第71話 ドーム球場で女子たちに囲まれて
ドーム球場の中。オレと、4人の女子。
内野席に陣取る。
ちなみに、チケット代その他はみんなの自腹。
オレは、あくまでも、エスコート案内係だ。弁当やら飲み物をしこたま買い込んでいった。
ドームは盛り上がっている。ほぼ満員だ。平日からすごいな。
試合は、もう、4回裏。
両チームに双方ホームランが1本ずつでているので、観客のボルテージも上がっている。
やっぱり、野球はホームランが出ると盛り上がるな。オレは、投手戦を見るのが好きだけど。
「みんな、気軽に楽しんでね。わかんないこと。オレに聞いて。難しい事考える必要ないから。みんな、それぞれ好き勝手に楽しんでるから。ここでは」
オレたちの周囲。ビール飲んだり、大声出したり、仲間とおしゃべりしたり。
オレも野球観戦は久しぶりだ。球場っていいな。
昔は、パパに頼んでよく連れてきてもらってきた。パパは、オレの応援サポートはしっかりしてくれるけど、野球にはそれほど興味ないので、球場ではずっとノートパソコンで仕事をしたり、ビール飲んだりしていた。まぁそれでいいんだ。
今日のプロ野球観戦。もちろん高校になってからは初めて。
それにしてもなんだか。
女子たちに囲まれて、圧がすごい。女子たちの匂いと熱気。
オレの左隣に、蘭鳳院。右に、奥菜。後ろに剣華と満月。
パワフル女子にすっかり囲まれて。
もちろん中学生の時は野球部のみんなと女子でワイワイ野球観戦に行ったりしてたけど。
男子として女子に囲まれるって……何か違うな。
ハーレム? いやいや。健全なクラスメイトでのお出かけだ。
◇
久々の生で見るプロ野球観戦。
オレはすぐに球場の雰囲気に溶け込み、試合を満喫していた。やっぱりプロの投球は良いのだ。
女子たちはどうかな。楽しんでくれてるかな。
みんな、野球の基本的なルール自体は押さえておいてくれてるみたいだ。細かい点はもちろん何もわからない。まぁそんなもんだ。
「あれ、ピッチャーが、ランナーのいる方に慣れてるけど、何?」
「あれは牽制球って言って、ランナーがベースから離れているときに、ボールでタッチできれば……」
「ピッチャーが、うんうん頷いたり、首振ったりよくしてるけど、あれは何してるの?」
「あれは、キャッチャーと、投げる球をどうするか、相談してるんだよ。サインってのがあってね。次どういう球投げるか、キャッチャーがピッチャーにサインで知らせることが多いんだ」
「サイン? なんでサインで知らせるの」
「そりゃ、えーと、バッターにどういう球投げるかわかるといけないから、わからないようにやりとりするんだ」
「へえ、複雑なことをするのね」
満月は感心したようだ。
「ねえ、勇希、私たちも2人だけの秘密のサインとか欲しいよね」
満月、オレにウィンクする。おいおい、いい加減にしろ。
オレたちの一団、ワイワイキャッキャ、飲み食いしながら、楽しく観戦。
「ねぇねぇ、勇希」
後から、満月が、身を乗り出してくる。ドーム球場の席間隔は、かなり狭い。満月は、狭い座席に思いっきり浅座りして長身を前のめりにしている。
ずっと、オレに上から覆い被さるように。
満月の茶髪が、オレの首筋にサラサラしたり、話すついでにオレの髪の毛をいじったりしている。
さっそく密着か。長身ダイナマイトボディ女子に迫られるのが、オレの宿命らしい。満月、大満足のようだ。
「勇希って、野球すごくできるんだよね。勉強じゃなくて野球1本にしたらどうなるの?プロ入りとかできるの? ほら、何だっけ、そうだ。スカウト。スカウトされるの?」
オレの耳元すぐで、満月の声。熱を感じる。
プロ入り? スカウト?
うぐ……
うぎゅ……
まぁ、野球知らない人ならそういう発想になるな。オレは中学女子野球で活躍したけど、当然ながら、絶対にプロに引っかからないレベル。ヒーローパワーチートで何とか高校の一線級ってとこだな。
「いや、オレはその……そんなレベルじゃ」
「あ、もしかして」
満月のボルテージが上がる。
「やっぱりメジャーなの? 勇希、日本のプロの事は考えてなくて、いきなりメジャーとか考えてるんでしょう?」
メジャー!
絶対オレには無理!
「メジャーは夢すぎるよ」
オレの言う。しかし満月は全然聞いていない。
「勇希がメジャーに行くなら、私、絶対応援に行くから!」
満月、一人で盛り上がっている。満月なら、どこに行っても映えるだろうけど。
「勇希がメジャーで大金稼いだら、私が使い道考えてあげるね」
満月が、オレの頬を後ろからつねる。
おい、いったいどういう設定になってるんだ?
「うーんと、ジェット機買って、牧場買って、ヨット買って、そうだ、ワンチャンはどうする?犬種は、なにが好きなの?」
いやはや。
女子ってのは。




