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第4話 隣の美少女蘭鳳院がまた悪戯ちょっかいを! 今度はもっとヤバイ……私は平和に学園生活したいだけなのに!



 転校初日。


 やっと午前中の授業が終わった。


 いろいろやばかった。


 何やってんだ……私。


 だから、男子高校生やるなんて……


 いや、待てよ。


そうだ。


なんだかんだ言って、女子だとバレてはいない。


 いいんじゃないかな。


とにかくそれが1番大事なんだ。


 女子バレ……そしたら全てが終わっちゃうんだ。


 とりあえず、みんなに男子と認められている。


うまくいってる。


 この詰襟学ランの、男子高校生姿。


 サマになってる?


 髪は昔からショートだから、そのまま。


 昨日まで女子高生してた子が、詰襟学ラン着て男子になっただけ。


 でも、女子だとバレてない。

 

 ハハハ。


 自信を持つんだ。



 昼休み。


私は教室の席で、パパの愛情弁当を、そそくさと食べる。


 クラスの連中、なんだか私の方を見て、ヒソヒソ言ったり、好奇の目を向けたりしてくる。


 でも、誰も話しかけてこない。


 自己紹介で、思いっきり大声出してやったからな。


ちょっと近寄りにくいみたいだ。

 

 それでいい。


 女子バレを防ぐには、周囲と関わらない。それしかない。このまま、男子生徒だとみんなに思わせておけばそれでいいんだ。


 お前ら、私に構うなよ。


 私は全力で、こっちくるな話しかけるな近寄るなオーラを出す。


 そうだ。


 ぼっちだ。


 ぼっちというやつになるんだ。


 ヒーロー跡目の宿命。とにかくそれをクリアしなくちゃいけないんだ。


 でないと、人面犬だ鬼面鳥だに……


絶対やだ!

 

 ぼっち上等!


 私は中学の時は、女子の友達はたくさんいて、みんなでワイワイキャッキャ楽しくやってたし、彼氏はいなかったけど、男子とも普通に話してた。


みんなと楽しく騒ぐのが好きだった。


 それが、いきなりぼっち。キツイな。


 でも今はそんなこと言ってる場合じゃない。


 クラスのみんなの好奇の視線をひたすらシカトする。


シカトだ!



 ◇



 おや。


 蘭鳳院麗奈(らんほういん りな)が、教室に戻ってきた。


 蘭鳳院は、昼休みになると、すぐ教室から出て行った。学食へでも行ったんだろう。


 蘭鳳院、スラッとして背が高い。(蘭鳳院麗奈は、身長171)


 ピンと姿勢を伸ばしている。胸を反らしている。


 手足もスラッとして。身のこなし。歩き方。とても優雅だ。


 バレエでもやっていたのか?


 顔は例のお澄まし顔。


 蘭鳳院は、私を全く見ずに、私に全く気づかないかのように、私の隣の席に座る。


 座るのも優雅な物腰。

 

 美少女でプロポーションが良い。それだけじゃなくて、身のこなしも完璧だ。


ついつい見とれちゃう。


 窓側の席、春の光いっぱいに浴びながらの蘭鳳院の冴え冴えとした美しさ、うっとりしちゃう……


 でも。


 おい、蘭鳳院。


 お前、私に午前中にしたこと、忘れてるわけじゃないだろうな?


 私は、蘭鳳院の、美しい横顔を、チラッと見ながら内心つぶやく。


 美人だからって、なにをしてもいいってものじゃ、ないんだぞ。

 

 いったい、なんなんだ、この子は……

 

 待てよ。


 私は考えた。


 最初は男子嫌いのお澄まし、そう思った。


 けれど、結局のところ、ただ、隣の席の男子にちょっかい出して喜んでる、そういう子。

 

 て、こと?


 そうか、そうだよな。そういうことだ。なーんだ。


 ハッハハハ、私の方で、蘭鳳院を相手にしなかったから、向こうから我慢できなくなって、私に、ちょっかい出してきたんだ。


 いやはや。


 とんだ、お澄ましだな。


 ハハハ、ハハハ、


 無邪気なもんじゃないか。まだ、高一だしな。かわいいもんだ。


 また、チラッと蘭鳳院を見る。


 相変わらず綺麗なお澄まし顔。でも、今はもう、無邪気な15歳に見える。


 私は呑気だった。


 すごく……すごく……呑気すぎだ。



 ◇


 

 午後の授業。


 国語古典の時間だ。

 

 教室には春の陽射しがいっぱいに差し込んでいる。


 のどかで、実に気持ちいい。


 眠くなってきた。トロトロする。


 今日は、朝からずっと緊張しっぱなしだった。


疲れちゃったんだ。


まどろむのに、ちょうどいい……午後の授業って……


 先生の、単調な声が続いている。


 ムニャムニャ……古典か……私だって知っているぞ……


 なんだったっけ……そうだ、ほら……春眠暁を覚えず……


 どうだ……バッチリだろう。


 私は……古典はお手の物だ。


 私をなめるなよ……


 春の四月の柔らかく暖かい光の中。


 私は、ぼーっとなっている。


 そしたら、


「読んでください。一文字君」

 

 古典の教師、常盤先生の声だ。


 年配の女性教諭。


「あ、はい」


 私は、慌てて教科書をみる。眠気も吹っ飛ぶ。

 えーと……読めって、いったい、どこだろう?

