表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

64/274

第64話 隣の美少女お嬢様のテニス



 午前中、1年生全体テニス混合ダブルス大会があって、昼休み。


 オレは、弁当を食べ終えて、ぼんやりしていた。今日は、パンを買いに行く気にもなれない。負けたのを気にしてるんじゃなくて。

 

 蘭鳳院(らんほういん)


 しっかり越野(こしの)と手をを握っている蘭鳳院。


 いい笑顔を、ずっと越野に向けている蘭鳳院。


 頭から、離れない。


 前からの知り合い。中等部から一緒。そうなんだろうけど。


 それだけの関係なのかな。



 ◇



蘭鳳院が、教室に戻ってきた。


相変わらず、超然としたお澄まし顔。


 今日のキレのあるプレイ。春の光の中、躍動するスレンダーな肢体を思い出す。新体操の時とは違った、美しさがあって。



 蘭鳳院が、オレの隣に座る。


 越野のこと。


 蘭鳳院に直接聞いてみる? いいのかな。


蘭鳳院の、プライベートや、人間関係。これまで訊いたことがない。話したこともない。


 オレが、蘭鳳院の、男友達のことを気にしている。そういうふうに思われる? それはどうだろう。いいのかな。


 でも、今日のテニスの大会。オレたちは一緒に戦ったわけだし、対戦相手の話しをしたって、べ、別に……問題ないよね。自然だよね。アスリートに、スポーツの話したって。


 「蘭鳳院」


 ついにオレは話しかけた。


 妙にドキドキするな。落ち着け。隣の席の女子に声をかけるだけだぞ。今日のテニス大会の話題。なんて事は無い。

 

でも……なんで、こんなに動悸がするんだ。


 「今日のテニスだけど」


 オレは、努めて自然に言った。自然な様子に見えてるかな。


 蘭鳳院がこっちを向く。身体はそのままで首だけこっちを向いてオレに目線をくれる。


 本当に優雅な仕草だ。指先までしっかりと絵になっている。


 「混合ダブルス、優勝おめでとう」


 「ありがとう」


 蘭鳳院はいつもの調子。もちろん、笑顔なんて、全然見せない。


 オレは、続ける。


 「あの、蘭鳳院、テニス結構上手いんだね。オレも頑張ったんだけど、すっかりやられちゃったよ。新体操は見たことあったけど、球技とかやってるの初めて見たから。」


 「そう? ありがと。スポーツエリートに言われると嬉しいわね。私、テニス結構やってたから。でもやっぱり勇希、いい動きしてたじゃない。さすがね、テニスなんてやったことないんでしょ。ほとんど」


 「うん。オレはずっと野球だったから。テニスはそうだな。体育の授業とか遊びでやっただけで」


 「へー、それであれだけやるんだ。ボールに食いついていくの、とにかくすごかった。ダッシュも迫力あったよ。目の前で見ると本当に力強かった。運動量にびっくりした。まるで野獣だったね。よかったよ」


 野獣か。


 野獣が“よかった”のか。このお嬢様は。


 なにはともあれ、蘭鳳院に、オレの実力を、しっかり見せつけることができたようだ。


 オレは十分やったのだ。うむ、よかった。



 フッ、



 やはり、男子たるもの、女子に力を見せつけねばならぬ。


 これはこれでよし。


 「でも、対戦相手が見えてなかったね。それに打つのはやっぱり練習が必要。練習積んだ方がそれは有利よね」 


 と、蘭鳳院は冷静に。


 まぁ……それはそうだな。


 練習が大事だって、積み上げた技術が大事だって、それは、オレだってわかってる。


 でも……こういう風に言われると、なんだかむかつくなぁ。


 オレのヒーローパワー、もっとうまく使えるようになりさえすれば。

 

 「勇希、身体能力は本当にすごい。運動部やらないのちょっともったいないけど、でも勉強一筋なんだよね。あれだけ体鍛えるのできたんだから勉強だって大丈夫だよ。がんばってね」


