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第53話 ベンチで一緒にお弁当 これって?



 翌日。


 オレと蘭鳳院(らんほういん)、日直当番だった。席が隣同士だと、何かと一緒になる。


 日直当番の仕事。学級日誌とか、黒板消しとか、校庭の花壇の水やりとか。


 教室の掃除とかは、みんなでやるので、当番の仕事ではない。日直当番の仕事、大した事はない。


 筈なんだけど。


 蘭鳳院が言った。


 「花壇の水やりの仕事、昼休みにやろうよ。お弁当を持っていって、花壇の前で二人で食べよう」


水やりの仕事を、昼休みにやる。


 それは、普通なんだけど。


 水やりして、一緒にお弁当?


ま、まあ……どこで弁当食べたっていいわけだし。


昨日だって、一緒に並んで弁当食べたわけだから、今日また、一緒に並んで弁当食べたって、問題……ないよね。それが、花壇の前のベンチだとしても。



 2人で花壇の前のベンチに並んで座って弁当……


 ん? 弁当?


 蘭鳳院、弁当は、たまにしか作ってこないと言ってたけど、2日連続作ってきたってことなのかな。よくわからない。でも、


 「うん、そうしよう」


 オレは、おとなしく、蘭鳳院の提案に従う。

 


 昼休みの花壇。


 この前2人で行った美術館の横の公園に比べて、もちろん小さい。


 けれども、いろんな綺麗な花、色とりどりの春の花がいっぱい植わってて、なかなか豪華だ。


 委員長の好みの、水仙もある。


 これを見るとオレは、ちょっと頭痛が痛くなるな。


 オレと蘭鳳院は、花壇の水やりをする。すぐに終わる作業だ。


 蘭鳳院は、丁寧に、花に水やりしている。春の花の間の蘭鳳院、いつも思うけど、本当に綺麗だ。

 

 美術品の中にいても、色とりどりの花の中にいても、くっきりと目立つ綺麗さ。


 水やりは終わった。オレは、ほとんど……蘭鳳院に見とれていたような気がする。


 花壇の脇の水道で、オレたちは、手を洗う。

 


 ◇


 

 いよいよ弁当。


 花壇の前のベンチ。並んで座る。綺麗な花々を前に、花より綺麗な蘭鳳院がオレの横に。


なんだか落ち着かない。


 慌てるな、いつも隣に並んで座っているじゃないか。普段と何も変わらないぞ。堂々としてればいいんだ。女子などに、いつまでも振り回されていてはならない。

 

2人で、弁当を取り出す。


「今日も作ってきたの? 自分で」


オレは、訊いた。話しかけるきっかけをちゃんと作らないと。さすがに、昨日みたいに、並んで黙って弁当食べるっていうのも変。自然に話しかけるんだ。


 「うん」


蘭鳳院は、うなずく。


「昨日作って、もうちょっとやっとこうかなって。まだ不満があったから」


さすが。何でもきっちりやろうとするんだな。


 この前もらったタンポポの押し花、すごくよくできてた。丁寧に仕上げないと気が済まないんだ。


 オレたちは、弁当の、フタを開ける。


 つい、蘭鳳院の弁当箱見ちゃう。昨日と同じだ。


白飯に、煮物。


見た目は昨日と変わらないけど、蘭鳳院なりにこだわってるのかな。詰め方も、丁寧で綺麗だ。ありきたりな、おかずなのに。


 オレは、じっと、蘭鳳院の弁当箱を見つめる。


 蘭鳳院こっちを見る。吸い寄せられるような瞳で。


 「食べる?」


うぐぐ……


 うぐ……


 来ました。そうなるよね。


 でも、オレ、もの欲しそうな顔してたかな。


いいのかな。もらっちゃって。


 その……オレが、凄くあんまり欲しがってるから、蘭鳳院が、呆れて、オレに分けてくれるとか、そういうことだったりしたら……


 何を焦ってるんだオレ。昨日も蘭鳳院は、満月に、気軽に弁当を分けてあげてたし。だから、オレがもらっても……いや、満月は、昔からの蘭鳳院の親友で、オレは、つい最近、蘭鳳院と机を並べるようになった、隣の席の男子。


 どうなんだろう? いや、難しく考えるな。蘭鳳院は、なんだかんだ結構優しいところがあるし。鷹揚なお嬢様だ。誰かに、弁当を分けるなんて、大した事じゃないんだ。うん。きっとそうに違いない。別に、オレだからとか、そういうことじゃなくて。


 ここは、断ったら、かえって悪い。そうだよね。自分の手作り弁当、いらないって言われたら、傷つくよね。断っちゃっいけない。ハハハ。そうだ、そうに違いない。


 女子の手作り弁当。隣の席の男子に、ちょっとおすそ分け。よくあることだよね。オレは初めてだけど。


 べ、別に……弁当おすそ分けで、オレは、ビクビクしないぞ。最初から、女子にビクビクなんてしてないし。なんてことない。なんてことないぜ。

 

 よし。もらおう。

 

 「本当? 蘭鳳院さん。ありがとう。あの、喜んでもらうね。すごくおいしそうで、昨日から気になってたんだ」


 なるべくさりげなく言う。言えたかな。


 蘭鳳院は、


「そう? 隣で食べてるのって、美味しそうに見えるよね。昨日、すごく欲しがってるように見えたよ。やっぱりそうだったんだ。あげなきゃいけないな、と思って」



 うぎゅっ!



 なんだか、やっぱり、オレが、無理矢理おねだりしてるみたい。


 オレ、そんなに物欲しそうにしてた?


 「今日、2人で日直なの思い出して、勇希と一緒に食べようと思って作ってきたの。昨日、作ってまだまだだなと思ったから、もう一回チャレンジしたいと思ったし。食べてくれると嬉しいな」



 うっきゅーん!



 オレの頭、大噴火。


蘭鳳院、何を言ってるの? オレに食べて欲しくて、オレと一緒に食べたくて、わざわざ作ってきた?

 

 女子って、クラスメイトの男子に食べて欲しくて気軽にお弁当作ってきたりするものなんだっけ?


 そういうのって、なんていうか、特別な関係じゃないと……


えーと、えーと…


 親友……とか? 親友じゃないとすると……なんだろう……同じ部活とか、一緒にイベントの担当したとか……それじゃない……ダメだ、出てこない……


 オレ、蘭鳳院の…親友? ううん、違う。


 オレが蘭鳳院の親友だとか言うなら、もう少し、ちゃんとした接し方してくれてるはずだもんな。

 

 頭が熱くなってきた……ねぇ、蘭鳳院、これってどういうこと?


 オレは、オレは、蘭鳳院、いったい君のなんなの?



 蘭鳳院お手製の、きれいに詰め合わされた弁当箱。


 容赦なく、オレの目の前にある。



 春爛漫の花壇の前のベンチ。蘭鳳院は、いつものお澄まし顔。



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