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第38話 美術館の決斗 



 オレと、蘭鳳院(らんほういん)は、美術館にいた。

 

 美術の授業。デッサンの課題。


 校外でも、野外でも、どこでもいいから、描きたい対象を見つけてデッサンする。


 それを、隣の席同士のペアワークで行う。ペアワークと言うのは、お互いが選んだ対象や描いた作品について、互いで批評しろ、ディスカッションしろ、というものである。


 高校になると、こういうの多いな。


蘭鳳院が、美術館に行ってみようと言った。


美術館というのも、この学校を作ったグループが運営しているものだ。この辺の広大な土地は、もともと、学校運営してるグループが、持っていたそうだ。学校を作った時、周りに、あれこれの施設を作った。


美術館もその一つ。学校に隣接した敷地にある。小さな美術館だけど、なかなかきれいでおしゃれな美術館だ。美術コースの生徒や、美術の教員の、作業場もあるんだとか。


 一般生徒の、美術の授業の実習をする時もある。


全てにおいて豪奢な学校だ。毎度思うけど。


 オレと、蘭鳳院は、画板を抱え、画材を、それぞれのスポーツバッグと通学鞄に入れて、美術館に来た。このところ、オレはずっと、放課後、校庭で1人でトレーニングしてる。学校指定のスポーツバッグを買って通学している。



 四月の、のどかな春の平日。


 美術館は、一般開放されているが、中は、閑散といる。オレたち以外の、クラスメイトも、何人か姿が見える。

 

 「勇希(ユウキ)、描きたいもの、何か見つかった?」


「ううん……まだ思いつかないな」


 デッサンの課題。別に何描いてもいいんだろうけど。


 最初、蘭鳳院は、お互いの顔、デッサンしようかと言った。


 お互いの顔を描く?


 オレが、蘭鳳院の顔を描く……それは、ちょっと、どうも。


自慢じゃないが、オレは、絵がへたくそだ。とにかく。幼稚園の頃から、率直に言って進歩していない。


蘭鳳院の、別世界感のある美貌。どう頑張っても、ちゃんと描くことなんてできない。描けるわけがない。


 オレが、蘭鳳院の顔、めちゃくちゃに書いたら、さすがに蘭鳳院も気を悪くするだろう。オレが蘭鳳院に悪意を持っている、そんなふうに受け止めるかもしれない。そういうのも困る。


「あの、オレ、蘭鳳院さんの顔をちゃんと書くなんて、できそうにないよ。何か他のものにしたいんだけど」


「そう。じゃぁ美術館に行ってみよう。きっと、何か見つかるよ」


 蘭鳳院は、いつものお澄まし顔で、そう言った。


 美術館の中。


蘭鳳院は、オレを、世界の名作のレプリカが展示してあるコーナーに引っ張っていった。


 「ここならどう? 世界の一流名作ばかりだよ。こういうのを見れば、勇希も、何か感じるんじゃないの?」


 オレは、展示物を、見回す。絵画に、彫像。世界の名作か。確かに見たことがあるようなのが多い。


「あ、これ知ってる。えっと……なんて言うんだっけ……知ってるけど名前が……」


 「それ? モナ・リザだよ」


「ああ、そうだった。モナ・リザ。そうだよね」


 「すごいね、勇希」


「えへへ、オレだってこのくらいは……」


 「モナ・リザって、名前がすぐ出てこないのがすごいよ。そういう人もいるんだ」



 うぐぐ……



 蘭鳳院、やっぱりキサマ、オレの事、見下してるだろう。


 このスペースの展示物、作品の名前とか解説とかがない。何でも、観た人が、自由に想像力を働かせるように、と言うことらしい。超有名作品ばかりだから、名前や解説はいらないんだろうけど。


 あれこれの美術品。


 「あ、これも見たことある。これ有名だよね。これって、オレでも、描けそう。前から、そう思ってたんだ」


 蘭鳳院は、まじまじとオレを見つめる。


 「勇希、それ、冗談じゃなくて真面目にいってるんだよね。ピカソ見て本気でそういうこと言う人、本当にいるんだ。すっごく勉強になるね」


 なんだ? 蘭鳳院。


 オレ、素直に思ってること言ってるだけなのに。おまえに採点なんてしてもらわなくていいよ。


 蘭鳳院は、熱心に展示物を見ている。


「やっぱりいいよね。こういうの。何度見ても、なにか響いてくるよね。美しいものに触れるって、本当に大事。私そう思う」


美しいもの、か。


 蘭鳳院麗奈(らんほういん りな)


おまえは性格はともかく、すごい美人。


この世のものとは、思えない。どこか違った世界の……


それは、オレも、認める。


 ここにある展示物陳列品よりも、おまえの方が、ずっと綺麗に見える。それは間違いなく言える。


美しいものに触れる。響いてくる。だって?


そうか。そうかもな。


オレは、お前と毎日机を並べている。


確かにいろいろ響いてくるな。いろいろ、オレの心は、かき乱されている。


 他の連中から受けるダメージと、おまえから受けるダメージでは、何か違うようだ。確かに。おまえが美人だからなのか。それとも……ううん……よくわからないな。


 まったく、美人ってのは、厄介だよな。


 オレは、蘭鳳院の美しい横顔を、チラッと見ながら思う。


 冴え冴えと美しい、お澄まし顔。


 この子と2人だけで静かな美術館に。これって、すっごく幸せなことなの?


 オレたちを取り巻く美術品。展示物陳列品。世界の一流の。こいつらは、オレたちのこと、どう見てるんだろう?


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