第74話 蘭鳳院からの贈り物
3人のクラスメイト女子と、メアド画像交換した。
蘭鳳院は、画像交換しようとか言ってこない。
だけど、まさか無視するわけにいかないので、
「蘭鳳院にも、画像送ろうか」
「うん。ありがと。私も、画像送るね」
蘭鳳院、普通に言う。
なんだ、欲しかったんだ。言えばいいのに。
うん。よし。みんなへのと同じ、オレのユニフォーム姿の画像を送る。
返信が来た。
オレは、ドキドキして開く。
なにをドキドキしているんだろう。やっぱり、新体操の演技。レオタード姿かな。
一度だけ見たレオタード姿、強烈に目に焼き付いている。また、見られるのなら……送ってくれたら。
開いた画像。
ぐひゃああああああっ!
なんだ。
なんだ。これ。湯煙。湯煙の中の、白い肌、裸……
これ……
蘭鳳院……?
裸!
蘭鳳院の裸!
ドキュキュキュッ!!
「あ、ごめん」
蘭鳳院が言った。
「間違えちゃった。それ消して」
オレの頭、パカーンとなっていたが、とにかく必死に、画像を消す。
「蘭鳳院……これ……なに……」
「妹が撮影したの。ごめんね。変なの送って」
「あの……誤送信するといけないから……保存しておかないほうがいいよ」
「うん、そうだね。消しといたつもりだったんだけど。じゃぁ、今度はちゃんと間違えずに送るから」
他の3人の女子には、蘭鳳院が誤送信した画像、見られなかったようだ。よかった。オレの責任では全然ないんだけど、あんな画像見てたとわかったら、なに言われるか分かったものじゃない。
新しい画像が送られてきた。オレは、おっかなびっくり、開く。
あ。
新体操のレオタード姿だ。
オレがどうしてもみたかったやつ。
試合前なのかな。蘭鳳院、笑顔じゃなくて、きっ、と口を結んでいる。
なんだろう。本当に惹かれる。吸い込まれそうな表情。
レオタードの上半身。これから躍動しようとまさに身構えている。
ずっとこれをオレは持ってられるんだ。
蘭鳳院とのつながり。また1つ。
ドキュッ!
今日は、心臓がどうも……
オレは、スマホの画像から目を離せない。
「みた?」
またいきなり。蘭鳳院の目と会う。
え? 見たって、なにを。
「さっきの」
さっきの……
あ、
裸。湯けむりの中の裸。蘭鳳院の。
いや、その、オレは、パニックになって、そんなに見れなかった。残念ながら。いや、残念ていうか。ただ、白い肌が……
「あの、もちろん見てないよ」
オレは、まだ、ドギマギ。
「でも、ああいうの送ったりしないよう、本当に気をつけてよ」
「うん、気をつける。ごめんね」
蘭鳳院はお澄まし顔。
まったく、何考えてるんだ。
◇
試合は終わった。
ドーム球場で、オレは、女子たちと別れた。
「野球観戦に連れてきてもらって、本当によかった。ありがとう」
と、蘭鳳院。
「プロ野球のチアパフォーマンス、すごく勉強になったよ」
と、剣華。チア部だからな。
「また、勉強会もよろしくお願いします」
と、奥菜。可愛いえくぼ。
「今度は、私が遊びに連れて行ってあげるからね」
満月はウィンクする。いや、いいよ。もう。
家へ。
なんだかすごく疲れたな。
クラスの女子たちとの、健全な野球観戦。いっぱい食べて、おしゃべりして、画像交換して、みんなで仲良く。
オレの野球ユニフォーム姿と交換に、女子たちみんなの、とっておき画像をもらった。
これでいいのかな。
画像。
思い出しす。目の前にちらつく。
蘭鳳院の裸。湯煙で、よく見えなかったけど。
間違いなく、
裸。
蘭鳳院の裸の画像。
蘭鳳院の白い肌。
ドキュッ!
なんなんだあれは。
なんだったんだ。
わざと……!?
まさか!
でも、あんなの誤送信なんてするかな。
だいたいオレは、自分の裸の画像なんて持ってないぞ。
蘭鳳院がいう。
「みた?」
うぎゅっ……
蘭鳳院……オレに見せたかった? 見せつけたかった?
満月は、オレに下着姿を見せた。そして蘭鳳院は、裸?
なんだろう、これは?
どんどんエスカレートしていく。
高校女子ってこういうのが当たり前なのか?
大胆すぎるんじゃ……
次はどうなるんだ?
やっぱり、どっかに引っ張りこまれるのかな?
まさか! 落ち着け。
蘭鳳院は、オレに何の気もなくて、今日だってみんなで野球観戦。デートするつもりなんてなくて。
いや。
まてよ。ひょっとして。
本当はオレと2人でデートに誘いたいけれど、まだその勇気が出なくて。それでみんなで一緒に。手初めに、そこから。健全なグループ交際。
もし、そうだったら。
やっぱり最後には、怪しいところに引っ張りこまれちゃうのかな。
必死に勉強した保健体育の知識を、フル活用するために。
それは、ダメ。
とにかく、ダメ。
いろいろと、ダメ。
オレのヒーロー宿命と純潔は、絶対守る!
今は……まだ……
とにかく、気をつけよう。
スマホで、蘭鳳院の画像を開く。
蘭鳳院。
競技前の緊張感。この画像、持っていられるんだ。
持っていていいんだ。
いつも一緒だ。これでいいんだ。
これ以上、何かあっちゃいけない。
うぐぐ。
なんだか。
女子たちといると、魔物との戦いよりずっと疲れる気がする。
でも、今日オレは、野球女子のエスコートを立派にやったのだ。
これもヒーローの務めなのだ。
オレは、よくやった。
オレはヒーローなのだ。
男の坂道を上るヒーロー。
決して女子と間違いしたりしない最後の硬派。




