第44話 隣の美少女に花輪を
美術のデッサンの課題。
オレたちは結局のところ、春の陽射しの公園で、蘭鳳院は、シロツメクサ、オレは、タンポポを描くことにした。
すごく、ありきたりだ。
オレと、蘭鳳院と並んで座って描いている。タンポポとシロツメクサって、だいたい一緒にあるんだよな。
「これなら、わざわざ、ここまで来なくてよかったね」
オレは言った。
「そう?」
蘭鳳院が言う。蘭鳳院、お澄まし顔で、一心不乱にシロツメクサを描いている。
「いろいろ観れてよかったじゃない。何を描こうか、あれこれ考えながら、探して歩くのも、すごく勉強になるのよ」
「そういうものかな」
「私、久々に見つけたし」
「何を?」
「アゲハの幼虫」
「うわっ、思い出させないでよ」
「あ、ごめん」
蘭鳳院が、オレを見る。
「そういえば、虫にあんなに怖がる人見たのも、収穫かな?」
「あの……」
「心配しないで。誰にも言わないから」
ちょっと、ほっとした。蘭鳳院なら、別に吹聴したりしないと思ってたけど。
満月なんかに知られたら、一大事だ。
「だから」
蘭鳳院が言った。
「私の恥ずかしいところを見ても、誰にも言わないでね」
「うん……もちろん」
「約束よ」
二人の秘密。二人の約束。蘭鳳院の恥ずかしいとこ?なんだろう?
ひょっとして、木立の中でのこと? オレが虫を怖がって蘭鳳院に抱きつき、蘭鳳院がオレの頭を優しく撫ぜて……
そんなに大げさなことでも、ないような気がするけど。男子として女子に抱きついたのは、初めてだけど……あの、甘い匂い。蘭鳳院の身体のぬくもり……
ズキュッ!
うぐ……
も、もちろん、わざとじゃないし……もうしないぞ!
結局、蘭鳳院、木立の中での出来事、どう考えているんだろう。
怒ってる……わけじゃなさそうだけど。
オレと距離をとっている……ように見えない。距離が縮んだようにも見えない。べ、別に、蘭鳳院と、距離を縮めたいわけじゃないけど。
蘭鳳院の恥ずかしいところ。なんだろう。そんなのあるのかな。蘭鳳院は美人で、背が高くて、プロポーションも抜群で、勉強もできて、
それに、絵も上手いな。
蘭鳳院のシロツメクサ、すごく丁寧に描いているある。
オレは、さっさと、タンポポを描きおえた。タンポポだからな。簡単だ。
蘭鳳院、まだ、シロツメクサを描いている。
オレは、青い空を見上げた。どうしようかな。春の公園。のどかだ。本当に。オレは、あたりを見回す。タンポポも、シロツメクサもいっぱい咲いている。
そうだ。シロツメクサを摘む。そして、シロツメクサを編んで、花輪を作った。小学生の時、よく作ったなあ。作り方、覚えているぞ。
よし、できた。
「描けたよ、待たせた?」
蘭鳳院が、画板から、顔を上げる。
「蘭鳳院、見て」
オレは、シロツメクサの花輪を、蘭鳳院の前に差し出す。
「つくったんだ。シロツメクサの花輪。上手だね」
「はい、プレゼント」
オレは、花輪を、蘭鳳院の頭に乗せる。
「今日の、お礼というか、お詫びというか」
「ありがとう」
蘭鳳院は、手鏡を取り出し、花輪を飾った自分の姿を見つめる。
「綺麗ね。勇希、こんなのできるんだ」
「うん。よく作ったからね。昔は」
「ふうん。女の子みたいだね」
ぐは!
油断ならんな。
「あの……ママが……よく作ってくれたから……マネして作るようになったんだ」
「そうなんだ。これ、今日のお詫び?」
「うん……お詫びっていうか……」
「キャラメルアイスプリンでもよかったのに」
蘭鳳院が、悪戯っぽく笑う。
「あ……今度おごるよ」
「冗談よ。これでいい。すごくうれしい」
蘭鳳院、手鏡を見ながら、そっと、頭の花輪に手を当てている。
「昔、私もこういうの作ったな。でも、もう作り方とか忘れちゃった。作ったのどうしたんだろう。誰かにあげたのかな」
蘭鳳院、オレを見て微笑む。
「男子に、花輪を作ってもらって頭に飾るって、初めて。ちょっと恥ずかしいな」
「そう?」
「だって、恋人みたいじゃない?」
ぐは! またきた。
なんか、もう……
恋人……
なにいってるの?
蘭鳳院が、すごく、いいそうにない言葉をいきなり。
あの、オレは……別に……そういうつもりじゃ……決して……
ドギマギする。
べ、別にそういうつもりじゃ……
「勇希は、もちろんそういうつもりじゃないよね」
蘭鳳院は言った。
「でも、私、恥ずかしかったから。男子に花輪作って飾ってもらうなんて。秘密にしておいてね。約束だよ」
「う、うん……」
二人の秘密。二人の約束。
ん?
これはなんだ?
蘭鳳院……ひょっとして、オレに気を遣ってくれてるのかな。
人を振り回したり、気を遣ってくれたり、
どういう子なんだろう?
蘭鳳院の、お澄まし顔。何を考えているのか、相変わらずわからない。




