第7話 今度はクラスの陽キャ女子リーダーに襲われた! 乙女の胸をワシ掴みするんじゃねえっ!
天輦学園高校。
一文字勇希のクラス。
朝のホームルーム前から、盛り上がっていた。
その中心にいるのは、
満月妃奈子
陽キャ女子グループのリーダーだ。
新学期早々、圧倒的な美貌と、パワフルな存在感で、地位を確立した。
クラスのビジュアルリーダーとも目されている。
身長173センチの長身。
明るい瞳。柔らかい顎のライン。
長い手足。しっかりと主張する胸と腰。
肌は健康的な小麦色。
ダイナマイトボディ。
長く伸ばした茶髪に、赤いリボン。
男子だけでなく、女子も、思わず見惚れる。
満月妃奈子の席は、勇希の席の右斜め後ろのほうにあった。
満月を囲んで、女子たちが群がっている。
話題になっていたのはーー
「ねぇねぇ、昨日の転校生、どう思う?」
「可愛かったあ〜」
「乙女男子!」
「美少女なボーイッシュ!」
女子たちは華やかに笑った。
「でも、なんか、妙にイキってたね。教壇踏んづけちゃったりして。あれ何なんだろ」
「ずっと、かわいいかわいい、乙女乙女と言われてきたから、こじらせちゃったんじゃないの?」
「こじらせ乙女男子キャワイイ〜」
「こじらせてイキってる割に、授業中、妙なことやりだしたよね」
「あれ、ビックリしたよね。面白いことしたいのかな」
「強烈なデビューだったね。面白男子になりたがってるのかな?」
「面白男子? 乙女男子でいいのにねえ」
女子たちの笑い声。ひときわ大きく。
「あ、きたよ。こじらせ乙女男子、面白男子だっけ?」
◇
転校2日目だ。
私は、教室に入った。
ざわついていた教室が、静かになる。
なんだかみんながこっちを見ている。
悪いな、諸君。
相手をしている暇はないんだ。
こっちは重いものを背負っているんでね。
宿命ってやつを。
私はクラスの連中に目もくれずに、自分の席に座る。
隣の蘭鳳院麗奈。
もう席についている。
お澄まし顔だ。
ふん。
悪戯好きのかまってちゃんめ。
こっちはお前なんか何とも思ってないぞ。
堂々としてればいいんだ。
でも、挨拶ぐらいしてやろうじゃないか。
隣の席のクラスメイトだ。余裕のあるところを見せてやろう。
「蘭鳳院さん、おはよう」
「おはよう」
蘭鳳院は、こっちを見ずに行った。
相変わらずの態度だな。ま、気にしないけど。
後ろで女子たちは、囁いていた。
「今日もキャワイイ!」
「いいね、乙女男子!」
「でも、隣の蘭鳳院さん、全然、乙女男子のことを気にしてないみたいね」
「さすがよね。蘭鳳院さん、男子お断りで有名だから。どんなイケメン乙女男子が隣に来ても、ちっとも動じないんだ」
「私には、それ無理〜」
ホームルームが終わり、午前中の授業が始まった。
私は警戒していた。
隣の蘭鳳院をだ。
また、妙な、おちょくり悪戯ちょっかいをされては大変だ。
全身から、私に手を出すなよオーラを出す。
昨日のようにはいかないからな。
毎日毎日悪戯できると思うなよ。
私はヒーローの宿命を背負ってるんだ。
邪魔をしないでくれよ。
午前中の授業、何事もなく過ぎた。
ほっとした。
いや、これが普通なんだ。
普通の男子高校生としての学園生活。
蘭鳳院は、何もしてこなかった。こっちを見ようともしなかった。
私の覚悟、伝わったのかな。
それとも昨日は転校生が珍しくてちょっとおちょくって、もう飽きた。そいいうこと? それならいいんだけど。
昼休み。
蘭鳳院は、スッと立って、優雅な足取りで、教室を出ていく。
やっぱり学食なのかな。
私は弁当だ。パパの愛情弁当。
心して食べよう。
クラスのみんなが見ていようといまいとお構いなし。
シカトして、弁当に集中する。
弁当を食べ終えた私、窓から、外を見る。
かなり広い校庭が、あるんだ。
天輦学園高校。