 蘭鳳院、ちょっと笑顔になる。


 おお。


 いつもとちょっと違うな。やっぱり、なんというか……力だな。実力を見せると違うんだ。実力……ヒーローパワーだって、オレの実力だ。チートじゃない。それでみんなを、女子を、圧倒出来るならそれでいいんだ。


 うむ。そうだ。

 

 いい調子だ。今日は順調に会話できてるぞ。蘭鳳院といい感じにというか、普通に話せるのってほんとに珍しい。すぐつっけんどんな態度とるんだからな。


 よし、ここから核心部分行ってみよう。越野。テニス王子のこと、訊くんだ。


 「練習積んだと言えば、やっぱり越野君は、テニス部だけあってすごかったね」


 「そりゃもちろん。テニス部だからね。負けられないでしょ。ああ見えて、彼、すごく熱い人なのよ。礼儀正しいけど。コートの上じゃ、猛獣ね」


 彼。猛獣。猛獣ってのは、オレも感じだな。


 長身で、筋骨隆々。すごい躍動感。気迫に闘志。やつはただ者じゃない。それはオレも認める。


 でも、蘭鳳院の口ぶり。越野のこと、やっぱり、前からよく知ってるんだ。


 話が核心に近づいてきた。


 「越野君とは、前から知り合いなの? ほら、越野君と蘭鳳院さんの2人の息、ぴったりだったじゃない。声掛けとかも自然にしてたし。ペアの相手とは、あんな風に、いつもすぐ息を合わせられるものなの?」


 蘭鳳院と、越野の関係!


 これを訊くのに、オレ、本当にドキドキに。


 なんでだろう?


 なにも変なこと言ってない。隣の席の子が、混合ダブルスで優勝。ペアの相手とは、息もぴったり。話題にしてなんの問題もないよね。


 誰だって、き、気になるよね。


 「そうね」


 蘭鳳院は、事もなげに言う。


 「私、越野君とは、ずっと前からやってたから」


 え?


 なんですか?


 今なんて言ったんですか?


 なに?


 ずっと前からやってた?


 蘭鳳院と越野が?


 えーと、それ……やってたってのは……テニス……そう、テニスことだよね。


 落ち着け! オレ!


「前から? じゃあ、中等部がやっぱり一緒で、2人ともテニス部だったってこと?」


 「ううん。私は中学のときから新体操部。越野君は、天輦学園中等部のテニス部ね。彼、ずっとテニス一筋なの。テニスを一緒にやってたっていうのは、別荘での事よ。小学生の時からね」



 別荘!



小学生の時から!!


なんなんだ!


 いきなり!


 オレの意識、ぶっとびそうになる。


 ぐわん、と……


 もう……


 蘭鳳院が続ける。


「私たち別荘が隣同士なの。で、テニスコートを共有してるの。だから、みんなでよくテニスしてたのよ。あ、みんなっていうのは、優希と妃奈子もね」

 


 別荘が隣同士?


テニスコートを共有?


いきなり、なんだか全然違う世界に持ってかれた。


いや、持ってかれたんじゃなくて、最初から、蘭鳳院は別世界の住人だったんだ。剣華(けんばな)も、満月(みつき)も……越野も。


 別世界。オレが全然知らない。


考えてみれば……そうだよな。


ここは、学費のバカ高いエリート私立高だ。

 

 ここに中学の時からいるって事は、かなりな、金持ちの嬢ちゃん坊ちゃん。


 いや、そんなこと最初からわかってたけど、



 別荘!



 テニスコート付きの!


いきなりガツンときたから。


 「びっくりした?」


口をぽかんとしているオレに、さすがに蘭鳳院も気づく。


 「う、うん」


 オレは、やっとの思いで言う。


 別に、蘭鳳院が金持ちお嬢様だっていい。誰が金持ちお嬢様でもお坊ちゃんでも別にいい。オレには関係ないし、本当に別世界の話。


 でも、机を並べてる隣の子、やっぱりちょっと気になるし。


 

 蘭鳳院と越野……


 ずっと昔から、小学生の時からの仲良し。別荘が隣どうして。共有コートでテニスをやって。



 妙な胸騒ぎがする。


 蘭鳳院のお澄まし顔。越野といったいどんなことを。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