第67話 ついに! 隣の美少女とメアド交換
「おはよう」
声をかけてきたのは、蘭鳳院
朝のホームルームの前、教室はガヤガヤしている。
「おはよう」
オレも返す。
蘭鳳院が、オレの隣に座る。
おや? 蘭鳳院から、挨拶してきたのは、ひょっとして初めてかな。いつもオレから、挨拶してるんだけど。
蘭鳳院、相変わらずのお澄まし顔。
でも、ちょっと、オレたちの関係、進展している? 一緒に野球観戦に行く約束したし。
え? 進展って……
べ、別に……蘭鳳院とオレは、隣で机を並べている、それだけの関係。それ以上でも、それ以下でもない。当然そうだよね。
ハハハ。
「勇希」
蘭鳳院がいう。オレの方をしっかり向いて。
「メアド交換しよ」
「え?」
「メールアドレスよ。勇希の頂戴」
「あ、あ、あ」
うろたえてしまった。なんだか、蘭鳳院のこと、いっぱい考えすぎていて。
「どうしたの?」
蘭鳳院は、自然にオレの顔覗き込む。
「今度、野球観戦に行くじゃない? いろいろ連絡取るのに、メアド知らなきゃ困るじゃない?」
なるほど。その通りだ。そうだよね。うっかりしていた。
2人で一緒にお出かけ。そう、オレは蘭鳳院を野球観戦に連れて行くんだ。
だからメアド交換。当たり前。でもなんだか。
積極的だな! 急に!
どうしたんだ、蘭鳳院。こんなふうに、男子とも、打ち解けるんだ。最初から、つっけんどんにしないで、こうしてくれればよかったのに。
そいいえば越野。すごく仲良さそうだった。向こうは長い付き合いだからかな。いずれは、オレも……
おっと、メアドだ。
オレはスマホを取り出す。メールアドレス交換。オレは、ここに転校してきてから、初めてだ。初めてのメアド交換の相手が、女子とは。
そうだ、奥菜とも、交換してないな。一緒に勉強会やってるのに。今度交換しよう。奥菜、メアド交換しようと言ってこない。控えめなのか、恥ずかしがり屋なのかな。
蘭鳳院の方が男子に積極的とは。意外だ。
「じゃぁ、これでメアド交換だね」
オレは言った。
「ありがと。これで野球観戦の打ち合わせしようね。連絡待ってるよ、あと」
蘭鳳院が、スマホから目を上げて、
「私のこと、さん付けじゃなくて、蘭鳳院て呼んでいいよ。私も、勇希って呼んでるし」
「……うん、わかった」
なんだ。またまた急展開。どんどんどんどん。
テニスで負けてから、野球観戦の約束、朝の挨拶、メアド交換、呼び捨てでいいよ。進展が早い。ついていくのが大変だ。
試合に負けてよかった……そんなこともあるんだ。
全部、蘭鳳院が積極的にリードしている。蘭鳳院、やっぱり意思が強くてはっきり自己主張する子なんだな。
そうだ、前の自己紹介で、経営者を目指すとか言ってたな。みんなを引っ張るタイプ。そうなのか。
まぁ、オレは、女子に引っ張り回されたりしないけどな。ヒーローだし……
フッ、
野球観戦、楽しみにしてね。
お嬢さまのエスコート、このオレが、しっかりするから。
オレは何しろ、女子を守るヒーロー、姫を守る騎士。
◇
メールでやりとりして、野球観戦の打ち合わせ、すぐにできた。
ドーム球場に行くことになった。オレの好きな選手、投手の出場する試合を選んだ。日程の調整をする。蘭鳳院の部活終わってから行くから、途中からの観戦になるけど、まぁ、そういうのが普通だ。
蘭鳳院に、最初のメールをする時、すごくドキドキした。
別に、ドキドキする必要なんてないんだけど……
文面もいろいろ悩んだ。悩むようなとこないんだけど。「蘭鳳院」て、もう呼び捨てでいいんだ。
そういえば、テニス王子。ついつい越野のこと考えちゃう。越野は、「麗奈さん」と呼んでいたな。
オレもそのうち?
麗奈。
そう呼べるようになるのかな。
なんだか、蘭鳳院を、麗奈って呼んでいる自分を想像するだけで、胸が、熱くなる。
蘭鳳院にメールすると、すぐ帰ってくる。でも、待つ時間がすごく長く感じる。どうしてなんだろう。返信メールを開くたび、胸が高鳴る。おかしいな。ただ、お出かけの約束の調整してるだけなんだけど。
蘭鳳院からのメール、簡潔で、きれいな文面。
いつもの口調。
オレに対し、急に態度を変えた、そういう風には蘭鳳院の方では思ってないみたい。
蘭鳳院からメール。なぜだろう。尊く感じられて、何度も読み返す。オレたちにできた新しい繋がり。
うぐ……尊い。
できれば、画像も送って欲しいな。蘭鳳院の画像、いつも持ってられたら……
あれ。
オレ、どうしたんだろう。
そういえば、高校に入ってから、プライベートで遊びに行く約束とかしてないからな。久しぶりだから、ドギマギしてるんだろう。
そういうことだ。
ハハハ。
夜、ベッドの中でも、興奮が続く。目を閉じると、蘭鳳院の笑顔が大きく目の前に。