名門エリート校だけあって、校舎は立派だし、敷地は広い。
とにかく、何もかも豪華だ。
その分、学費はバカ高い。
だから、限られた家庭の子しか入学できない。
うちは普通の家庭。バカ高い学費を払えるほど収入があるわけじゃない。
私が入学できたのは、ヒーロー跡目枠とか……らしい。
でも宿命がどうこうとかは誰も何にも言ってない。みんな知らないみたいだ。
ここで、知ってる人いるのかな。
校庭の方から、キャッキャする声が、聞こえてくる。遊んでる声だ。
体がムズムズする。
私は女子だけど、ずっと外で遊ぶ方が好きだった。
スポーツをやってきた。
その分、勉強は苦手だけど。
エリート校に入学したんだから、もっと勉強しなくちゃいけないのかなあ。
それってヒーローの宿命とかいう以上に憂鬱なんだけど。
外でクラスメイトと遊べたりしたらいいけど、女子バレに気をつけなくちゃいけないし。まだ、様子を見よう。
ぼっち。
そう、ぼっちでいるんだ。
窓側から離れ、教室の中をぶらぶらする。
学食に行ったり、外で食べたりする生徒もいるので、閑散といる。
後ろの方では、女子のグループが、弁当を前にキャッキャしている。
陽キャ女子グループか。
いいなぁ。
私も普通の女子高生だったら、あんなふうにみんなとにおしゃべりしたり、遊んだりできたのになぁ。
でも、ヒーロー跡目の宿命。
とにかく今は、何が何でも、ぼっち。
私は陽キャ女子グループに背を向ける。
何気なく前髪をいじった。
あっ、……と気づいた。
今の仕草、女子っぽかったかな。
えーと。でも男子って、どういう風に、髪をいじるんだろう?
うーん……
まだまだいろいろ研究しなくちゃな。
男子について。
男子になるって結構大変。
ちょっとの不覚が、命取りになるんだ。
昨日見た、人面犬の姿がちらつく。
ここは戦場なんだ。
女子バレしたらそれで終わり。
ここは戦場ーー
後ろの女子たちの視線。
もちろん、勇希に向けられていた。
かわいい、かわいい、乙女、乙女、と小声で、キャーキャーいって、騒いでいたのだが、勇希の髪をいじる仕草に、女子たちの興奮はピークに達した。
「ほら、絶対乙女、乙女でしかない」
「もう、乙女にしか見えない。きゃーっ!」
「乙女男子! かわいい、いうなって、無理、無理……絶対無理。ねぇ、誰か、アタックしてみない?」
「えー、大丈夫かな? すごく、ピリピリしてたじゃない」
「ちょっと話かけるくらいなら、ねえ、行ってみようよ、ねぇ、ねぇ、誰が行くの?」
「それじゃ、私が」
立ち上がったのは満月妃奈子。陽キャ女子グループリーダー。両手を握りしめている。
「もう我慢できない。満月妃奈子、行きまーす!」
後ろの方が、騒がしいな。私は思った。
女子が、キャーキャー、盛り上がっている。
まぁ女子ってそういうもんだ。入学早々だし、クラスが盛り上がってるのは、良い事だ。私は関係ないけどな。
不意打ちだった。
えええ!!
いきなり、私は、後から抱きつかれた。
完全に油断していた。
いや、そりゃ、抱きつかれるなんて、ちっとも思ってないんだもん。
私は後ろを見る。
茶髪の、ふわりとした長い髪の子。かわいい赤いリボンをしている。
えーっと誰だっけ? この子……確か、満月だったっけ?
長身だからすごく目立つ。長身てだけじゃなくて、なんていうかすごくゴージャス感のある子で。
女子グループの中心にいる子。
その満月がーー
すごい力で私を抱きしめてる! 後ろから!
パニックになった。
「ちょ、ちょっと、なにするんだ! ねぇ、ねぇ、離して!」
焦りまくって、悲鳴をあげるみたいに、それだけいった。
でも、満月は、ますます私を締め上げてくる。
そして悪いことには、満月の両手、私の両胸をしっかり掴んでいる。
すごい力で握っている。
うわわわわわわわわっ!!
胸、掴むなよ!