 

 まごまごしてると、


 うん? なんだ?


 あ、蘭鳳院。


 隣の席の美少女蘭鳳院がこっちに身を乗り出してきた。手に鉛筆を持っている。


 その鉛筆で私の教科書を、トントン叩く。


 「うつくしきもの」


 え?


 あ、そうか。


 ここを読むんだ。


 これ……超有名な、枕草子ってやつ……


 なるほど、蘭鳳院は、私に教えてくれたんだ。困ってるのをみて。


 なんだ、結構いい子じゃないか。


 午前中は変な悪戯したけど。


 蘭鳳院の手が動く。


 鉛筆で私の教科書に、なにか書き出した。

 

 なんだ? 


「うつくきもの」の「う」と、「く」に、✖︎を書いて、「き」と「も」の間に「の」を書きたした。


 どういうこと?


 よくわかんないけど……とりあえず、蘭鳳院の指示通り読めばいいんだな。


 私は立ち上がった。そして大声で読んだ。


「つきのもの」


 あっ、


 いった瞬間、よくわからないけど、やばいことしたのが分かった。


 クラス中の呼吸が止まる。そういう感じ。


 えーっと……なんだっけ?


 私……なにしたんだ……


 常盤先生、ぎょっとしている。


 私は……気づいた。


 でも、気づいたのは、クラスのみんなのほうが早い。さすがエリート校の嬢ちゃん坊ちゃんだ。無駄に言葉を知ってやがる。


 大爆笑が起きた。


 委員長剣華(けんばな)、こっちを向いて、呆れた顔している。


 なんてこった。


 蘭鳳院め。


 やりやがったな。


 またしても…


 私は、蘭鳳院をにらみつける。


 もちろん、蘭鳳院は、もう、こっちをみていない。

 

 冴え冴えとした、お澄まし顔。


 きちんと座って、前を見ている。


 全く何もなかったように……



 蘭鳳院。


 キサマ。


 なんなんだ。


 ちょっかい悪ふざけ……

 限度を超えてるぞ。


 なにがしたいんだ。


 さすがに、私の腸は、煮えくり返る。


頭も沸騰している。


 とりあえず座る。


 クラスの笑い声、まだ続いている。ガヤガヤしている。


「おい、あいつ、つきのものって言ったぜ」


 「すげえな」


 「やるな」


 「転校生、最高」


 「一文字劇場だ」


 そんな声が聞こえる。



 蘭鳳院め……

 

 でも。


 待てよ。


 こんなにちょっかい悪戯仕掛けてくるっていうのは、つまり……


 私にかまって欲しい!?


 やっぱり。


 蘭鳳院、すごい美少女で、背も高くて、いつもお澄まし顔で、どこか別世界感を漂わせている。


 プライドも相当高いんだろう。


 隣の男子が気になっても、素直に話しかけたり、友達になろうとか言い出せない。


 それで妙なちょっかい悪ふざけ。

 

 こっち見て! 振り向いて!

 

 私にかまって欲しい……そうなのか?


 なんだ、結局、それか。


 ただのかまってちゃん。


 ふふ。


 蘭鳳院。


 なかなか、かわいいやつじゃないか。

 

 だが、な、蘭鳳院。

 

 私は、ヒーロー跡目修行の身なんだ。


 女子と、チャラチャラするなんて無理なんだよ。


 なにせ、女子バレしたら、それでオシマイなんだ。


だから、私にいくらかまって欲しいといったって、かまってやらないぞ。

 

 残念だったな。


ヒーローってのは、孤独なものなんだ。


 ぼっち。


 私はぼっちを通すぞ。


 クラス中の笑い声も、ガヤガヤも、シカトだ!


 蘭鳳院、お前もシカトだ!


 しかし、どうなるんだろう。


 このまま蘭鳳院をシカトしてたら、また、ちょっかい悪ふざけを仕掛けてくるんだろうか?


 しつこく?


 それはそれで面倒……


 そうだ……


 クラス委員長のことを思い出した。


 委員長にでも相談してみるか。委員長なら、何とかしてくれるだろう。


 いじめを許さないと言ってたからな。


 いや。


 なに、相手は、たかがお澄ましの、かまってちゃんじゃないか。


アハハ。


 そんな女子の1人や2人、なんでもないさ。


 委員長に泣きつくまでもない。


 恥ずかしいぜ、女子にびびって女委員長に泣きつくなんて。


 ヒーロー跡目。


 私は、兄の後を継ぐヒーロー跡目候補。


 誰からもヒーローと認められなければならない。


 隣の席の女子の悪戯おちょくりなんて、それがなんだ。


 だいぶ心に余裕ができた。


 私は、隣の蘭鳳院の横顔をみる。


 春の光の中。


 風にさらさらと揺れる艶やかな黒髪。


 透き通るように白い頬。

 


 いつものお澄まし顔。



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