第75話 姫と王子
女子たちと野球観戦の翌日。
昼休み。
オレは廊下をぶらぶらと歩いていた。
昼飯のパンを購買部で買ってきて、教室に戻るところだ。いつもの日課だ。
あれ?
オレのクラスの前の廊下に。
蘭鳳院。
そして越野。
イケメン長身振りは、学ランでも変わらないな。
2人は、なごやかに話している。
ま、幼馴染だからな。
学校で話しくらいするだろう。
何を話してるんだろう。やっぱりちょっと気になる。なんだか、真剣な様子だ。
オレは、2人の横を通るときに、思わず聞き耳を立てる。
「じゃあ、今日の夜ね」
と、蘭鳳院。
「うん、ありがとう。待ってるよ」
越野がうなずく。
後は聞こえなかった。
オレは、そのまま教室に入り、席に着く。
パンを食べる気にはなれない。
夜?
夜に2人で?
夜の約束?
蘭鳳院と越野。テニス王子が?
なんだ?
妙に動悸がする。
べ、別にいいじゃないか。
幼馴染……なんだし。
話しくらいするだろう。
でも。
夜に?
夜……
あの2人、どこかで会うのか? 会ってどうするんだ。高校生の女子と男子が。
夜に。
落ち着け。会うとは限らないじゃないか。そうだ、メールのやり取りの約束かもしれない。
昼間は授業があって、それが終わったら部活。だからその後にメールのやりとり。みんなやってることだ。
昨日、野球観戦が終わって、家に着いたら、蘭鳳院からお礼のメールが来た。やっぱり、ちゃんと丁寧な子なんだ。
蘭鳳院と越野もメアド交換してる。メールのやりとりぐらいする。
そうだ。それだけのことだ。
メール。
蘭鳳院のメール。画像。
湯煙の中の裸。
白い肌。
ドキュッ!
あれは誤送信だと、蘭鳳院はいっていた。
でも。
“誤送信"したのはオレだけなのか。
ひょっとして、他にも。越野とかは?
誤送信。
本当なのか?
誤送信じゃないとすると。やっぱり、わざと? みんなに送って、反応を見ているとか。
オレはパニックになってすぐ消したけど、越野は、このメッセージの意味をしっかり受け取って。
いや、考えすぎだ。オレ、何考えてるんだ。
あるわけない。絶対にあるわけない。
ハハハ。
このところ、急にいろいろありすぎて、少し頭がまいっちまっているんだ。
昨日オレと野球観戦に行って、今日またすぐ越野と。ばかばかしい。
蘭鳳院がそんなにおかしなことする奴なら、中学時代からの友達はみんな知ってるはずだ。それなりに話が広まる。蘭鳳院も、満月も、オレをおちょくったりはするが、嘘をついたり騙したりは、決してしない子だ。
それについては、自信がある。
オレは、スマホを取り出し、昨日もらった、蘭鳳院の画像を開く。昨日から、もう何度も見ている。
蘭鳳院の新体操レオタード姿。
◇
ふと、気づく。
蘭鳳院が教室に入ってきて、オレの隣に座る。
いつものお澄まし顔。
オレは、慌てて蘭鳳院の画像を閉じた。
◇
午後の授業が終わり、オレは校庭で、1人走り込み筋トレ。
なにも考える事は無い。今日も春の陽射しの中、グラウンドで汗を流す。これでいいんだ。
余計なことに頭を使うな。
オレはヒーローなんだ。ヒーローの宿命に生きる。それだけ考えていればいいんだ。
うん。そういうこと。なにも問題ないさ。
1人での自主トレの後はシャワーで汗を流す。すっきりした。そして、図書室で勉強。とにかく勉強一筋のオレをやらなければいけない。
辛いけど、これもヒーローの道だ。
やっと今日が終わる。やれやれ。
校門を出る。夕暮れの中、駅へ向けて。




