第57話 蘭鳳院さんを倒せ! 赤ちゃん誕生の秘密
ついに、オレは蘭鳳院攻略の糸口をつかんだ。
蘭鳳院のお澄まし顔。
読める。蘭鳳院の心の内、手に取るようにわかる。
蘭鳳院は、わざわざ、椅子ごと正面から向き合って、ペアワークをしようと言った。
オレたちは今、しっかりと向き合っている。
これも、自分の弱さを覆い隠さんがための、ハッタリ。強気の態度を見せて、弱みを隠そうとしてたんだ。
ハハハ。
必死に虚勢を張ってるんだ。
蘭鳳院の、精一杯の虚勢。
フッ、
お遊びは、終わりだ。もう何をやっても、無駄なのだ。
蘭鳳院、敗れたり。
さて、どうしようか。オレは考えた。
オレは圧倒的優位。しかし、油断してはならぬ。
こういうところから、一瞬の隙をつかれて、逆転されることもあるんだ。ヒーローに、これ以上、負けは許されない。
勝ち札。
全てオレの手中にある。どれを使ってもいいが、ここはひとつ、正面から行こう。堂々と、正面から、正攻法で行くんだ。
余計な小細工は必要ない。こちらが、ちょこざいな策を弄すれば、相手にも、策を弄するする機会を与えてしまう。
正面からの、強手一発。
これなら、いかなる反撃の隙も手段もありえない。
蘭鳳院、しっかり向き合おうと言ったのは、おまえだな。おまえの仕掛けたそのハッタリの小細工がおまえの命取りとなるのだ。
ヒーローに、ちょこざいな策を弄してはいけなかったのだ。
強敵蘭鳳院を、倒す強手。
それは。
赤ちゃん誕生の秘密。
それを、オレがしっかり、こっちから教えてやる。そうだ。それしかない。
堂々たる手。
一切反撃を許さない。疑問の余地は無い。正面からの、正攻法。
これがヒーローだ。
蘭鳳院を倒すための布陣。必殺の布陣。
できた。完璧にできた。
その時、ふと思った。
これで、いいのだろうか。
赤ちゃん誕生の秘密……それを、蘭鳳院が知ったら。
オレのときのことを思い出した。
オレは中学生の時、ママに教えてもらったんだ。よく覚えている。
その時、オレは、どうしていいかわからずに、今にも泣きそうになって、ママにすがりついたんだ。
ママは、優しく抱きしめてくれた。
オレは、ママのぬくもりの中で、しばらく、ぶるぶる震えていた。そして、立ち直った。
蘭鳳院は。
取り乱すだろう。ショックだろう。
何しろ、赤ちゃん誕生の秘密だ。
取り乱して、泣きじゃくって、我を忘れてオレにすがりつくだろう。
蘭鳳院は、温室育ちだ。オレほど強くない。
当然そうなるんだ。
オレは、そっと、蘭鳳院を、抱きしめてやる。
うん。
それでいいんだ。オレのように、蘭鳳院も、きっとまた立ち直ることができるだろう。
でも、赤ちゃん誕生の秘密を、オレに教えてもらって、取り乱して、泣きじゃくったことを思い出しては、真っ赤になって、恥ずかしくて、恥ずかしくて、オレの顔をまともに見ることもできなくなるだろう。
もう、上から目線なんてできなくなるんだ。オレに会うたび、真っ赤になって、うつむくしかないんだ。
うむ。
これでよい。
勝利だ。完全な勝利だ。
蘭鳳院よ。所詮、女子が、ヒーローに向かって、生意気上から目線なんかしても、ダメなのだ。無駄なのだ。それをきっちり“わからせ“てやろうじゃないか。
クラスは、ざわざわしている。キャーキャー言う声も聞こえる。
なごやかに、保健体育の、ペアワークは進んでいるようだ。
だが。
手を伸ばせば届く距離に、向き合う、オレと蘭鳳院。
張りつめた空気。
この間合い。誰も入って来れない。
◇
オレと蘭鳳院の対決。
刻まれる時、容赦なく。最後が迫ってきている。
蘭鳳院の、お澄まし顔。
微動だにしない。
わかっているのか、おまえ。
わかっているよな。もちろん。
そうだ、おまえはわかっていたのだ。今日の課題を知った時から。いや、ヒーローであるオレと机を並べたときから。
真実を知って、泣き崩れるかもしれない。でも、これは誰もが通る道なんだよ。怖がる必要はないんだ。
それにしても、蘭鳳院は。
ずっと、ピクリともしない。
どうしたんだろう。オレは考えた。
ひょっとして、何か策がある?
蘭鳳院は、これから来る、オレの攻撃を、予期している?
蘭鳳院は、優等生だ。自分が不利、絶望的と分かっていても、なお、鉄壁のガードを固め、自分を守ろうとしている?
守り? どうやって守るんだろう。
オレが蘭鳳院に赤ちゃん誕生の秘密を、正面からぶつけてやる。蘭鳳院はガタガタと崩れ落ちる。
守る余地ってあるのかな?
オレは蘭鳳院を見つめる。




