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第51話 ヒーロー少女、男子に相部屋同居誘われる



 野球部の練習試合での活躍の後、当然ながら、野球部からはしつこく入部しろと誘われている。


 学校でずいぶん話題になった。まあ、いきなり試合出場して、活躍しちゃったからな。みんなのオレを見る目も変わってきた。



 「一文字(いちもんじ)、スポーツ抜群なんだって。面白いことをするだけじゃないんだ」


 「私、試合観てた! すごくかっこよかったよ」


 「野球部の連中が、びっくりしてたからなあ」


 「乙女男子スーパーアスリートか」



 野球部以外の運動部からも、なんだか勧誘される。


 「一文字、どうじゃ、柔道やってみんか?柔道は階級制だから、体格関係ないぞ」


 柔道部の柘植(つげ)に言われた。


 「一文字くん、ラグビーやらない? 一文字君の突破力、ラグビーでも通用すると思うんだ」


 と、これはラグビー部の坂井。


 ラグビー? オレは身長159だから、さすがにそれは……


 剣道部の矢駆(やがけ)にも誘われた。奥菜結理(おくな ゆり)も、

 

 「一文字君は絶対ボクシングです! せっかくの体を使わないなんてもったいない! ボクシングで青春の汗を流しましょう!」


 真っ赤になって、かわいいえくぼで。


 青春の汗を流すか。オレはヒーロー跡目候補で、宿命の道があるから。魔物(モンスター)との戦いとかもあるし。


 ヒーローパワーチートで試合に勝っても、みんなに悪いしな。


 みんなにそういう説明をするわけにもいかない。とにかく、あっちこっちからの運動部勧誘をなんとかしないと。



 でもって。


放課後、オレは図書室にいた。自習だ。


 「オレ、高校では勉強一筋と決めています! だから運動部には入れません。ごめんなさい!」


 結局そういう説明をした。オレが勉強まるでダメなのはクラスのみんなに知れ渡っている。オレの説明にみんなぽかんとした。お前は勉強がんばってもダメだろうから、スポーツやればいいのにという顔をみんなにされる。


 「一文字は、東大目指すらしいぞおっ!」


 「きゃは、勉強乙女男子一文字君を、みんなで応援しようね」


 なんだか、そんなふうに言われちゃってる。勝手に言っとけ!

 

 ヒーローの道。宿命の道。試練なんだなぁ。



 勉強。ひたすら苦手だ。そういえば、ヒーローパワーで、身体能力はアップするけど、なぜか頭の出来は全然よくならない。勉強のほうこそヒーローチートできればいいのに。おかしいな。


 ヒーローチートで勉強ができるようになるなら大歓迎だ。生意気な蘭鳳院のやつに、オレが上から目線で勉強教えてやる。そんなことを想像するとついニヤニヤしちゃう。でも、いでよヒーローパワーといくら念じても頭のほうは良くならない。諦めるしかないようだ。しかし、ヒーローってのは体が頑丈で強けりゃ、それでいいのかね。頭の出来は関係ないものなのか。


 兄、悠人(ゆうと)は。勉強もスポーツも完璧だった。スポーツのほうは、小学生の頃からすごかったから、ヒーローチートじゃないだろう。勉強のほうももちろんヒーローチートじゃない。


 いつか兄みたいに、オレもなれるのかな……



 図書室で眠っちゃった。目が覚めると、外はもう暗い。やれやれ、もう帰ろう。


 校門を出ようとしたオレ、声をかけられる。


「一文字君、ですよね」


 誰だろう。知らない子だ。オレと同じ位の背丈の男子生徒。


「えーと、君は」


「野球部の一年、角井です」


 野球部員か。うちの野球部は強豪人気で、部員も何十人もいる。この子も、この前の練習試合観てたんだな。


 角井という一年生の野球部員。目を輝かせてオレを見ている。


「一文字君、すごいね。1年でいきなり投げて、エース級だって、みんな驚いてます。寮でも、この話でもちきりです」


「エース級? いや、そんな」


 オレは、赤くなる。やっぱりヒーローパワー、安直に使うべきじゃなかった。オレだって少しはヒーローってとこをみんなに見せたいって気持ちがあったんだけど。気をつけよう。

 

 何とかごまかさなきゃ。


「角井君、君、寮生なんだ。て、ことは野球特待生とか、スポーツ入学とかなの? すごいじゃない」


「とんでもない」


 角井は言った。


「寮は空いてたから、入れたんです。僕は、野球が好きで、ずっと地方で、地元のチームでやってきました。野球特待生とか、スポーツ入学なんて。それは夢のまた夢でした。


 でも、僕、どうしても、ここの野球部に入りたかったんです。だから必死に勉強しました。親にも無理をいって。それで、やっと、入れたんです。ここは憧れの世界なんです。ずっと目標にしてきた世界なんです。1年生でありながら凄い活躍する一文字君は、本当に僕の憧れです」



