第56話 隣の美少女は何も知らない?
保健体育の授業。ペアワークの課題。
“赤ちゃんはどうやってできるか? 赤ちゃんをつくることについての私たちの認識”
に、ついて、隣同士で話し合う。
それが。蘭鳳院が変だ。
これはきっと蘭鳳院の弱点。
オレはゾワッとなる。
蘭鳳院。優等生お嬢様。なかなかの強敵。それは素直に認めよう。
なにしろ、この、男の坂道を上るヒーローを、振り回したりするんだからな。
だが。
聖典の教えーー貪り読んだ少年ヒーロー漫画ーーを思い出すんだ。
完璧に見えた強敵。ヒーローが最初、苦戦する強敵。だが、どんな強敵にも、必ず弱点がある。それを見抜き、弱点を突いて、強敵を破る。
そう、弱点破りこそ、ヒーローの闘いなのだ。
やはり頭脳だ。敵の弱点を見抜く頭脳。それがヒーロー。
蘭鳳院よ、オレが力押しだけの男だと思うなよ。おまえが見せた、わずかな隙。オレは、それを見逃さなかった。オレだから見逃さなかったんだ。これが、男修行の力だ。
真の男になるための修行を積んだヒーロー、闘う男の前では、どんな強敵も、赤子同然なのだ。
よし。落ち着け。考えるんだ。
蘭鳳院、はっきりと、弱みを見せた。
突破口。強敵攻略の、道が見えたんだ。蘭鳳院を倒すチャンス。二度とオレに上から目線させないようにしてやらなきゃ。
蘭鳳院の弱点、それは……
オレは、頭を巡らす。冷静になるんだ。
ふと、目に入る黒板の文字。
” 赤ちゃんはどうやってできるか? 赤ちゃんをつくることについての、私たちの認識”
これだ!
オレは、思わず笑い出しそうになった。必死に堪える。
なんだ! ちゃんと最初から見えていたじゃないか。これだ。これ。
蘭鳳院の弱点!
それは、赤ちゃんのつくり方!
蘭鳳院知らないんだ。どうやって赤ちゃんができるか。
この、お澄まし顔の優等生の、お嬢様は。
なるほど。それはそうだ。
全てが繋がった。ジグソーパズルのピースが、すべてぴったりとはまる。
赤ちゃんのつくり方。
そうだ。そうだよな。知らない。知るわけない。蘭鳳院がそんなことを。
なんだかんだ、蘭鳳院は、お嬢様だ。箱入り娘だ。温室育ちと言うやつ。
いくら頭が良くても、まだ子供、赤ん坊なんだ。ガキだ。何にも知らない。
この前、芋虫を捕まえて、オレを驚かせたのも……あれは、怖かったなぁ……よ、要するに、蘭鳳院が子供だからだ。ガキだからだ! 普通だったら、あんなのに触れるわけがない!
カマトト!
そうだ、蘭鳳院、お前はカマトトだ!!
こんなカマトトのガキに、オレは散々振り回されて……
痛い目に……
それも、もう終わりだ!
フッ、
蘭鳳院さん、どうやらあなたの正体が分かりましたよ。あなたは、女子というにもまだ未熟。まだ、ほんの子供。
カマトト。
そうだな?
だから、今日の課題に、とてもついていけないんだ。
赤ちゃんをつくる。お前にとって、未知の世界。
でも知らないって言うのが恥ずかしいから、強がってごまかそうと、必死のお澄まし顔で、トンチンカンなこと言って見せたりして。
ハハハ。
余人なら、いざ知らず、この、男の修行を積んだヒーロー、男の坂道を上るヒーローには、そんな、薄っぺらな小細工は、通用しないんだ。
いや、ちょっと、がっかりしたな。
お前なら、どんな状況でも、もうちょっとうまくやってくれるだろうと、思ってたぜ。
ヒーローに一目で見破られる、そんな幼稚な策しか思いつかなかったのか? こっちはすっかりお見通し。
ヒーローの目を欺くなんて、所詮無理なのだよ。
蘭鳳院のお澄まし顔。 微塵も動揺を見せない。が、これは、
虚勢!!
未知の課題を与えられて、弱点を晒すまいとして、必死に取り繕う、悪あがき。
今日こそはオレがお前の上に立つ。来るべき時が来たんだ。
力がみなぎってくる。
フッ、
そろそろヒーローモードといこうか。
ざわめく教室。オレへの声援に聞こえる。




