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第52話 ヒーロー少女は隣の美少女のお弁当が気になります



 昼休み。


 オレは早速弁当を取り出す。待ちに待っていた時間だ。


今日は弁当に……どうしようかな。弁当食べたら購買部でパンを買おう。いくつ買おうかな。1つ、2つ……あんまり食べ過ぎても良くないな。パン1つなら何にする? コロッケパンか、カレーパンかそれとも……


いや、まず弁当だ。弁当食べなきゃ。ヒーローパワー使っているせいか、なんだか最近無性に腹が減る。ま、育ち盛りだしな。


パパの愛情弁当。

 

 弁当のフタを開く。白飯に、卵焼き、ウィンナー、ほうれん草バター。いつものだ。毎日これでいいや。


「いただきますっ!」


 弁当に取り掛かろうとした、オレ、ふと気づく。隣の蘭鳳院(らんほういん)、弁当を取り出している。オレのより一回り小さい、かわいい弁当箱。

 

 へえ。


 初めて見た。蘭鳳院が弁当取り出すの。いつも学食みたいだけど。まぁ、こういう日もあるんだろう。


それにしても。


ぼっち昼飯なんだ、蘭鳳院。


 ここで、オレと並んで弁当食べるの? 蘭鳳院は、別にクラスで孤立してるわけじゃ、ないはずだけど。


満月(みつき)は、陽キャ女子グループと一緒に、最近はどこかへ行って食べている。


 剣華(けんばな)は、あちこちで、いろんな人と、食べているらしい。オレもたまに学食を利用するけど、学食で剣華を見たことがある。大勢に囲まれていた。別の日に見たときは、別のメンバーに囲まれていた。


うちのクラスだけじゃなく、学校で人気があるみたいで、あっちこっちから呼ばれるみたい。すごいね。まだ4月なのに。剣華も、まめに、あちこちに顔を出しているらしい。


 早くも顔を売ってるんだ。生徒会にでも打ってでるのかな。


 蘭鳳院も、どこかのグループに入れてもらうと思えばできるはずだけど、面倒なのかな。


 それほど、人付き合いに熱心ではない。学食で声をかけられて、どこかの輪に入ることもあるらしいけど。


 今は、ぼっち弁当。


 ぼっち?


いや……


蘭鳳院は、オレと二人だけで、机を並べて弁当を出して……


 教室に残っているのは、半数以下で、閑散としている。


 どう見ても、オレと蘭鳳院が、一緒に弁当食べようとしている。そう見える。


 うぐぐ。


 なんだかちょっと意識しちゃう。


 蘭鳳院は、気にならないのかな?


 ぼっちとぼっちで、机を並べて弁当。


 いや、オレは別に、ぼっちってわけじゃなくて。立場上、なるべくクラスメイトの輪に入らないようにしているっていうだけで。このところ、女子達となんだかつるんじゃってるけど。

 

 隣の蘭鳳院麗奈。こっちを見ようともしない。


 うーむ。


 オレたち、初めて隣同士で、弁当食べるんだから、何か一言ぐらい言ってもいいんじゃないかな。私、今日、お弁当なの、とか。相変わらず、蘭鳳院は、そっけない。


 いろいろあって、普通に話したり、笑ったりもしてくれたのに。


登校すると、いつものお澄まし顔。必要がなければ、オレと話さないし、笑顔も見せない。


 クラスじゃ、恥ずかしがっているのか?


かまってちゃんした後は、恥ずかしくなって、お澄ましモードに戻るのか?


よくわからない。


べ、別に、オレは、蘭鳳院と仲良くなっていつも二人で話したり笑ったりしたいとか思ってるわけじゃ全然ないけど。


 ただ、隣の子が、かまってちゃんしたかと思うと、そっけない態度をしたりしてたら、なんだか気になるじゃないか。蘭鳳院が問題抱えてるんじゃないかとか考えちゃうし。


 蘭鳳院なんてオレにとってどうでもいいんだけど……オレはヒーローだからな! 机を並べているだけの女子のことだって、ちゃんと考えるんだ。

 

 ここは男として……ヒーローとして、立たねば。


うん、そうだ。


こっちから、話しかければいいんだ。そうするべきなんだ。初めて、2人で並んでのお弁当。何も話さない方が不自然だ。


オレから話しかけたっていいんだ。


 蘭鳳院さん、今日はお弁当なんですね? うん、そうすればいい。


 これまでも普通に話してるんだし。女子に話しかけるのに、何をためらうんだ。

 

 よし。


今しも、蘭鳳院が、弁当のフタを開けた。


 「あ、麗奈(りな)


