だった。まぁこんなもんだ。オレにとってはな。


 今日はもっとやってやる。なんたって、修行したんだ。


 オレは、男の聖典を、一晩かけて読んだ。徹底的に読み込んだ。寝不足だが、そんなことはどうでもいい。なんか体が熱くなった。いや、熱くなったなんてもんじゃない。完全に燃えてる、燃えてきたぜ。


 これだ。これだ。これだよ。


 物凄い効果じゃないか。やっぱり言われていた通りだ。みんなが言ってる通り、男の三大聖典、こいつはすごいぜ。なんて威力だ。パワーが湧いてくる。

 

 どんどんどんどん。


 毎日読もう、繰り返し読もう。聖典はオレを裏切らない。聖典は男を裏切らない。


 フッ


 オレは、真の男になるんだ。震えてきたぜ。


 硬派ヒーロー。男の坂道を上るんだ。


 朝の風が、気持ちいい。

 


 学園に着く。


 いよいよだ。


 オレはクラスへと向かう。


 もう一度、また、デビュー。一昨日もデビューした。


 だが、今日は違う。


 一昨日とは違ったデビュー。


 真の男のデビュー。


 男の三大聖典の修行の成果、見せてやるぜ。


 クラスの女子どもを、女子どもにデレデレしているだけの腑抜け男子どもを、オレの足元にひれ伏させてやるぜ。


 

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