第68話 隣の美少女のお出かけ 私服は?
遂に。あれよあれよという間に。
その日。
野球観戦の当日。
「いよいよ、今日だね。すっごく楽しみ。よろしくね」
朝の教室で蘭鳳院に言われた。
おっ、
感じのよい笑顔。オレに向けている。
うふふ。いつもそういう笑顔でいなさい。お澄まし顔よりずっと似合ってるよ。
もちろんそんな事は言えない。蘭鳳院の笑顔に胸が高鳴る。
今日、オレは蘭鳳院と一緒に……
春の陽射し溢れる教室で、オレは幸福に浸っていた。野球観戦のことが気になって、その日は授業どころじゃなかった。いつもそんなに集中してるわけじゃないけど。
放課後は例によって図書室で自習だけど、蘭鳳院とのお出かけのことで頭がいっぱいで、とても勉強どころじゃなかった。
待ち合わせの時間。刻一刻と近づいてくる。オレは学園を出る。
駅前のショッピングモールの入り口。
蘭鳳院との待ち合わせ場所。
部活の後で来るから、ここで会おうと、蘭鳳院がいったんだ。やっぱり、校門で待ち合わせるのって恥ずかしいのかな。
蘭鳳院、いつも超然としているけど、多少は人目を気にするのか。
別に学校の誰かに見られたって……
何でもないよね。
ええと……
野球で活躍したスポーツヒーローのオレに、隣の席の子が急に興味を持って野球観戦に連れて行ってくれと。ただそれだけの話……だよね。
蘭鳳院を待つ。
今日はどんな話をしよう。オレは考えた。
さすがに、2人でずっと黙って観戦てことはないだろう。
オレがエスコート役なんだ。
だから、蘭鳳院を楽しませなくちゃ。はじめての野球観戦なんだし。いい思い出にしてあげなきゃ。
とりあえず野球のルールとかあれこれ解説すればいいのかな。
蘭鳳院は、そんなに野球のこと知らないだろう。オレは、野球のことなら話せるぞ、いっぱい。小中学生でずっとやってたからな。
野球以外の話題? 蘭鳳院にする話題。2人で話すこと。うーん、全然思いつかない。
ふと思い出した。
越野。テニス王子。
いや、テニス王子のことを考えるのはやめよう。今日は野球だ。二人で野球で盛り上がればいいんだ。
テニス王子が、オレを負かしたおかげで今日がある。テニス王子に感謝しなくちゃ。
◇
「待った?」
蘭鳳院の声。オレは振り向く。
「あっ!」
オレは思わず声を上げた。
蘭鳳院……
私服だ!
てっきり、制服のまま行くと思ってた。そうか。ここで待ち合わせにしたのは、ショッピングモールで着替えるためか。
オレの目は、蘭鳳院の私服に釘付けとなる。
蘭鳳院の私服。そういえば、見るの初めて。
コバルトブルーのチュニック。金色の星が彩っている。腰には、細い白色のベルト。金色のストラップが提げてある。かわいい金色の弓矢だ。
膝丈のチュニックの下からは、優美な曲線のほっそりした脚。黒のパンプス。
いつも見慣れてるけど……
蘭鳳院の白い肌、漆黒の髪が、コバルトブルーとコントラストをなして、よりはっきり冴え冴えとしてみえる。
チュニック1枚だけで、肌を包んでいる?
そんなはずはないんだけど……チュニックは、ふわりと、蘭鳳院の、スレンダーな体にかぶさり、軽く腰のベルトで止めてあるだけに見えた。胸の膨らみ。いつもはきっちり胸を締めあげてるけど、今は、確かな輪郭が見える。
私服に着替える時、ブラも替えてきたのか?
オレは、何も言えずに、ただただ蘭鳳院を見つめる。
春の柔らかな空気、ショッピングモールのイルミネーションの中、コバルトブルーのドレスの姫、そこだけ別世界な佇まい。
もう、見とれるしかなくて。