ちょっと! おいっ!
これ、やばいよね……
私の顔から血が引いた。
最悪……
私の胸、Cカップ。しっかりスポーツブラで締め上げ固定してる。でも、こんなに思いっきり胸を掴まれたら……
ばれちゃう……ばれちゃう!……どう考えたって、女子だとバレちゃう!
やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、最悪、最悪、最悪、最悪、最悪、ピンチピンチ、ピンチピンチ、ピンチ!
うわわわわわっ!
とにかく逃げなきゃ!!
「ねえっ! やめろってば!」
私は、満月を必死に振りほどこうとする。
でも、満月、妙に力がある。
スポーツやってるのか? 体育会系なのか?
長身の満月。
私は身長159センチしかない。
これじゃ、白熊に捕まったペンギンだ。すごい力で、後ろから私を羽交い締めにして、私の胸を握りしめてくる。
ね、ちょっとだめだよ、絶対、絶対やばいから、それ。
満月、自分の胸を、私の背中に押し付けてくる。
というかなんか、こすりつけてくる。
え!? なにこの子
背中の感触……
満月は胸がでかい。ボリュームがある。
そして、この感触……
ノーブラだ!
間違いなくノーブラ! セーラー服の下は、ノーブラの胸!
胸の感触が、ボリュームが、直接伝わる。
ありえない!
うちの高校の女子のセーラー服は、雨にぬれても透けないような、しっかりした素材でできている。
だからどんなブラをしていても絶対バレない。ノーブラでもバレない。それをいいことに、ノーブラの胸を、男子に押し付けてくるだと?
女子を守るための制服を、悪用しやがって!!
私は、これまでも女子同士でふざけて触ったり、抱きついたり、抱きつかれたり、散々してきた。
でも、なんかこれは、違う。アタリが全然別。男子に当たるときの女子って、こんなのなの? 私は、男子にこんなことをしたことないぞ。
もう完全に未知の世界だ。
私の背中に、押し付けられる満月の胸。
Dか? Fか? あるいはもっと?
透けなくたって、これじゃ、ちょっと動いたら、ゆさゆさ揺れるぞ。それが狙いなの? なに考えているの、この子。
いや、そんなこと、今はどうでもいい。
満月の胸より私の胸、私の胸を守るんだ。私の宿命を、私の人生を、明日を、未来を、とにかく守るんだ。守らなきゃっ!
「だめ、だめ! ちょっと離れてっ!」
私は必死で満月を振りほどいた。
もう無我夢中。
満月を突き放す。
やった。やっとだ。
満月と距離をとった私は、とっさに胸を両手で押さえた。しっかりと。
あ、しまった。
これどう見ても、女子が胸を守るときのポーズ。
私は、慌てて胸から、手を離す。
満月は? 満月はどうだ?
なにか、気づいたか?
満月を見る。
満月は頬を上気させて、ポワーンと、なっている。私の胸をつかんだ両手を、じっと見つめている。
バレた? バレたの?
私の心臓がバクバクする。冷や汗が出る。
バレたの? おしまいなの? もう、これでおしまいなの?
人面犬が来ちゃうの?
「男子の分厚い胸板、ブリンブリーン!!」
満月が叫んだ。
すごく、うっとりした表情。思いを遂げたような表情をしている。
えええええええ?
私はがっくりと力が抜けた。つまりその、バレなかった。バレてない。で、いいの?
うあああああああ……
よかった……
とりあえず、よかった。よかった。よかった。守った、守れた。
私の胸を、私の人生を、私の全部を。
でも、それで終わりじゃなかった。気づくと、満月のグループの女子が、もう私を取り巻いていた。
「妃奈子、ずるい」
「抜け駆けえええっ!」
「私も!」
「私だって!」
女子たち。目をランランと光らせている。私に迫ってくる。
「男子の胸板あああっ!」
「触らせて!」
「私もっ!」
女子たちが、襲いかかってきた。
うわわわっ!!
私は逃げ出した。
逃げる。逃げる。逃げる。
もう、それしかない。
本作品を、気に入ってくださった方は、下の評価の星と、ブックマークをよろしくお願いします。
読者のみなさまの支持が、作者のやりがいです。
どうかよろしくお願いします!