 溌剌とした声がした。


 満月(みつき)だ。


満月が、オレと蘭鳳院の机の前に立ち、オレたちの弁当を見下ろしている。元気いっぱいの長身、ナイスボディ。制服がはちきれそう。


 「麗奈(りな)、珍しいね、今日、お弁当なんだ。高校になってから、初めてじゃない?」


 くそ、オレが言おうとしたこと、言われた。


 別に、どうしても蘭鳳院と話をしなきゃいけないわけじゃないけど。


蘭鳳院、満月を見上げて、


 「うん。高校になってからは、お弁当持ってきたの初めて。自分で何でもできるようにならなきゃと思って、作ってきたの」


「へえ、すごい。麗奈、お手製なんだ」


 「そんなにすごくないよ。いつもできるようにと思って。簡単にできるもの。ただ温めただけ」


「ううん、すごいよ。やるじゃない。何でも自分でできるようにって、その心がけが、さすがよね」


 うむ、その通りだ。


 さすがの心がけだな、お嬢様。


オレも気になって、蘭鳳院のお手製弁当を覗き込む。


 白飯に、煮物かな? ちくわ、卵、昆布、野菜……地味な見た目だけど、おいしそうに見える。そうか、蘭鳳院、新体操部だから、カロリーを抑えることとかも、ちゃんと考えているんだな。


 細かい作業が好きな蘭鳳院らしく、綺麗に作って詰めてある。地味でありきたり。でも、美味しそう。


 「うわー、美味しそう」


 満月が言う。


「ほんとに、大したものじゃないよ」


 と、蘭鳳院。


 満月、瞳をランランとして、蘭鳳院の弁当を覗き込んでいる。


 「食べる?」


蘭鳳院が言った。


 「うわー、感激っ!」


 「大げさね。どれがいい?」


「じゃぁ、ちくわ、もらっていい?」


 「ちくわ、はい、どうぞ」


 蘭鳳院が、箸でちくわをつまんで、満月に差し出す。


 「ありがとう!」


満月、箸先のちくわを、そのままパクっと行く。


 うおおおおおっ!


 蘭鳳院に、あーんしてもらっている!


 くそっ!


 いいのか?


 「美味しーい!」


 満月、満面の笑顔。


 うぐぐ。


 うらやま……


いや。うらやま……しくなんて、ないぞ……


 ちくわじゃないか。たかがちくわだ。蘭鳳院が煮ようが誰が煮ようが、ちくわはちくわだ。別に欲しいなんて……


 でも……美味しそう。すごく美味しそう。いいな。


 「おおげさね」


 蘭鳳院は、やや恥ずかしそうにいう。


 満月、うっとりとした表情で、


 「ほんとに美味しかったよ。麗奈、何でもできるのね」


 満月、今度はオレの弁当を覗き込む。


 「勇希(ユウキ)のお弁当、ママが作ってくれてるの?」


きたか。


「これはパパが作ってくれたんだ。ママが作ってくれる時もあるけど、いつもは、パパが作ってくれるんだ」


 「へえ、すごい。勇希の家、先進的なんだね」


 「うちは、ママが、出勤で忙しくて、パパのほうは、家で仕事ができて、たまに会社に行けばいいから。弁当とか料理は、パパがする方が多いよ。ママもするけど」


「そうなんだ。勇希のパパって、リモートワークってことね」


 「そう。リモートワークって言ってた」


「勇希のパパってすごいね。すっごく美味しそう」


 またまた満月の、ランランとした瞳。胸を突き出して、身を乗り出してくる。


 何かと体でアピールだな。


 ううむ。


 別に、満月に、弁当を分ける義理はないが、褒められて、パパのことを自慢したい気持ちになっていた。


「満月さん、食べてみる?」


 「うれしいっ!」


 「どれがいい?」


「ウインナーもらっていい?」


うむ?


 ウインナーあげるのはいいとして、箸でつまんで、差し出すのは問題外だ。満月にあーんしてやる、それはまずい。よくわからないが、まずいに決まっている。


どうしよう。


お、パパ、やってくれるぜ。きゅうりに、爪楊枝が差してある。これだ。オレは、きゅうりの爪楊枝をつまんで、ウインナーに刺すと、弁当箱ごと、満月に差し出す。


「満月さん、よかったらきゅうりも一緒にどうぞ。野菜も食べたほうがいいよ」


 満月は、満面の笑みで爪楊枝を取り上げ、きゅうりと、ウィンナーをパクっといく。


 「美味しい! ありがとう。勇希のパパの愛情って、ほんとにすごーい!」


 大げさだな。


 「ほんとう? パパに言っておくから」


「よろしくね」


満月が、ウィンクする。


 「二人とも、ありがとね、今度、しっかりお返しするからね」


しなくていいよ。また厄介なことになりそうだ。


満月は、長身の肢体をダイナミックに翻すと、陽キャ女子グループとの昼食のために教室を出ていった。相変わらず、キラキラ感映え感がすごいな。ちくわを食べても、ウィンナーきゅうりを食べても、とにかく映える。


 本人に言うと、調子に乗りそうだから、言わないけれども。

 


 残されたオレと蘭鳳院。


机を並べて、隣どうしで。黙々と、弁当を食べ始めた。


 なんとなく、蘭鳳院に話しかける機会を失っていた。別に、弁当について話さなきゃない理由は無いから、いいんだけど。


 オレは、弁当食べ終わる。


 隣の蘭鳳院には、何も言わず、購買部へ向かう。


 コロッケパンを買うために。



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