 フッ



 憧れか。オレはヒーローだ。確かに憧られてもいいな。角井はキラキラした目でオレを見ている。よし、オレもヒーローらしくしてやろう。


「角井」


 オレは言った。


「手を出してみろ」


 角井が両手を、オレの前に差し出す。やや不安げだ。


「利き手の方だけでいい」


 角井が、右手を差し出す。


「よし、手を握りしめるんだ」


 角井が右手を握る。


 オレは、左手を握り締め、角井の右手に当てる。


 グータッチ。


 委員長に習ったやつだ。


 オレは言った。


「角井、この学校は、誰でも入れる所じゃない。お前は自分で目標を持って、しっかり努力して、自分でここに来んだ。おまえが自分でやったんだよ。おまえが憧れなんだ。それに、オレたちはまだ、高一15歳じゃないか。一回表が始まったばかり。お互い零と零。すべては、これからなんだ。おまえは、オレの憧れのライバルだ。オレは、絶対にお前に負けない」


 グータッチしたときから、茫然となっていた角井。ボロボロと涙を流しだす。


「はい、一文字君、僕、がんばります。野球でも勉強でも、なんでも。なんでも、なにか一つでも、一文字君に勝てるようにします。勝ちます、絶対、一文字君は僕の憧れ、僕の目標です、ずっと、ずっと!!」


 角井は、体をふるわせている。オレは角井の肩を軽く叩いた。


「よし、今日は、もう帰ろう。明日から、また頑張ろう。じゃーな」


 オレは行こうとした。


 後から角井が声をかけてくる。


「一文字君!」


 オレは振り返る。


 「お願いです!野球部入部してください」


 やっぱりこうなるな。これで何度目だろう。


 「ごめんなさい。オレ、高校じゃ勉強一筋と決めてるんで」


 毎度のかなり恥ずかしいいいわけ。こういう言い訳、恥ずかしくなくできるように、勉強も頑張らなきゃ。


 でも、角井は、


 「一文字君、勉強だったら、僕がサポートします」


 「え?」


「どうですか? 僕と寮で同居しませんか?」


 「は?」


 なにをいい出すんだ、角井君。寮で同居?


「じつは、僕の寮の部屋、2人部屋なんだけど、一方が空いてるんです。申し込めば、すぐ入れると思います。僕、一文字君に野球をやってほしいんです。一文字君の野球を応援したいんです。寮で暮らせば、野球に専念できるし、勉強のほうは僕、自信あります。僕が勉強のサポートします。一文字君の世話を、なんでもします。なんでも、いってください。絶対に、いい環境で勉強も野球もできます! 一文字君を応援させて下さい!」


 おいおい。何言い出すんだ。角井君、すごく乗り気になっている。でも、寮で相部屋同居。なんでも世話をしてくれる……!?

 

 うーん、つまり……えーと、それは……


 オレは想像しちまった……


 寮のベッドで、寝転がるオレ。下着姿。ブラジャーとパンツしか身に付けてない。


 向こうでは、角井が、片付けものをしている。


「おい、角井、オレのパンツ洗ったか」


「はい、洗いました。この通り、バッチリです」


 角井は、誇らしげに、オレのパンツを両手で掲げてみせる。


「よし」


 オレは寝返りを打つ。枕元の缶コーヒーを1口飲む。


「角井」


「はい」


「××××買ってこい」


「××××ですね? はい、買って来ます」



 きゃあああああっ!!!!


 いやあああああっ!!!!


 ドコッ!!!


 やっちまった。


 オレは、角井を殴っちまった。


 ああ、ごめん。角井君……君は何も悪くないんだ。ただ、善意でオレのことを助けたい、オレのためになんでもしたい、そう思ってくれただけなんだ。それはわかってる……


だけど、いきなり男子に相部屋同居とか、身の回りの世話全部するとか、そんな話されたら……もう不意打ちだったから、なんか変なこと想像しちゃったんだ。


 ごめんよ。本当にごめん。本当に、本当に、ごめんなさい!


 だって……


 男子にパンツ洗ってもらうなんて、もう、絶対無理、何があっても無理っ!!!!


 男子に××××買ってきてもらうなんて、無理! 無理! 無理! なにがあっても、無理! もう絶対、無理なんだからあああっ!!!!


 オレは真っ赤になっていた。


 ここはひとまず、

 

 オレは逃げ出した。



   (   第七章 ヒーロー少女の栄光   了   )





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