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第46話 慈母星のチョコボール



 春の公園。


 オレと蘭鳳院(らんほういん)。草の上に、並んで座っていた。


 どのくらいそうしていただろう。

 


 賑やかな声が聞こえてきた。


 幼稚園の一団だ。昼間の公園に、先生に連れられて、遊びにきたんだ。大勢いる。はしゃいでいる。大はしゃぎだ。赤い帽子、ライトブルーの上着、紺のズボン、女子も男子も。みんな、目一杯、大声を上げている。


 蘭鳳院。幼稚園児たちを、目で追っている。身を乗り出している。


 微笑んでいる。


子供が、好きなんだな。元気よく、走り回る子供たち。ずっと、蘭鳳院は、目で追っている。


 蘭鳳院、子供が好き。


あんな子供が欲しいのかな?


 元気いっぱいの子供。子供がほしい……なら……

 

 産みたいのかな、あんな子供を。


 元気な赤ちゃん。


赤ちゃんを抱えて、微笑む蘭鳳院。


 大事に大事に、赤ちゃんを抱えている。


赤ちゃん。


 蘭鳳院が、赤ちゃんを産むには。


 男。本物の、男が必要。


蘭鳳院が、自分の子供を一緒に作ろうと思える男が。いつか、蘭鳳院も、そんな男を探すのだろうか。


 そういえば、蘭鳳院は、オレのことを、男だと思ってるんだよね。実際に、オレと子供を作りたいとかって……思ってないだろうけど。


 

 幼稚園児の一団、公園中に、散らばって、はしゃいで、遊んで走り回っている。


 その中の一人、こっちに走ってくる。髪を赤いリボンで結んだ女の子。何か見つけたのかな。何にでも夢中になれるんだ。すごい走り方。昔のオレみたい。こっちに来る。


 あっ!


 女の子、オレと蘭鳳院の目の前で、転んだ。


元気な転び方だ。


女の子、ぐずぐずっと、泣き出す。


蘭鳳院、すぐ、女の子に駆け寄り、抱きかかえた。


 「大丈夫だよ、痛かった?」


「……ううん……大丈夫」


 女の子、少し涙がこぼしているが、安心した様子。蘭鳳院、ハンカチを取り出し、女の子の、顔を拭いてやる。


「ありがと」


 女の子が言う。


蘭鳳院はにっこり笑う。


 「君、強いんだね。そうだ、待ってて」


蘭鳳院は、こっちへ戻ってきて、自分の鞄を持っていく。女の子の側で、蘭鳳院は、鞄を開ける。 


 蘭鳳院が、鞄から取り出したのは、チョコボールスティックの大袋。


 一本、チョコボールスティックを取り出して、女の子に、


 「はい、これ。痛いの我慢してがんばったから。食べて」


 「うわー、ありがと」


 女の子、笑顔で、チョコボールスティックを受け取り、口にくわえる。ニコニコしている。転んだのは、もう忘れたみたい。


 蘭鳳院、すごくうれしそうな笑顔で、チョコボールスティックを食べる女の子を見ている。


 幼稚園児たちが、群がってくる。


「うわー、いいな、チョコボール」


「チョコボール欲しいな」


 幼稚園児たちが、蘭鳳院の手の、チョコボールスティックの袋を見つめる。


 「みんなも食べる?」


蘭鳳院が、園児に笑顔を向ける。


 「うわー、もらっていいの?」


「ほしい!」


 「ありがと!」


 たちまち、元気な笑顔の園児たちが、蘭鳳院に群がる。蘭鳳院は、袋からチョコボールスティックを取り出し、みんなに渡す。笑顔の園児に囲まれて、蘭鳳院、本当にうれしそう。


「お姉ちゃん、ありがとう!」


「お姉ちゃん、きれい!」


「お花の飾り、きれい!」


 園児が口々に。


 チョコボールスティックで、ほんとに、うれしそうだ。


 やっぱり蘭鳳院、子供が好きなんだ。いつもの、お澄まし顔とは、全然違う。ごく自然で、とても優しい笑顔で、園児たちに接している。


オレにも、いつも、あんな顔してればいいのにな。


 ふと、思った。


 この光景、確か、聖典ーー必死に読んだ少年ヒーロー漫画ーーにあったような。


そうだ。

 

 慈母星。


 間違いない。ヒーロー漫画に出てくる慈母星だ。誰をも包み込む女神。園児たちに、笑顔でチョコボールスティックを配る蘭鳳院、慈母星の姿。


 あれ?


チョコボールスティックを2本、蘭鳳院の手から持っていった女の子がいる。あ、女の子、ちょっと離れた男の子に駆け寄り、1本渡している。男の子、顔真っ赤にしている。あの男の子は、恥ずかしがり屋なのか、蘭鳳院にチョコをもらいに近づくことが、できなかったんだ。


 うむ、これでいいんだ。


 慈母星の世界。


 あ、今度は。


 蘭鳳院の差し出したチョコボールスティックを、手で受け取らずに、そのままパクッと食いついた男の子。


 え?


 これって。蘭鳳院に、あーん、してもらったんだ。


 ガキのくせに! 生意気だ!



 クソッ



 うらやま……


 い、いや……べ、別にうらやましくなんてないぞ。オレは、ヒーローだ。ただ、子供の礼儀作法を心配しているだけだ……


 本当に……




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